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経営者力診断スペシャルトークライブ:ポストコロナのリーダーシップ(全4記事)

メンバーシップ型と相性がいい、家族主義経営の「最大の弊害」 なぜ今、日本の企業がリーダーシップスタイルを変えるのか?

経営者やリーダー向けに、「経営」「マネジメント」をテーマとした各種セミナーを開催する経営者JPのイベントに、キャリア自律やリーダーシップ論を専門とし、『起業家のように企業で働く』『リーダーシップ3.0』など著書を多数出版している合同会社THS経営組織研究所の代表社員・小杉俊哉氏が登壇。経営者JPの代表・井上和幸氏と共に、リーダーシップのあり方を整理する価値や、組織の状況に応じて名経営者がやっていることなどを語りました。

世界の製造業の近代化を牽引したヘンリー・フォードのぼやき

井上和幸氏(以下、井上)上司と部下の関係性やマネジメントについては、冒頭に申し上げたリーダーシップのスタイルの話につながりますよね。

小杉俊哉氏(以下、小杉):ではここで、リーダーシップの話をしましょう。スライドの共有をしますね。リーダーシップについては、20世紀半ば頃からいろいろな研究結果が出ていますが、それをみなさんに学術的に説いたとしても、あまり一般的ではないし、興味もないと思います。

だから、そうではないかたちで、あらためてこういう整理の仕方をしてみました。私の話や書籍などですでにご存知の方もいらっしゃると思います。

まず原型となる中央集権的なリーダーシップのあり方が、本当に長い間続きました。王様、荘園領主、日本では藩主などですね。こういう人たちが強大な権力によって、下々の者を従える。これがリーダーシップだったんですね。もちろん、例えば日本の殿様の中にも「名君」と呼ばれる人もいました。でもなぜそう呼ばれるかというと、例外だったからですよね。

そして、そのリーダーシップのあり方を産業界に持ち込んだのがヘンリー・フォードという人です。彼が職人さんたちを連れてきて、ベルトコンベアを使って決まった作業をやらせるという方法を導入したんですね。

彼が参考にしたのは当時、世界最強と言われていたプロイセンの軍隊です。そのやり方で、職人さんに「今の年収の3倍を払うから来い」と言って、彼らを機械の一部にしてしまった。最近読んだ本で興味深かったのですが、ヘンリー・フォードは「私は『手』が欲しくて職人を雇っているのに、なぜ『頭』まで付いてくるんだ」とぼやいていたということなんですね。

井上:なるほど(笑)。

小杉:「余計なことを言ったり考えたりせんでいい。ただ手を動かせばいい」と思っていたことがわかるエピソードですよね。

井上:まさに機械ですね。

小杉:「機械として動いてくれ。仕切るのは俺だ」ということですよね。世界の製造業の近代化に、非常に大きな貢献をした人ですが、彼はそういう発想だったんです。まさに中央集権的ですよね。今でもオーナー経営企業にはこのかたちが多いと思います。「文鎮型組織」とも言えます。「Command and Control」ですね。

80年代に欧米企業の手本となった、日本的な「調整型」リーダーシップ

その後20年ほど経った1920年代後半、アメリカのゼネラルモーターズのアルフレッド・スローンという人が、「1人の人間が全部仕切ることはできない」ということで、権限を与えてやらせる「分権」を開始したと考えられています。

さまざまな事業に分けて、それぞれに責任者を任命してやらせる。権力が背景にあることは変わりません。日本では松下幸之助さんが事業を始めたのとほぼ同時期の1920年代後半です。これが長らく世界中のお手本として続きました。

その後1960年代ぐらいから台頭してきたのが「調整型リーダー」というあり方で、これも長くて1990年代の初頭まで続きます。これがまさに日本的な、家父長的なリーダーです。いわゆる運命共同体の船長ですね。

これが長期雇用、労使協調で、年功序列な給与運営をするというものですね。「会社側が社員の面倒をみてやるんだから、言うことを聞け」ということ。つまり、会社が自由に人事権を持って配置するという、まさに前回の話ですよね。

80年代に刊行された『エクセレント・カンパニー』という本では、アメリカやカナダのエクセレントな会社にはすべて、調整型のリーダーがいて、こういう会社がサステナブルだと説きました。この本は世界的なベストセラーとなったんですね。つまり、日本的なリーダーは、この時代のお手本だったわけです。

これはあまり知られていないんですが、80年代当時のアメリカ企業も、ゼネラルモーターズとかIBMとか、優良企業と言われたところはすべて日本的経営なんです。まったく同じかたちではないですが、長期雇用ベースで、労使協調で、年功的な給与運営で基本的には「会社が面倒をみてくれる」という、これがいい会社だったわけです。

井上:家族主義経営ということですかね。

小杉:家族主義経営ですね。ケン・オルセンという人が創業し一世を風靡したDECという会社も、一時期日本の新卒学生にすごく人気がありましたが、これも家族経営ですよね。「一人ひとりに心を配って、みんなの面倒をみてあげる」というあり方ですね。

カリスマ、支援型、そしてリーダーシップ4.0

小杉:そして1990年代に入ると、「そんな生ぬるいことをしていたら会社が潰れるぞ」と「チェンジ、チャレンジ、イノベーション、トランスフォーメーション」ですね。「自転車を漕ぎ続けろ」ということで出てきたのが変革型リーダーですね。

彼らはカリスマリーダーでもありました。代表的なのはジャック・ウェルチやルイス・ガーナーで、これがまた世界を席巻しました。この時代、日本企業のトップも真似する人が多かったんですね。しかし、生え抜きのトップで、この痛みを伴う変革のリーダーとして成功した例は少なかったのです。

今世紀に入ってからは、チェンジリーダーという旗をおろし、リーダーは支援する側に回って一人ひとりの力を引き出すようになりました。これはアメリカ企業や、ハーバードビジネススクールなどでもそうですね。これこそが、私が「リーダーシップ3.0」と呼んでいる「支援型」なんです。ついでに「リーダーシップ4.0」の話をしてもいいですか?

井上:お願いします。

小杉:この本(『リーダーシップ3.0』)を書いた理由は、みんな昔のステレオタイプのリーダー像にこだわりすぎていたからなんです。創業経営者でもない限り、そんなカリスマ性もないのに、真似できるわけないでしょと。

メンバーシップ型で入った日本の管理職や経営者が、カリスマになれるわけないよねと。そこで「もっと楽にリーダーシップを発揮できる『支援型』もあるんだよ」ということを提示したんですね。支援者が一人ひとりと向き合って力を引き出し、動機付けをして、伸ばしていく。

そして一人ひとりも自分自身の仕事の仕方やキャリアについて、自律的に切り開いていくことが必要な時代になってきています。すべての構成員が自律的に働くということですね。自分自身に対して、また他者に対してもリーダーシップを発揮する。組織全体、社会全体に対してもこれを発揮する。今はこんなことが必要になってきていると思います。

これを「リーダーシップ4.0」と呼んでいるんです。

リーダーシップのあり方を整理する価値

井上:ご存知の方はあらためて整理されて、初めて聞かれた方は「なるほど」と思われたことでしょう。「4.0」を小杉さんが発信され始めた後に、追いかけるような形で「ティール型組織」(役職者の監督あるいは干渉なしで、各メンバーが自ら企業のゴールを目指し、邁進する組織)というものが出てきて。

小杉:そうですね。その後ティール型が出てきました。私もずっと「自律」ということをお話ししてきましたので、いいことだと思いますね。洋の東西を問わず、実際に自律型でやっている会社は業績がいいんです。みんなが自律的に働く、動くというのにはそんな裏付けもあるんです。

スポーツチームにしても、みんなが監督やコーチの指示どおりに動くチームはなかなか勝てなくなっています。その他にもわかりやすい事例はいろいろありますね。

井上:あらためて俯瞰してみると、時代の流れや状況、進化を受けてリーダーシップのスタイルが変わってきていますよね。これは、個々の企業ごとの局面、企業ステージなどによっても、リーダーシップのスタイルが変わることもありますよね。

小杉:そうですね。「グレイナーの5段階企業成長モデル」について本の中にも書いています。おっしゃるとおりで、時代の大きな流れもありますし、会社がスタートして徐々に規模が大きくなっていくにつれて、ステージごとに必要なリーダーシップも変わっていきます。こういった捉え方もありますので、知っておいたほうがいいですね。

リーダーシップというのは「The most studied,and the least understood area.」と言われています。要は「研究されつくしているのによくわかっていない分野である」と。それでも、こういう整理の仕方をしておけば、「今、組織がどんな状況で、どんなリーダーシップが必要なのか」と考える拠り所にできますし、どんなリーダーシップスタイルを取ればいいかという1つの指標になります。そこがいい点ですよね。

組織の状況に応じて、名経営者・名監督がやっていること

井上:「リーダーシップ3.0」から「(リーダーシップ)4.0」への移行は発展・進化であると捉える向きも多いと思いますが、例えば「1.xよりもやっぱり3.0がいいんだ」と捉えるのは、誤解ではないかと思っていまして。

小杉:そうですね。例えば、青山学院大学の駅伝で、今年復活優勝した原晋監督は「究極の自律型組織が完成した」とおっしゃっていました。彼とテレビの番組でご一緒した時に、「『リーダーシップ3.0』は僕の教科書です」と言ってくださって。

井上:そうですよね。

小杉:最初は自分が仕切っていたんだけど、組織が大きくなるにつれ、徐々に権限を渡していく。そして、最後にはメンバー一人ひとりが自分で考えられる組織にしていったと話していました。

4連覇した後に、自律型が完成しそうになったんだけど、最高学年の4年生が、自覚がなくて受け身だったそうです。そこで、「この1年は俺の指示通りに動け」と宣言して、一番最初の「君臨型」に戻しているんです。つまり「1.0」ですよね。このように名経営者、名監督と言われる方々は、組織の状況によって、必要なリーダーシップの型を選ぶことをされていますよね。

それからスティーブ・ジョブズは間違いなく「王様1.0」でしたよね。でもAppleを追い出されて外で大成功した後、年俸1ドルで戻ってきた時には「1.0」ではありませんでしたからね。

井上:そうですね。

小杉:彼を継いでCEOになったティム・クックや、周りのすぐれた人たちの話に耳を傾けて彼らを活かす。そして、何よりユーザーグループを復活させましたからね。そこからiMacが生まれたというエピソードもあります。スティーブ・ジョブズは自分が作った愛すべきブランドが瀕死の状態の時、これを立て直すために、かつての「1.0」じゃなくて「2.0」に移行したんです。

彼は変革者として会社に戻ることを意識していたと思います。自分の病気のこともあったと思いますが。だから彼も、組織が置かれた状況により、必要なリーダーシップタイプを選ぶことをやっていますね。

イベント参加企業のリーダーシップスタイルは?

井上:ここでみなさんにもう1つ質問をしたいと思います。今お話しいただいたとおり、何が良い・悪いではなく、TPOに合わせたリーダーシップスタイルを選んで、意識的に選択することが大事だと思います。

みなさまの会社、あるいは部門でも構いませんが、先ほどの「1.0」~「4.0」のどれになりますでしょうか? みなさん自身、あるいはみなさんの置かれている環境でのリーダーシップスタイルをご回答ください。

「1.0」は完全なる官僚組織型ですね。「1.1」は官僚組織型の中でも事業部制で分権されているケース。「1.5」は村長さんという話もありましたが、家族的で、経営としては「長」がいるんだけど、みんなの声をしっかり聞いていく。

「2.0」はカリスマ型のリーダー。「3.0」はサーバント・リーダーシップ。「4.0」は、少し違うのかもしれませんが、わかりやすいところではティール型と言われる、一人ひとりが主体的に動くチームですね。みなさんの所属しているところは、どうでしょうか?

WEB投票にご参加くださったみなさん、ありがとうございました。では結果の表示をお願いします。

「1.0」はなかったですね(笑)。「1.1」が13パーセント、「1.5」が33パーセント、「2.0」が20パーセント、「3.0」が33パーセント、「4.0」がなし。こんな感じですね。

「1.5」と「3.0」が3分の1ずつ。残り20パーセントが「2.0」と、10パーセントが「1.1」ということですね。

小杉:私も、いろんな企業で管理職研修、リーダーシップ研修などをやらせていただきますが、以前は圧倒的に「1.5」が多かったんですね。会社も自分も「1.5」ですと。近年になって「3.0」が増えてきましたね。みなさんそれを目指していて、「完全ではないにしろ、ある程度やれている」という人が増えてきている感じですね。

井上:日本において、トップダウンであっても、いい状態で会社が運営される時代には「1.5」が多かった。それが世の中や時代の流れを受けて、現場のみなさんが主体的に動くようなリーダーシップスタイルに変わってきた。こんな感じでしょうか?

小杉:そうですね。

井上:日本企業だと、特定のメディア等に非常に出てくるスタイルで、ビジョナリーかつトップダウンという方が「2.0」になる感じですよね。

小杉:そうですね。そういう方々も、少なからず出てきましたね。以前はほとんどいなかったんです。

井上:確かにそうですね。

「家族主義経営」の最大の弊害

小杉:補足しますと、「1.5」は先ほどお話ししたように長らく欧米にとってもお手本のリーダーシップスタイルだったんです。でも例外がたくさん出てきて。ちなみに井上さん、家父長的な組織で、家族経営のようにやっていくことの弊害・問題とは何だと思いますか?

井上:うーん。

小杉:日本企業は、ある意味これで平和にやっていたわけですよね。しかもメンバーシップ型と一番相性がいいはずなんですよ。「それでいいじゃないか」という話も当然あるわけですよね。

井上:はい。

小杉:ところが今、なぜ「そこから抜け出していこう」という動きになるんでしょうかね。何か弊害、問題があるということですよね。

井上:世の中の変化の激しさということですかね。我が村の中だけで、一世代、二世代、ゆったりというわけじゃままならないと。別に家父長制の会社がそうだというわけではありませんが。「みんなで家族としてやっていく」ということでは、外界から吹き込んでくる嵐に耐えられないという気がします。

それとは別に、その方が命としてお亡くなりになるということだけじゃなくて、お父さん、長がいなくなった後、なかなかうまくいかないケースがあるように見えます。

小杉:なるほどね。いろんな問題が起こると思いますが、一番大きい弊害としてはそこが「村」なので、村の掟がすべてだということなんですよね。

井上:そういうことですよね。

小杉:要はそこが唯一の世界になってしまうと、そこで無理をしてしまう。だから過労死なんていうのも起こる。海外の企業で働く人からすると、仕事のために身を捧げて死んでしまうなんてことは、普通は考えられません。

それから、家族的に長期にわたって経営していくと、組織ぐるみでのデータ改ざんや品質偽装、粉飾決算が起こってくる。世の中の常識や法律よりも、自社が中心になって、そこが上回ってしまうんですね。

井上:幹部の方が悪意なく「これは我が社のためなんだ」みたいな(笑)。

小杉:そうなんですよ。

井上:東芝もそうでしたが、粉飾決算で後から出てくる大きな話は、そういう感じですよね。

小杉:内部に自浄作用がなくて、結局管理者ではない若手の外部告発によって表に出てくるんですよね。こういう弊害があります。“閉じた系”の中で完結していた時代ですね。だから、今となっては1.5はなかなか難しくなっていると思いますね。

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