2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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田久保善彦氏(以下、田久保):今日のセミナーは、実は私がこの本をちゃんと買って読みまして……。
酒井穣氏(以下、酒井):ありがとうございます(笑)。
田久保:それで「めっちゃおもしろかったよ」とTwitterに書いたら、この本の出版社のトップの方、干場弓子さんからご連絡をいただいて。なんだったら酒井さんのイベントやってよ、という話から今日に至ったと。
酒井:(笑)。
『リーダーシップ進化論―人類誕生以前からAI時代まで』(中央経済社)
田久保:本当に大変楽しく勉強させていただきました。
酒井:ありがたいです。
田久保:たぶん僕の予想では、今日の参加者のうち660人ぐらいはすでに読まれてるんじゃないかと思います。
酒井:そんなこと(笑)。
田久保:残りの100人ぐらいは今晩中に買われるんじゃないかと思います。それぐらいおすすめの本なので、ぜひみなさん読まれてみてはいかがかなと思います。
酒井:ありがたいです。
田久保:では私のほうからいくつかご質問をさせていただきたいと思うんですけども。このセミナーを始める前の打ち合わせの時間で、酒井さんがこの本を「エンタメ本として読んでほしいんだよね」とおっしゃっていたのが、ものすごく耳に残っています。
一見すると、ものすごく膨大な量の引用がされていて、ファクトを押さえながらちゃんと書かれている学術書のような本なんだけども、でも「エンタメ本なんだよ、これは」と酒井さんはおっしゃっていて。その心を教えていただいてもいいですか?
酒井:すごくありがたい質問です。僕がみなさんにすごく意識してもらいたいのは、「自己組織化」ということです。つまり、誰かがこうしようと思っていなくても、そういう結果になっているということですね。
酒井:いわゆる学術書を書きたいという気持ちももちろんあるんですけれども。学術書というものにはファクト、事実が書かれています。事実が書かれていて、見つけた人が「こういう事実があります」と。そこから先は「ほらな、言っただろ。正しいだろ」という証明が続くわけですね。
これは自己組織化(誰の意思にもよらず、特定の秩序構造が自発的に、勝手に生まれてしまうこと)の結果を見ているだけで、どうしてそうなったのかということについては、ほとんど述べられていないわけです。
これに対して、僕のこの『リーダーシップ進化論』で注意しているのは、もちろんファクトをベースにするんですが、それに対する自分の意見とか解釈がたくさん入っていることです。
これがなぜ重要で、なぜそれがエンタメかというと、ファクトではなく解釈や意見が書かれている本は、読んでる人間が参加することができるからです。「違った解釈があるよね」とか、「その意見には賛同できない」という、つまり「あなたの意見」を引き出すかたちになっていて、読書体験としてよりおもしろいんです。
人類史なので、古くなればなるほどエビデンスが足りず、「本当なの?」と話が覆ったりもします。だけどそうした中で、我々が今本当に求められているのは、目の前の事実を前にして、事実をたくさん集めるということだけではあまりにも危なくて。
そうではなくて、どういう自己組織化が働いてるんだっけ? その自己組織化はどこかで切ることができるんじゃないか? という、一人ひとりの意見や解釈というものが必要なんですね。
その意味で、このような「知的なエンタメ」がきっと社会を前に進ませると信じています。一人ひとりのリーダーシップを進化させるという意味で、『リーダーシップ進化論』というエンタメになっていると思っています。
酒井:当たり前ですけど、基本的に1ページに1個ぐらいは「へぇ〜」と思うことを入れています。400ページもある本なので、普通は途中で「無理」と思って読むのをやめます。だけど(各ページで)「へぇ〜」と思ってもらうことで、リズムを作ってもらうというか。
おもしろいと感じてもらえることを散りばめてあって、それでもう1ページ読みたくなるという工夫をしているので、「エンタメ」と言ってますね。
田久保:なるほど。一方で、これをエンタメ化するためには、相当な勉強をしないといけませんよね。知識なり知恵なりが頭に入っていないと、「酒井さんがこういう解釈をしてるんだから、そうだよね」って、やや思考を止めてそのまま受け止めることもできるじゃないですか。
酒井:はい。
田久保:この書籍をエンタメとして読むための自分の思考能力を高めるには、相当な学習なりが必要です。もちろんこれを書かれた酒井さんご自身も(例外ではなく)、引用されてる書籍や論文だけでも相当莫大なものがありますよね。「どんな読書遍歴をお持ちなんですか?」というのが、質問で上がってきています。
酒井:なるほど。2つ大事なことがあります。1つは勝間和代さんが言ってることなんですけど、「定価が2,000円しない本は読まない」ということですね(笑)。それは群れのルールなので、たいがいその内容も薄いということです。
田久保:なるほど。
酒井:2,000円を超えてくる本はある程度専門性があって、やはり良質であることが多い。すごく嫌な話ですけど(笑)。
田久保:だからこの本も2,200円なんですね?
酒井:そうです(笑)。この本以外で、僕がこれまで書いてきた本は2,000円しません。なので他の本は読んでいただかなくてけっこうなんですけど(笑)。この本だけは読んでいただけるといいなというのが1つ。
酒井:読書遍歴の大切なことのもう1つは、やはり群れのルール、「みんながこれを読んでるから」ということに流されないことですね。その中で重要なのは、大きな書店の価値です。大きな書店に行って、ある意味マインドフルネスな、いわゆる雑念を避けて、素直に自分自身の反応するタイトルを見ていくこと。平積みになっていないほうですね。
ただし注意があって、グラビアのところに行っちゃうと、本能が働いてしまってずっとそこにいちゃうので、グラビアのところは避けたほうがいいです(笑)。そうじゃないところで、おもしろそうだって思ったものをちゃんと読むことですね。この2つが大きなノウハウです。
あと、もう1つだけ。本当は(秘密にしたいので)言いたくないんですけど、博物館の書籍コーナーを利用するのが、個人的には一番おすすめの本の選び方です。博物館の書籍コーナーは、お土産エリアじゃないんです。あれは学芸員の方々が「これだけは読んでほしい!」と選んだ、ものすごくキュレーションがかかっている本棚なんです。
だから一般書も専門書もあります。かなり知的レベルが高い方々によるキュレーションがかかっているものの中でおもしろい本を探していくのは、ノウハウとしては大事かなと。
自分の一番腹の底が反応する本はおもしろいので、積読(つんどく)になりにくいという特長もあります。ただ、不安になりますよ。『オウムガイの秘密』みたいな本を読んでいると、「大丈夫だっけ?」って気持ちにはなるんですけど(笑)。
(本を読んで知の領域が)あっちゃこっちゃに行くことが、実は脳内で考えると、使ってない領域を発火させることでもあると思います。そういうところにシナプスが向かって新しい導線ができたりすると、わからないところで新しいネットワークができて、自分自身のアイデアや創造性がきっと高まるんだろうなと思ってます。
田久保:ありがとうございます。
田久保:次はリーダーシップについて伺いたいと思います。「説得する必要はない。あなたが歩んだ道がその道になるんだ」というお話がありました。酒井さんから「僕のリーダーシップ」ということで、17歳の時から続く介護の話がありましたが、やはりものすごく孤独な時間を過ごされたのではなかろうかと思います。
例えば会社の中で先頭を切って、没個性化に混じらないで旗を上げるようなことをやると、いろんな軋轢が生じると思います。どう心を保って突き進むのか。みんなやってみたいとは思うんだけれども、それをなかなかやらせてくれないというのが「群れのルール」の強さですよね。
酒井穣:そうですね。
田久保:それが慣性力の大きさであって、みんながワーッと押し寄せてくると、取り敢えず「長いものには巻かれといたほうが楽だよね」という気分になると思うんですよね。
酒井:よくわかります。
田久保:それにどう抗い続けるのか、どうお考えですか。
酒井:本当に田久保先生の授業を受けたくなります(笑)。本当に素晴らしいですね。結局リーダーというのは、より先鋭化すればするほど「孤独」を受け入れなくちゃならないと思っています。
ただ、そもそも人間は孤独ですけどね。とは言えやはり、みんながワイワイ仲良くしている横でぜんぜん違ったことをするのはつらいと思います。
酒井:これに関しては本の中でも書きましたが、家族や親友のことをいわゆる「第一次集団」と言うんですけど、第一次集団との関係性がいいと、我々はストレス耐性が上がるんですね。
第一次集団、つまり家族や親友はあなたのパフォーマンスを評価しません。あなたが存在すること自体を喜んでくれるのが、家族や親友なんですね。そういうところにいると、外側でパフォーマンスで評価されることが、いかにゲームに過ぎないかということがはっきりとわかるじゃないですか。
その中で多少悪い評価を付けられるとか、いい評価になるとかというのは、運の要素も大きいし、そこでみんなと違っても自分には帰る場所がある。本当に大事な人たちがいると考えることが、我々が難しい社会に適応する時のすごく大事な部分です。
これは旧石器時代から来ている「家族ベースのリーダーシップ」です。当たり前ですけど、人間関係に対しては「関係維持コスト」がかかります。その関係維持コストとして、ちゃんと家族とか親友に対して時間とかお金などをきちんと使うことが、結果として外の家族と関係ない血縁のない組織の中で、自分らしく振る舞うことを後押ししてくれると思っています。
同時に、そんなにみんなとぶつかったら、弾き飛ばされるようになっているんですね。やはり何かを破壊する、変えようとする時には、それを破壊されたら困る人たちが必ずいます。
「既得権者」と言ったりしますけども、既得権者に自分が敵であるように思われたらおしまいなんです。自分が変えようとしている方向が、既得権者にとってどういうメリットがあるのかと説明もすることも必要ですが、実質「ばれないこと」も重要ですね。そういう意味では(群れのルールにあらがうために)身を隠すことも必要です。
だけど、ちゃんと自分の志を温めて、必要なアクションを取っていく。そういうことが重要になるんじゃないかなと思います。
田久保:なるほど、ありがとうございます。
田久保:もう1つ、この本の一番最初に書かれていて、私も山のように付箋を貼ったところです。今存在しているリーダーシップの本は、それこそ何万冊とあって、Amazonで検索すれば本当に山のように出てきます。みなさんもたくさん読まれているかもしれないんですけども、どうしても「成功した人のリーダーシップ」、企業で言うならば「勝てる人のリーダーシップ論」の考察になってしまいます。
別に不要というわけではないと思いますけれども、勝ち負けをベースにしたリーダーシップの話だけでは、この時代はちょっと違うんじゃないの? と問題提起されている部分がありました。
世の中、口を開けばみんな「パーパス、パーパス」と言っている時代になって、これもまさにさっき3C分析のように「市場、競合、自社なんです」「競合と戦うんです」と。そう言っているだけがリーダーシップの発揮のしどころじゃないんじゃないの? とも読めたんですが。
酒井:おっしゃるとおりです。
田久保:その勝ち負けを超えたところのリーダーシップの重要性について、ぜひ直接お話を伺いたいなと思いました。
酒井:今起こっている戦争もそうですけれども、僕のこの『リーダーシップ進化論』の一番伝えたいことの一つが、「自分の組織を勝たせるようなリーダーシップは、あまりにも虚しい結果に結びつく」ということです。
つまり、「うちの国さえ良ければ」「自分の家族さえ良ければ」「自分の企業さえ良ければそれでいいんだ」という、そういうリーダーシップのスタイルをいっぱい集めて勉強しても、戦争に向かうだけじゃないですか。自分たちさえ良ければいいんだっけ? という話で、それは違うと強く思っています。
そうした中で結局、勝率3パーセントを切るような社会ができあがっちゃっている。自己組織化によってね。だから「そういうリーダーを潰せばいい」という話ではないんですね。
酒井:そういうものが生まれてしまっていることが重要で、実はこの3Cのこのかたちは2008年にマッキンゼー賞を獲ったハーバード・ビジネス・レビューに掲載された論文から持ってきているんですけど、本当はこの3Cの外側に「環境」という枠ががあります。正確に論文の内容を述べると、この3つのものがすべて「環境」の中にしか存在しない。環境は、3Cの外側にあるんです。
その人が生きていく、みんなが幸せに平和に生きていく環境自体に対して、インパクトを出していくというのが、本当に求められているリーダーシップです。我々はあまりにも「敵を潰す」というリーダーシップばかり学んできたんですよ。
なぜかというと、人間がずっと戦争を繰り返してきたからです。勝てるリーダーシップを発揮した民族や国家だけが生き残ったわけで、敵国の人間でさえ愛そうとした人たちは淘汰されてしまっているわけです。
そういう「誰かを打ち負かしたい」という恐ろしいニーズが、僕の中にもみなさんの中にもあるわけですね。それを繰り返している限り、その自己組織化に則っている限り、次も必ず戦争が起こるということを、本書の中では書いているわけです。
だからそうじゃないリーダーシップというのを考えていかなくちゃいけないし、だからこその「経営学」であってほしいと強く思うわけです。
「こうすれば勝てます」というストーリーは虚しいですよ。最終的な勝率は3パーセント以下だし、そういう方向じゃないんじゃないかと。全体の流れに抗うリーダーがもっと出てくる必要があります。
なんとなくコンセンサスとして、国って1つじゃないよねという話があって。どこの国の人だからどうならなくちゃいけないとか、今も恐ろしい話として、ロシア人というだけで差別されるような社会が生まれてしまうわけですが、それは間違っているとちゃんと示していく必要がある。それはたとえ1人であっても、です。
田久保先生がおっしゃるとおり、他のリーダーシップの本は例外なく「敵に勝つ方法」が書かれているわけですよ。それこそが問題じゃないかと、本には書いたつもりです。
田久保:勝ち負けを超えたところへ、次元を上げなければいけない。アウフヘーベンさせなければいけない。そういう時代感とともに求められるリーダーシップについて、酒井さんは具体的に、どんなイメージを考えておられますか?
「勝ち負けを超えた」という表現はそのとおりだなと思うんですけれども、具体的にどういうことを目指そうと言われるのか、どんなリーダーシップがこれからの世の中に出てきそうなのか、もしくは「出てきそう」と言うと自己組織化の話になるかもしれないので、どんな意図を持って作り上げなければいけないと思われますか?
酒井:まず僕はリアリストです。だからこそ経営学も、それから「勝つための方法」も無駄ではないと、まず強く思っています。そうした中でリーダーに求められていくこと。今まさにみなさんが見ているのは、「嘘がばれる社会」になっているということですね。
我々もいろんなリーダーの下で働いて来たと思います。リーダーというリーダーは、例外なくいいことを言いますね。
企業理念とか、いいことが書かれているじゃないですか。でもそれって本当ですか? 本当じゃないってばれているんです。つまり、格好いいことを言っているけど、結局自分が金持ちになりたいだけでしょ? というのがばれている。
田久保:ばれている場合があるということですね。
酒井:ばれている場合がある。はい(笑)。ばれるものが増えていく。フェイクも含めて交錯する時代になっているので、昔よりもずっと情報が適切に扱われ、「そうじゃないよね」とばれていくんです。
コンピテンシーじゃないですけど、「行動」が見られています。その中で本物のリーダーと偽物のリーダーの見分けがだいぶ付くような社会になってきたなと思っています。
酒井:だから、例えばグロービスの志の話じゃないですけど、「それ、本当だっけ?」と自問自答する必要があるなと思っています。志を鍛えていく必要がある、というのはそういう意味で、我々が100パーセント志とマッチすることは難しいと思います。
やっぱり自分はかわいいし(笑)、自分の家族はかわいいし、親友といると楽しいし。自分の愛する人たちが幸せになっていく未来を、どうしても構想しちゃうんです。でもその幅をどうすれば広げられるかということを、仕組み化していく必要があると思っていて。
みんなにとっていいことをした人、もしくはいいことをした企業に対して、もっとリワードを与えるべきだと思っています。実際におもしろいのは、フランスにダノンという食品会社がありますけれども、すごいんですよ。ダノンは今後利益ではなく、地域貢献も重視する企業になると。
何を言っているのかというと、利益創出以外のところにけっこうな資本投下をすると、株主総会にもちかけるわけですね。僕はこの時、この株主総会では絶対否決されると思っていたんですけれども、賛成99パーセントで通過したんですよ。
そろそろ地球危ないぞ、人類危ないんじゃない? という方向に、コンセンサスができてきている今、とはいえ最終的に企業は儲けなくちゃいけないので、どうすれば儲かるのかというロジックに対して、何らかの枠をはめていくということが起きています。
システムに対して「よりあるべきシステム」に変えていくということで、人類は滅亡という未来を回避できる可能性もあるんじゃないかなと思っています。
田久保:ダノンの場合は、ある意味いい株主に恵まれているという言い方もできると思います。来年、再来年の利益だけを考えたらNGなのかもしれないけれども、10年後20年後30年後を考えたら、そっちのほうがトータルとしての収益を上げて、ダノンが潰れないで存在している可能性が高い。そう思えば、合理的な判断になっていますよね。
酒井:そうですね。
酒井:要するに資本主義をそのまま暴走させると、人類のみんなが幸せになるという方向だったり、戦争を回避するという方向に向かえないんですよ。だからこそ、収益を求めない社会に向かうんだけど、それだけでは無理なんです。
それは人間以外の生物も、収益を求める存在なので、本能に反することなんです。だからできるかもしれないけど、めちゃくちゃ時間がかかる。その前に滅亡しちゃうと思っています。
例えば地球環境に対していいことをしても儲かりませんよね。サービスの受益者が地球だと、地球はお金を支払ってくれないので(笑)。であるならば、地球環境に対していいことをしたら儲かるようなかたちを作る必要がある。そういうビジネスモデルを構想する必要があります。そのためのリーダーシップとか、そのための学びとか、そのためのグロービスであってほしいなと思いますね。
田久保:ありがとうございます。
酒井:ちなみに僕、グロービスからはそういう意味でのお金をもらっていません。PRしていないですよ。
田久保:(笑)。ありがとうございます。
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