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パフォーマンスを発揮するための「セルフトークマネジメント」(全2記事)

やめたい習慣を無理せず変える方法は、「筋の良い自問自答」 セルフマネジメントに役立つ、問いの立て方

昨今、人材の価値を最大限に引き出すための「人的資本経営」という言葉をよく見かけるようになってきています。創造性を発揮し、付加価値を生み出すための原動力は「人」だとするもので、企業が人材を投資対象として捉えるようになる一方、働き手自身もより自律的にスキルアップに取り組むことが求められています。 本記事では、株式会社コーチ・エィ代表取締役社長でエグゼクティブコーチの鈴木義幸氏に、自分の癖や行動を変えるきっかけになる「問い」の立て方についてお聞きしました。(写真提供:株式会社コーチ・エィ)

前編はこちら 

「決断力のなさ」を変えるための問い

ーー先ほどのお話はまさに、自分の思い込みや行動をコントロールすることにつながるなと思いました。マネージャーになると意思決定の機会が多くなりますが、例えば、「決断力のなさ」を変えたいとしたら、自分自身にどんな問いを投げかけたらいいんでしょうか?

鈴木義幸氏(以下、鈴木):なかなか決断できないとなると、「その手前で何をしているから」、あるいは「何をしていないから」決断ができないんでしょうね?

ーー決断が周りに及ぼす影響を考えると、「本当にこれでいいんだろうか」と迷うことが多いです。

鈴木:周りに及ぼす影響を考えた時、どんなふうに思うから決断がしにくくなるんですか?

ーー自分がしたいことと周りとの不一致だったり、反発やネガティブな反応があるかもしれないので、決断する前にすり合わせが必要ではないかということですね。中間管理職あるあるだと思いますが、組織の課題と現場の希望の板挟みになった時、そこのバランスの取り方で悩むことが多い気がします。

鈴木:なるほど。現場と会社側の求めるものが違うわけなので、「これって現場の人にはどういうふうに取られるんだろう?」、あるいは「経営側にはどういうふうになるんだろう?」と考えると、「どっちなんだ」と悩んでしまうと。

ーーそうですね。その決断を相手にきちんと説明できるかどうかは考えます。実際に自分がやるとして、納得できる説明があるのか、それともぜんぜん理解できないのか。そこをかみ砕いて筋道が見えればいいんですが、それが難しい場合もありますね。

鈴木:説明できれば、自信を持って決断ができるわけですよね。

ーーはい。自分なりにどうすればうまくいくかが見える時は迷いは少ないですね。ただ、最初から「本当にできるのかな?」というものだとやっぱり決めかねます。

“失敗プロセス”の中で、「変えたほうがいい部分」はどこか

鈴木:「こういう障害がある」とか、自分で確信を持って「こういう筋道でこうなるんだ」ということが見えない・説明できない時は、「うーん」と止まってしまうと。その後はどうするんでしょうか?

ーーその後は、経営層なり現場なりと話をします。どちらに対してもそうだと思いますが、説明とか納得のいくところまで落ちないと、たぶん決断できない状態になってしまうので。上と下のどちらに掛け合うのかは、その時にまた考えるかたちになるんですけれども。

鈴木:ここまでのプロセスの中で、「ここをもう少しこういうふうに変えられたらいいな」と思う部分ってあります? 悩むのはもちろん大事なプロセスだと思うんですけど、例えば、もう少し早い段階で相談するという行動を取ったほうがいいのかもしれないとか。振り返りの中で、「ここをもう少し、自分の行動として変えたほうがいいんじゃないか」という部分はありますか?

ーーある程度考えても答えが出ない時は、早めに相談するほうがよさそうです。

鈴木:もちろん状況によって違うと思いますけれども、最終的に「相談によって道を切り開くんだ」という解決策があるとすると、悩みすぎる前にもう少し手前で聞いてしまうと。その行動を起こすためには、どういうセルフトークを向けられるとよさそうでしょうか?

ーー自分の中に多少の考えがないと、議論のための土台すらない状態になってしまう気がします。……ということは、完璧でなくても相談してもいいと思えればよさそうです。

鈴木:おそらく今までは、かなり考えが固まるまでは相談しなかったと。でも、なかなか考えが固まらない時は相談が遅れて、自分のところで抱えてしまう状況になりやすい。そうすると、1つの取り得るオプションとしては、「もう少し早く相談をしてみよう」ということですよね。

そういう時のセルフトークとしては、例えば、すごくシンプルですけど、「相談のタイミングはいつにしようか?」と自分にリマインドするだけで、相談が大事だということがもう一回、自分の中で喚起されます。そうしたら、「今までよりも少し早めに相談しよう」という意識になるかもしれないですよね。

ーー確かに。「相談するか、しないか」ではなく、「いつ相談するか?」と考えるだけで、相談するという選択肢を選びやすくなりますね。

過去の経験は、知らず知らずのうちに「習慣」になっていく

鈴木:あるいは、「この場合は誰に相談するのが適切だろうか?」とか、「相談する時に、どういう言い方・言い回しで相談するのがもっともいいだろうか?」ということもあるでしょうし。

さらに言うと、「なぜ自分は相談をためらっているんだろうか?」とか、「相談することによって、未来はどんなふうに開けるんだろうか?」とか。

「自分の人生の中で、相談とはどういうものだったんだろうか?」。「自分は相談することは好きだろうか?」「相談されることは好きだろうか?」。「人への相談を頻繁にする人は、どういう人間だと見られると思っているんだろうか?」。

ーーなるほど、すごいですね。そういう問いがあると、なぜ相談しないのかがよくわかります。それで言うと、相談とは最終手段だと思っています。その答えが浮かぶ時点で、「相談はあまりしてはいけないことだ」という、ブレーキが思いきりかかってますね。

鈴木:相談するというプロセスの中に、過去のいろいろな体験があったんじゃないかと思います。例えば、相談を最終手段としてやってきて、「最後まで自分でがんばる人だね」と言われたり、ほとんど1人で解決できたといった、ポジティブな体験があったかもしれない。

こういったことは、多くの人が無意識に持っているものなんです。でも、いつでもそれが通用するわけではないので、「相談って、自分にとってどういうものだったんだろうか」というセルフトークをすることで、認識や自覚が生まれます。

そうすると、相談することが最終手段のままでもいいんですけれども、「相談するというオプションもあったな」と思える。こういった問いかけを覚えておいて、セルフトークやセルフクエスチョンとして自分に投げかけることで、「悩みすぎかもしれない」ということに気づけるかもしれません。そうしたら、違う選択肢が生まれます。こういった問いかけを、マネージャーが部下にしてあげられたらいいかもしれませんね。

自分を振り返る「問い」は、行動を変えるカギ

ーー確かに、何かの決断で悩んでいる時に、「そもそも相談って、自分にとって何なんだろう?」というところまで考えたことはないので、本当にどういう「問い」ができるかがとても大事だと思いました。「何がネックか」「どこを解決すればいいのか」という問いと、「そもそも相談って自分にとって何なのか」という問いは、ぜんぜん軸が違いますよね。

鈴木:そうですよね。私も相談がキーワードになるとは思っていませんでしたが、悩みから少し解放されて前に進むには何かなということを考えていく中で、ひょっとしたら相談がキーワードかもしれないということが見えてきて、そこから相談についての問いが生まれるわけなんです。

ーーなるほど。こういったセルフトークのスキルを身につけられたら、筋のいい自問自答ができるようになるのか、それともやはり第三者の方の視点も必要なのでしょうか?

鈴木:こうした対話をしてくれる人がいたほうが近道ではありますね。ただ、一度こういったプロセスを経験することで、自分でも少し「こういうふうに自分を見ていくんだな」ということがわかるので、また「決断しなければ」となった時に、ある程度のセルフトークはできると思うんです。

一番いいのは、こういった問いかけができる人と実際に話すことです。でも、周りにいつも対話をしてくれる人がいるわけではないので、この『セルフトークマネジメント入門』を書いたんです。

ーー自分の状態を自覚することや、意識してリラックスすることは比較的やりやすいと思いますが、やはり「問い」の部分はなかなか難しそうです。

鈴木:「問いとは何なのか」とか、「どういう問いが自分を振り返ることになるのか」という学習は必要だと思います。

「筋の良い問い」を立てられる人とそうでない人の違い

ーー改めて、「問い」が本当に大事だなと思いました。自問自答の中で、筋の良い問いが立てられるようになったら、かなり行動が変わってくるんじゃないかなと思います。良い問いが立てられる人とそうでない人は、何が違うんでしょうか?

鈴木:大きく分けると、「環境とか、周りのせいでこうなってしまっている」という意識になっているか、「どんな状況でも、自分から周り・環境に働きかけようとしている」という意識でいるかによって、実はセルフトークって二分されてしまうんです。

もちろん、ゼロイチではないので、同じ人でも受け身になる時もあるし、能動的になる時もあります。ただ、「常に自分は環境に働きかけていこう」と心がけている人の中で生み出されるセルフトークは、本に書いているところのポジティブなセルフトークであり、未来を能動的に切り拓いていくセルフトークになりやすいですよね。

ーーまずは「能動的か、受動的か」という意識の持ちようなんですね。

鈴木:そうですね。それまでの人生の経験の中で受動がパターン化していると、セルフトークもネガティブなものになりやすいかもしれません。

マネジメント層は、苦手分野では「How」を考えないほうがいい

ーー著書の中に「得意な領域では問いを立てて考えられるけれども、不得意な領域では悩むだけで終わってしまう」と書かれていて、図星だなと思ったんですけれども。マネジメント層は、自分が苦手な領域でも率先して動かなければいけない時、考えなければいけない時もあるのではないかと思います。苦手な領域でも良い問いを立てるために、何か方法はありますか?

鈴木:大きく一般論として言えば、管理職やリーダー・経営層が苦手な領域に向かい合った時にしやすい問いは、「How」なんです。「どうすればいいんだ」と自分に聞くわけなんですけど、この問いはあまり役に立たないんです。

こういう時は「How」を使わずに「Who」を使ったほうがいいんですね。「誰の力を借りようか?」「誰と一緒にやろうか?」「誰がこの状況を打破してくれるだろうか?」。ひたすら「誰」なんです。

もちろん日常的に「努力してなんとかしよう」と考えることはいいんですが、組織のマネージャーやリーダー、経営層であれば、「How」は脇に置いて「Who」で問いを立てたほうが、圧倒的に効率がいいですよね。

ーー下手に何でも自分でやろうとすること自体が、ボトルネックになるという……。

鈴木:マネジメント層の「これをなんとか解決できる自分」というのは、自分のエゴが磨かれるだけであって、あまり組織のためにはならないので。もちろん、入社したばかりの新入社員でしたら、「これをどうやったら克服できるだろうか?」というふうに、自分の能力を高めようとするのはいいと思いますが、ある程度の部下を抱えたり組織のマネジメントをするようになったら、「誰」と考えるのがいいですね。

ーーまず自分について自覚をするところがスタートで、その上で他の方の力も借りながら、さらに自分の行動を変えていく「問い」を見つけていくところが大切なんだなと思いました。

自分自身を振り返る「内省」と、外から振り返る「外省」

ーー鈴木さまご自身は、例えばほぼセルフトークでマネジメントされているのか、それとも積極的に他の方のフィードバックを取り入れていらっしゃるんでしょうか?

鈴木:長年コーチングをやってきているので、例えば朝出社したら座って目を閉じて、「自分は今どうなんだろう」と止まって観ることが日課になっていますね。ミーティングをしていても、今この時間も、瞬間的に自分を止まって観る習慣はできています。

でも、自分がどう見えているか100パーセントはわからないので、うちの会社の役員に私がどう見えているかというフィードバックをもらったりもします。アセスメントを取ることもあれば、1対1で「どうだった?」「どう見えた?」とか「自分のやり取りについてどういうふうに感じた?」ということをフィードバックしてもらっています。

自分で自分を振り返る「内省」と、これは造語ですが「外省」ですね。外側から自分を振り返るという意味での使い方が適切かどうかわかりませんが、内省と外省を習慣化していると、あまり反応的な対応をすることはないんじゃないかと思います。

いつでも「どう思う?」と聞ける、“軽いフィードバック”のすすめ

ーー内省は自分自身の習慣としてできそうですが、「外省」はどれくらいのタイミングで取り入れるといいんでしょうか?

鈴木:「自分が人からどう見えているか」と聞くのは、それなりに躊躇したりもしますよね。ですから、言い方は変ですけれども、毎日歯を磨いたりご飯を食べるように、「どう思う?」とか「どう見える?」と軽く聞ける状態がいいと思います。

だから、ミーティングをしたり、1on1で話している時に、「どうだった?」とか「何か気づいたことある?」と重くならないように、日常的に聞くのがいいですよね。

ーーああ、意外でした。よく人事評価の後にフィードバックをすることが多いと思いますが、決まった場を用意するのではなくて、ふだんからラフに聞ける状態のほうがいいんですね。

鈴木:そうですね。例えば今日お話ししていて、私の話し方を聞いたり見たりしていてどうでしたか?

ーー落ち着いた話し方をしてくださっていて、ご質問についても、きちんと考える時間を取って答えてくださっているので、誠実な感じがすごく伝わっています。

鈴木:ありがとうございます。そういうふうに言っていただくと、そう見てくださっているんじゃないかなとは思っていても、実際に言葉で聞くことで、ほっとしたり自己肯定感が高まったりします。私もお話をしている中で、ログミーさんがすごく本を読み込んでくださっていて、上辺ではなく自分ごととして質問をしてくれるので、このインタビューでも真剣に答えようと思っています。

ーーありがとうございます、ほっとしました(笑)。フィードバックってこういう感じでいいんですね。する時もされる時も難しいもののように思っていましたが、改めて「メンバーに対して気軽にこういう言葉をかけているだろうか」と振り返った時に「いや、できてないな」と実感したので、やはりプロのコーチの方は違うなと思います。

鈴木:こんなことばかりやっていますからね。

信頼関係を高めるコミュニケーションの心得

ーーただ、やはりみなさん課題感も考え方も違うなかで、一人ひとりときちんと対話をするのはとても難しいと感じます。フィードバックをやりとりするにも、まずは信頼関係が大事な気がするのですが、どうやって信頼関係を築いていらっしゃるのかを最後にお聞きしたいです。

鈴木:シンプルに言うと、「こんなふうに思っているよ」ということをお互い伝え合えると、信頼関係は高まると思います。

本音なんて重いものではなくて、「こんなふうに見えるよ」とか「こんなふうに思っているよ」と言って、向こうからも「どう見える?」と聞く。そうすると、すごく快適な状態でコミュニケーションを交わせますし、信頼関係が育まれるんじゃないかと思います。

ーーなるほど。ふだんのリモートで仕事をしているせいもあるのですが、今おっしゃってくださったような気軽なフィードバックは、対面の時のほうがもっと自然にできていた気がします。そういった部分も日頃から心がけていきたいですね。

自分の思い込みや行動を変え、パフォーマンスを上げるためのたくさんのヒントがあったと思います。お話いただき、どうもありがとうございました。

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