2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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田中弦氏(以下、田中):今日はせっかくなので、先ほどの「1万人の全員野球」のお話を。野球は9人でやるものですが、1万人でやると言うと、東京ドームで大運動会をやる感じになってしまうのではないかと。しかも1万人の会社だと、やはりトップが先陣を切ってやっているイメージがどうも僕はついてしまいます。
なぜ「全員野球」というワードにこだわりをお持ちなのか、ぜひ教えていただきたいです。
石原美幸氏(以下、石原):「全員野球」というのは基本的に、1つの目標(優勝)に向かって、全員が、それぞれの役割をそれぞれの立場で果たしながら向かっていくことなんですね。私もよく説明をする時があるんですけど、ある高校野球の学校はグラウンドにいる9人、ベンチにいる選手、それからベンチに入れないで応援席にいる人たち、そして応援席には応援団だったりブラスバンドだったり、あるいは地域のみなさんだったりがいるわけですよね。
ある学校は選手たちの人気はもとより、それ以上にブラスバンドの応援が人気を取っていたりして。全員で取り組むことによって野球ができていることを「全員野球」と言っています。
私自身、いろんな経験の中でこの言葉を使うようになりました。福井製造所という拠点があるんですが、福井は大変高校野球の盛んな所なんですね。そこで「みんなで一緒にやろう」というのを「全員野球」という言葉で言うと、みんなわかってくれるんですね。
私どもの会社は、誠実なものづくりを目指す気質をみな持っていると思います。職場はチームだと思っていますので、トップダウンで動かすよりも、例えばチームのプレイヤー同士、ほとんどが製造に関わる現場ですけど、そこを支える本社や間接部門のスタッフがいて、それぞれの役割を認識して働いたほうが成果につながると思っています。これを「技(わざ)」と術(すべ)といって理念にも入れています。
石原:少し画面で出してますのが「流汗悟道」というものなんですけど。
田中:これはアルミの工場のシーンですよね。
石原:製造所の鋳造現場の画なんですが、ここに「流汗悟道」と表示しています。ある災害事故が起こった時に、「なぜその現象が起きたか」と聞くと、いつも製造現場で働いてくれている人たちにとっては「その現象の原因はいつも起こっていること」だったんですね。
「これはちゃんとみんなに伝わっていたのかな」と。その「みんな」というのは、設備のメンバー、あるいはいろんな作業のスペックを決める製造技術、製品技術、我々管理者もそうです。全体がそれぞれの役割を果たして、原理原則に基づいて解決していけば、この現象は起きなくなるんじゃないか。そういう対策をしていこうという時に「流汗悟道」と話しました。
現場の人が「鋳造現場はこんなものですよ、石原さん」と言っていて。でもそれ諦めちゃいけない。災害が出ないようにすることを諦めちゃいけないよねっていった時に、この「流汗悟道」を出したんですね。これはみんなが汗を流せば結果・成果は出るということ。諦めなければ、未来は変えられるということ。みんなで、自分のこととして捉え、それぞれの立場でやっていくことが「全員野球」として大切なんです。
田中:確かに、野球っぽいスローガンですよね。
石原:これは大変成果が出ている活動になっていますね。こういったことで構造改革自体も、全員野球をスローガンにして進めています。先ほど申しましたように、いろんな立場の人たちが携わりますので、全員で、それぞれの立場でやっていくことを大切にしています。それが我々UACJとしての価値観を示す、UACJらしさです。
田中:このお写真は何を示しているのでしょうか?
石原:それぞれの人たちが「UACJらしさって何だろう」という理念を定義する時に、世界を回って調べてくれて。
田中:これ、石原さんも出向かれたのでしょうか?
石原:私も理念対話会という形式で各所に行きましたし、今でも続けています。「全員野球」という言葉を使ってますが、彼らにとってみたらどちらかというと「全員サッカー」のほうがわかりやすい、と言われました。
田中:確かにそうですね、なるほど。社員1万人というと、特にUACJさんはグローバル企業なので「ダイバーシティ」も相当話題になるのかなと思います。心理的安全性という単語に注目されて、マネジメントをしようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
石原:「心理的安全性」そのものの言葉は知っていたんですけれども。やはり「どうせ言っても無駄」だとか「失敗したらどうしよう」ということではなく、我々UACJの価値観としての「挑戦心」がありまして。それを応援するような風土に変えていきたいなとは考えていましたね。
安全面でもそうですが、いつも「これ危ないな」と思っているけれども、言っていいのか悪いのかわからない。「ああやれ、こうやれ」と指示されることは「しっかりやらなきゃ、守らなきゃ」と思っているけれども、「自分たちから言ってもいいのかな」ということを言える風土にしていく(のも大事だと思ったんです)。
田中:ちょっと失敗しちゃっても、本当は言ってほしいですよね。
石原:「これ使いづらいんですよ」ということを日々言ってほしい。そういうことが言える。「あ、これ言っていいんだ」「ちゃんと聞いてもらえるんだ」と、そんな思いになる組織にしていくことが大事だと思っています。
石原:私自身も先の理念を見据えて、先ほどご質問ありましたけど、(理念対話会の回数を)年間25回から37回に増やしました。
田中:「社長が来た!」とみんなびっくりしませんか。
石原:石原:コロナ禍で現地に行けない場合も、Webでやったりして、直接社員の話を聞いています。理念対話会の最初の頃は、社員が「上司から「あれやれ、これやれ」と言われるけど、自分の仕事がちゃんと役に立ってるのかわからなかったんです。自分の仕事が誰の・何のためになってるかを知りたいですよね」、ということを言っていましたね。
この理念対話をしながら現場の人たちと、あるいは現場の人たちも、いつも仕事で会っているけど特に話をしてない人たち同士で話をすることによって、「私の仕事はあの人の役に立っているんだ」とわかってきたと。これが大事かなと思います。その意見をどんどん我々も汲み取る必要があるんだろうなと思っています。びっくりされても顔を見て話し合うのは楽しいようですよ。
石原:田中さんもUniposのサービスを提供される中での経験、あるいは自分の組織の運営の中で日々「組織」と密接に関わってらっしゃると思いますけれども。田中さんは現代の組織には何が足りない、あるいは何が必要だと思ってらっしゃいますか。
田中:まさに先ほどの「心理的安全性」かなと思っています。対話ができる会社はすごく少ないと思っていまして、しかも今は物理的に離れてたりとかすると思うんですよね。結局一番の違いは何か、組織に足りないものはなんだろうなと考えると、やはり「価値観の違う人同士がお互い同じ組織にいる」という認識が必要なのではと考えています。
我々「Unipos」というサービスをやってるんですけれども、これは離れていてなかなか会話ができないような組織でも、従業員同士がお互いに感謝の気持ちをシェアできるというサービスになってます。
実際、うちの社員が社長室に来てくれて相談してくれたことがあって。そういう行動は、嬉しいじゃないですか。でもそうやって率先して行動してくれたことを、シェアする機会がなかなかありませんでした。特にコロナになってからはさらに困難になったと思っています。そこをなんとかするというサービスをやっています。
そのUniposで何ができるのかというと、まさに石原さんがやってらっしゃるような「対話」です。「私たち、こういうことに役立ってたんだ」ということを作ることだと思うんですよね。
田中:一番右側に「事業成長の加速」と書いていますけど、いきなり「とりあえず売上1.5倍だ、がんばるぞ!」って言っても、従業員はお互い何をやっているかわかってなくて、協働の基礎がない状態でやると、だんだん疲れてきちゃうんですよね。そうなると、組織が崩壊することになっちゃう。
それを防ぎながら、協働の基礎を作る前始末をして、だんだん事業を加速させていく。これが遠いように見えて、僕は一番の事業成長の近道なんじゃないかなって思ってます。
実際石原さんもUniposを使っていただいていると思うんですけれども、Uniposをお使いいただいていて、何かよかったなと思うシーンはありましたか?
石原:我々は今「褒める文化を作ろう」ということも新しい風土を作るところに入れているんですね。褒めることは、まず「相手のことを知る」があってこそだと思いますので。
我々は「技術力」と言ってるんですが、アルミを作る技術力はもちろん、やはり「技」と「術」の「術」を持ってる人たち、いわゆる経理や総務、人事のみなさんですね。
田中:技術者だけではないということですね。
石原:ええ。そういう人たちも「術」の部分で賞賛される、賞賛し合う。こんな文化が作られつつあるなと思っています。2021年は社長賞として「UACJグループウェイ賞」なんかも作って、成功したら賞賛するし、挑戦して失敗したら激励しようということで、今取り組みを始めています。
田中:ありがとうございます。時間もなかなか迫ってきたので、少し巻いていこうかなと思います。今後どうやって組織を運営されていくのかというビジョンに関してお話しいただいたんですが、少し御社のパーパスとか理念のお話を最後にさせていただきたいなと思っています。
石原:ここにありますように企業理念、企業の存在価値を定義しました。これはトップダウンとボトムアップと両方で作りました。
田中:どのくらいの期間で制定されたんですか?
石原:もともと2016年ぐらいから始めて、1回作ったんですけど、トップダウンに近かったから浸透しづらかったんです。
田中:やり直したんですね。
石原:やり直しました。ボトムアップで意見を聞きながら作って、みんなが腹落ちする、みんなが「いつも大事にしてることだ」と感じるものにして、今はこの浸透活動をやっています。
田中:なるほど。Unipos社も、実は似たようなパーパスを作りました。この間作ったばかりなので、社員に浸透させるまで本当に時間がかかりそうだなと、今取り組んでいる最中ですね。
石原:我々は理念対話会を通して、私を先頭にしながら、他の役員や各拠点の長も、社員メンバーを集めて対話をしていくことで理念を自分のこととして考えていく活動をしてます。我々の事業は素材の中でも一番リサイクル可能なアルミ製造なので、社員みんなが工場現場で楽しみながらやってくれています。
田中:なるほど。
石原:田中さんは今後どのような組織が生き残っていくというふうに感じてらっしゃいますか?
田中:すごく難しいんですけれども、やはり理念や組織など、なかなか一朝一夕で変わらないものに投資をしていく。先ほどの「前始末をしていく会社」が、生き残っていくと思うんですよね。今までだとどうしてもビジネスモデルが先行して、そのビジネスモデルと外部環境に従っていけば、なんとかなっていた時代もあったと思うんです。
でももっとグローバルになって、もっと困難になっていく時代を考えると、今までは「食えないから後回しにしよう」と言っていたものこそ、実は価値を生むんじゃないかなと思っています。そういったことを大切にできた会社が、生き残っていくんじゃないかなと思います。
今日お話しさせていただいて、本当に僕もまだ1万人の会社を率いるプレッシャーとはいかほどのものか……石原さんは本当にまめに、いろんなことをやられてるんだろうなと思ったんですけど、「大変だな」って思わないんですか?
石原:あんまりまめでもないですけど。大変だと思うことはよくあります。でも大変だなあと思った時には、現場に行くんです。製造現場だけではなく、営業の現場などさまざまな現場へ行って人と話すと、「みんなよくやっているな」と、少しほっとして「自分もがんばろ」と思いますよね。
田中:ありがとうございます。
司会者2:ありがとうございます。視聴者の方からいただいている質問をおうかがいしてもよろしいでしょうか。
田中:はい。どうぞ、お願いします。
司会者2:こちらです。「風土を変えるにあたって、社員に対して特にケアしたことがあれば聞きたいです」と。まず石原さんからお願いできますでしょうか。
石原:私自身の言葉としては「新しい風土を作ろう」と言っているんですね。我々は歴史のある会社でもあるので、先人たちの思いは大切にしながら、その中でこれからを担っていくみなさんが、どういう思いで「新しい風土」を作っていくんだと問いかけているんです。
なのでケアするという意味で言うと、やはり「すべての人に相手目線で語りかけていく」ことだと思うんですよ。そんなことを大事にしながら進めていますね。なかなかできているかどうかはわかりません。
司会者2:1万人規模だとなかなか難しいところもあるかと思います。田中さんはいかがでしょう。
田中:でも本当に風土改革をしている方は「対話」をしているんですよね。地味なんですが、社内放送で1回パッとやったら風土が変わるなんて、そんな便利なことは基本的にはないわけで。何十回とやっていらっしゃるんだろうなと思うくらい、みなさん「対話」をされてるなと思います。
司会者2:1回ではなくて、コツコツ続けていくことが大事なんですね。ありがとうございます。
司会者2:では、ご覧いただいている視聴者のみなさまに、お一方ずつメッセージをお願いします。まずは石原さんからお願いします。
石原:今日はどうもありがとうございました。私自身「乗り越える」をテーマに考えたことはなかなかありませんでした。今の局面をどう乗り越えていくか、それは私自身だけではとてもできない。やはり乗り越える人たち全員で取り組んでいこう、ということで進めてまいりました。
こんな話がみなさまのご参考になれば幸いだと思っております。今日はどうもありがとうございます。
司会者2:ありがとうございます。田中さんお願いします。
田中:先ほど、企業文化や組織や風土は一朝一夕ではできないと申し上げました。でも変えるすべは必ずあると思っています。それはやはり「お互いを知る」ことだと思っていて、その初めの一歩を踏み出せれば、組織は着実に変わっていくものですし、変わった時の果実はものすごく大きいものだと思います。
ぜひ我々もお手伝いさせていただきたいなと思っていますので、よろしくお願いします。ありがとうございます。
司会者2:ありがとうございました。みなさま、大きな拍手をお願いいたします。石原さんと田中さん、貴重なお話をありがとうございました。
(会場拍手)
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