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全員野球の構造改革 組織再生の鍵は心理的安全性だった(全2記事)

世界3位のアルミメーカーが乗り越えた「会社の存亡の危機」 「ビジネス」ではなく「組織」から変えたメリット

さまざまな壁を乗り越えてきた各界のトップランナーによる、人生の特別講義を提供するイベント「Climbers(クライマーズ)2022 春」。本記事では、株式会社UACJ代表取締役社長・石原美幸氏と、Unipos株式会社代表取締役社長CEO・田中弦氏の対談の模様をお届けします。厳しい状況に立たされたアルミニウムメーカーが「構造改革」でV字回復を果たした背景について語られました。

世界第3位のアルミニウムメーカーが行った構造改革

司会者1:続いては、株式会社UACJ代表取締役社長の石原美幸さんと、Unipos株式会社代表取締役社長CEOの田中弦さんです。

司会者2:日本のアルミニウム圧延業界1位・2位の経営統合、激変する外部環境に対応すべく構造改革を断行。業績低下を乗り越えた先に見据えた、より心理的安全性の高い組織づくりの秘訣とは。

(会場拍手)

田中弦氏(以下、田中):はじめまして、Unipos株式会社代表取締役CEOの田中弦です。

石原美幸氏(以下、石原):UACJ代表取締役社長、石原美幸です。

田中:ありがとうございます。今日はまず簡単に私たちの自己紹介からさせていただきたいと思います。まず石原さんからお願いします。

石原:私は株式会社UACJという総合アルミメーカーで社長をしております。当社は飲料缶や自動車、そして薬包という、錠剤の包みの裏の薄いシート。こういったものに用いられるアルミニウムの素材を提供して、みなさまの暮らしを支えている企業です。

私自身は大学で金属塑性加工を学んだ縁もあり、1981年にUACJの前身の1つである住友軽金属に入社をいたしました。当初は設備のエンジニアとしてキャリアをスタートしたのですが、設備を作った工場の運営も担当、組織長である工場長、拠点長である所長などの製造現場を主に経験してきました。そして古河スカイとの統合により誕生したUACJの社長に、2018年就任しました。

多様な職場を経験させてもらったということもあり、かつ上司も「しっかり自分で考えてやってみろ」という方針を持った人たちが多かったので、今の私の考え方であったり、あるいはやり方につながってるんじゃないかなと思っています。

「企業理念」の再定義と、「長期ビジョン」の策定

石原:社長就任は2018年と申しましたが、その後は稼ぐ力の向上、財務体質の改善、経営のスピードアップ、質の向上に取り組みました。併せて、それを達成するための目標として「企業理念」ですね。いわゆる企業の存在価値と言われるものですけれども、これを再定義しました。そして2030年も見据えて、アルミニウムがどんどん世の中で使われることで、軽やかな世界を作る、そういう会社になるという「長期ビジョン」を策定してきました。

田中:ありがとうございます。1万人の会社を率いるというのはどれぐらい重圧があるのか、僕にはなかなか想像できません。今日対談できることをすごく楽しみにしてました、本日はよろしくお願いします。

私、Unipos株式会社・田中弦の自己紹介をさせていただきます。私はもともと新卒でソフトバンクに入って、そこからずっとインターネット産業の会社の経営をやっていました。16年くらい広告代理業をやってたんですが、ある日、「自分の会社の組織がなかなか傷んでるな」というところから、7年前に「Unipos」という従業員同士で感謝の気持ちを贈り合うサービスを思いつき、今はそれを約5年くらいやっています。

そのサービスがまさかUACJさんのような会社さんや、百貨店さんですとか、ありとあらゆる産業で使っていただくようになるとは、本当に想定外でした。まだ弊社は150人くらいの会社ですが、さまざまな産業の組織を支えることができ始めているのは、望外の幸せだなと思ってます。

今日はぜひ、UACJさんの組織の作り方やカルチャーの作り方などもお話をさせていただきたいなと思ってます。

会社の存亡の危機をいかに乗り越えてきたのか

田中:今日は「心理的安全性」を中心にお話をさせていただきたいと思っています。心理的安全性は、今いろいろな会社で注目を集めています。どうしてかというと、昨今は先が見えない世の中になってきたと思っています。その中で必要になってくるのは、やはり社員のアイデアや組織の力で、いかにそれを乗り越えて確実なものにしていくかということです。

その時に、意見をストレートに言えるかという「心理的安全性」が、とても重要だなと思っています。その心理的安全性の話をしながら、今日のイベント全体のテーマである「乗り越える」に関してお話したいなと思ってます。よろしくお願いします。

石原:よろしくお願いします。

田中:さっそく石原さんに質問したいのですが、今日のClimebersの全体のテーマである「乗り越える」を聞いた時に、実際どういうことがパッと頭に思い浮かんできましたか。「こういうこと乗り越えてきたな」というエピソードがあったら、ぜひ教えていただきたいです。

石原:私にとっての「乗り越える」は、会社の存亡の危機をいかに乗り越えるか、ということでしょうか。まだ乗り越える途中でもあるんですが、乗り越えつつあるところを今日はご紹介したいなと思っております。

国際競争力をつけていこうとした矢先の、国内収益力の低下

石原:2018年、私が社長に就任した早々、会社が大変厳しい状況になったんですね。これには外部要因も内部要因もありました。特に外部要因は、中国経済の低迷、あるいは米中の貿易摩擦が悪化傾向にあり、国内の需要にも大きく影響した時期でした。

UACJは当時の日本のアルミニウム圧延会社の1位と2位が一緒になった会社で、世界でも第3位クラスのアルミニウムメーカーだったんです。もともと統合の目的そのものも、しっかりと世界の中でアルミメーカーとして勝ち残っていける企業になるためだったわけです。

そういったこともあって、この状況をどう打開していくかと考えるわけですけども、環境の変化に対して対応の遅れもあって、国内の収益率が低下していったんです。一方で我々UACJが世界で勝ち残るために、日本だけではなくて国際競争力をつけていくということで、米国とタイに大型の設備投資をしていたわけです。

我々のビジネスモデルは、建設から収益が上がってくるまで、5年から長いもので10年ぐらいかかるんですね。日本で利益が出ている間に海外での新規投資の回収を進める計画でしたが、計画より早く日本における収益力が落ちてきたのに対して、でもまだ海外投資の回収はできていない。少しアンバランスな状態が生じてしまいました。

田中:これはものすごいプレッシャーなんじゃないですか?

石原:そうですね。我々自身がグリーンフィールド(まっさらな状態)から建設をしたタイの案件もありましたので、建設もしながら、そこに資金をしっかりと投入していかなきゃいけない状況にあって、財務体質も大変悪化しました。投資家のみなさんからも、非常に厳しいお声を頂戴した背景があります。

構造改革を実行し、統合以来最高益を達成

石原:そういった状況を打開するために、2019年の10月からの3年で「構造改革」をやり遂げようと決めました。その方法として、取締役や役員の数を減らして、経営のスピードと質を向上させることが1つ。あと国内の生産拠点を集約や利益率の高い品種に構成を変えていくこと、そして海外では大型の投資の回収を急いでいくこと。

こんなことをやりながら、一方でこれを短期間でやり遂げるためには、会社の全員が同じ目標に向かってそれぞれの立場でそれぞれの役割を果たすぞという気概をもたないとできません。新しい風土を作るという試みも併せてやっていこうとしたわけですね。

田中:やはり危機が訪れた当初、社内の雰囲気や風土は元気がない印象を持っていたのでしょうか?

石原:そうですね。いわゆる生産の集約というわけですから、拠点の閉鎖だとか、住み慣れた土地を離れていかなきゃいけないとか、そういったケースも出てくるわけです。一方で海外での建設に多くの応援者を出さなければならない状況にあって、全体的に少し重い雰囲気が出てきたかもしれませんね。

田中:なるほど。

石原:現在では「構造改革の完遂」に取り組んでいて、ようやく2021年度に統合以来最高益を上げることができました。これはみんなの喜びにつながってるんじゃないかな、と思います。あと海外の投資だったり、あるいはアルミニウムそのものの需要への対応もスムーズにいきつつありますので、いい回転ができてきてるかなと感じます。

変化を求められた組織は「前始末」をするべき

石原:アルミはリサイクル性がいいこともあって、脱プラスチック社会の追い風もあって海外、特に北米での需要が増えてきています。当社にとっての成長の機会が、今まさに訪れてるのかなと思います。最後の話に出てきますが、ここに「全員野球」の精神で取り組んでいます。

田中:そこがまさに今日のメイントピックです。V字回復したというのも、そのV字の谷の時にどうして乗り越えられたんだというところが、今おっしゃっていただいた「全員野球」になるのかなと思っています。

石原:そうやって会社の存亡の危機の一山は越えられたかなと。今日のテーマにつなげられるんじゃないかなと思いました。田中さんもいろんなご経験をお持ちですし、他社さまの状況も踏まえ、外部環境から強制的な変化を求められた組織がこれを放置してしまうと、どんな影響が生じてくるのでしょう。

田中:今Uniposは600社ぐらいご導入をいただいています。いろんな組織コンディションの会社さんとお話しする機会があるのですが、ビジネスの側面では、熟慮の上で決めることもできるんです、「これをやめよう」とか「これをこうしよう」とか、即断即決しようと思えばすぐ決められると思うんですね。

一方で「組織」は、何十年と積み重なってできています。例えば前例や習慣がずっと積み重ねられてるので、そう変わらないですよね。ビジネスと組織は表裏一体だと思いますが、その表裏一体なものの時間軸にはズレがあるんです。

例えば外部環境も含めてビジネス側だけ何かを変えていくと、組織側はついていけない。じゃあ組織側をどうするんだというと、これには長く時間がかかって、しかも食えないものなので。どう投資したらいいのかというのが、みなさん一番迷われるポイントかなと思っています。

なるべく組織に関しては「前始末」をしておかないといけないと思っています。どうも(ビジネス側を変えてから)後始末ばかりをしていると、いろいろ炎上して火を吹いて、その対処に追われちゃって……となるので。そこはけっこう大変な感じがしますよね。

壊れてから直すのではなく、突然壊れない状況を作っておく

石原:前始末と後始末というお話がありましたけど。私も設備のエンジニアや製造現場を体験する中で、いわゆる「機械が故障する」という局面があるんですね。機械が故障してから直すのを「ブレイクダウンメンテナンス」と言います。壊れたから直すという保全なんですね。

一方、現場でいつも作業してる人たちが日常点検をしたりは、専門保全部隊の点検で「これは壊れそうだ」と判断して計画的に交換したりとか、あるいは壊れないように前から定期的に保全をして、ブレイクダウンしない・突然壊れない状況を作っています。これを「予防保全」「計画保全」と言ったりするんですけど、今のお話はそれと合ってるかもしれませんね。突然壊れてしまうと、その復旧のために膨大な費用と時間がかかりお客様にもご迷惑をお掛けします。

田中:そうですね。組織って、どうしても一番後回しになりがちなんですよね。本当は前にやっておけばやっておくほど後で楽になる類のものかなって思っています。

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