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ビジネスパーソンのための「レジリエンス」(全2記事)

トップの周りに「イエスマン」しかいない組織が迎える限界 「人の話を聞く」ことで高まる、組織のレジリエンス

「レジリエンス」とは困難から早く立ち直る能力のことを指し、「回復力」「強靱性」といった意味合いを持つ言葉で注目を集めています。組織としてレジリエンスを高めるには、従業員一人ひとりがレジリエンスを高めていく必要があります。そこで今回は日本ポジティブ心理学協会認定レジリエンス・トレーナーの菅原聖也氏に、ストレス耐性を強め自律的に行動し、柔軟な考え方を持って変化に対応する力を持つための具体的な方法をうかがいます。本記事では、一見心が強そうな「ポジティブすぎる人」が注意すべき点について、組織でレジリエンスを高める仕組み作りのポイントについて解説されました。

前回の記事はこちら

ポジティブ過ぎると、失敗に気づけないことも

ーーネガティブ思考の人でもレジリエンスは育めるというお話でしたが、菅原さんのブログの中で、逆に「ポジティブに捉えすぎてもいけない」と書かれていました。ポジティブすぎるというのは、具体的にどういう状態なのか教えてください。

菅原聖也氏(以下、菅原):まず、ネガティブ思考の人が決して悪いわけではありません。私もビビることが多くて(笑)。私はITエンジニアでもあるんですが、新しいお客さんのところに訪問する時に、「自分の知らないことを質問されたらどうしよう」とか思ったりする人間でもあるんです。

ただ、ネガティブだからこそ、ある意味慎重な人間だからこそ、「なるべく準備をして挑もう」といった行動が取れるんです。最終的に「自分がやりたいこと」ができるような行動を選べればいいのかなと思っています。

逆にポジティブが強い人は、そういったことに気づきづらいんです。「準備しなくても自分なら大丈夫」と思って行って、それでうまくいくこともあると思うんですが、うまくいかない時もありますよね。

その時に「ああ、失敗したな」と反省して次に挑めればまだしも、うまくいかなかったことにすら気づかないで、それが繰り返されると、周りからの信頼が得られなくなってしまう。「あの人に頼んでも、なんか変なこと言うんだよな」「あの人に頼むのやめよう」となってしまう可能性もあります。

レジリエンスを高めるための「人の話を聞く」重要性

菅原:ポジティブすぎる人のほうが逆に気づきづらいので、やはり周りの意見をなるべく聞くことは1つ、大事なことかなと思います。周りから指摘されたり、否定的なことを言われたりした時に、ポジティブさではね返すのではなく、自分と考え方が違うと思っても、いったん「そういう考えもあるんだ」と受け止めて、考えるんです。

「自分の成長に活かせることは何か」と考えられるようになってくると、ポジティブさと自分の成長をうまく組み合わせていけるのかなと思うんです。でも周りの言葉を弾いちゃうと、厳しいかもしれないというのが正直なところです。

ーー周りに言ってもらうことって、すごく大事ですよね。たまに企業や団体の偉い人が問題発言をして炎上してしまうケースがありますが、その時によく出てくるコメントで、「周りに『イエスマン』しかいなかったのでは?」「指摘できる人がいないんじゃないの?」というのがありますよね。

それもおそらく今のお話のように、ポジティブゆえの「気づきにくさ」を助長しているんじゃないかと思いました。アドバイスを言ってくれる人がいるって、すごくありがたいことですよね。

菅原:今のお話は、とても大事だと思っています。基本的に人は「自分の考え」で物事を見てしまうので、そこから逃れるのはなかなか難しいんですね。

レジリエンスのプログラムでは、「自分の考えと違う視点からものを考える」という、考え方をより多角的に、柔軟にする(トレーニング)をするんです。それを個人でするのであれば、やはり「人の意見を聞く」ことですよね。

自分とは違う視点を持ってる人に話を聞く。自分の考えを1回手放して、違う意見や他の人の言葉を好奇心を持って求める。「そういう考えもあるのか」「そういうパターンもあるのか」と思っていただけると、考え方が柔軟になって、自分のレジリエンスが高まっていきます。

それはネガティブ思考の人もポジティブ思考の人も同じです。多角的にものを見ることが、個人のレジリエンスでは大事です。

トップの周りに「イエスマン」しかいない組織の限界

菅原:もう1つ(今の話と関連することで)、「組織のレジリエンス」という話があります。私も先日「個人のレジリエンスと組織のレジリエンスについて書いてほしい」と言われて寄稿しました。

組織のレジリエンスについてはまだ決まった定義がなく、人によってさまざまな言われ方をしていますが、環境の変化や時代の変化に適応して企業が存続する、あるいは成長していくというのが1つ、企業組織のレジリエンス(の考え方)になります。

確かに社員一人ひとりのレジリエンスが高いことは大事です。でも、みんなが同じような考え方をしていると、適応ってなかなか難しいんですね。やはり個人個人が持っている多様性、いろんな「ものの見方」によって意見をぶつけ合って、その中からいい選択をして企業戦略を立てていく。それが最終的に組織のレジリエンスとして大事かなと、そういうことを寄稿記事で書かせていただきました。

まさに先ほどの話のとおりで、社長の周りがイエスマンばかりだと、社長の限界を超えない組織になってしまうんですね。

ーー確かに。

菅原:もう今の時代、社長の1人の力でどうにかなる時代でもなくなってきている。いろんな意見を求めて、その中で会社を運営していく。そういったものがまさに組織のレジリエンスという意味では、すごく大事になってくると思います。

最終的に決定するのはトップだとは思うんですが、せっかく会社という人がいっぱいいる組織を運営しているのであれば、知恵とか知識とか、いろんなものを持っている「人」をうまく活かしていくことが大事になると思います。

人の成長に大事な「好奇心」

ーー人の意見を聞くために「好奇心を持つ」とおっしゃいましたが、レジリエンスの文脈の中で好奇心のお話はされるんですか?

菅原:しなやかマインドセットだと「批判から真摯に学ぶ」とか、「他人の成功から学びや気づきを得る」というところになってくるんですけども、やはり人間って、いくらがんばって勉強しても、知らないことがいっぱいあるんですよね。

私は今47歳ですけど、まだまだひよっこだなと思ってます。100歳まで働きたいと思っているんですけど、その年齢になったとしても、若い人や周りの人から学ぶことが常にあると思っていて。

それって「好奇心」が必要ですよね。知らないことを知ることがすごく楽しいとか、自分が間違えていたって、「違ったんだ」「そういう考えもあるんだ」と学び直すことができる。(レジリエンスより)マインドセットの文脈が近いかもしれないですけども、好奇心を持っていることは、人の成長に大事なのかなと思いますね。

逆に「自分は強い人間だ」と思いすぎてしまうと、人の意見が自分と違った時に、好奇心を持てずに拒否してしまうことになります。

「謙虚」という言葉に近いのかもしれないです。「自分は完璧ではない」と謙虚でいつつ、他の人の良いところとか、他の人から学べるところをどんどん学んで、成長していければいいのかなと思います。

ーーありがとうございます。

エンジニアが、マネージャーになった途端に心を病んでしまう理由

ーー今までのお話で「人に頼れる人もレジリエンスが高いと言える」「人の話を聞くことが大事」とありました。レジリエンスを高めようとしたり、しなやかマインドセットでいたいと心掛けていても、やはり1人では乗り越えられない壁のようなものがあるのではないかと感じます。

例えば、どのようなタイミングで人に頼るべきなのかとか、そういったアドバイスや具体例があれば教えていただけますか?

菅原:前半でお話ししましたが、なんでもかんでも誰かに頼ることが良いわけでもなくて、自分で努力して、できることを広げていくことも大事です。ただ、自分1人でぜんぶやろうとすることで、逆に周りに迷惑をかけることもありますし、自分自身を追い込んでしまう部分もあると思うんです。

例えば、私は農家修行以外の期間は、基本IT業界で働いているんです。IT業界歴も長いんですが、そこでよくあるのが、エンジニアとしての仕事が評価されて、プロジェクトリーダーとかプロジェクトマネージャーになった直後に、心を病んでしまって会社に来なくなってしまう人がいるんです。

エンジニアは、自分に任された仕事をきっちりやって、それが評価される仕事です。そのスタンスで今まで来た人は、リーダーになって「自分でどうにもならないこと」が出てくる(ので困ってしまうんです)。

考え方が違うお客さんとか、お客さんと会社の関係がうまくいっていないとか。それってその人1人でどうにかできるかというと、そうとも限らないですよね。あとは大きなプロジェクトであれば、経営層とか上司とか、いろいろとチェックされていくので。

自分でなんとかしようとしているのにできない、なんとかできない自分を見ることがつらいと感じて、心を病んでしまうんです。

「人に助けを求められる」のもリーダーに必要なスキル

菅原:そういった時に、「人に助けを求められる」ことが重要になります。お客さんとうまくいかないのであれば、営業担当者や自分の上司に「どうやればうまくいくか?」と相談するとか。

自分でなんとかしようと思ってずっと悶々としていると、どんどんプロジェクトが炎上していくので。「助けを求める」って大事ですね。

ーープロジェクトリーダーを任せてもらったという責任感で、逆に相談しづらくなったり、周りに頼りづらくなってしまうところもありますよね。

菅原:そうですね。「せっかく任されたからには良いところを見せたい」じゃないですけど、そのがんばりたい気持ちは大事なので、がんばり方をうまく工夫できるといいですね。

その時の状況にもよるので、「どのタイミングで助けを求めればいいか」という正解はないです。人に助けを求めるのが苦手な人は、あえて求めてみるとか、ふだんと違うことをやってみて、結果を見ながら自分のバランスの良いところを見つけるしかないのかなと思います。

正直、なかなかアドバイスするのも難しいんですけど、「ちょっと『助けて』って言ってみよう」とか思えるようになるといいですね。

社員のしなやかマインドセットを育む「チャレンジできる場」

菅原:あと1つ参考になるかなと思ったのは、先輩にプロジェクトリーダーとかマネージャーをしていた人がいたら、助けを求める相談の前に、「こういう時はどうしていました?」とか聞いてみるのがいいかもしれないです。他の人たちはどうやってるのか参考に聞いておくというのは、「助けて」を言う1歩手前でできることなのかなと思いました。

ーー確かに、最初から「助けて」と言うのは難しいかも知れないですけど、事前に聞いておくという頼り方ならできそうな気がします。逆に自分ではなく、職場で周りの人が「硬直マインドセットになってるな」と感じた時、こちらから働きかけることはできるのでしょうか?

菅原:これはなかなか難しいですね。本当は上司やマネージャーがやれると一番良いのかなと思うんですけども、やはり成長を促す、チャレンジをさせてあげる場を作ってあげることです。

とにかくその人がこれまでやったことないこととか、やったことない立場とかをやらせてみて、そこで「うまくいかなかったら相談してくれればいいから」と声をかける。

当然本人にがんばってもらわなきゃいけないんですけども、うまくいかなかった時に救ってあげられるような状態で任せてみるといいのかなと。少しずつ経験を増やす感じでやらせていくと、少しずつしなやかマインドセットになって、だんだん自信もついてきます。

「チャレンジしてうまくいった」という経験が、しなやかマインドセットに影響するところもあるので、そういった関わり方をすると良いと思います。

在宅勤務こそ、相談しやすい接し方が大事

菅原:あと、最近私も気をつけているところがありまして。うちの会社はIT企業なんですけど、チームによっては2年以上ずっと在宅勤務の状態になっているんですね。その中でも去年、一昨年の新卒社員は、入社してからずっと在宅勤務をしてる状態なんです。

(同じチームの社員と)直接会ったことがないという状況でもありますし、「ちょっとわかんないんです」と言うにしてもSlackとかZoomになるので、言ってくれないと他の人は気づけないんですけども、人によっては遠慮しちゃうところはあるんだろうと思うんです。

私も一緒に仕事してる時はこっちから声かけするようにしていますけど、コロナ禍ならではの状況では、上司や先輩から「今困ってないかな?」って聞いてあげるような接し方を意識してあげるといいのかなと思いますね。

ーー人にもよりますけど、私は「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」の中で「相談」が一番難しいなと感じていますね(笑)。

菅原:そうですね。同じ職場にいればまだしも、みんなが自宅で働いている状態となるとより難しいですよね。

「何かあったら聞いてもらっていいから」と言っても、ためらってしまう人もいると思います。特に在宅勤務とかされてる人は気をつけていただくといいのかなと思います。

組織としてレジリエンスを高める「仕組み」を作るには

ーーありがとうございます。先ほど少し「個人のレジリエンス」と「組織のレジリエンス」の話がありましたが、社員一人ひとりがレジリエンスを高めることで、組織のレジリエンスも高まると考えています。

一方で、今までのお話のように、個人でどうにかできない問題もたくさんあるわけですよね。その時に「私のレジリエンスが低いから」と個人の責任で終わらせるのではなく、組織としてレジリエンスを高める「仕組み」が作れるといいのかなと思っています。

最後に、数多くの企業を見てきた菅原さんから見て、一人ひとりのレジリエンスを高める仕組みの作り方だったり、まず自分からできる工夫など、何かアドバイスがあればぜひ教えていただきたいです。いかがですか?

菅原:はい。企業さんにお伝えする時に、「まず個人のレジリエンスを高めましょう」というのは、ボリュームもあるので難しいんですね。

それから、新卒とか2年目の人にレジリエンスを教えても、結果的に「この会社より他がいいや」っていなくなっちゃうこともあって(笑)。結局、上の人の理解がない状態で若い人からやるのは良くないんです。まずは上の人が理解してることが大事なんですね。

「心理的安全性」から始めるアプローチ

菅原:もうちょっと違ったアプローチでいくと、今「心理的安全性」が話題になっていると思います。私はレジリエンスを伝える時に、心理的安全性からお伝えするのも良いのかなと思ってまして。研修の時はそういう話もさせていただいているんですけども。

「心理的安全性が高い」というのは、率直に意見が言える環境のことですね。何か意見を言っても、すぐに否定されたり「そんなこと今聞くなよ」と拒否されるようなことを言われないで、しっかり話を聞いてもらえる。

よく言われますが、心理的安全性は「ぬるい」という意味ではないです。当然、意見のぶつかり合いはあるんです。でも、そういうふうに若い人でも自分の意見が言える環境を作っていくことが1つ、ある意味「チャレンジする」というところに結びついていくと思うんです。

(レジリエンスを高めるには、まず)心理的安全性を高めていくことが、1つのアプローチとして良いのかなと思ってます。

心理的安全性は、1つの同じ組織の中でも、もう少し小さいチーム単位でも違ったりすると言われています。逆に言うと自分のチームの心理的安全性を高めることから始められる部分もあります。

そういった視点をちょっと取り入れていただいて、(自分の周りの心理的安全性)を作っていくことが、一人ひとりのレジリエンスを高めるとか、チャレンジ精神を高めることにつながってくると思います。

一番大事なのは「多様な意見を受け入れられる」組織作り

菅原:組織のレジリエンスの話で出てきた「多様な意見を受け入れられる」というのは、心理的安全性の特徴の1つでもあるので、そういった意味でも大事かなと思います。

ーー確かに、「人の話を聞く」という点は共通していますね。

菅原:そうですね。心理的安全性もいろいろとアプローチがあると思うんですけども、やはり大切なのは、まず話を丁寧に聞くこと。部下が「自分はこう思うんだけど」と話している途中で遮って、自分の意見を言う上司の方もいますけど。そうすると、部下の人は意見が言えなくなってくるんですよね。

それって、本人のチャレンジするしなやかなマインドを下げてしまいますし、実はおもしろい意見を持ってる可能性が高いと思うんですね。

だから、最初から否定するのではなく、自分が思ってることはいったん脇に置いて、部下であれば部下の話を聞いて、理解を示してあげる。その上で自分の意見が違うのであれば、「こういう意見もあるけど」って、もうちょっと建設的な会話をしていくことが大切です。心理的安全性では、ある意味これが一番大事ですよね。

それができていたら、だいぶ心理的安全性は高まっているんじゃないかなと思うんです。そういった関わりが、役職とか上司部下、先輩後輩関係なくできるようになることが、(組織の仕組みとしての)第1歩かなと思います。

ーーありがとうございます。今回「レジリエンス」のテーマでお話をおうかがいしましたが、「多様性」や「心理的安全性」といった、最近よく聞くキーワードがはこういった形で関わり合っているんだと改めて認識することができました。まずは「人の話を聞く」ことからはじめていきたいと思います。菅原さん、改めて本日はありがとうございました。

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