2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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昨今は、人材の価値を最大限に引き出すための「人的資本経営」という言葉が多く見られるようになってきています。創造性を発揮し、付加価値を生み出すための原動力は「人」だとするもので、企業が人材を投資対象として捉えるようになる一方、働き手自身もより自律的にスキルアップに取り組むことが求められています。 本記事では、株式会社コーチ・エィ代表取締役社長でエグゼクティブコーチの鈴木義幸氏に、パフォーマンス改善のカギとなる、「自分自身との対話(セルフトーク)」についてお話をお聞きしました。(写真提供:株式会社コーチ・エィ)
ーー昨今、人的資本経営という言葉がよく聞かれるようになっていますが、一人ひとりが自分の持てる力を発揮できるようになることがますます重要になっていると思います。
そんな中で、『理想の自分をつくる セルフトークマネジメント入門』を拝読し、「自分の内側における自分自身との対話(セルフトーク)」が、まさにそのヒントになると思い、ぜひお話を聞かせていただければと思います。
「自分自身との対話がきちんとできているとパフォーマンスが改善される」とあり、冒頭から引き込まれたのですが、まずは何から始めればいいんでしょうか?
鈴木義幸氏(以下、鈴木):そもそも「自分自身との対話をする」には、そのための時間が必要です。立ち止まって、自分を観る時間です。でも、日記を書くなどの習慣がない限り、ふだんの生活では、そういう機会があるようでないんですよ。例えば、ぼーっとしている時間に、頭の中でいろいろな映像やイメージのようなものが流れていることはあっても、何が頭の中に流れているかは捉えきれていないんです。
よく「私はあまり物を考えたりしないんです」と言う方がいらっしゃるんですけど、気づいていないだけで、実は頭は常に忙しく動いているんです。
ーー私もぜんぜん自覚していませんでした。何のためにそんなに頭を使っているんでしょうか?
鈴木:頭は基本的には自分のサバイバルのために動いています。例えば、1週間の間にいろいろな出来事があって、週末は疲れて何も考えていない状態でいる、と思っている。そんな時、いろいろなイメージが頭の中に去来しています。はっきりと言葉として意識にはのぼらなくとも、「ちゃんと伝えられただろうか」とか「私って認められているんだろうか」とか、1週間のいろんなシーンを思い返してチェックをしているんです。
何もせずにのんびり休んでいる休日のはずなのに、頭の中ではそれまでに起きた出来事のイメージと映像を頭の中で振り返りながら、「大丈夫なのかな?」「Am I OK?」と、ずっと自己確認している。それで、なんとなく疲れてしまうということが、ほとんどの人の中で起こっています。
ーー何もしてないのに、なぜか疲れが取れない。すごく思い当たります……。
鈴木:疲れて何もやる気が起きずにぼーっとしている休日は、実は休めているようで休めていないんです。頭はものすごく多くの酸素を消費しながら、自分のアイデンティティの確立に一生懸命向かっているので、案外休息にはならない。逆に何かをしているほうが頭が静かになります。例えば料理や掃除をしている時は、その行動に集中していくので、頭の中は静かになりませんか。
自分自身との対話をするには、立ち止まって、まず頭を静かにすることが必要です。人に話を聞いてもらうことも、立ち止まるのに役立ちます。あまりにもいっぱいいっぱいだなと思ったら、誰でもいいので、周りで話を聞いてくれそうな人を見つけるといいと思います。奥さんや旦那さん、会社の方でも友だちでもいいので、意図的に自分から「ちょっと話を聞いてくれないか」と言って話をする。
それ以外に、自分と対話する機会として「ブレイクダウン」を利用することもできます。実際にはあまりないほうがいいとは思いますが、ブレイクダウンとは大きな環境の変化や自分自身に起きたショックな出来事などを指します。
そうした時に、「これは神さまが与えてくれたいい機会なんだ」と思って、セルフトークを使って「本当は自分は何をしたかったんだろう」「どう変わる必要があるんだろう」と問いかけ、自分を振り返る機会にすることもあると思います。
ーーまずは立ち止まって、自分に向き合えるようにすることが大事なんですね。
鈴木:そうです。自己認知というのは自分自身を客観的に捉えることなので、自分を客観視する「別の自分」を作り出す必要があります。つまり、「問う自分」と「考えて答えを出していく自分」が必要なんです。
例えば、「昨日、自分は本当は何を思っていたのだろう」「何をしようとしていたのだろうか」とか、「誰のどんな発言や行動や態度に反応してしまっていたのだろうか」。あるいは「自分はどんな影響を人に与えようとしていたのだろうか」「周りからはどういう影響を受けていたのだろうか」とか、「自分はどんな物語を生きようとしているのだろうか」など。
こうした自分に関わる本質的な問いを意図的に投げて、その問いに対して「いったいどういう答えが出てくるのだろう」ということに向き合う時間が取れると、その人の人生はすごく変わるでしょうね。
ーーそこから、自分との対話である「セルフトーク」を始められるということなんですね。特にリーダー層やマネジメント層は、周りにフィードバックしてもらう機会が減っていくので、こうしたセルフフィードバックを成長につなげられるような気もします。マネジメント層にとって、自己認知やセルフトークはどんな利点があるでしょうか?
鈴木:「自分が何を考えて、どう行動しているのか」ということを自覚できることです。自覚できると、選択肢が増えます。人は、人生の中でいろいろな成功体験・失敗体験を積み重ねていると思いますが、その行動のほとんどは無意識なんです。
潜在意識の中には、「こうするといいんだ」とか「こうすると駄目なんだ」という無数のパターンがストックされていて、それがその人の原理原則となっています。だから、いちいち考えなくても、「会議の場面でこう言われたらこうする」「こう考える」というのが、もうできあがっているわけなんです。
ただ、そこには問題もあります。環境は常に変わり続けているので、過去の経験に基づいて行動がうまくいくとは限らないわけです。そんな時に、自分自身を客観的に見ることができると「本当にその行動がいいのか、他の行動がいいのか、あるいは違う捉え方のほうがいいのか」という選択肢が生まれます。
もちろん、これまでと同じ行動を取ってもいいんですが、自覚してそうするのか、なんとなくやっているのかでは結果に大きな差が出てきます。例えば、マネジメント層の方が部下に何かで反論されたとします。その方が以前、部下の説得を試みて、最後は「納得できました」と言われたという成功体験が蓄積されていると、「部下から反論されたら説得する」というパターンができてしまっているわけです。
ーー別の部下に対しても、同じ行動をしてしまうんですね。
鈴木:でも、そのことを自覚していれば、違うパターンも自分で選べるということです。それが一番のメリットではないかなと思います。
ーー1つの“正解”に頼らず、状況に合わせて柔軟に対応できるようになりますね。
鈴木:そうですね。それから、セルフトークがうまくいっている方は、「リチュアル・クエスチョン(Ritual Question)」を持っている方が多いんです。リチュアルは、「儀礼的な」とか「習慣的な」という意味ですが、例えば1日の終わりに、「今日、自分は何か新しいことを1つでも学んだだろうか」と自分に問いかける。
もし学んでいないとしたら「自分は明日から、何をどんなふうに学びたいだろうか」とか。こういうふうに、朝起きた時や夜寝る前などの問いかけを習慣化することで、自分の意識をポジティブな方向に向けられるのではないかと思います。
ーーなるほど。ここまで自分自身との対話についてお聞きしてきましたが、著書でセルフトークは相手に働きかける時にも有効だと拝見しました。例えば、ちょっとネガティブな口癖がある部下がいたとします。口癖はセルフトークではないかもしれないんですが、マネージャーが何か力になれることはあるのでしょうか?
鈴木:他の人のセルフトークが外側から見てわかるようなことは滅多にないので、結論としては、方程式のように当てはめて対応することはできないと思った方がいいですね。マネージャーにできることは、相手の話を聞いてあげたり、声をかけることなんです。
例えば、自己肯定感が低くて落ち込みやすい部下がいたとします。「人に認められることによって自分の価値が上がるんだ」と思っていると、自己肯定感は上がりようがないですよね。
でも、大半の人が人から認められて初めて、「ああ、自分は価値があるんだ」と思うわけです。セルフトークの技術を身につけても、悟りを開いたようになれるわけではないので、やっぱり毎日、「私は認められているのだろうか」「私は大丈夫なのだろうか」ということを考えます。
ただ、それを自覚できていると「そこまで『人に認められよう』と思わなくてもいいんじゃないの?」と、ちょっと気楽になれるんです。もし部下が自己肯定感の低さに悩んでいるとしたら、「あなたを人としてちゃんと見ています」というふうに相手の存在を認めてあげることが大切ですね。
鈴木:取ってつけたように褒めるのではなくて、相手の話をしっかり聞いてあげたり、本当にいい感じで「おはよう」と挨拶すること。アクノレッジ(acknowledge)と言いますが、人は自分の存在が認識されると、少し頭の中が静かになり、心が落ち着くんです。
相手の頭の中が静かになったところで、例えば何かのプロジェクトでの仕事について「この1週間で誰との関係性を発展させたいと思う?」なんていうふうに聞く。
そうすると、「ああ、認められていない」「価値がない」ということで頭の中がいっぱいになっていた部下も、「自分がどう働きかけるか」ということに意識を向けられるので、受け身ではなくて、すごく能動的になりますよね。
もちろん、一度問いかけたら変われるようなものではないですが、マネージャーが問いを変えながら、「今日は誰のパフォーマンスを上げるために力を使っていこうか?」とか「誰の緊張を解いていこうか?」というふうに言葉をかけていく。
結局、受け身になって「人から認められてなんぼだ」と思っていると、自己肯定感が下がってしまうので、自分のほうから他人に貢献する、他人のために力を使う、他人のちょっとしたハピネスのために意識を向ける。それは結果的には誰かの役に立てているということで貢献実感につながり、自己肯定感が上がるんです。
そういうところに向けて、マネージャーが問いを投げかけたり、もちろんマネージャー自身がそのモデルにもなっていると、すごくいいですよね。
ーーなるほど。「人から評価される」と考えるのではなくて、「自分がどう動くか」と考えると、受け身の状態から脱出できるような気がします。
鈴木:正確に言うと、「脱する」なんて格好いいことはないんですよ。朝から晩まで「人のために」というふうに考えられる人はいないので。ただ、「自分は認められているんだろうか?」という出口のない考えから、少し出られるんだろうと思いますね。
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