2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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田久保:みなさんから大変多くのご質問をいただいているので、そちらを中心にお話をおうかがいしたいと思います。1つおもしろいのは、「そうは言っても出る杭は打たれちゃう組織があって、没個性化しないとヤバいですよね。何かヒントはありますか」と。
酒井:いいですね。「出る杭は打たれる」というのは、そもそも順位性という組織のスタイルの中では常識です。猿の群れでも鶏の群れでも、出る杭は打たれます。鶏ってそもそも順位がはっきりとしていて、例えば朝にコケコッコーと鳴く順位が決まっているんですね。その順位を間違えると、上位の鶏からめちゃくちゃ攻撃されます。出る杭打たれるんですよ。
田久保:そうなんですね。
酒井:ポイントは、出る杭が打たれない社会を作るのではなく、出る杭は打たれると理解した上で、どうすればいいんだっけという、そちらのほうを考えないと、組織自体がおかしくなるとはっきりわかるので。このまま話していると時間が足りないので、ぜひ立ち読みでもいいので、本の「出る杭」のところを読んでもらいたいなと思います。
『リーダーシップ進化論―人類誕生以前からAI時代まで』(中央経済社)
出る杭が打たれるのは、人間社会限定のことじゃないからおもしろいんです。人間以前の他の生物にも見られる、けっこう強力な特徴なので、その特徴そのものを変えるのは、おそらく無理だろうと。この諦めが必要です。
酒井:じゃあ、出る杭が打たれやすい鶏の群れと、出る杭が打たれにくい鶏の群れの違いはなんだろうとか、そもそも出る杭を打つというインセンティブがどうできているんだっけとか、そのインセンティブは阻害するためにはどうすればいいんだっけと考えないといけないし、その考える力で自己組織化(誰の意思にもよらず、特定の秩序構造が自発的に、勝手に生まれてしまうこと)に抗うことができるのは、人間だけの特権なので。
だから本能とかどうしようもないことに対して絶望するのではなくて、川の流れのルートを変えることができる「特権」を人間は持っている。それをどう考えて実現していくんだっけという、その楽しみが我々に与えられているので、ぜひ本当に経営学を勉強してもらいたいなというのは思いました。
田久保:ありがとうございます。さきほど「起業家が周りにいれば起業できるような気分になってくるよね」という話もありましたけれども、やはり周りにいらっしゃる方がどういう方なのか、自分がどういうコミュニティにいるのか、どういうネットワークがあるのか、つまりどういう「群れのルール」の中に自分がいるのかによって、自分ができることの幅とか種類とかが大きく変わりそうな気がしますよね。
酒井:本当に大きく変わります。ビジネススクールもそうですけど、一番重要なのは同級生の存在なんですよね。それが本当に一生の宝になるので、こうありたいという人たちの中に入っていくことが、自分自身を成長させる一番有効な方法だと思います。
何だかわからなかったら、休みに図書館に行ってください。勉強している受験生の横に座るだけで、勉強できますから(笑)。
田久保:そうですよね。やんなきゃやばいと思いますもんね。
酒井:そうです(笑)。
酒井:悪目立ちしたくないというのは本能だから、資格の勉強が進まないなと思ったら図書館に行きましょう。若い受験生が勉強しているところにいると、めちゃくちゃはかどります。
田久保:グロービスの東京校の近くに河合塾がありまして......。
酒井:(笑)。
田久保:医学部特進コースがあって、ガラス張りのところで勉強しているんですよね。あれを見るだけで、「なんかやらなきゃな」という気分になります。
酒井:わかります。高い目標を持っている受験生って、やっぱり1日14~15時間くらいは平気で勉強するんですよね。それで10時間労働がブラック労働という。わかるんだけど、本当にそうだっけ? という。
もちろん体調崩すほど働いちゃいけないと思うし、さっき申し上げたとおり「働く」ということは、ある意味家族とか親友に比べてずっと価値の低いことだから、そこで命を落とすのはいろいろ本末転倒なわけです。ただ、疑って考える必要があるんじゃないですかということですよね。
結局「どうすれば勉強するようになりますか?」という質問があると思うんですけど、親が本を読んでいたり親が勉強していると、子どもも勉強するようになりますよね。休みたい、自分がずっと勉強する姿を14時間も見せられないなら、子どもに「図書館行って来い」と(笑)。まずはそういう集団に入れちゃうことです。
田久保:北欧だったと思うんですけど、「子どもは親が言うようにはしないが、子どもは親がしているようにする」という諺があるらしいんですよね。まさにそういう感じだと思います。
酒井:ああ、わかる。
田久保:酒井さんがお話の中で「すべての群れのルールが悪いわけではなく、いい群れのルールもあるんだよね」とおっしゃっていたのは、まさにそういうことですよね。
酒井:そうですね。自分の中で「群れのルール」を理解すると、初めて観察ができるようになります。「理論を理解していないと観察さえできない」というのはアインシュタインが言った言葉ですけれども、理論を理解することによって、はじめて我々は観察ができます。
自分がやっていることは群れのルールに従っているだけなのか、それともそうじゃないのか。群れのルールに従っているとするなら、ルールの向かう方向は正しいのか。自分が望んでいる志の方向なのかというのは、観察して上手に利用してほしいですね。
田久保:ありがとうございます。それからこれもグロービスのことも含めたコメントだと思うんですけど、「リーダーを育てるためには、高等教育機関も大事だと思うんですけれども、日本の大学に対してどんな見解をお持ちでいらっしゃいますか」。
大学なり高等教育機関のようなところを、酒井さんはどんなふうに評価されていらっしゃいますか?
酒井:僕は実は、高齢化社会に対してものすごい希望を持っています。心理学的に言うと「脱中心化」と言うんですけど、我々は子どもの時は自分が世界の中心で、自分はうまくいくと妄想しています。
だけど、だんだん人生経験が増えてくると、「あれ? 新入社員の時、俺は『社長になってやる』と思っていたのに、どうやら社長にはなれないぞ」とか(笑)、うまくいかないことが増えてくる中で、自分は世界の中心ではなく周辺だと感じるようになっていきます。
もっと脱中心化が進むと、いわゆる自分なんていてもいなくても社会は変わらないし、自分はつまらない存在だなということを、はっきり自覚する。つまり、自分に強みや弱みなんてないという。ちょっと俯瞰して見てください。鰯の群れで特定の鰯が「俺の強みは!」とかって言っているとおかしいでしょ。そんなものないんですよ。
私たちは社会を構成する生物の1つの粒で、私1人の力で何かが変わったりはしないと自覚すると、初めて世界を観察できるようになるんです。自分がつまらないから、自己診断とかいっぱいやって「俺の強み」とか言っていると、すごい虚しいわけです(笑)。
そうじゃなくて、社会にはすごい人がいて、社会にはすごいことがあって、こんな素晴らしいこともあるし、こんなひどいこともあるということが、はっきりと見えるようになるというのが脱中心化の作用なんですね。
酒井:自分のことしか考えられなかった人が、「自分はダメだ」と自覚することによって、初めてこの社会、宇宙を勉強するというインセンティブが働く。こんなに美しいこの社会の奇跡だということが感じられる状態に移行するための「脱中心化」があるんだと。そういうことを理解して、自分の脱中心化の度合いがどれくらい進んでいるのか考えたりする。
それによってリーダーシップが(変わってきます)。「俺を金持ちにしてくれ」というリーダーには誰もついていきたくないわけです。脱中心化が進んでいくと、自分はそんなにできないし、リーダーの資格なんかもないと思うけど、こういうことは良くないと思うし、こういうペインとは絶対に戦いたいというような話をしてもらえると、それに共感することができるようになったりすると。
本当の自分を発見するのではなく、「自分なんて別にない」というところを(笑)、いかにつまらない存在かと、はっきり打ちのめされることが重要だと思います。
酒井:ただ、それでおしまいなのかと言うとそんなことなくて、我々はいつか「あなたの余命は3ヶ月です」と言われるような時が来ます。みんな等しく死ぬ。そこで「余命3ヶ月ですよ」と言われたら、世界が美しく見えるんですよ。たった1時間が、とてももったいない、尊いものに見えます。
以前、本を書いた時に、たくさんの方の癌の闘病記を読んだんですけれども、だいたい共通しているのは「なんて素晴らしい世界なんだ」ということ。それは自分が死ぬということをはっきりと自覚したあと、そのあとに起こっているところが注目点だなと思っていて。
「余命3ヶ月ですよ」と言われてから、自分らしい人生を生きるのではなく、逆説的なんですけど、ずっと前から抱いていた「自分らしく生きるためにはどうすればいいのか」という自分への興味を失うんです。そして、世界への興味だけになっていく。
もちろん、自分への興味を失ったと言っていても、やはり自分が癌になったらきっと私も「死にたくない!」と叫ぶと思います(笑)。自分の価値を自分なりに考えているので。だけど、そっち(世界への興味)に近づけていくことが、きっと多くのリーダーシップを育てるんだろうなと。
仏教的な言葉で「無私」と言います。私を無くすということです。無私のトレーニングが、リーダーシップのトレーニングでは必要だろうなと思います。座学も必要だし、いろんな体験も必要だし、そしてリフレクションですね。振り返ることをちゃんとしないと、やっぱり自己組織化は強烈な流れなので、あっという間に流されちゃうんですよね。
しかもそこにマーケティングが入ってくると、「うわー、新作のロレックス格好いい。欲しい!」と思っちゃうんですよ。人間だからね(笑)。
酒井:一応もう1つだけ追加していくと、真っ直ぐゴールに向かって一歩一歩進まずに、どうしてもフラフラしてしまうからこそ、我々は人生がわかると言っている哲学者もいますね。そこに無駄はないという。
田久保:今のお話は本当にそのとおりだなと思うんですけど、そこのトレーニングを大学でやるのは、ちょっと難しいかもしれません。
酒井:(笑)。
田久保:一方で、大学の中で議論を重ねることによって、とある分野で突き抜けたすごい人を見たり、自分は意外といけると思っていたけど、とてつもなくできる人がいることを知るとか、そういう自分の相対的なポジショニングを知る中で、自分ではなく外に目が向いていくプロセスが多少現実化できることもあるかなと思っています。
酒井:おっしゃるとおりですね。それはまずいいことなんです。つまり、その次何が起こるかというと、キラキラした目で「いや、すげぇ!」「これはすごいよね!」という話がはっきりわかるようになるじゃないですか。ライバルとかじゃない。
例えば、大谷翔平を見て、「何だ、あいつ」と思うのは馬鹿げていますよね。「すごい!」と思うこと、それを称賛することに、何の問題があるんですか? 世界中でいろんな物事に対して「すごい、すごい」と考えるようになると、この世界の素晴らしさもわかるし、同時にだいたいそこで人は止まらないので、いろんな方向で知恵が付いてくるんです。
僕はプリンスが大好きなんです。プリンスが大好きだという時に、プリンスのコピーのギターを買って、一生懸命練習しますよね。ただプリンスに対抗しようとかは思いません。別にすごいギタリストに憧れたとしても失われるものはないし、音楽に対する理解が深まるだけです。それはいいことだと思うんです。
田久保:自分と比較をして、自分のほうが優れた状態でありたいという感情がなくなった時に、さっき酒井さんがおっしゃられていたような、余命3ヶ月の人たちにちょっとだけ近づいた。そして何かいい時間が過ごせるという、そんなイメージですね。
酒井:ビジネススクールに対するアドバイスがありまして。先ほどの「脱中心化」というのは、もちろん年齢によらないんですが、やはり年齢が上がってくると脱中心化が進むんです。
恐らくグロービスに入られる方の多くが、リアリティショックを受けて入ってきます。つまり、自分はこのままでは駄目だと。夢に思っていた社長にもならないし、金持ちにもならない。30代後半くらいに、そのリアルをリアリティショックとして受けるわけですね。
それを何とかしたいともがく中で、ビジネススクールという光が見えるんだと思うんですけど、ビジネススクールにも高齢者の方をもっと入れてほしいんです。
つまり余命3ヶ月でも、何かを学んでいるような人です。みなさん高齢化社会に対して、すごく悲惨な話が多いと思っていると思うんですけど、実はすごいリーダーシップが発揮されやすい社会だと思うんですよ。
若い人だけで構成された社会は、何とか人を押しのけて、自分が群れのリーダーになろうという社会になりがちなんです。それに対して高齢者が集まる社会は「もう自分は駄目だから(笑)」と言って、もちろん考え方ややり方はいろいろあって、それだけじゃない悪い面もありますけども、いい面としてリーダーシップを発露しやすいんです。
自分らしく生きたいと思う人がとても多くなる社会だと思うんですが、すごく希望があってめちゃくちゃ経営学を愛している高齢者の方もいっぱいいる。だからある意味、(高齢者がビジネススクールに入ると)いい意味での「手段の目的化」になるんです。
田久保:なるほど。
酒井:学ぶこと自体が目的になることが、きっと大事なことだろうと思っています。
田久保:ありがとうございます。もう1問だけ質問をさせていただいて、最後にみなさんにメッセージをいただければと思っております。
酒井:はい。よろしくお願いします。
田久保:私から最後の質問です。リーダーシップの歴史の進化を辿っていった先に、「ソーシャルビッグクランチというのが来るんだ」という話がありました。
酒井:はい(笑)。
田久保:これはシンギュラリティと似て非なるものなんだけど、うーんというところで、いったんお話が終わったんですけれども。最後にこれはどんなイメージのことなのか、みなさんに短めにお伝えいただけますでしょうか。
酒井:短く(笑)。もしも地球に宇宙人が来ていたとします。僕がソーシャルビッグクランチという概念を理解していない時は、その時はきっと操縦席があるところに、宇宙人、別の生命体が乗っているんだろうと思っていました。
そうじゃないんですね。代謝という面倒くさい行動をする生命体を、宇宙船の中に入れて、何光年も飛ぶのは無理です。そうじゃなくて、(宇宙船には)すでに人間じゃないもの、人工生命が乗っているはずなんです。だから操縦席はないんですよ。
何が言いたいかというと、人間はここしばらくの20万年くらいの間で、生態系のトップに立ちました。だけど今生まれようとしているのは、人間の認知能力を遥かに上回る、認知機能を持ったコンピューティングパワーです。しかも等比級数的に能力を高めながらやってきています。
人間は、人間を遥かに凌駕する人工生命を生んでいるんですね。将来的には、人間が生態系の第2位になります。生態系の1位が人工生命になる未来に向かっているんです。これはこの宇宙の歴史の中で別の知的生命体が生まれたとしても、同じことが起こっているはずです。
どこの星でも、知的生命体が生まれると必ずコンピューターを生みます。コンピューターの進化の速度は、生物としての知的生命体の進化の速度を遥かに上回っているので必ず逆転します。時間の問題です。
酒井:その時、我々は生態系の2位にあるものとして、人工生命と上手に共存できるのか。我々は残念なことに、種が違うと非常に残酷なことを平気でします。宇宙人が地球に来た時に、もしそれが生命体だった場合、友好な関係が築けるはずはありません。別の生物と我々が友好な関係を築けたことはないんですよ。
だからそれを凌駕しないといけない。つまり地球全体に対して、生きることはすごいことだという「種を超えたリスペクト」ができないと、我々は自分たちが生み出す人工生命によって滅ぼされてしまいます。……すいません(笑)。長くなっちゃいました。
田久保:いやいや。なるほど。
酒井:こう思いますという意見です。だからこれはエンタメなんです。それに対して十分なエビデンスがあるかと言われたら、あるわけないじゃないですか(笑)。私はこう見えて理学部卒業なので、エビデンスにはうるさいんです(笑)。
田久保:ありがとうございます。今日は700人近い方が聞いてくださっていらっしゃいますけれども、酒井さんから最後に熱いメッセージを一言お願いできればと思います。
酒井:短いほうが難しいんですけど(笑)。またちょっと変な話をします。私は「死ぬ」ということがすごく怖くて、今も怖いです。だけどちょっとだけ気が楽になったことがあります。死ぬという出来事は、みんな自分の未来にあると思っているじゃないですか。
酒井:でもよく考えて見てください。宇宙の歴史は138億年あって、「138億年死んでたんだ」って気付いたんです。つまり生まれる前は生きていない。死ぬというのは生きていないということであるならば、死というのは未来だけじゃなくて、過去にもあるんです。
この138億年という圧倒的な時間の中で、我々は長くて100年程度しか生きません。その時間軸で考えると、何という奇跡だろうと。今、この瞬間だけ意識というものを持って、エビデンスのない変な話もしますけれども、こうやって交流することができるんです。
この奇跡をきちんと深いところで理解して、「本当にこういう時間の使い方でいいんだろうか」と疑う必要があると思うんです。それがクリティカルシンキングだと思います。
クリティカルシンキングを「どうしてうちの事業はうまくいかないんだろう」というところに使ってもらってもいいんですけど、それだけじゃなくて、今の自分の在り方で本当にいいのかということを、クリティカルシンキングする必要があると強く思っています。
多くの人の人生は、たった1回のフラッシュなんです。本当に瞬きのような一瞬なんですけど、生物というのはこれを138億年も途切れることなく紡いできたんです。我々はその中の小さいフラッシュの1つに過ぎないからこそ、この奇跡を楽しむべきじゃないか。
そして生まれたすべての生物が、このフラッシュを十分に享受できる。楽しいポジティブなことで埋められるということに対して、貢献するべきだと思っています。
めちゃくちゃでかいこと言ったんですけど、身近なところから、「隗より始めよ」じゃないですが、「本当にその時間の使い方でいいのか」と考えてみてください。たった1回のフラッシュですから。ということを述べて、私のメッセージとさせていただきます。みなさん、ご清聴ありがとうございました。
田久保:酒井さん、本当に素晴らしい時間をありがとうございました。多くのみなさんがいろんなかたちの刺激を受けられて、今きっとAmazonを立ち上げてポチポチやっていると思いますので。
酒井:(笑)。よろしくお願いします。
田久保:本当に今日はありがとうございました。
酒井:ありがとうございました。
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