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第二部・第三部 櫻井氏講演・質疑応答(全4記事)

「研修をやれば自律するだろう」は旧来型の世界観 根性論ではなく仕組みでつくる、自律的な組織文化

年間1万セッション以上の1on1を提供する「YeLL」では、その知見をもとに組織作りに関するセミナーを開催しています。今回は「職場の『キャリア自律』を促す仕組み」をテーマに、現場社員ひとりひとりの意識変革に向けた施策や制度の在り方について語られました。本記事では、40〜50代の管理職世代へのキャリア自律支援が、組織全体に良い影響を与える理由と、その方法について語られました。

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個人としての「自律」と、組織の中の「自律」は違う

櫻井将氏(以下、櫻井):せっかく準備してきた、キャリア自律の話をしていいですか?

篠田真貴子氏(以下、篠田氏):してください。あと5分ぐらいで、この話は締めるタイミングになるので。

櫻井:これも篠田さんがこの前作ってくれた資料です(笑)。

篠田:ありがとうございます(笑)。

櫻井:「自律」という言葉の定義ですが、こちらの「自立」、他に頼らず独り立ちしているということではありません。こちらの「自立」は「依存」の反対語だと思います。

でも、こっちの「自律」は、むしろ健全に依存ができる状態であることも含めて、自律的であるということなんですよね。単に「自分の立てた規律に従って行動する」ことなので、「独り立ちしている」こととは違う。篠田さんはこんな話をしてくれましたよね。

あと、「なるほど」と興味深かったのが、篠田さんがしてくれたPTAの話ですね。「個人として自律型人材である」ということと、「組織の中で自律的に働いている」ことはまた別であるという。

篠田:そうですね(笑)。

櫻井:「私はPTAではぜんぜん自律的じゃありません」と話しましたよね。「自律型の人材である」ということと、ある特定の組織や環境の中で、その人が「自律的に働けるかどうか」とは別問題であって。

組織にとっての「自律的に働く」ということは、こっち(組織・環境)の話なんですよね。個人として自律的な人材であるかという話ではなくて、組織・環境の中で自律的に働けるかどうか。

キャリア研修の若年齢化の背景

櫻井:これを前提として、「キャリア自律」と言って、階層型のキャリア研修をされている会社さんが多い印象があります。以前は40~50代ぐらいから始めていましたが、「もっと早くやってくれればよかったのに」という声があった。そこで最近では人事制度も改変されていて、30代、さらに20代から階層別にキャリア研修を受けていますよね。

篠田:例えば、「50歳になったら、これからの人生も考えて自律してくださいね」みたいな研修のイメージですね?

櫻井:それが、だんだん若年齢化してる。30代でも、20代でもやる会社さんが増えてきている印象があります。

今日の事例としては40~50代のキャリア研修の話ですが、1日か2日の集合研修をやって、その後は基本、本人任せだったんですね。

これだと、なかなか「起こしたい変化が起こってこなかった」というご相談を受けました。そして、「キャリア研修の後に、我々のエール(YeLL)を入れて、1on1できちんとフォローアップしていくとどうなるか」ということを、けっこう大規模にやらせていただいたんです。

キャリア研修を受けた後は、みんなすごく前向きなんですよ。感想やアンケートを見ると、「キャリアについてすごく考えたくなった」と書いてある。でも、その後もキャリアについて話す機会がないと考えないし、1人で考えても深まらないし、仕事も忙しいから後回しにしてしまう。

さらに同僚や家族に話すにはナイーブな話なので、実は相談する相手がいないんですね。大人数のものだと、自分が考えたいところもサクサク進んでしまうし、話したいことも話せない。だから、きちんと1対1で話せる相手がいるといいと思うんです。そして、それによってどんな変化が起きたかという事例をお見せしますね。

50代管理職が悩んだ「今の仕事が天職かどうか」

篠田:50代の方ですね。

櫻井:東証1部の、社員が数千名いる会社の管理職で、プロパーで入られた50代の方ですね。20何年、この会社に勤められている方でした。

最初は「感情と向き合った。若い頃に無我夢中で仕事をしていた、満たされていた自分と現在とのギャップに哀しさがこみ上げてきた」(と言っています)。

篠田:これはご本人のコメントなんですか? ご自身がこうやって書かれたんですよね?

櫻井:そうです。これと向き合うことは、たぶん相当つらいことですよね。見て見ぬふりしていたほうが楽だと思います。でも「管理職になってから10年間、自分の中にずっとあったつかみどころのない気持ちと向き合う時がきたんだなという感覚を覚えた」とおっしゃっていて。

8週間ぐらいやっていると、いろいろな言葉のやり取りの中で、この方が無意識のうちにずっと繰り返していた言葉があったようです。そこを「サポーターが拾ってくれて、大切な価値観に気づけた」という体験をしています。

途中で「天職」をテーマに話したいということで、対話を始めたんですね。「30年やってきた今の仕事が天職であると、自分を納得させたい気持ちもある。でも、ちょっとハテナの気持ちもある。いろんな気持ちが混ざりあっている」と。

これはまさに先ほどの多面性ということだと思います。「自分の中にいろんな自分がいて、いろんな気持ちが混ざり合っている」ということを自覚していく。

残りの仕事人生30年と向き合い、転職を決意

櫻井:そして、「人生100年と言われる時代、仕事人生があと30年あるとしたら、どうありたいか。譲れないことは何なのかということを考えるようになった。30年という時間軸ができたことで、これまで当たり前だったことに疑問を持ち始めた」。

篠田:その前段階で、「人生100年時代に仕事人生があと30年あるとしたら?」と思うようになったからですよね。

櫻井:ここには書いていないのですが、この方最初は、「正直、あと数年で逃げきれればいいか」と言っていたんですよ。

篠田:まあ、50代半ばの方だったらそうですよね。

櫻井:そこまでやって、最後は嘱託になって、退職金をもらって、というストーリーが自分の中にあったようで。要は楽な方向に逃げているんですけどね。

でも「30年」ということを本気で考えてみると、「むしろそれは自分を苦しめる選択なんじゃないの?」と感じるようになったそうです。「あと30年、どうするの?」ということを、ようやくリアルに考え始めたんですね。

その後「今の業務に意欲が下がる理由がクリアになると同時に、自分の心に何かの火がついている感覚を覚えた」と言っています。

この方、結局は転職される決意をしました。エールは別に転職させようとしているわけではないんですが、本当にこの方と向き合った結果そうなったんですね。「そのことを妻に話し、上司に話し」という、この間もエールとはセッションをしています。

篠田:えええ!

櫻井:「奥さんと話してきました」「上司と話してきました」という話をサポーターとしていますね。この時、「肩の力が抜けた」とおっしゃっていて。

希望を書いてもその通りの異動がない世代の価値観

櫻井:そして最後の文章がすごく素敵なんです。「会社を辞めるとか辞めないとかじゃなくて、自分がここから30年突き詰めたい新たな道を見つけたことにすごく喜びを感じた。考え抜いた自分も褒めたくなったし、すごく清々しい気持ちになりました」ということで。

篠田:「ここ10年で最も清々しい気持ちになった」。すごいですよね。

櫻井:これが「キャリア自律」ということの根底にある、具体的な事例だと思いました。

篠田:本当ですね。

櫻井:やっぱり自分自身と本当の意味で向き合わないと、自律することはできませんよね。特に、今の40~50代はキャリアシートに希望を書いても、その通り実現した試しがないという世代で、そういう自律という価値観で育ってきていないから。

篠田:そうだし、そのキャリアシートに書いた希望自体も、本当かどうかわからない感じですよね。

櫻井:わからないですよね。「希望を書いたところで、その通りに異動した記憶がない」という話もよくあります。だから結局、配属された場所で自分のモチベーションをなんとか保ち続けてきた。

それなのに、ここにきて「自律しろ」と言われて、「どうしたらいいの?」という感じ。それをここ(エールとのセッション)にぶつけてくださっていて、内省されているんですよね。

むしろ20代~30代だと前提が違うのもあって、きちんと話を聴いたらこういうことはすぐ起きるだろうと思います。こんな事例があったというお話でした。

篠田:素敵です。

「聴く」ためには、スキルや時間のまえに「関心」の壁がある

櫻井:他にもいくつかピックアップしたものがあります。

篠田:この事例では、この方はたまたまエールのセッションで自己理解を深められました。こうした自己理解は、いろんな機会によって個人的に起きることがあると思うんですね。

でも今日のテーマは「組織」です。組織として、これをどう支えていくのか。どうやって起こしていけばいいのか。こういうことを、最後に投げかけてみたいと思います。

先ほど、「上司の方が、自らキャリア自律をするというより、多面性を組織に持ち込むことによって、メンバーが話しやすい環境を作る」という話がありましたよね。だから上司の方が聴かれる機会を持つといいんでしょうかね?

櫻井:そうですね。その話につながるお話をしますね。「個人の聴く意識を高める」ことに関して、先ほどの(面談から1on1に移行できない)5つの壁の、1番目の「関心がない」というものは意識の問題なんですよね。「スキル」とか「時間」の問題ではなく、「意識」ですよね。自分が「聴きたい」とか、「聴こう」とか、「聴けていない」ということに気づくのが1番目の段階なんです。

これが高まると「組織全体の聴く力」が高まっていくんですね。この事例をお話ししたいと思います。このステップは資料を送るので見てくださいね。

話を聴かれた管理職は、部下の話も聴こうと思える

櫻井:特に、管理職の方々がエールを受けると、自分自身がさんざん話を聴かれるんですよ。「自分が大切にしていること」「考えていることの裏にある本当の気持ち」「さらにその裏にある価値観」などを聴かれる。

そうすると「あ、これめっちゃ大事だな」と気づく。「俺も、もうちょっと部下の話を聴こうかな」と思い始めるんですね。大企業とか、それなりの会社さんの管理職になられる方は、めちゃくちゃ優秀なんですよ。「聴こう」という気持ちが今まであまりなかっただけで、いざ気づいたら学ぶし、習得もめちゃくちゃ早いんですよ。

篠田:なるほどね、おもしろい(笑)。

櫻井:自分で本を買ったり、それこそWebにもたくさん情報が出ているし、そういう方々が聴こうと決めると、しっかり学んでいくんです。それでPDCA回して、失敗しながらうまくなっていって。

篠田:「これおもしろいな」「これいいな」みたいになるから。

櫻井:そうそう。聴く力が高まっていくんですよね。

「聴く文化」を作ろうとしたら、聴けていなかったのはトップだった

櫻井:これ、日本で有数の大企業の子会社さんでの超具体の例なんです。ハラスメントがあったりして、組織の中に「聴く文化」を作らないと本当にまずいということで依頼がありました。

管理職90名ぐらいにエールをさせてもらった後に出てきた言葉ですね。さっきの話と近いんですが、結局トップが話を聴けていなかったということで(笑)。

すごく厳しい会社だったので「雑談している人を見ると、こいつ本当に暇なんだな。クソだなと思っていた」そうです。実際この言葉を使っていたので、そのまま言っちゃいますけど。でも「雑談がすごく大事なんだ」ということがわかってきた。

「上下に関わらず意見が言える環境にするため、どうすればいいのかまったく見えなかったのが、見えてきた気がします」と言ってくれたり、変化が起こってくるんですね。

篠田:管理職の方がこういう感じになったら、それこそミーティング1つにしても変わりますよね。

櫻井:管理職同士で「今お前、聴く練習してるやろ」みたいなことを、気にし合ったりし始めるという。関西の会社さんですね。こうして聴く場がだんだんできていく。

「聴かれる体験」の補充で、組織全体が変わる

櫻井:これは違う会社さんの事例ですが、これまではマネージャーが目標を伝えると、メンバーが「こんなに高い目標無理……」となっていたそうです。そこを、マネージャーは目標を伝えた後、メンバーの反応を見ながら「どこに不安があるの?」「何に迷いを感じてる?」とメンバーの気持ちに寄り添うようにしたそうです。

篠田:「感情について、感情的じゃなく話す」ってさっき言ってたの、これ?

櫻井:これです。「やれ」と言われたわけではないのに、リーダーがこれを勝手に始めたんですね。その姿を見ていたら、メンバーの間にも結果として「どうやって進めていくか」という建設的な会話が起こるようになってきて。

また、会議中に若いメンバーが説明しているのも、今までだと「わかった、わかった。そういうことね」とさえぎってしまっていたそうです。それを、役員の人たちは最後まで聴いて「良いこと聴けたわ。それでいこう」と言う。若いメンバーは「ずっと聴いてもらえた」「認められた」とうれしい気持ちになる。こういう変化が組織の中に起こってくる。

意外に、自分が聴かれる体験が足りていなかっただけで、そこを補充してあげると実は組織全体の振る舞い、カルチャーが高まってくる。こんな事例がたくさんあります。

個々の根性論ではなく、組織としての「仕組み」が大切

篠田:なるほどね。管理職層が聴かれることを十分に体験すると、聴くことへの関心が高まる。それで、管理職の多面性が、実際の会議や決済の場面に持ち込まれる。また、若い人は「十分に自分の思いを話せた」と感じて、話せたことによって価値観の自覚にもつながる。

キャリア自律だからといって「なんとかプログラム」とかの仕組みではなく、日々の仕事の中で、自分の動機や価値観をちょっとずつ感じたり、共有したりする場面がある。これが、自律的に、自分のこれからのキャリアを考えていく土台になりますよね。そういう話だな、と今受け取りました。なるほど。

ちょこっとコメントには「こういう『聴く』ということは、部下がたくさんいる人がやるのは大変ですよね」といただきまして、まさにそうですよね。だから、私はしつこく「仕組み」と申し上げていて。そこを手当てしないと、根性論になっちゃうから。

仕組みとしていろんな幅があるけど、本気でやるんだったら、例えば「1人の上司がフォローする部下の人数を3人にします」とか。大組織改革をやるような仕組みもあると思います。

先ほどコメントにあったように、関係ない部署のマネージャーが話を聴くと。「キャリアについてはそっちで聴きます」という仕組みの作りかたもありですよね。

我々エールという外部人材を常に入れておくことで、聴かれる経験が組織の中にインストールされるんですね。こういうやりかたもあると思います。何にしろ、組織的に、仕組み的な手当てをすることが必須です。

キャリア自律=研修するだけは、旧来型の世界観

それをしないやりかただと、左下の世界のやり口になってしまいます。「社員はみんな馬だから、ニンジンをぶら下げれば走るだろう」とか「『キャリア自律』と言って、研修をやればバーッと行くだろう」とか、こういうのは旧来型の世界観ですね。

いや、「価値観」「内発的動機」「人の多面性」を扱おうという時に、そのやり口じゃダメなんですよ。これまで出てきた話はこういうことですよね。ありがとうございます。ではここで、いったん榎本さんにバトンをお戻ししますね。

榎本:はい、ありがとうございます。2人が本当に楽しそうに話していて。

篠田:そうでもないよ(笑)。

櫻井:楽しかったです(笑)。

篠田:みなさんから、たくさんのコメントをいただいて、すごくありがたいです。

櫻井:いや、本当に。そのおかげで、より楽しくさせていただきました。

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