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『リーダーシップ進化論』~人類史から紐解くこれからのリーダーシップとは~(全4記事)

誰もが生き方に迷う時代に「群れのルール」に従う危険性 動物の本能に学ぶ、“成り行きの未来”脱却のヒント

次世代を担うリーダー育成のビジネススクールグロービス経営大学院主催の特別セミナーより、今回は『リーダーシップ進化論』著者・酒井穣氏の講演の模様をお届けします。家族や企業、国家といった「組織」を形成してきた人類。異なる社会環境の中で組織を生き残らせるために、どのような「リーダーシップ」を必要としてきたのか。リーダーシップの進化の歴史を辿りながら、これからのリーダー像について語られた本セミナー。本記事では、3つの法則で成り立つ「群れのルール」について語られました。

人類史で考える「リーダーシップ」

酒井穣氏(以下、酒井):すいません、本当に短い時間で400ページの本の内容をぜんぶ伝えることはできないんですけど、本の特徴としては人類になる前、人類以前の生物の特徴から話を始めています。

『リーダーシップ進化論―人類誕生以前からAI時代まで』(中央経済社)

人間以外の哺乳類に共通して見られる本能の話から始めて、人間以外の動物におけるリーダーシップをまず考える。その中に存在するトレンドとか、歴史的背景、あらがいにくい法則とか、そういうものを明らかにします。

次が旧石器時代です。20万年前からだいたい1万年ぐらい前の、人類はどういう環境にいて、どういう組織じゃないと生き残れなくて、だからどういうリーダーシップが求められたんだっけ? そのリーダーシップは成功したんだっけ? みたいな話をしています。

それから、農耕社会、四大文明、ルネサンス以降、そしてインターネット以降……というかたちで、ぜんぶの人類史を、人類が誕生する前から振り返ります。

その中に、はっきりと見えてくるリズムがあるわけですね。そのリズムがどこに向かっているのか。僕が勝手に「ソーシャルビッグクランチ」という言い方をしてるんですけど、これはシンギュラリティとは似て非なる概念です。

人間はこの「ソーシャルビッグクランチ」に向かっているというのが、僕が書いた基本的な内容になります。まあ、なんだかわかんないですよね(笑)。なんだかわかんないので、人類以前のリーダーシップの話をほんの少しだけ取り上げます。

3つの「群れのルール」

酒井:「群れのルール」という話です。群れを組む生き物に共通して見られる法則のことですね。人間も群れを組む生き物です。群れを組まなかった個体は、残念ながら淘汰されて、子孫を残していません。

群れのルールとは何か。例えば自分がアザラシだとします。アザラシのあなたは、ペンギンの群れの中でどのペンギンを狙いますか? どれを食べに行きますか? これだ!っていうペンギンがいますか?(笑)。迷いますよね。これが群れのルールです。

「没個性化」と言うんですけれども、宿命として肉食獣に食べられてしまうようなポストにある動物の多くが群れを組みます。必ずしもぜんぶではないんですが。

何のために群れを組むかというと、アザラシが何頭かいたとしても、群れのぜんぶは食い尽くせないからです。なのでその時に、自分がターゲットにならないように「個性を消す」というアプローチをするんです。

これが、たった3つの法則でできているんです。すごいですね。しかも我々も当然同じ群れのルールに従ってます。

良い大学、良い会社、良いブランドを求めるのは「本能」だから

酒井:1つ目は、「衝突を避ける」ということです。物理的にも、心理的にも。まあ当たり前ですね。例えば飛んでいる鳩の群れでガンガン周辺の鳩に当たっちゃう鳩は、へろへろっと落ちてしまって、食べられちゃいますよね。そうすると、子孫を残せないので、淘汰が起こります。

かなりの群衆、大きな群れで移動していても、周辺の個体とぶつからない。そういうセンサーを鍛え上げているものだけが生き残ってきました。

例えばペンギンの群れで、2匹のペンギンが喧嘩していたとします。そうするとアザラシとしては、まず喧嘩してるからよく目立つし、喧嘩しているので、外敵が近づいていることに対する警戒が不十分ですよね。だから、それを狙って食べるんです。そうやって、喧嘩してる奴らは簡単に淘汰されてきたという歴史があります。

人間の場合も、例えば職場とか組織において、わざわざ喧嘩はしないですよね。心理的にもそういうルールが働いています。「和を以て貴しとなす」じゃないですけれども、できれば仲良くいられたらいいなという状態は、実は人間が誕生するよりもずっと前から、生物にすでに発現しているということですね。

2つ目は、「中心位置に向かう」と。残酷ですけど、群れの外側から食べられるので、中心のほうが安全なんですね。なので中心位置に向かおうとします。

我々で考えると、流行とかランキングとか、我々は大好きですよね。よく考えてみてください。例えばあなたが行った高校、あなたが行った大学というのは、その大学がすばらしいから行ったんでしょうか? そうじゃなくて、自分の偏差値で行ける一番良いと言われている大学を選んでませんか?

じゃあ、就職先は? 自分の出身大学や自分の学歴で行けると言われている中で、一番良いとされる場所に行ってませんか?

例えば、ブランド。マーケティングの角度から、「なんで原価3,000円しかしないこんなものが、ちょっとしたマークを付けることで何十万円、場合によっては何百万円になるのか」ということについて、疑問を持ったことはありませんか?

それは、「ここが中心だ」「ここがランキングのトップだ」とアピールすることによって、群れのルールに従う者たちをそっちに誘導することができるからなんですね。その群れのルールの中心位置は本当に大丈夫か? ということを考えず、ただ中心位置に向かってしまうというのは、残念ながら人間の本能でもあるわけです。

どの組織に入るかで、自分の「速度」が変わる

酒井:3つ目は、「近くにいる個体と同じ速度を守る」。これもけっこう怖い話です。例えば、みなさんがバイソンの群れを狙うチーターだとします。その時に「どれを狙おうか?」という気持ちになるわけですが、1匹だけ妙に速いやつ、1匹だけ妙に遅いやつというものは、ターゲットにしやすいわけですね。

没個性化、自分だけが目立つことを嫌うので、木を隠すなら森の中ということで、速度によって自分を全体の中に馴染ませようとするわけです。そんなところを考えてみると、意外と我々もそうですよね。ある意味、どの組織に入るのかというのが非常に怖いのは、これも理由です。

例えばある企業で、「誰々さん、この新商品の企画書書いといて」と言われた場合。その企業の文化では、ざっくり企画書を立ち上げるまで、だいたい1ヶ月ぐらいかけていいとします。そうすると、1ヶ月ぐらいかけていい会社で、3ヶ月かけると怒られるし、1週間だともうちょっと精緻化しろと言われるわけですよね。

これが特定のスタートアップだったりすると、「誰々さん、企画書書いて」というのは明日の朝までという意味だったりするんです。ある意味ブラックなわけですけれどもね。

この「速度」は、自分でコントロールしていないんです。組織の文化とか、常識でコントロールされているので、どういう速度感を持って自分は生きているのかを確認しないといけません。それに合わせて「こういう勉強のペースでいいんだろう」と思っていると、実はぜんぜん遅かったりする。地獄ですね。

「群れのルール」はうまく利用できる

酒井:そういう意味で、グロービスさんなどのビジネススクールで学ぼうとされてる方は、ドアノックして中に入ると「やばい、自分の勉強速度すっごく遅いわ」とわかるという話があります。周辺で勉強してる仲間がいると、その仲間のペースに合わせることができるというのが、非常に大きな特徴なわけです。

僕が言いたいのは、この「群れのルール」から完全に自由になりましょうという話ではなく、上手に利用することができるんじゃないかということです。

「なりたい自分」があるのであれば、そういう人たちの近くにいれば、我々はそこから没個性化をしようとするというユニークな特徴を活かせるのではないですか、ということです。その人たちの中に馴染もうとするんですね。それによって、我々は自分の勉強の速度を変えたり、リスクの受容性を変えたりします。

例えば仲間がみんな起業する時、自分も起業できそうだと思うものです。実は「どの群れに所属するのか」ということによって、自分自身の成長を変えることができる。意外とおもしろいと思いませんか?

「群れのルール」に従って生きることは、自殺行為に等しい

酒井:人間の群れもまったく同じです。例えば渋谷のスクランブル交差点を、スマホを見ながら誰にもぶつからないというのは、ロボティクスとして考えるとめちゃくちゃ難しいセンシングをしてるわけですね。

渋谷のスクランブル交差点を見ていると、みんなそれぞれ別々の目的地を持っているんですが、はっきりと前の人間と衝突しないように、そして速度を合わせて、同じ方向に、同じベクトルの方向に向かって歩いてる、川の流れのようなものが観察できると思います。

その時、本当に個人個人は「目的地に行くんだ」という強い意志を持って動いているでしょうか? たぶん違うんですよね。

誰もが生き方に迷う時代です。非常に変化が早いとよく言われるんですけど、変化が早いって本当ですか? と。これは、本当です。この本の中でもちゃんと示しているので、「確かに変化の速度が上がっているな」ということを実感してほしいです。

変化の速度が早いと、この間まで重要だったスキルが、今度は重要じゃなくなっちゃうという時代です。1つのことをじっくりじっくり深めていく生き方が非常に難しいんですね。そうした時に、自己組織化、つまり「群れのルール」に従って生きることは、自殺行為に等しい。

我々がイワシの群れの1匹だとします。その時、イワシ全体が破滅的な方向に向かっているわけですね。いうなれば、クジラの口の中に向かってまっすぐ突進していると。その時に、自分の頭で考えて、どういう方向が自分にとって正しいんだっけ、というところを考えていくことが重要じゃないかと思っています。

何万匹のミツバチが、新しい場所に正しく移動できる理由

酒井:そこで「リーダーシップ」なんですけど。自然界にもリーダーシップはあります。わかりやすいのは、ミツバチのダンスです。みなさんにもミツバチがダンスを踊るという話を聞いたことある方がいらっしゃると思うんですけれども。

どういうことかというと、「養蜂」と言いますね。ミツバチは人類の歴史の中で紀元前6,000年から始まった、人類に一番初めに搾取されたブラック労働者の一つです。一生懸命蜜を集めたのに、次の朝ごっそり蜜を抜かれてしまうわけで。ひどい搾取なんですよ。

ここで蜜を抜きすぎると何が起こるかというと、蜂がより良い蜜の場所を見つけてきて、(その場所を仲間に伝える)8の字ダンスを踊るんです。太陽と移動する場所の角度αが8の字ダンスの真ん中の中央線で、ダンスする時におしりをフリフリする1秒間が1キロメートルを表していて。蜂のリーダーは、「こんなとこでやってられん」となって、「おーいみんな、この角度に向かって何キロ進め」という命令を出すわけです。

それである日、「しめしめ、今日もたくさん蜜が出てきたろう」と思って取ろうとしたら、何千匹、何万匹といる蜂がぜんぶすっかりいなくなっているという環境ができるわけですね。

この時、人類の科学とって長年不思議だったのは、このダンスを踊っている蜂から、直接ダンスを見ることができる蜂は、全体の5パーセント以下だということがわかっていました。つまり5パーセント以下の蜂だけしか、進むべき方向を理解してないんですね。にも関わらず、巣箱の中の何万匹という蜂は、ぜんぶ正しく新しい場所に移動しています。なんででしょうか。

群れのルールがわかるまでは、謎だったんです。群れのルールがわかると、はっきりとこれは「なるほど」と思うわけです。全体の5パーセントが目的を理解してグッと動き始めます。そうすると、周辺の蜂はぶつからないように、中心位置に向かって、同じ速度を守り始めるわけですね。

だから、他の95パーセントの蜂は、どこに行くか知らなくても正しく目的地に着ける。ミツバチには、こうして群れを移動させるというすごい能力があるわけです。

世界を変えるには、まず自分が動くこと

酒井:ここでお伝えしたいのが、グロービスのみなさんはもちろん、今日お聞きのみなさんは、何らかの方向でリーダーシップを発揮されようとしているんだと思います。その時に、「部下がついてきてくれない」とか、「部下や組織の全員に対して進むべき方向をきちんと示す必要がある」というお考えであれば、ミツバチは違う回答を持っています。

世界を変えるために必要なのは、世界中のみんなを説得することじゃなくて、自分が動くことです。自分自身がその方向に動くと、それに賛同する人が多ければ多いほど移動速度は速くなりますが、別に1人でもその方向に向かって歩みを始めればいいんです。そうすると、群れ全体がそれに引きずられるんですね。

例えば日本で「クールビズ」とかあったじゃないですか。夏にネクタイするなんて今どきありえないですよね。相当保守的な企業でも、夏にクールビズでネクタイはしません。

なんででしたっけ? みんなが「夏はネクタイをすべきじゃない」ってずっと前から思ってましたけど、してましたよね。これは、誰かがやめたからです。それで周囲がそれに従ったから。それがウワーッて広がったというのが、リーダーシップのリアルですね。

もう少し経営学的なところに結びつけると、「差別化」って習ったことあると思うんです。簡単に言うと、自己組織化にあらがうことですね。要するに、みんな群れたがるので、「みんなと同じ」というところに向かってしまうのが、我々の本能です。

そこからあらがうことによって、自分自身を際立たせる。別に商品でも同じなんですけど、みんながいるから目立つんですね。

自己組織化にあらがうと、他の生物だとターゲットになるから普通は死んじゃうんです。だけど人間の場合は死なないんですね。だからみんなと違うってことに対して、我々は(本能的に)恐怖するようにできてますけど、実はビジネス上ではそれが重要になるんです。

その意思決定は「自分で考えたこと」なのか疑う

酒井:3C分析を知らない人はいないと思うんですけど、3C分析ってどう使うんでしたっけ? という話になると、知ってる人と知らない人に分かれると思います。要するに3C分析は「お客さま(Customer)」と「競合(Competitor)」と「自社(Company)」について考えることですね。

お客さまが求めることの中で、競合にはできない、自社にできること。このスイートスポットを明らかにしていくことが3C分析ですね。これは「群れから外れる」ということです。だけど、我々は放っておくと、競合と同じ商品を作り始めるんです。群れのルールに従っているから。恐ろしいですね。

だから群れのルールから、「それは自分の意思決定なのか」「本当に自分が考えたことなのか」と疑ってみて。「あ、これは群れのルールだ」と思った時に、その群れのルールに従うことは危なくないかと考える必要がある。

群れのルールのほうが正しいこともあるので、必ずしも群れのルールにあらがえと言っているわけではないです。ただ、その意思決定はどうあるべきかということを考える必要がある。その時に、リーダーシップが発揮されなければならない。

3年後には、高齢者の4人に1人が認知症になる時代に

酒井:最後に、僕自身はロジックを作るのが好きですけれども、やはり実務家でありたいと思っています。僕自身が今までに、どういうリーダーシップを発揮しようとしているのか。まずは質問から始めたいと思います。

2025年まであと3年です。2025年の日本において「認知症」と診断されている方は、何名ぐらいいると思いますか? みなさん、ちょっと推測してみてください。

答えは1,100万人です。正確に言うと、認知症の方が700万人で、軽度認知障害と言われる、認知症の一歩手前の方々の2つを足して1,100万人です。わかりますか? あと3年ですよ?

3年後に人口が爆発するということで、介護業界では「2025年問題」と言われています。団塊の世代と言われる、人口ボリュームの多い方々が75歳を突破するのが2025年です。

75歳を突破すると、マクロに見て「アクティブシニア」とか言ってる場合じゃないです。やっぱりどこか介護が必要な状態になりやすい。要介護出現率が2倍以上にジャンプアップするのが75歳以上です。人口ボリュームの多い世代がそこに一気にガサッと入るので、多くの方が介護が必要とされるというのが2025年です。

その時の認知症の方は1,100万人です。1,100万人というと、高齢者の3人から4人に1人です。みなさんご結婚されてる場合は、お父さまお母さまが都合4名いらっしゃいますよね。その方の中のどなたかが認知症になります。

2025年の段階で、親の介護を抱えているビジネスパーソンは過半数です。この中には「老老介護」といって、(高齢の)お母さまが(高齢の)お父さまを看るような話もあります。

勝手に訪れる未来に対して、成り行きでいいのか?

酒井:ですが、例えば、朝方おむつ交換をしてから会社に来るような、直接介護に関わってる割合でいうと、ビジネスパーソンの30パーセントです。ですから、今日の参加者数は760人になっていますけれども、実際に聞いていただいてるみなさんの中で、200から300人ぐらいの方がその状態になります。

後少しで出現する未来です。成り行きの、自己組織化がそういう未来を生み出します。困りますよね?

例えばお父さまが認知症になられた場合、お父さまの銀行口座から生活費とか介護の費用は出せないんです。認知症の方の銀行口座は凍結されるから。どうしますか? 親の生活費と介護の費用を、自分が出さなくちゃいけなくなりますよね。私はそれを32年やってるんですけど。

成り行きでいいんでしょうか? 僕はそう思っていません。仕事と介護の両立とか、この高齢者領域がこれから世界で大きく成長する領域なので、その領域において多くの不幸と戦いたいというお考えの方がいらっしゃれば、弊社のホームページのお問い合わせページとかから、「一緒にやりたいです」とか言ってもらえると大変うれしいです。

ここは僕自身が残りの人生をぜんぶかけていきたいと思っていることですので、ぜひこの領域に興味があればご一緒しましょう。

ということで、すごく短いんですけれども、『リーダーシップ進化論』の話をさせていただきました。ぜひ僕としては本を買っていただけるとうれしいんですが、もしお金がもったいないなと思う方がいらっしゃったら、著者には1円も入りませんがブックオフとかで買うとめちゃくちゃ安いので(笑)。図書館でもいいので、どんなかたちでもぜひ読んでいただいて、感想など聞かせていただけると著者としては幸いです。

駆け足だったんですが、私の講演パートを終わりたいと思います。みなさんご静聴ありがとうございました。

田久保善彦氏(以下、田久保):酒井さん、ありがとうございました。大変おもしろいお話をうかがわせていただきました。

酒井:ありがとうございます。

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