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【基調講演】世界的権威が語る、リーダーシップの真骨頂(全2記事)

変化にあらがう人が直面している、3種類の「喪失」 世界的権威が語る、抵抗に対するリーダーシップのあり方

さまざまなフィールドを越境しながら人間理解を深め、 変化に強い組織づくりの新潮流を学ぶイベント「Unipos Conference 2022」。本イベントの基調講演に、パブリックリーダーシップセンターの創設者で、ハーバード・ケネディスクール上級講師のロナルド・ハイフェッツ氏が登壇。『最難関のリーダーシップ』『最前線のリーダーシップ』などの著者であるハイフェッツ氏が、変化に際してリーダーシップに求められるものや、マネジメントとリーダーシップの違いなどを語りました。

変化に際して、リーダーシップに求められるもの

ロナルド・ハイフェッツ氏(以下、ロナルド):適応的な問題は、「この部署に仕事を割り当てればいい」というような、組織設計の中にきれいに収まらないことが多々あります。

適応的な仕事は、多くの場合社内のいろいろな部署の垣根を越えて行われます。そのため境界を越えたプロセス作りが必要です。全関係者を協力させ、部署の垣根を越えて、異なる意見や忠誠心にしっかりと耳を傾ける必要があります。

円の中心、関心の中心に課題を据えて、答えを探していく必要があります。解決に向けて誰が必要なのか? 解決に必要な重要な関係者は誰か? その人たちにどのような調整をお願いするのか? 

調整にはさまざまなかたちの喪失が伴うので、これは非常に重要です。リーダーシップや適応課題の解決においては、純粋にWin-Winの解決策を実現できることは稀です。大抵の場合失うものが発生します。

ですから、リーダーシップには変化の痛みに対する敬意が必要です。人々に求める変化や苦しみを尊重しなければ、抵抗は減るどころか増える一方です。変化に対する抵抗は、変化そのものに対する抵抗ではないからです。

良いことだとわかれば、人は変化を喜んで受け入れます。当たった宝くじを返す人は世界のどこにもいませんよね。自分にとってプラスになると確信できれば、人は変化を喜んで受け入れます。しかし、喪失を伴う変化には抵抗を示します。ですから、適応的変化を指揮するのであれば、どのような喪失が発生するかについて思いやりを示す必要があります。

変化にあらがう人が直面している、3種類の「喪失」

難しいケースもあります。意見の対立している人、自分の主張を押し通そうとする人に共感を示さなければならないこともあるからです。しかし、思いやりを持って考えれば、失うものが多いからこそ抵抗するのだと理解できるはずです。同じ立場にいる人ほど失うものが少ないのですから、簡単に協力が得られます。

抵抗する人は失うものが多いため、仕事・能力・忠誠心・人間関係を守ろうとします。ですから、そうした人たちの立場に立って、何を失うことになるのかを理解しなければなりません。

そのためには、その人に話をするだけでなく周辺にいる人の話も聞く必要があります。そうすれば抵抗する人がどのような圧力にさらされているか理解できるようになるはずです。

喪失を3つに分類してみましょう。1つ目の喪失は直接的な「物的喪失」です。仕事や富、地位を失うことです。これらは非常に受け入れがたいことです。2つ目の喪失は「能力の喪失」です。能力の垣根を越えなければならないのは非常に困難なことです。

スライドをご覧ください。能力の境界線を突破するのはとても難しいことなのです。

誰もが自分の得意な分野にとどまるほうが居心地がいいでしょう。しかし、能力を高めるには境界線を越えて学習ゾーンに引き入れる必要があります。それは同時に人々が能力を発揮できない、あるいは無能だと感じるゾーンでもあります。

リーダーシップの役割として、そのことを受け止めることが必要です。人々が試行錯誤しながらリアルタイムで学べるようにしなければなりません。それはつまり「わかっています」ではなく、「わかりません」と言える環境を作るということです。

3つ目の喪失は「忠誠心の喪失」です。誰もが一緒にいる仲間に対し忠誠心を持っています。仕事、仲間、家族、地域、社会、先祖に対して深い忠誠心を持っているはずです。ですから、変化を求めるということは不本意なことを人々に求めることでもあると理解してください。たとえ5パーセントであったとしても、自分の伝統や親から教えられたこと、変化を受け入れたくない同僚からの期待に背くことは難しいのです。

集団的課題に取り組むために複数の人々を集める場合には、それぞれが自分の部下や支持層に対して、難しいリーダーシップの課題を抱えることになります。自分を支えてくれる人たちに、変化の必要性を理解してもらう必要があるからです。

そのためには、多くの共感と思いやりを必要とする高度な参加型のプロセスが必要になります。その中で新たな能力構築に向けて、変化の必要性に責任を持ち、変化による喪失を受け入れるようになっていきます。

権威関係を構成する3つの要素

最後に強調しておきたいのが、リーダーシップと権威は違うということです。権威はあらゆる社会にとって重要な要素です。権威関係の性質を理解する方法が1つあります。

あなたは医者に体を治す権限を与えます。選挙で投票して政治家に権限を与えます。取締役会が雇うのはCEOです。組織の人が別の人を雇う際も同じです。

どの職務においても、サービスの対価としてAさんがBさんに権限を委ねるということが発生します。どの権威関係もこの3つの要素で構成されています。そしてどの職務にも、これらの要素が含まれています。「信頼して一定の権限を与える代わりに、この業務で成果を出してください」ということです。

そして、私たちは業務が誠実かつ優れたかたちで行われることを期待します。このように権威関係を提供するシステムは、親子関係を含め、あらゆる人間社会で重要な意味を持っています。しかし、このプロセスには限界があるため、権威ある立場の人たちのリーダーシップが必要な時もあります。

しかし、権威のない、あるいは権威を超えたリーダーシップを実践する人も必要です。権威を持つ人は答えを出すよう大きなプレッシャーにさらされているからです。難しい問題に対して簡単な答えを出すことを求められます。権威を持つ人々は、さまざまな関係者を巻き込み、解決策を生み出す役割を担わせる必要があります。しかし、権威者は人の負担を軽くしたいという気持ちが強く、なかなか人に仕事を任せられないこともあります。

日本企業が有する、優れた適応力

ですから、リーダーシップの実践方法を学ぶ際には、組織のあらゆるレベルでリーダーシップを実践できる人材を育成し、上司でなくてもリーダーシップを実践できることを認識してもらうようにしましょう。問題を発見したら人を集めて問題に取り組むだけのことです。

時には、上司や権威ある人たちを導くことも必要です。上層部を導くだけでなく、組織の垣根を越えて導く必要があります。課題解決にはそれが必要だからです。

権威のある地位の高い人たちのリーダーシップ実践を分析する必要があります。ツールが揃った時に、権威のある地位から指揮を執るには何が必要でしょうか? 同時に下の立場や現場から指揮を執るにはどうすれば良いでしようか? 

パンデミックの時もそうでしたが、集団で解決策を講じるには、組織のあらゆるレベルでミクロの環境にミクロの適応をしていかなければなりません。日本の社会にはこうした知恵がすでに浸透していると思います。日本にはビジネスの歴史の中で非常に優れた適応力を発揮している企業もあります。

例えば、自動車メーカーは常に権威者に答えを求めるのではなく、並外れた適応力を発揮し、人々の集合知を引き出してきました。ですから、みなさんの文化の中に、すでに適応的なリーダーシップを実践するためのノウハウがあるはずです。私の役割はみなさんの取り組みを一般化して、実践できるような枠組みを提供することです。

マネジメントとリーダーシップの違い

最後にマネジメントとリーダーシップの違いを説明しましょう。

マネジメントとは主に技術的な課題に取り組む際、権威ある立場から業務を遂行するプロセスです。しかし適応課題の場合は、経営的な権威のある立場からだけでなく、下からも横からも外からもリーダーシップが必要です。

マネジメントとは主に技術的な問題に対処するプロセスであり、リーダーシップは人を関与させて、適応的な問題解決と適応的な進化を促す実践です。導入的な内容としてみなさんのお役に立つとうれしいです。

最後にひとこと言わせてください。リーダーシップは危険な仕事です。人々の生活に変化を求めるわけですから、非常にストレスの多い仕事です。新しい能力を開発するため、時には能力の喪失も必要となります。

新たな方法が必要であると認識して従来の方法から離れることで、同僚、地域社会、先祖に対する忠誠心のかたちも変わります。組織内での移動により、仕事や富、地位を直接的に失うこともあるかもしれません。

こうした喪失には思いやりが必要です。変化の過程で人々に求める苦しみに思いやりを持つことで、リーダーシップを実践し続けられるのだと思います。

ストレスの多い時期には、より強い権威的な指揮を執る必要があります。しかし同時に、人の話を聞くのに膨大な時間を費やす必要があります。私がこれまで仕事をしてきた政界・ビジネス界での成功者は、人の話に耳を傾けることに多くの時間を割いていました。

人の手を取り、人にお願いすることになる変化の本質を見極めることに、多くの時間を割いていました。そして変化のペースや問題の順序を考慮しながら、戦略を練っていました。誰がどのような順序で責任を負うべきか、課題の本質をどう捉えてその課題のシナリオをどう描くか。人々の信頼をつなぎとめながら課題に対処していく必要があります。

日本の文化やコミュニティが持つ並外れた知恵を基に、適応力のあるリーダーシップを実践してください。

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