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「人事担当者必見!90分腹落ちセミナー」分析で終わらせないエンゲージメント向上(全3記事)

がんばっても評価されない、属人化して誰にも頼れない… エンゲージメントの低い職場で起こりがちな「問題点」

働き方改革やコロナ渦の影響で、フレックスタイム制やリモートワークを導入する企業が増え、社内コミュニケーションが希薄になりました。加えて、少子化や人材の流動化によって、社員の離職率増加を防止する手立てが求められていることなどから、「エンゲージメント」がより注目を高めつつあります。しかし、社内でエンゲージメント・サーベイを実施した結果、可視化された現状に頭を悩ます人事担当者の方も多いのではないでしょうか。今回の90分腹落ちセミナーでは、「分析で終わらせないエンゲージメント向上」について、具体的なソリューションを解説します。本記事では、社員のエンゲージメントを下げる要因について解説しています。

「分析で終わらせないエンゲージメント向上」を考えるための、3ステップ

小田木朝子氏(以下、小田木):今日のトークライブの全体像を、こんな感じで地図に書いてみました。テーマは「分析で終わらせないエンゲージメント向上」ですが、このテーマについて語るためには、大きく3ステップご用意をしております。

まず、第1ステップです。エンゲージメントが見える化されるというところで、エンゲージメント調査やサーベイがあるんじゃないかなと思います。調査することによって課題が明らかになっているので、手を打たなきゃいけないかもしれない。ここで、よくある問題の背景をいったん整理したいと思います。

(課題が)見える化されたことで、エンゲージメントに影響度の高い項目の低下が顕在化されている背景があるとしたら、どんな要因から生じているのか。ここの問題の景色合わせを、要因分解を第2ステップで進めていきます。

最後の第3ステップが、「どうする、エンゲージメント向上」。組織にとって望ましいエンゲージメント向上、問題解決のヒントはどこに着眼点がありそうかということを話していきます。

沢渡あまね氏(以下、沢渡):三段構成で。

小田木:そうですね。これを90分で終わらせようという、今日もチャレンジをしていきたいなと思っております(笑)。よろしくお願いします。

沢渡:欲張りー(笑)。

「正直、意味がないからやめたい」という声も

小田木:ではまず、第1ステップから。超具体的な質問になりますが、「あなたの会社は、なんらかの従業員サーベイを実施していますか?」。もしよかったらコメントをお願いします。

沢渡:「社員満足度調査」という名称でサーベイを実施している企業もあるかもしれません。

小田木:そうですね。「ストレスチェック」とか、いろんな名前があると思います。みなさん、いかがでしょうか。

沢渡:アンケートみたいなものでなくても「全員対話」とか。(コメントで)「エンゲージメントサーベイとストレスチェックをしています」。健康経営のもとに、両方やってるところもありますね。

小田木:「パルスサーベイ」。

沢渡:パルスサーベイ。なるほど。「正直、意味がないからやめたい」(笑)。

小田木:(笑)。

沢渡:「ストレスチェックのみ」。

小田木:「調査して、ほんでどうするの?」というところが、やっぱり課題感になるんですかね。

沢渡:「会社独自のES調査」、Employee Satisfaction(従業員満足度)ですね。「外部のサーベイを使っています」、外部の専門機関を使って、分析を含めてお願いするパターンもありますね。

小田木:「いろいろあります。多いくらい」というコメントも(笑)。

沢渡:ストレスチェックのみの会社も目立ちますね。「部門独自でのやりがいチェック」、部門の傾向が見えてきたりしますからね。

小田木:ありがとうございます。今日はこの(イベント)テーマに、「分析で終わらせない」というタイトルをつけさせていただきましたので、(参加者の中には)課題感や問題意識を持ってる方が多いんじゃないかなと思います。

調査結果が「可視化」されることで生じる悩み

小田木:今回の企画の背景にあるのは、「調査はするんだけどさ……」というお声だったんです。(スライドに)「人事部門を悩ませるサーベイ問題」と書いてありますが、私たちがどんな悩みをよくお聞きしているのか、どんなニーズをいただいてこの企画を実施するに至ったかをまとめてみました。

だいたいは調査の義務化とか、なんらかのストレスチェックの義務化、もしくは会社として「こういったことをやるぞ」という号令があって、実際に調査をされるんじゃないかなと思います。ただ先ほどのチャットを見て、種類がめちゃくちゃ多いんだなと思いました(笑)。

調査を実施すると、当然ながら結果が可視化されるわけなんですが、この結果を受けてどうするかが課題意識の最たるところなのかなと思います。

沢渡:これが、さっきのアンチパターンになっちゃうといけないわけですよね。(エンゲージメント向上のために)ただ「飲み会だ!」という話になると、「えー……」ってなっちゃうんですね。

小田木:そうですね。もしくは冒頭のコメントでもいただきましたが、調査はするんだけど、「これって使われてるんだっけ?」ということもあるんじゃないかなと。調査を推進する部門さまからよく聞く悩みを分解すると、A、B、C、Dの4つに分かれるかなと思ってます。

調査を実施されているみなさま、調査の結果が見えたあとのお悩みとして該当するものがあれば、A・B・C・Dで教えていただけるとうれしいです。

沢渡:いいですね。複数回答可ですね(笑)。

小田木:複数回答可(笑)。

調査をしたものの、忙しくてなかなか手が打てない……

小田木:まず、Aは「結果情報が多すぎる」。いろんな結果が出てくるのはいいんだけれども、どこに着目して見ればいいのかわからない。自社にとって、どの項目をより重視して見るべきなのかがわからないとか。もしくは、推進部門と経営層や上層部と合意形成がしきれてないんだよね、とか。

Bは、「結果は見えても要因が見えない」。可視化されるので結果はわかるんだけれども、この後ろにどんな問題があるのかが、なかなか見えない。結果に基づく考察や仮説立案が難しい。もしくは、必要なのはわかってるんだけど、忙しいのでそれをやっている時間がない。

沢渡:データは手元にあるけど、みたいな。

小田木:そうそう。Cは、「傾向はわかるが、必要な打ち手を決めきれない」。「ああいう問題があるからだな」と、問題の背景がだいたいわかったとしても、具体的に何から手を打てばいいのかわからない。

沢渡:あるいは「打ち手をことごとく外す」というのも、Cかもしれないですね。

小田木:そうですね。もしくは「この打ち手をやろう」と思った時に、打ち手に対しての組織や現場との合意形成が難しい、とかもありますよね。

沢渡:ありがとうございます。「C」というコメントをいただきました。手は打っているけれども、結果に表れてこないと。

小田木:最後にDは、「結果を現場(マネージャー)と共有するのみになってしまう」。部門ごとに結果も違うし、「すみません、こういう結果が出てますのでよろしくお願いします」と、現場に戻してしまう。

沢渡:あぁ、これは悩ましいですね。「C。課題がはっきりしていても打ち手がなされないまま次のサーベイが始まる」。「サーベイに答えても、結局は改善されないんじゃないか?」と、現場の無力感につながっていくので、サーベイそのものに回答する人たちのエンゲージメントが下がっていくんですよね。

エンゲージメントを「下げている」原因をなくすことも重要

小田木:診断されることによって「体が悪いのかな」と自覚しちゃって、元気がなくなるという感じでしょうか。

沢渡:なるほどね(笑)。確かに、そういう感じもあるかもしれないですね。

小田木:みなさん、オープンにありがとうございます。AからDまで、わりといろんな悩みがありますね。

沢渡:「打ち手の数と継続は従業員の負担になる」、このコメントはすごく大事な着眼点ですね。逆に、打ち手を増やしすぎて社内イベントを増やすと、従業員が疲弊するという話があります。

よく私も話してるんですが、「エンゲージメントを無理やり上げようとせずに、下げているものをなくしていくのも大事」という話をするんですね。

小田木:確かに。「打ち手を打ってます」というポーズをしたいがための打ち手であれば、推進するほうも疲弊しちゃうし、現場だってなかなか本気で取り組もうと思えない。

自分たちの仕事をより進めやすくする、もっと言うと「するべきこと」に集中するためのサポートが受けられるようであれば、また違うかもしれないですよね。視聴者コメントで「改革疲れというやつですね」。

沢渡:「改革疲れ」ね。ありがとうございます。

小田木:いろんな観点を持たれている、エンゲージメントに迫っていきます。まずは、着眼点を絞っていきたいなと思います。先ほどの問題Aでも、「項目が多すぎて、どこによりフォーカスして見ればいいのかが難しい」という話も出ておりました。

さっき沢渡さんが言った、スライドの右側ですね。会社に対してのつながりの強さや愛着、「組織エンゲージメント」と言われる部分。

もう1つは、さらにその半径5メートル範囲で所属しているチーム、仲間、仕事そのものに対してのつながりや愛着という意味の「ワークエンゲージメント」と、大きく二分されると思うんですよね。今日はいったん、左側の「ワークエンゲージメント」にフォーカスしていきたいと思います。

サーベイで「よくある」調査項目の一例

沢渡:今日のサブタイトルには、「ジョブ型雇用」というキーワードも入れています。ジョブ型雇用は、ワークそのものに対する興味・関心・やりがいなどをどう高めていくかにつながるところがあるので、ワークエンゲージメントにフォーカスすることはすごく合理的かなと思います。

小田木:ありがとうございます。じゃあ、この「ワークエンゲージメント」とは、具体的にどんな調査項目によって可視化されるのか。サーベイによって違うんですが、無理やりざっくりイメージを挙げてみました(笑)。あくまで「よくある」なので、完全には合致しないと思うんですが、よくある項目例ですね。

沢渡:みなさんもこれを見ながら、「うちは1番が足りない」「うちは5番は大丈夫」とかがあれば、ぜひコメントしてみてくださいね。

小田木:そうですね。チャットしやすいように、全部ナンバリングしておきました(笑)。

沢渡:さすが(笑)。番号をふると答えやすい。

小田木:みなさんはどこに着眼していますか? もしくは、どの項目に課題感がありますか?

例えば1番であれば、大きくは「やりがい」に影響する項目。「自分の仕事に意味や意義を感じているか」「チームや顧客に対しての貢献実感があるか」「やっている仕事と自身が望むキャリアプランが合致しているか」とか、このへんがやりがいに紐づく項目ですよね。調査によって分類は分かれるかもしれないですが、あくまで一例でご覧ください。

エンゲージメントを左右する「6つの要素」

小田木:沢渡さんはどんな項目に着目されますか? これ、ぜひ聞いてみたいですね。

沢渡:ありがとうございます。私が主宰している、越境学習プログラム『組織変革Lab』の「エンゲージメント2.0」という講義では「エンゲージメントを左右する6つの要素」を解説しています。

耳だけ参加の方もいると思うので、ちゃんとお話しするのでご安心ください。1つ目が「情報が共有されている」こと。例えば、その場にいないと情報が共有されないとか、タバコ部屋で意思決定されるというのは、情報が共有されていない状態を作りますから、その場にいない人のエンゲージメントを下げるわけですね。

2つ目は「権限が与えられている」こと。決裁権限だけではなくて、仕事のやり方を提案して聞いてもらえるとか、意思決定に関与していることも含みます。

3つ目が「環境を選択できる」こと。テレワークでもサボらないし成果を出せるのに、「テレワークはだめ」と言われたら、その人のエンゲージメントが下がる。あるいは、時短勤務の人が、正しく活躍する機会を奪われたり、成果を出す機会を減らされてしまうと思うんですね。環境を選択できる自由度があること(がエンゲージメントを左右します)。

4つ目は小田木さんの2番目とかぶるんですが、「成長実感が得られる」ことや、プロとして正しく成長できること。そして5番目が、「評価・報酬が得られる」こと。小田木さんの図でいくと、4番目の「承認と評価」ですね。

そして6つ目は「社会貢献できている」こと。この会社は社会にどう貢献しているのか、「だから私はこの仕事・この会社に貢献したい」「このプロジェクトに力を発揮したい」と(思えること)。この6つが挙げられるのかなと思います。

「成長実感」が、個人の自己肯定感にもつながる

小田木:ありがとうございます。6つ目の「社会とどうつながっているのか」「自分の仕事が誰のどんな役に立っているのか」といった、まさにつながりであり貢献が、ここ数年ではエンゲージメントに与える影響力がより大きくなってきているという解釈ですかね。

沢渡:そうですね。例えば、会社のサービスやプロジェクトやコンセプトに共感して、「社会に優しいから入社したい」とか。特にBtoB企業などは、利用者との接点が限られたり、社会との接点が見えにくくなってしまって、それにより悪気なくメンバーのエンゲージメントが上がりにくいリアルもあります。

ですから、いかに社会との接点を会社が説明していくか。その仕事やプロジェクトの社会的な意義を、プロジェクトリーダーが説明していくか。あるいは、広報部門が説明できるようなツールを作っていく取り組みもものすごく大事ですね。

小田木:ありがとうございます。今、チャットで「うちの会社はこの5要素だよ」と、自社の事例を書き込んでくださった方もいらっしゃいます。「発揮」「評価・承認」「貢献」「コミュニケーション」「意思決定プロセス」。なるほど。

沢渡:うれしいですね、ありがとうございます。(視聴者コメントで)「個人の側から見た場合、自己効力感・自己有能感が向上するような方策でしょうか?」。

例えば、小田木さんの2の「成長実感」でいくと、自分がプロとして成長できたり、プロとして見てもらえることって、「ここにいれば自分はプロとして成長できる」「支えてもらえる」という、一人ひとりの自己肯定感や成長意欲や、未来に対する心理的安全性、個人の自己効力感・有能感と表裏一体と考えています。

バックオフィス部門の変革が、全社員にも影響をもたらす

小田木:ありがとうございます。1から6のすべてにフォーカスしていますが、人事や総務でこれをカバーしていこうと思うと、「正直人的リソースが足りない」というコメントもいただいてます。さっき沢渡さんにおっしゃっていただいたように、「人事がなんとかすべきテーマである」ということではない捉え方が、打ち手の観点では大事になりそうですよね。

沢渡:そうですね。(エンゲージメント向上は)チームリーダーや部課長の経営課題だと思うんですよね。

小田木:「バックオフィス部門の1、『やりがい』は大きな悩みです」とコメントが来ています。

沢渡:わかる。

小田木:沢渡さんは、バックオフィス部門をめっちゃお手伝いされてますもんね。バックオフィス部門、そしてやりがいについて、沢渡さんはどんなふうに考えていますか。

沢渡:バックオフィスって、全社員の仕事のやり方とか、お取引先との取引スピードやコストを決めます。いわば、その企業の屋台骨ですよね。ですから、バックオフィスのエンゲージメントを正しく上げていったり、意味づけしたり、新しい仕事のやり方にリスキリングして変革させていくことは、ものすごく重要だと思います。

小田木:ありがとうございます。ということで、具体的にどんな項目がエンゲージメントに影響があるか、どこに着眼点があるかを広げてみました。ここから、まずは着眼点をぐっと絞りたいなと思っております。

6つの調査項目から読み解く、共通性のある3つの観点

小田木:(スライドの)上の黒ブロックが、実際の調査項目だったり、沢渡さんに挙げていただいたエンゲージメントの要素です。黒ブロックが表面上の調査項目になっていたり、もしくは可視化されて結果が出てくる項目だった場合、もう一段下には具体的にどういう共通性のあるお題が隠れているのか、今日のセミナーにおいては黄色のブロックで定義してみました。

Aは「キャリア自律」、キャリアの観点ですね。個人が自分のキャリアをどう捉えているか、もしくは個人のキャリアと組織の関係性がどうなっているか。

Bは、「信頼と連携の関係性」。心理的安全性はよく言われますが、安心・安全だけではなく、それが連携というかたちで仕事を進めたり、もしくは問題解決できるような関係性があるかというのが2つ目の観点です。

沢渡:ここはもう、「チームビルディング」「業務プロセス」「コミュニケーション」といったキーワードが関連しそうですね。

小田木:そうですね。まさにコミュニケーション、関係性の部分ですよね。業務プロセスもそのとおりだと思います。仕事の進め方や、仕事のやり方そのものだったりします。最後にCが、「期待と役割の合意形成」。

沢渡:期待と役割。

小田木:要は、自分はどんな期待をされていて、どんな成果を実現するために、どんな役割を担っているのか。もしくは、組織やマネージャーはこのメンバーにどういった期待をして、どんな役割を担ってほしいのか。一方通行ではなくて、共有されて合意がされている状態です。

沢渡:Cって、ジョブ型雇用という話ですよね?

小田木:そういう話だと思います。

沢渡:そのジョブにおいて何が求められているか、それをメンバーとすり合わせして、景色合わせしながらゴールを達成していくわけじゃないですか。まさにここは本質だなと思いました。

「一人ではない」と思える環境が、やりがいにもつながる

小田木:そうですよね。さっきも「やりがい」という項目があったじゃないですか。結局は、どの項目もAともBともCともつながっていると思うんですが、自分のキャリアややりがいを組織に依存しきるんではなくて、きちんと自分で自律して考える。「どうしたいか」という希望を持つところも、前提にあると思います。

あとはやっぱり、バックオフィスであろうが営業部門であろうが開発部門であろうが、仲間との信頼関係があって、連携しながら問題解決できたり、「一人ではない」「一人だけでがんばってるんではない」という関係性もやりがいに影響すると思います。

最後はやっぱり、期待と役割の合意形成ですよね。何が成果か、その中でどんな役割を担うか。自分が納得していて、「そこをがんばればきちんと評価される」というシステムがあるかどうか。これも全部、役割にもつながると思うんですよ。

背景にあるこの3つに着眼しながら、組織のパフォーマンス向上にもつながって、問題解決につながって、結果としてのエンゲージメント向上をどう描いていけるかを考えてきたいというのが、次のパートになります。

沢渡:いいですね。立体的にさまざまな星がつながってきて、宇宙になりつつある。

小田木:そうですね。いろんな項目や着眼点があるので、いったんこの3つに集約してみました。ここまでが第1ステップです。では、なぜこの3つの着眼点が重要なのかを、次のステップで解いていきましょう。

第2ステップは「エンゲージメントを左右する問題を考察しよう」。どんな問題が背景にあるのかをひもといていくパートに進みたいと思います。

長時間労働・ピラミッド型が、かつての「勝ちパターン」だった

小田木:先ほど、「エンゲージメント」という言葉の景色合わせはしました。じゃあ今、なぜエンゲージメントの向上が難しいのか。もう一段詳しく沢渡さんに解説いただきたいと思います。

沢渡:そうですね。繰り返し参加いただいている方は「もういいわ」と思われるかもしれないですが……いつもの図を手短に説明したいと思います。

小田木:そうですね。もう暗記した、という方もいらっしゃるかもしれないです。

沢渡:書籍『バリューサイクル・マネジメント』や、私の講義でも解説していますが、勝ちパターンが変わってきているという話だと思うんですね。

過去50~60年、日本の組織はこの絵の左側の、統制型、ピラミッド型。いわば、同質性の高い人たちが長時間×長期間で、1日8時間以上の残業もいとわない。基本的には新卒の人が定年退職をするまで人材流動せずに、決められたことをこなさせるモデルが「勝ちパターン」だったわけですね。

ところが、これからの時代は右側です。ダイバーシティってそういう話ですよね。異質な人たちが立場や属性を越えてつながって、時に役割ベースでフラットにコミュニケーションをしながら、過去に答えのないテーマに向き合って、成果を出すやり方に変わっていく必要があると。まず、こういう環境の変化があると思うんですね。

そうすると、コミュニケーションの仕方、情報共有の仕方、権限委譲の仕方、マネジメントの仕方、育成学習の仕方、仕事の進め方などなど、勝ちパターンは左側と右側でそれぞれ違うよねという話なんです。

左側のように、石の上にも3年で、長い期間で人間関係を構築して、上の人にかわいがられて初めて1人前になるようなモデルであれば、飲み会やタバコ部屋でリレーションを構築していた。そういう人たちが権限を持っていく中でうまくいっていた部分も多いと思うんですが、エンゲージメントの勝ちパターンも、右側のオープン型に合わせて(アップデートする必要がある)。

もっと言ってしまえば、ハイブリッド型で、1回立ち止まって今までの勝ちパターンを再度試行し直す必要がある。簡単に言えば、こういう話です。

自分のやりたいことがわからない、“キャリア迷子”状態

小田木:ありがとうございます。だから、エンゲージメントもアップデートする必要があるということですね。

沢渡:そうですね。

小田木:では、ピラミッド型からオープン型にシフトしつつある、もしくは事業環境的に組織として「勝ちパターン」をアップデートするために、右にシフトする必要がある場合に、どんな問題が生まれてくるのでしょうか。

沢渡:そうですね。過渡期ですから、いろいろハレーションがあるわけですね。

小田木:そうなんです。左から右に、ピラミッドからオープン型にシフトする段階で生まれやすい問題を(スライドに)ふわふわで書いてみました。実はこれ、縦に分類されてるんです。

例えばキャリアの観点でいくと、こんな問題が顕在化してきませんか? いろいろ環境も変わるので、「自分の仕事や役割になかなか意味が見出せない」とか。

沢渡:“キャリア迷子”みたいなね。

小田木:そうそう。「自分のやりたいことがよくわからなくなってきた」というのも、そのとおりだと思います。「この専門性さえ磨けば、ずっと食っていける」という安心感がなくなったところも影響するんじゃないかと思います。

沢渡:そうですね。

小田木:あとは、「この部署にいて成長できる気がしない」。

沢渡:わかります。

小田木:世の中がこれだけ変わっているわけだから、自分もいろいろ変わっていきたいし、成長していきたいんだけれども、周りの環境は仕事のやり方を変えない気がするとか。顔ぶれも変わらないような気がするし、新しい情報が入ってこないということは、「ここにいたら僕は成長できない」というキャリア観点ですね。

忙しい組織では属人化が進み、困っても誰にも頼れない

沢渡:「部課長忙しすぎ問題」も、これが原因かもしれないですね。

小田木:そうですね。

沢渡:部長も課長も毎日深夜残業で、(それを見ていた部下は)「管理職になりたくない」「この会社で50代までとか、がんばれる気がしない」という話があるじゃないですか。

小田木:「この部署にいて」じゃなくて、「この組織にいて」というキーワードの付け替えがあるかもしれないと。

沢渡:そうですね。

小田木:こういう問題は顕在化しやすかったりします。あと、関係性の観点はいかがでしょうか。こういう状況なので、誰もが忙しいと属人化が進んじゃって、困っても頼れない。お互いの関心が薄いので、チームに自分がいる意味が見出しにくい。

あとは、オープンに言いたいことが言えない。連携する必要があるんだけれども、文化はピラミッドなので、上意下達な温度感の中ではなかなかオープンに言いたいことが言えない。

沢渡:これはコンプライアンスやガバナンスにも関わるんですね。コンプライアンス違反を起こす企業は往々にしてピラミッド組織で、ヒヤリハットが共有されないとか、くだらないことを言ったら忙しいから怒られるとか、自分たちでなんとかしようとして抱えこんでしまって、ある日火を噴く。

小田木:リスクマネジメントという観点でも、この関係性がいかにあるかは、かなり重要な着眼点になりそうですね。

沢渡:組織のリスクマネジメントとエンゲージメントも、表裏一体ではあるなと思います。

がんばっているつもりなのに評価されず、薄れる納得感

小田木:最後に、Cの「合意形成」という点に課題はないでしょうか。例えば、自分的にはがんばってるつもりなのに評価されなくて、その評価にぜんぜん納得感がないとか。

沢渡:ありますね。

小田木:形だけの目標管理に意味が見い出せない。シートは書きますが、上司の期待や目標の根拠がよくわからないとか。

沢渡:腹落ちできない、みたいなね。

小田木:このへんは関係性というよりも、たぶん合意形成の課題かなと思います。視聴者コメントで「耳が痛いことばかり」。私も言っていて耳が痛いです。

沢渡:いよいよこれは、飲み会をやれば解決する問題じゃないってよくわかりますよね。

小田木:そうなんですよ。エンゲージメントをどう上げるかというよりも、そもそもパフォーマンスに関わる課題だと思うんですね。

沢渡:おっしゃるとおり。

小田木:なので、パフォーマンスに関わる本質的な課題解決をした時に、結果としてエンゲージメントも上がるという問題の定義と問題解決の打ち手をどう描いていくかが、今日のテーマなわけなんですよね。

沢渡:そうですね。

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