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shiawaseシンポジウム2022 「リーダーシップと幸せ」(全3記事)

プロスポーツの事例から学ぶ、活躍するコーチの“視点”の違い リーダーこそ「自分」を大事にすべきと、中竹竜二氏が語るワケ

「幸せの新しいカタチを考えるシンポジウム」として、2017年にスタートしたshiawaseシンポジウム。共同実行委員長の前野隆司氏を筆頭に、幸福学、ポジティブ心理学、マインドフルネス、コーチング、幸せな経営など、「幸せ」に関するさまざまな活動を行う専門家が登壇し、「幸せ」をテーマに基調講演を行いました。本記事では「リーダーが導くもの5つ」と題し、ラグビー20歳以下日本代表元監督、株式会社チームボックス 代表取締役の中竹竜二氏が、メンバーを率いるリーダーに求められる視点を解説しました。

リーダーに大事なのは「自分自身」を引っ張ること

中竹竜二氏(以下、中竹):じゃあ最後は「リーダーは何を導くか」という話です。リーダーはさまざまなものを引っ張っていかないといけないわけですが、今日はみなさんに「リーダーの導くもの5つ」を共有したいと思います。

リーダーになると、自分のメンバーやチームを率いないといけません。多くのリーダーたちは、これに奔走するわけです。ほとんどの悩みは「あのメンバーのやる気をどうしよう」「チームはうまくいっているのかな」といったことですが、大事なのは自分自身をちゃんと引っ張っているかです。

「人に優しくしろ」と言いますが、本当に自分に優しくしていますか? 朝起きて「よし、今日もがんばるぞ」と自分に言えるかどうかです。ちゃんと自分を引っ張っていますか? 自分は何かのタスクに引っ張られていませんか? 

この問いを立てられる人は、いろいろつらいことや問題は起きているけれども、朝起きて「よし、今日もおいしいものを食べてがんばるぞ」と、自分で自分をリードします。当然ですが、こういう人は幸せですよね。

あと、もしかしたらライバルや敵かもしれないけれども、自分と同じレイヤーの人たちに影響を与えられるか。この視点を持つことで、自己肯定感といいますか、自分の存在感を感じることができます。

スポーツ界の“ご法度”を破った、大坂なおみ氏の事例

中竹:あとは「社会」ですね。社会を導くのはなかなか難しいかもしれませんが、利他的になっていくことで力を発揮することができます。大坂なおみさんはわかりやすい例ですが、スポーツ選手が社会運動として、特に大会中に社会メッセージを吐くのはご法度だったじゃないですか。

ましてやスポンサーのつくプロになると、「そんなことより勝ってください。あなたは勝つことによって価値を上げろ。大会中にそんなメッセージを吐かないで」と言われることが、スポーツ界では当たり前でした。

実際、過去にこういった社会メッセージを吐いて負けたプロは、さんざんな目に遭っています。これがスポーツビジネスの仕組みでもあったんですが、彼女はこれを突破してくれました。

彼女は「今回の大会の優勝は、多くのモチベーションになりました。自分の勝ちよりも、社会で起こっていることに対する私の怒りをちゃんとメッセージとして伝えるというエネルギーが、自分のエネルギーになりました」と、自分の言葉ではっきりと言っていました。これはグレタ(・トゥーンベリ)さんもそうですね。プロのテニスプレイヤーじゃなくても、1人で始められます。

このあともいろんな方が基調講演で話をするかもしれませんが、自分を超えたところに影響を与えることが自分のエネルギーになって、幸せ感を持つことにつながります。

“コーチのコーチ”をする時、中竹氏が伝えていること

中竹:リーダーに大事なのは、「メンバーやチームばっかり見て、自分を引っ張ってなかったかな」「自分の周囲ばっかりを見て、もしかしたら同じ業界の中で切磋琢磨する相手に対してリーダーシップを発揮していたかな」とか、周囲と自分をどれくらいの配分で引っ張っているか。

私が「コーチのコーチ」をする時、特にラグビーのコーチには、「他の競技のコーチから『ちょっと教えてください』と相談されるようなコーチになりましょうね」とずっと言っています。

「自分のチームばっかり見ていた」「自分がコーチやリーダーとして業界をまたげたらどんなに視界が広がるか」という、競技横断的な視点を持てるかどうか。ぜひ自己診断して、ちょっとずつ自分の理想に近づけてみてください。

私自身、さまざまな人のコーチングや悩み相談を受けるんですけど、これを全部やってください、というわけではなくて。だいたい多くの人はどこかに(ピンポイントで)ハマっているわけですよね。

「ずっとメンバーのことばっかり考えているから、今のことはいったん置いておいて、もうちょっと自分のことを大事にしたらどうですか」「そんなちっちゃい話より、あなたは業界全体で活躍するので、もっと他の人と比較してがんばりませんか」と言っています。

まずはたくさんの「問い」に触れる

中竹:今日は「リーダーシップと幸せ」というテーマでしたが、最初の問いは「リーダーは幸せなのか?」でした。たぶんこれに答えはないと思いますが、もしみなさんがリーダーになった時、リーダーになっても幸せでいられるか、自分の中でどんな問いを立てたら幸せかを考える。

ぜひ、いい問いを探せる人になっていただきたいなと思います。参考までに、聞いてくださっている方がいるかもしれませんが、私はVoicyもやっています。先日、隆司さんとも生放送をやらせていただきました。

問いしか投げてないので、あんまりいい話はしてないですね。ふだん問われない問いを自分に浴びせるというか、リーダーとしてこれからいい問いをしたいなと思っている方がいたら、まずはたくさんの問いに触れることが大事なので、私の問いを参考にしてみてください。ということで、いったん私の話はここで終わりたいと思います。ご清聴ありがとうございました。

前野隆司氏(以下、前野):ありがとうございました。みなさん拍手をしてください。

(会場拍手)

前野:(中竹さんは)問いの力がすごくある方だなと思っていて。さっきの小巻(亜矢)さんもそうですが、非常に人の話を聞くのがうまくて、やっぱり「問うて、聞く」というリーダーシップはすごく新しいなと思います。

「中竹竜二」ではなく、「リュージ」にキャラ変した理由

前野:質問が来ていて、問いの話も聞きたいんだけど、まず私が聞きたかったのはカタカナの「リュージ」で本を出してキャラ変したこと。私も読んでびっくりしたんですが、ふだんは「中竹竜二」という名前で売れているのに、あの本(『自分を育てる方法』)は売れているんですか? 「売れているんですか?」っていう質問は失礼だな。

中竹:じわじわって感じですかね。

前野:(笑)。絶対に「中竹竜二」という名前にブランドがあるのに、わざと「リュージ」にキャラ変をするっていうのが、なかなかチャレンジングでいいなと思ったんですね。

中竹:「セルフリード」というテーマだからこそ、自分の発するメッセージをちゃんと自分で体現しないといけないというのもあって。意外に、同じことをやっても自分を知っていくプロセスには気付かないんですね。私の場合、キャラ変えは勇気が要るんですよね。

前野:要るでしょう。

中竹:多くの人は「どうやって変えていくか」って悩んでいると思うので、「とりあえずやってみましょう」という体感を、ネタとして味わいたいなと思ったんですね。

前野:(笑)。体感はどんな感じですか?

中竹:私は留学していたので、もちろん「リュージ」って呼んでくれる人はいるんですが、今回はラクダがモチーフの「リュージ」なんですね。おもしろかったのは、「え? ラクダなの?」と言う人と、「お前は前からそうじゃん」「本来の姿じゃん」みたいな(笑)。この両方に分かれたんですね。

学生時代からよく知っている人からすると、「お前は本当にラクダみたいだったよな」とか、留学中も外国人に「お前はキャメルみたいだな」みたいなことを言われていたんです。

前野:キャメル(笑)。万国共通なんですね。

中竹:ぜんぜん慌てないし、何があってものほほんと歩いている、と言われていたので。

前野:ほう。確かにラクダっぽいですね。

中竹:「キャラ変えしたな」って言われることもあれば、「本来の姿じゃん」という両方の認識をもらえたのは、すごくいい気付きになりましたね。

「先生」ではなく、名前呼びにすることで変わった関係性

前野:そういえば僕、キャラ変えしたことがありましたよ。僕の名前は「たかし」が本名なんですが、「りゅうじ」とも呼べるんですよ。だから大学1年ぐらいの時に、美術部で「りゅうじ」というペンネームを名乗って、みんなが「りゅうじ」だと思っていた時期があって。

中竹:(笑)。

前野:そういうキャラ変をしたことがあって。これまでは「前野先生」と言われてたんですが、このshiawaseシンポジウムとかオンラインサロンで「『たかしさん』と呼んでください」って言ったら、やっぱり名前で呼んでもらうとすごく近づいた感じがして。

中竹:そうですね。

前野:大学院の学生は「前野先生」と言っているのに、こっちのオンラインサロンの人は「たかしさん」と呼んでいるから、大学院の学生にも「『たかし先生』とか『たかしさん』って読んでくれ」というふうにしたら、また関係性が変わったんですよね。

中竹:変わりますね。

前野:教えるのも厳しくしにくいというか、「がんばっているね」みたいな。そうすると余計、学生たちが伸びる。「りゅうじ」と「たかし」、同じ頃に同じことをしていたんだなって、聞きながら自分でも思い出しました。

中竹:被るところがありますね。

前野:(笑)。

日本ハム新庄氏のような、“破天荒なリーダーシップ”をどう見る?

前野:ちょっとおもしろい質問が来ていて。「スポーツ界では、プロ野球日本ハムの新庄ビッグボスの破天荒なリーダーシップが注目されています。『優勝なんて目指しません』という発言もしていますが、今後のリーダーシップ像への影響も含め、中竹さんはどのように見られていますか?」。

中竹:まさにおっしゃる通りで、あのリーダーシップは本当にいいインパクトになるかなと思います。誰もまねしていなくて、自分らしくあるっていう、まさにセルフリーダーシップです。彼は自分のことを相当突き詰めたと思うんです。

ああやってチャラく見えていますが、自分への探究心は比じゃないですよね。圧倒的にレベルが高いし、自分のコンディションもそうだし、思考はめちゃめちゃ働かせていると思います。誰もまねすることなく、自分を磨き上げているのは本当に見習うというか、1つの参考にしたいなと思います。

「優勝なんて目指しません」って言って本当に優勝したら、スポーツ界もいい意味で変わるんじゃないかなと思います。『ウィニングカルチャー』という、前に出した本でもそう書いたんですが、試合で勝っているところって「優勝したらいいけど、別に優勝が目的じゃないから」とはっきり言うんです。

新庄監督がどこまで意味を含んで言ったかはあれですが、これを本気で言えている組織はやっぱり強いので、彼はけっこう本質を捉えていると思います。「優勝なんか目指しません」って言ったほうが気持ちが湧いてきて、勝った時の喜びも多いし、そこまで考えて言っているんじゃないかなという気がしますね。

前野:なるほど。確かに、先ほどのお話の中での「勝ちを目指さないと勝つんだ」という話と、新庄のお話は一緒ですね。「新庄さんと中竹さんって同じ面もあるのか」と思いつつ、「自分が大好きです」という彼の感じと中竹さんは逆みたいなんですが、それも含めて個性だから、それはそれでいいというか。

中竹:そうですね。それでいいと思います。

前野:同じ点と違う点があって、それぞれが素晴らしいということですね。

「楽しむ」ことが、パフォーマンスを左右する

前野:もう1つ質問が来ています。「リーダーが導く5種類の対象、『自分自身を導く』『メンバーを導く』『チームを導く』『リーダーを導く』『社会を導く』とあったんですが、それぞれを導く時に、どこに、あるいは何に気を付けて導きますか? それぞれの違いを教えてください」。

中竹:これは簡単ですね。「どこを向くべきか」の問いで、自分自身を導く時は自分自身だけを見ないといけないし、視野はめちゃめちゃ情報が多いので、これを絞ることは難しいんです。

なので、メンバーを導いている時はメンバーしか見ちゃいけないし、メンバーを見ながら自分のことを考えたら、嘘になるわけです。一個一個ちゃんと分けて見ることが大事ですが、これがなかなかできないんですね。

前野:なるほど。明確な答えでしたね。この前、馬に乗ったんですが、草食動物って目が両側に付いていて、視野がめっちゃ広いんですよね。ラクダも広いですよね(笑)。

中竹:広いですよね。

前野:だから中竹さんは視野が広くて、それぞれを見る力があるのかな……なんて、余計なことを言いました。会場から質問が会場からありますので、こちらに出てきてもらっていいですか。

中竹:ほうほう。リアル質問ですね。

質問者:また野球つながりなんですが、エンゼルスのマドン監督が大谷(翔平)を評する時に「楽しむことを侮ってはいけない」というコメントを聞いたことがあるのですが、あれはたぶん、マドン監督自身もああいう活用を楽しんでいたのかなと思います。

もしくはさっきおっしゃっていたように、利他的という観点で言うと楽しませる。スポーツの中で、楽しむ・楽しませるというのは、やっぱりパフォーマンスに大きく影響するものでしょうか?

中竹:めちゃめちゃ大きく影響しますね。楽しんでいる状態って、自分がリラックスできて素に戻れて、他のことを考えていない状態なので。子どもが無邪気に遊ぶのとかなり近い状態なんですが、他のことを一切考えない状態にさせてあげるのはめちゃくちゃ大事です。なので、マッド監督のように「楽しむことを大事にしようね」というのが大事です。

プロのチームも「楽しむ」という原点に帰っている

中竹:コーチの研究でもけっこう進んでいて、例えばプレミアリーグのサッカーだとアーセナルが最初にやったんですが、これからプロになるユースの16、17、18歳の子たちにどういうプログラムをやったかと言うと、とにかく遊ばせたんですね。

ヨーロッパのサッカーの選手たちはめちゃめちゃプロのトレーニングをやらされていて、ミスをしたら契約を切られるとか、かなり厳しい環境に若い頃から置かれていて、ストレスフルの中で自由な発想ができなくなっています。

育成のプログラムとして、みんなでトランポリンをするとか、ジェンガというゲームを実際にやって、この「楽しい」という感覚をみんなもう一回取り戻そうと。

「楽しい」という感覚の中でサッカーをやっていたことを思い出し、人間がエンジョイすることを原点に、自分たちのプレイヤーの生活をやっていこうというプログラムが、実際にプレミアリーグではやっていましたね。それぐらい、プロのチームが「楽しむ」という原点にちょっとずつ戻ってきているのは確かです。

もちろん、「そんな甘っちょろいことを言うなよ」みたいに、まだまだ毛嫌いするチームもありますが。だけどそのクラブの方針もあるので。私としては、「楽しむ」と言えるダイバーシティがスポーツ界の中で生まれていることが、すごくいいなと思いますね。

一人ひとりの「問い」の力から幸せが始まる

前野:ありがとうございます。まだ質問はありそうですが、時間がやってまいりました。あっという間でしたね。「中竹さんの問いの力はどこから出てくるんですか?」という質問をしようと思っていたんですけど、その質問はまた今後にします。

い中竹さんのお話の中にも、トゥーンベリさんや大坂なおみさんが出てきたり、その前の小巻さんや宮田(裕章)さんの講演でも共通しているのは、1人が幸せになるだけじゃなくて、みんなのことを思うこと。

このご時世なので、コロナで苦しんでいる私たち、そして戦争といった大きな事象が地球の裏側で起きている中で、実は一人ひとりの問いの力から幸せが始まるんだというメッセージが共通しているなと感じられました。

こういう時期にshiawaseシンポジウムを始めて、初日にふさわしい3つの基調講演だったと思います。本当にありがとうございます。中竹さん、それでは最後にみなさんにメッセージをいただいて終わっていこうと思います。お願いします。

中竹:貴重なお時間をありがとうございました。今日は「リーダーは幸せですか?」ということで、ずっとリーダーをやってきたんですが「幸せだな」と思うので、これを多くの人にも提供したいなと思っています。

ぜひ今日聞いてくださるみなさんも、なにかしら「幸せ」と感じたものを、他の人にも提供していただきたいなと思います。そのネットワークを作っていければと思いますので、今後ともよろしくお願いします。ありがとうございました。

前野:ありがとうございました。みなさん、盛大な拍手をお願いします。

(会場拍手)

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