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shiawaseシンポジウム2022 「リーダーシップと幸せ」(全3記事)

指示の出し方がわからない、不安なリーダーこそ「勝て」と言う スポーツ界から学ぶ、優秀なコーチが「勝ち負け」より重視すること

「幸せの新しいカタチを考えるシンポジウム」として、2017年にスタートしたshiawaseシンポジウム。共同実行委員長の前野隆司氏を筆頭に、幸福学、ポジティブ心理学、マインドフルネス、コーチング、幸せな経営など、「幸せ」に関するさまざまな活動を行う専門家が登壇し、「幸せ」をテーマに基調講演を行いました。本記事では、ラグビー20歳以下日本代表元監督、株式会社チームボックス 代表取締役の中竹竜二氏の講演の模様をお届けします。

現場に立たなくとも、コーチは「リーダー」である

中竹竜二氏(以下、中竹):概念的な話が多かったので、スポーツの話に行きましょうか。私は現在、車いすラグビー連盟の副理事長をやっていて、来年からは「ハイパフォーマンスディレクター」という競技をやる部署のディレクターを務めます。

北京のパラリンピックが終わって、活躍したコーチの方がいろいろ発表してくれました。これはビジネス界でも使うんですが、スポーツ界では時々、「グッドコーチ」「グレートコーチ」といった言葉を使います。ビジネス界で言うと「グッドリーダー」「グレートリーダー」。この(グッドとグレートの)違いがわかりますか?

「グッド」はドメスティックトップ、「グレート」はグローバル、インターナショナル。要するに世界で勝つコーチか、国内止まりのコーチか。オリンピックだとわかりやすいですね。オリンピックに出ているコーチと選手はみんなグッドで、メダルを穫る人はグレートです。ここで明らかな差が出ます。

4年に一度、オリンピック・パラリンピックがあると、グッドコーチ、グレートコーチ、グッドアスリート、グレートアスリートが出てくるわけです。グッドアスリート、グレートアスリートの研究はいろんなところでありますが、コーチは選手を支援するので、自分で現場に立たないじゃないですか。現場には立たないんだけれども、リーダーである。

みなさんはこの違いがわかりますか? さまざまな違いがあるんですが、グレートコーチとグッドコーチはそれぞれどこを見ていると思いますか。ポイントは、まず「問い」です。グレートコーチ、グッドコーチが何を見ているか。それに伴って、グレートコーチはどんな言葉を吐くのか。グッドコーチはどんな言葉を口にするのか。

「グッドコーチ」と「グレートコーチ」の違い

中竹:さまざまな違いはあるんですが、非常にシンプルですね。普通のコーチもそうですが、グッドコーチはつい試合前に「勝てよ」「勝つぞ」と言ってしまうんです。スポーツである以上、これを言われた選手たちは「はい」と言わざるを得ないですよね。「勝てよ」「いや、今日は勝ちませんから」と言ったら怒られますから。

けど、グレートコーチは「勝てよ」と言わないんです。特に勝負どころで、普通のコーチは「勝てよ」と言ってしまうんですが、グレートコーチは「全力を尽くそうね」と言う。どこを向いていますか? その本人は今しか見ていないんです。

「勝てよ」は未来を指しているんですが、勝つ・負けるはコントロールできないんです。パフォーマンスをした結果勝ち負けがあって、領域的には我々はコントロールできない。アスリート1人だとコントロールできないんですよ。

コントロールできるところはどこかと言うと、本人のパフォーマンスですね。なので、グレートコーチは勝ち負けを言わないです。「全力を尽くそうね」「今は大変で負けそうだけど、勝ち負けとかどうでもいいからちゃんと全力を尽くそうね」と言うんです。

私は、かつて早稲田のラグビー部で監督をやっていました。それまではコーチ経験がなかったんですが、1年目に監督をやった時に大学選手権の決勝戦まで行ったんです。前半は負けてたので、ハーフタイムに「1点差でもいいから勝とう」と言ってしまっていました。ハーフタイムで「1点差でも勝とうよ」と言っている監督のチームが、勝つはずがないですよね。

「勝とう」と言ってしまうのは、自分が不安だから

中竹:私の経験から言うと、「勝とうよ」と言っているのは自分が不安だからです。当たり前ですが、みんな「勝とうよ」と思っています。スポーツのルールをなぞっているだけじゃないですか。

勝ってほしいけど、自分は何をしていいかわからなくて、指示を出せないから「勝てよ」「勝とうよ」と言う。その後、コーチという領域を勉強することになって、いかに昔は自分がコーチとしてダメだったかをあらためて感じました。

これは「幸せ」と関連すると思うんですが、人間、自分がコントロールできる領域で裁量権を持ってできることに労力を費やすと、自己決定感でハッピーになるわけです。

やっぱり、勝つコーチは勝負をわかっています。そもそも確率で半分負けるんだから、その中でどう価値を探究しているのか? ということです。勝ち負けよりも重要視しているのは、その人が全力を尽くすかどうかです。

全力を尽くせる環境を整えてあげるために、コーチとしてやるべきことは「勝ち負けはどうでもいいから、今はここに集中しようよ」という環境を与えられるかどうか。シンプルといえばシンプルですが、例えばオリンピック、ワールドカップの切羽詰まった土壇場で、一言それが言えるかというと言えないんですね。

「勝ち負け」を超えた境地で、本当の結果がついてくる時もある

中竹:すごく親しくしていたフランスのチームがあって。自身もU-20というラグビーの日本代表を何度も率いていました。フランスは、来年ワールドカップもオリンピックもありますし、すべての競技が世界一に向けて稼働しています。フランスは交流があって、コーチのさまざまな情報共有とかをしています。

U-20の大会は、だいたい数年後のワールドカップの戦力図と同じになると言われています。実はU-20の大会は、フランスがコロナ前に2連覇しているんです。

そのヘッドコーチとディレクターを、2019年の日本のワールドカップでたまたまお手伝いして、私は質問したんです。実は2連覇した時の決勝戦は本当に接戦で、シーソーゲームでした。1点差、2点差をひっくり返したりしていた。

ラグビーは基本的に試合中は指示ができなくて、ロスタイムの後にフランスが負けていたんですが、戦いっぷりがすごかった。彼らのヘッドコーチとディレクターが、「フランスはこんなふうに戦うぞ。勝ち負けよりも、我々の体現したいラグビーのスタイルを体現するんだぞ」と言って、練習を積み重ねてきたプレーが続出したらしいんです。

(フランスが)勝ったんですが、負けた相手も強くて。それを見てトップ2人(ヘッドコーチとディレクター)が、試合が終わる前に「十分だ。こんなプレーを体現してくれて俺たちは幸せだ」と隣でうなずき合っていました。最後は彼らも勝った・負けたではなく、「俺たちコーチ陣からすると、これが彼らのベストで、讃えたい」と思っていた。

隣で「だよな」と言いました。「いいプレーだけど、このままだと負けるかも」と思った時に、「だけど俺たちは、彼らに対して完全なる称賛をしよう」と最後の試合前にお互いに納得し合ったら、その後に逆転したらしいんですね。

たまたまかもしれませんが、もしかしたら、勝ち負けを超えた境地に立った時に、本当の結果がついてくる時もあるのかなと思いました。

幸せを左右するのは、勝ち負けよりも「自己決定感」

中竹:なので、我々はどこを向くべきか。世の中はついつい結果を見るんですが、実際の当事者たちのオン・ザ・フィールドでは、コントロールできる「現在」のところ。自分たちが向かうべきところに目を向けることが大事かなと思います。

スポーツ界におけるウェルビーイングも、ちょっとずつ浸透してきていると思います。先ほどお話しした日本パラリンピック委員会(JPC)の中で、トップのコーチが集まってくるんです。

もちろん選手はウェルビーイングするんですが、指導者もウェルビーイングを大事にしようと言われ始めています。これは隆司さんのお力も借りて、ラグビー強化のための新しいコーチ制度を取り入れます。

今まで、コーチが優秀かどうかはこの基準(勝ち負け)がメインだったんですが、今回は、選手ではなく指導している本人は幸せなのかという観点を入れることにしています。勝負がすべてのスポーツ界においては、画期的な第一歩かなと思っています。

隆司さんが専門の4つの因子とも被るところはあると思いますが、幸せとは、やはり「自分で決めたんだ」という自己決定感が、特にスポーツ界においては非常に大事だなと思います。

要するに、勝ち負けを越えて「自分でこれを決めた」「リスクはあるけど、このチャレンジをした」という思いがあると、自分の幸せな感覚も上がり、パフォーマンスも上がるのではないかなと思います。

模範的なリーダーよりも「自分らしさ」が求められている

中竹:世の中ではいろんなパラダイムシフトが起こっているんですが、リーダーシップにおいてもパラダイムシフトが起こっています。特に昔は徒弟制度みたいな感じで、トップダウンが主流でした。

フォロワーシップなんかもありましたが、最近のリーダーシップにおいては、模範的であるよりも自分らしくするほうがいいですよ、という概念が出てきています。これは「オーセンティック・リーダーシップ」というものです。みんなが見本となるロールモデルを追うのではなく、いかに自分と向き合って、自分らしさを確立するか。

自分らしさを高めるために、オーセンティック・リーダーシップはちょっと難しいので、「セルフリーダーシップ」という言葉を使っています。自分の内側にある本性といいますか、素の部分を自分からちゃんと引き出しましょうというものです。

これは意外に難しくて、自分の本当にやりたいことがわからなかったり、本当の自分の価値観が見えてこない。「自分は何のために生きているんだ?」という問いはすごく大事ですが、これをわかりやすく解説するための本(『自分を育てる方法』)を出しました。

私はこれまでに20冊以上の本を出しています。ありがたいことにたくさんの方に読んでもらったんですが、(読者の)9割方は40代からそれ以上の男性だったんです。

(書籍の)左端のほうに「ラクダのリュージ」と書いてあるんですが、著者名を「リュージ」にキャラ変えしました。女性のリーダーの方とか、チームは率いてないんだけれども自分探しをしている人のために書いたものです。

『オーセンティック・リーダーシップ』も私が解説文を書いたのですが、内容的には(2冊とも)ほぼ一緒です。『オーセンティック・リーダーシップ』は学術本なのでノウハウがあまり書いていなくて、『自分を育てる方法』ではワークも含めて書いてあります。

自分の「感情」を言葉にできないと、脆弱性が高まる

中竹:「鈍足だったら速く走ってはダメ」は私の信念ですが、ウサギとカメの話がありますよね。私は小さい頃から「あれは何か違うのではないかな?」と思っていました。ウサギは途中でサボって負けて、カメはコツコツがんばったから勝てる。

そんな話よりも、そもそもカメからすると、ウサギと走る競争はしちゃダメだというメッセージを本当は入れるべきだったんじゃないか? とずっと思っていたので、鈍足の人は速く走ってはダメだということです。それは置いておいて(笑)。ぜひ、問いを変えてほしいなと思っています。

ついつい我々は、強みと弱み、得意か苦手かばかり考えがちですが、そもそも自分が何が好きか・嫌いかを言えますか? 何がうれしい・何が悲しいとか、感情に訴えかけて感情を自分の言葉にすることは、意外と多くの人はやらないんですよね。これをやれるようにならないと、vulnerability(脆弱性)が高まります。

今日は「リーダーシップと幸せ」というタイトルですが、自分をリードして、内側の自分をぜひ外に出してほしいなと思います。

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