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shiawaseシンポジウム2022 「KAWAIIと幸せ」(全3記事)

SNSで高まった「かわいいは正義」という風潮をどう捉える? サンリオ社長が語る、日本の「ルッキズム」と「かわいい」の関係性

「幸せの新しいカタチを考えるシンポジウム」として、2017年にスタートしたshiawaseシンポジウム。共同実行委員長の前野隆司氏を筆頭に、幸福学、ポジティブ心理学、マインドフルネス、コーチング、幸せな経営など、「幸せ」に関するさまざまな活動を行う専門家が登壇し、「幸せ」をテーマに基調講演を行いました。本記事では、サンリオエンターテイメント代表取締役社長、サンリオピューロランド館長の小巻亜矢氏が、「かわいい」という感情とルッキズムの関係性などについて語りました。

つらい時期を乗り越えたのは「感謝」の力

小巻亜矢氏(以下、小巻):このあと質問をお寄せいただきましたら、それに答えながらディスカッションを深めて、私自身もあらためて「しあわせ」を感じたり、考えたりしてみたいなと思います。本来であればリアルにみなさんとお目にかかりたいところですけれども、今日はオンラインで失礼いたしました。

このシンポジウムのプロモーションYouTubeを拝見したんですが、「(開催日程が)1日だったのが2日になって、3日になって、365年やっていたら毎日がshiawaseシンポジウムになるかも」というジョークをおっしゃっていましたが、あながちジョークじゃないかもしれません(笑)。また来年もぜひ参加させていただきたいなと思っております。

前野隆司氏(以下、前野):ありがとうございました。

小巻:ゆるい話ですみません、前野先生。

前野:いえいえ、おもしろい話でした。質問もいくつか来ています。その前に僕が質問したいのは、ものすごく元気で明るくてしあわせそうだと思っていたのに、40代前半はかなりつらいこともあったとおっしゃっていた。そこから立ち直ったのは「感謝」の力なんですか?

小巻:そうなんですよね。「自分なんか」って思ったし、人生いろいろあったので、自分の生きる意味が見いだせなかったんですね。本当に死のうとは思わなかったんですが、自分を生きていない感じでした(笑)。

前野:「やってみよう」「今のままでなんとかなる」「今のままでいい」というところから、しあわせになれるんだろうなと思います。ありがとうございました。

小巻:素晴らしいです。本当にそのとおりです。でも私の場合は、きっかけになるのはやっぱり「ありがとう」なのかもしれないですね。

前野:なるほどね。「『ありがとう』がきっかけです」という人は多いです。僕はわりと「やってみよう」なんですよ。コツコツやることから立ち直っていくタイプなので。感謝とか人とのつながりがしあわせを運ぶ、それこそ宮田(裕章)さんの「Co-being」じゃないけど、人との関係はすごく大事ですよね

小巻:そうですね。

「可愛い」と「可哀想」は、遠そうで近い感情

前野:さて、質問が2つ来ています。1つ目は「なぜ日本のKAWAIIは世界共通語になったと考えられますか? 世界とは異なるんでしょうか。日本のキャラクターの影響力なども含めた感想をお聞きしたいです」。

小巻:ありがとうございます。そうなんです、日本の私たちが「かわいい」と思う言葉が海外にはないんですよ。「cute」とか「pretty」とかはちょっと違うんです。

前野:違うんですね。

小巻:そもそも、私たちが使っている「かわいい」とはどういうことなんだろう? というのをひもとくと、日本だけじゃなくアジアも比較的近しいんですが、ベビースキーマ(ある事物に対して「かわいい」と感じる因子)と言われる、小さいもの。

聞いたことがある方もいるかもしれないんですが、お米に絵を描くとか、箱庭とか、小さいものに対しての独特な美意識があったりします。あとは「可哀想」とか、物の哀れみたいなものや失敗した人に対してかわいさを感じたりとか。ある意味、そういうのも独特(な感覚)だったりします。

あと、最近では「キモかわいい」とか。一見、今までの「かわいい」とは真逆にあるかわいいものをかわいいと思う。よくおじさんに対しても「かわいい」を使うじゃないですか(笑)。おじさんに対して、と言ったら失礼ですよね。おじさんはかわいい。

前野:(笑)。

小巻:例えば最近だと、2年くらい前に『ざんねんないきもの事典』が流行ったんですよね。一見、見た目がかわいいわけじゃないんだけど、それが逆にかわいいということですね。調べると、こういう「KAWAII」という感性は独特なんですね。

他に表しようがないし、アニメやクールジャパンの国の施策に乗っかった部分もあって、「KAWAIIをもっと世界へ」ということで、歴史的なことと経済的な政策の流れの中で、「かわいい」がそのまま「KAWAII」で世界に行っているらしいです。

前野:ありがとうございます。考えてみると、「可愛い」と「可哀想」の語源は一緒なんですかね?

小巻:一緒なんです。

前野:逆の意味になっていておもしろいですね。

小巻:おもしろい言葉です。

「かわいい」とは、必ずしもルッキズムではない

前野:もう1つの質問は、「かわいいと反ルッキズムについて。SNSで『かわいいは正義』の加速を感じます。日本は特にルッキズム、外見至上主義があると言われている一方で反ルッキズムもある。このあたり、どう思われますか?」だそうです。

小巻:ありがとうございます、すごく深い質問ですね。もちろんルッキズムの問題もあるんですが、日本の「かわいい」は必ずしもルッキズムではありません。「見た目がかわいい」「アイドルがかわいい」「かわいくなりたい」ということもあるんですが、(それよりも)在り方とか振る舞い。かわいらしいお婆ちゃんとか、いるじゃないですか。

前野:うんうん。

小巻:人がちょっと照れている「テヘ」みたいな様子に対しても「かわいい」と思うので、必ずしも見た目の「かわいい」だけをかわいいとは思っていないですよね。

むしろ「行い」です。ちょっとあざとい仕草とか、ビヘイビアのところに対してのかわいさを感じるというか。今、(かわいい仕草)をやってみようかなと思ったけど、できないことはやっぱり無理だ(笑)。かわいいとは見た目だけじゃないという前提として、ちゃんと説明しながら本にしていこうと思っているんです。

「かわいい」がつなぐ世界平和

前野:ありがとうございます。確かに、ルッキズムって差別ですよね。私の知り合いのある女性教員がアメリカに行って、美しい女性教員に「Your Beautiful.いつも憧れます」と言ったら、その人に怒られたそうです。

「外見のことを人に言うもんじゃありません。私は経験を認められたいのであって、美しいとか醜いとか言うもんじゃない」と。醜いって言うのが差別だというのは日本でも広まっているけど、今や世界の標準では「あなたは美しいです」「格好いいから好きです」というのは差別なんです。

小巻:難しいね。

前野:最近、すべての人はかわいいし、すべての人やすべての動作は美しいと思うんです。だって、個性じゃないですか。これが本当のダイバー&インクルージョンです。「かわいい」という世界観は、本当に世界平和なんですよ。

「自分の好きなものは好きで、嫌いなものは敵だ」というのが戦争や争いを引き起こしているので、「KAWAII」を世界に広めれば、本当におじさんもかわいい(笑)。

小巻:おじさん、かわいいですよ(笑)。そこにちょっとしたコツを加えると、自分も「KAWAII」を否定しない。「KAWAII」はみっともないことじゃないんだと、むしろKAWAIIにあまり接点のない男性の方たちに知ってもらいたいなと思っています。

前野:そうですね。KAWAIIをもっと広めたいですね。そうそう、うちの学生でぬいぐるみの研究をしている人がいて。

小巻:ご紹介いただいた。

前野:彼女もやっぱり、ぬいぐるみとともに生きる。シンポジウムでワークショップやるんですよ。

小巻:そうですか!

前野:そういう人もいます。

キティちゃんの顔に口がない理由とは?

前野:もう1つ質問が来ましたね。「キティちゃんのかわいさについて。笑顔の象徴である口の表情がないことについて、わかっていることはありますか?」だそうです。

小巻:キティちゃんの口がないのは、「あなたの話をまず聞かせて」という傾聴の象徴でもあるんですね。自分がしゃべらずに「まず聞かせて」という意味があるのと、どんな表情にも見える、人が自分の感情を投影できるという意味が実はあるんです。

一人ひとりのキャラクターにストーリーがあって、キティちゃんは「自分がみんなを仲良くする」というリーダーシップを持った女の子だ、というキャラクターのストーリーがあって。がんばり屋さんなところもかわいいし、時々「でもダメだよね。私、できないかもしれない」という弱さもちゃんと見せるところが、キティちゃんの魅力なんです。

前野:なるほど。

小巻:今、ちょっと大人の話をしそうになりました。気を付けなきゃいけない(笑)。

前野:(笑)。なるほど。口を閉じていて、「慎ましやかさ」みたいなイメージなんですかね。

小巻:もともと口を描いていないんですよ。

前野:描いてないけど、ないから不気味だという感じはしなくて。口を小さく閉じているから、目にすると見えないくらい閉じているという感じがしていました。

小巻:ありがとうございます。

前野:考えてみると、日本人は目を見て話すけど、欧米人は口を見て話すからマスクをするのが嫌いです。彼らは主張するじゃないですか。「主張することこそ偉い」という文化も、それはそれで大切なんですが、主張し過ぎずにみんなのことを理解し合って、ある時は譲歩してみんなで調和的に生きていきましょうよ、という象徴でもあるんだなって思いました。

小巻:「Co-being」の象徴ですね。

自分が「幸せ」であることを許してあげる

前野:まさに亜矢さんもそうですよね。社内で対話をしていて、この前ウエイクアップ・アワードを受賞されていました。

小巻:ありがとうございます。

前野:対話をして聞いて、人のことに耳を傾けて、ピース&ハピネスを作っていく。そういう時代ですね。

小巻:そうですね。

前野:ありがとうございます。あっという間に時間が来ちゃいましたが、最後に、参加しているみなさんに小巻亜矢さんからラストメッセージをお願いします。

小巻:バラけた話を聞いていただいて、どうもありがとうございました。

前野:いえいえ。

小巻:ぜひみなさん、今日このシンポジウムを機会に、自分が幸せでいることをまず許す。そして、もしそういう気持ちになれない時は、自分の周りの「ありがとう探し」をしてみてください。

きっとそこからズルズルと(芋づる的に)やる気が出てきたり、「なんとかなるさ」と思えたり、「やってみよう」「自分は自分のままで行こう」というふうに、自分の個性を尊重できる在り方になっていくと思いますので、「ありがとう探し」をおすすめします。今日は素敵な機会をどうもありがとうございました。

前野:亜矢さんがだんだんキティちゃんに見えてきた。優しくて愛に溢れていて、みんなに「自分を大事にしてね」というメッセージを伝えてくださっていました。最後に会場のみなさんもYouTubeのみなさんも、拍手をして終わりたいと思います。本当にありがとうございました。

(会場拍手)

小巻:ありがとうございました。楽しかったです。

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