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守島基博氏 インタビュー(全2記事)

曖昧な指示で仕事を振られ、自分が何をやるべきかわからない… 社員の「全員戦力化」を実現する、評価制度のあり方

日本企業が「人材不足」という課題に直面する中で、中小企業やベンチャー企業などでは、きちんとした人事評価制度が制定されていないところも少なくありません。求められる人材も働き方も大きく変化する中で、そもそも人事評価制度はどうあるべきなのか、イチから人事評価制度を作ろうとする企業はどこから着手すればいいのでしょうか。今回は、『全員戦力化 戦略人材不足と組織力開発』著者である人材マネジメントの専門家の守島基博氏に、ジョブ型人事制度を成功させるポイントをうかがいました。

成果主義的な評価は、実は導入のハードルが高い

ーー守島さまの著書『全員戦力化』の中では、「これまで日本の企業では、衡平原則に基づいた成果主義的な評価が多かった」と書かれていました。もちろん、カルチャーを変えたい時には成果主義的な評価も有効だとは思うんですが、もし注意した方がいいことがあれば、教えていただいてもよろしいですか。

守島基博氏(以下、守島):一般的に、かつ人事制度としても、よりできる人たちに高い報酬をあげて、できない人たちの報酬は高くせず、「これからがんばってほしい」というインセンティブを与えていくのが衡平原則なんですね。みんな、頭ではこうした考えを理解するんですが、じゃあ誰ができる人なのか・できない人なのかを見分けていくことが、現実にはとても難しいんですね。

Aさんがすごく売上を上げた時に、Aさんがものすごくがんばって能力があったからできたのか、それとも単に良いお客さんに当たったからラッキーでできたのかは、周りから見ているだけだとなかなかわかりません。

成果主義の衡平原則は非常にわかりやすいし、世の中的にも受け入れられてるんですが、それを企業の現場で実際に展開していくのはとても難しいんです。ですから、そこの部分に関して、日本の企業はかなり(社員の)ケアをしなきゃいけない。

その時のキーワードは、やはり「コミュニケーション」だと思うんですね。つまり、単にその人に評価の結果だけを知らせるのではなくて、その評価に至るプロセスであるとか、「こういう理由であなたはこういう評価になってるんだよ」という話をしてあげるとか。

私どもは「手続きの公平性」と呼びますが、手続きの公平性を提供して、できるだけコミュニケーションの場を提供していく。それによって(評価に対する)納得感を持ってもらう。

適切なコミュニケーションを取れば、成果主義は有益な制度

守島:もちろん、完全には無理です。でも、会社という企業体で1つのまとまりを作っていくと考えると、コミュニケーションを取ったり、従業員がいろんな発言をしたり、苦情を言える場を用意してあげるのが極めて重要です。成果主義の衡平原則はすごいんだけれど、それを実現するための問題に対しては、対応は「コミュニケーション」しかないわけですね。

それから、コミュニケーションを取ることによるもう1つの良い点は、その人がダメな時にどこを伸ばせばいいのかがわかってくること。通常は「フィードバック」と言いますが、フィードバックをちゃんと提供してあげるのも重要なコミュニケーション戦略の一部です。夢や将来像を描かせてあげるところまで持っていかないと、成果主義はうまくいかない。

今、成果主義にはけっこうネガティブなイメージが世の中にはありますが、そんなことはぜんぜんなくて。裏返して言うと、コミュニケーションやフィードバックをきちんとやれば、すごく有益な制度だと思ってますね。

ーー納得感を高め、社員のモチベーションを保つためにも、丁寧なフィードバックが欠かせないんですね。逆に言えば、丁寧なケアなくしては成果主義の評価はなかなか運用が難しいと。

守島:「今はダメなんだ」と頭で理解しても、「じゃあ、これからどうやったらいいのか」がわからない状態では、みんなもモチベーション下がっちゃうわけです。これから何を直せば良くなるのか、何を克服すれば良くなるのかを理解してもらうのは重要だと思います。

ジョブ型人事制度を成功させるポイントとは

――今は「ジョブ型」「メンバーシップ型」「プロジェクト型」など、時代に合わせていろいろな制度のかたちが見直されています。それぞれの制度にはメリット・デメリットどちらもあると思うんですが、企業の方が導入を検討する際のポイントはありますか?

守島:人事制度は、どの制度を使ったとしても良い面と悪い面があります。私は、ジョブ型にすることの最大のメリットは、一人ひとりのミッション、役割、成果責任、期待成果など、「あなたにこれやってほしいんだ」「これがあなたのミッションなんですよ」ということを明確に伝えていくことだと思っています。

ご存知のように、今までの日本の仕事の与え方は極めて曖昧で、単に「これやっといてね」という指示もあった。それから、よく起こるのは異動や配置転換ですね。「次は九州支社に転勤ね」と言われて、「何をやるんですか?」「いやぁ、九州行っておいしい飯食ってくればいいんだよ」とか、わけのわからない指示をしているような企業もまだまだあります。

そうじゃなくて、「君に九州に行ってもらう目的や期待はこういうことなんだよ」ということをちゃんと伝えていく。それが、ジョブ型に移ることの大きなポイントだと思っています。

ジョブ型について、いろんな企業の方々が「三遊間のゴロを誰も拾わなくなる」というのを問題にしますが、「ここまでだったらこの人が拾う」というのを、成果責任の中に明確にして対応していく。もしも、それでも誰も取らない領域に落ちたら、それはエンゲージメントを高めて、社員みんなで拾う。それがジョブ型成功のカギです。

「自分が何をやるべきか」を明確化できない、日本の特徴

守島:三遊間のゴロは、確かにポテンヒットになっちゃう可能性はありますが、企業のカルチャーや仲間意識の作り方やチームワークの作り方によって、いくらでも対応できると思います。それよりも、一人ひとりの期待成果や役割をきちんと明確化してあげることのほうが、ずっとメリットが大きいと思います。そういう意味では、私は少なくともジョブ型的な動きに反対はしていませんね。

――なるほど。メンバーシップ型の良さと役割や職務を明確にしていくこと、いいところ取りができるんですね

守島:そうですね。メンバーシップ型とジョブ型は対立しないと思うんですよ。対立が起こるのは、雇用形態の問題が入ってきた時です。欧米のジョブ型のように「今、あなたはこの仕事をやっています。その仕事がなくなったり、あなたができなくなったら解雇ね」と言えるような世界になるのでなければ、人事管理の方法としての「ジョブ型」が入っても構わないと思うんです。

言い換えれば、メンバーシップ型の契約形態の中でのジョブ型となりますが、それでもやっぱり明確にその人の成果責任を明示するのは重要だと思いますね。

――守島さまの著書にも書かれている「全員戦力化」という考え方は、すごく大事だなと思います。職務や役割を明確にして、かつ、ちゃんとしたフィードバックをしてあげることで、誰もが戦力になれる機会があるんじゃないかと思います。

守島:そうなんですよね。日本で難しいのは、仕事をずっと曖昧に定義をしてきたために、「自分が何をやるべきか」が明確ではない中で育ってきて、自分でミッションを明確にすることができなくなっている人が多い点です。

海外の働き方にも、もちろん職務の曖昧な定義というのはあります。だけどその中で、「自分は今、何をやるべきなのか」「何が自分のミッションなのか」を自分で決めて行くことによって、目標管理も進んでいくわけだし、MBOの中でもちゃんと上司との目標設定面談が成立するわけです。

(日本では)ずっと、そういう訓練を受けていなかったわけです。人の指示をずっと待って、最終的には指示されたことだけをやる人たちがだんだん増えてきているので、若い時から自分でミッションを作っていかないといけないと思います。「ジョブ型」という言い方がいいかどうかは別にしても、その方向で考えていかないといけないんだと思います。

人事評価を「会社の言いなり」で終わらせないために

守島:また高齢者の活用も、ジョブ型を入れることによって変わってくるんだと思うんです。「あなたにやってほしいことはこれですよ」ということを企業側が提示して、あとはそれを働く人たちが取るか・取らないかを決めればいいわけです。

今の制度では十把一絡げで、定年退職した人全員が、あまりおもしろくない仕事への再雇用になっちゃうから、できる人は腐っちゃうし、できない人たちは「ラッキー」という感じで、何も仕事をしない働かないおじさんたちがたくさん出てくる。もっと一人ひとりの仕事を明確化することによって、全員戦力化も進んでいくんじゃないかと思っています。

例えばサイボウズさんなどでは、給与の改定の時に「あなたの市場価値がいくらなのかちゃんと調べて、それを提示してください」ということをやっていますよね。それによって、「俺って市場から見ると、あまりちゃんとがんばってないんだ」ということがわかってくるし、できるとわかったら自己有能感にもつながっていくと思うんです。

――評価制度を作ることでいい面もあるものの、個人もちゃんと自分の意識を持っておかないと、評価が会社側の言いなりで終わってしまう可能性もありますね。

守島:そうなんですよ。余談になりますが、僕が初めて就職をしたカナダの大学では、3年に1回、契約更改の話し合いをするんです。プロ野球みたいな話なんですが、その時に弁護士を連れてくる人がいましたね。

それは、自分がフェアに扱われているかを判断するために、法的な側面からも判断してほしいからです。そのぐらい人事評価というのは本人も真剣になるし、本当は企業のほうも真剣にならないといけないんです。

評価自体が「目的」になると、人材の格付けになってしまう

守島:今はどっちかと言えば、企業からの押し付けの中で「お前の評価はこれなんだよ」「はい、わかりました」と言っていれば、あとはなんとかなってきたわけですが、これからは真剣に評価に本人が携わっていかなきゃいけない時代になってきたんだと思います。

人事評価制度が1年に1回なのか、3年に1回なのかは企業の状況や組織によって違いますが、そのくらいの真剣な覚悟がないと、本当の意味での評価は入れられないということです。

――ありがとうございます。最後に、これから新しく人事評価制度の導入を検討されている企業さまに、守島さまからアドバイスをいただけますでしょうか。

守島:冒頭に申し上げたように、評価をすることが目的ではないんですね。人材評価、人事評価自体が目的化してしまうことは絶対に避けたくて、「企業が評価制度によって狙う最終的な目的は何なんだろうか?」ということを考えることが重要だと思います。

評価自体を目的としてしまうと、格差をつけたりランキング(人材の格付け)をすることになってしまう。そうじゃなくて、評価の目的は「会社の業績を上げること」と「働く人に成長してもらうこと」などなので、それをどうやって進めていくのかという視点から、評価制度を考えてください。

――評価制度導入の前に、コミュニケーションやフィードバック、目的の共有によって「納得感」を培うことがいかに重要か、とてもよくわかりました。これから人事評価制度を導入される企業の人事のみなさまにとって、役に立つノウハウがたくさんあったのではないかと思います。守島さま、本日は本当にありがとうございました。

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