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新規事業を後押しする、イノベーターのための評価制度(全2記事)

うまくいくかわからない新規事業を「数字」で評価できるのか? 「武士とニンジャ」で考える、イノベーターのための目標設定

新規事業やオープンイノベーションの重要性は誰もが認識している一方で、既存事業の評価指標では測れない部分も多く、結果が出るまでの間の評価は非常に難しいとされています。そこで『たった1人からはじめるイノベーション入門』著者の“しーさん”こと竹林一氏に、イノベーター人材を適切に評価・後押ししていくための考え方と制度についてうかがいました。本記事では、新規事業における「失敗」の捉え方、新規事業を「数字」で評価する時のポイントについて語られました。

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新規事業はすべて「仮説」

ーー目標のお話がありましたので、そのつながりで次の質問がうかがえればと思います。「失敗する可能性もある新規事業を『数字』で評価していいのか?」。

新規事業に対して目標売上をKPIとして立てることもあると思うんですけど、そもそも新規事業って、うまくいかないことのほうが圧倒的に多いじゃないですか。

竹林一氏(以下、竹林):ほとんどね。

ーーその失敗を数字でどう評価できるのかなと疑問に思っていまして。そもそも新規事業に対する「失敗」をどう捉えているか、おうかがいしてもよろしいでしょうか。

竹林:「失敗って何ですか?」っていう話ですね。

ーーそうです。

竹林:最初に書いた事業計画には、例えば「お客さんにこんな価値を届ける」とありますよね。実はこれは「仮説」であって、事業にゴーがかかるまでは全部仮説なんですよね。ゴーがかかったって、その通りにいくのかどうかわからない。

新規事業は「仮説」なんです。仮説が変わったところで、それは失敗か? という話ですね。仮説を(見直すことを)止めてしまって無理やり置きにかかったりすると、もう大変なことが起こります。

想定した仮説が違ったら、「失敗」ではなく「ラッキー」

竹林:例えばプロダクトアウトのような新規事業がいっぱいあるんです。「技術があるからこれを無理やり売ったろう」と。そんな新規事業で何が起こるかというと、「仮説」が「目的」になってくるんです。よくマーケティングを学んでいる人が「ペルソナが大事」と言うんですけど、もう存在しないペルソナを置いたりするんですね。

ーー自社都合のペルソナを立てるんですね(笑)。

竹林:「こんなやつおらへんで」というペルソナを置いて、人を集めてグループインタビューして、「これ買いますか?」と聞かれたら、よっぽどでなければ「買いません」とは言わないですね。

仮説ってどんどん変わるんです。仮説が変わった時に「最初の仮説は失敗しました」って言いますか? 特に新規事業の間は仮説を回しているので、想定した仮説が違ったって、失敗なのかという話ですね。「早くこの仮説は違ったとわかってラッキーやったやん」という話です。

我々も今ちょうど新規事業をいくつか立ち上げていて、ようやくいくつかが立ち上がってきます。部門を挙げて何をやっていたかと言うと、「失敗。これはあきませんでしたわ」と言われたら、「ラッキー、早うわかったやん。次どうする?」と。これを高速回転で回すのが大切なんですよね。

「起承転結」人材における開発体制の違い

ーーどうしても「失敗してはいけない」という考え方があるのかなと思います。それで言うと、本の中にもニンジャと武士のお話がありました。この話を少しお話しいただいてもいいですか?

竹林:「起承転結」人材の起承の人と転結の人がどう違うのか。僕はもともとソフトウェアの出身で、ソフトウェアの事業を立ち上げてきました。ソフトウェアのプログラムの組み方には、2通りあるんですね。

どんな組み方かというと、1つはウォーターフォールというもの。「モード1」と書いてある、転結のほうですね。これはあらかじめ「こういうプログラムを組んでください」「こうやったらこの信号を出してください」「こうやったらシステムをきっちり動かしてください」「何月何日までに品質を上げてください」って、要件仕様が決まっているんです。

あらかじめ要件が決まっていて、きっちりやるタイプは、効率性とか統率力とか実効性がある転結の人が得意なんです。

それに対してね、よく新規事業やサービスを立ち上げる時に、「アジャイル型のプログラムをやりましょう」とか、「リーン・スタートアップでやりましょう」と言われます。これがどんなものかというと、「だいたいこんなもの」と決めておいたら、やりながら、お客さんの反応を見ながら変えていくんです。要は仮説です。

例えば会員登録ってありますよね。僕らはお客さんのデータをいっぱい取りたいから、登録時に、こんなことを聞こうと(設問を)いっぱい入れたら、お客さんが途中で登録をやめたとします。これをアジャイル的に考えれば、次の日までにプログラムを変えるんですね。やりながら考えていかなあかんのです。これがとても大切なんです。

転結型は「武士の文化」、起承型は「ニンジャの文化」

竹林:このアジャイルとウォーターフォールは、どっちも重要なんですね。僕がヘルスケアの新会社を立ち上げた時、サービスが1つ成功すると80万〜100万人の会員になるんです。100万人の会員のデータベースの管理は、モード1で、転結のプログラム開発をしておかなあかんのです。

ところが、UIとかUXとかはぐるぐる回さなあかんので、起承のアジャイル型でやっておかなあかんのです。この起承と転結のマネジメントがとても必要になってくるんです。

転結型は失敗が許されない。ちょっと失敗してシステムが動きませんでしたとなったら、どこかの銀行がありましたが、切腹せなあかんのですよね。社長や副社長が出てきて、「もう切腹しますわ」と。これは「武士の文化」と言われているんです。

ところが起承型は「ニンジャの文化」と言われています。ニンジャは失敗したら切腹しますか? 「相手の城に忍び込んで巻物を取ってきて」と言われて、巻物を取りに蔵の南京錠を開けて、そこで見つかったとしても、切腹しているニンジャなんか見たことありませんよね。

ーーそうですね(笑)。一目散に逃げると思います。

竹林:逃げるでしょう? 相手の見張りの場所が違うとか、南京錠の形が違うとか、言いに帰らなあかんのです。

ニンジャはニンジャで「がんばったな」と言ってあげなあかんし、武士は武士で「ちゃんと守ってくれてありがとう」って言ってあげなあかんのですね。だから、失敗じゃないんです。この違いがわかった上で評価してあげるのが重要になってくるかなと思います。

新規事業で追いかけるべきは「結果」ではなく「仮説検証」

竹林:その中で、新規事業においても転結が見る数字と起承が見る数字の「見方」が違うだけの話だと思うんですね。起承転結の起は、あまり数字は関係ないと思いますし、承でもまだ僕は関係ないと思うんです。

でも新規事業に携わる承から転に至る時には、何らかの数字がないと、僕らもコントロールできないんですね。それが既存事業の場合は事業の数字なので、売上とか利益とか顧客数という、最終的な「結果」の数字になるんです。

ところがさっきも言ったように、新規事業の数字は「仮説検証」の数字なので、「こういうパターンでやったらええんちゃうか?」というプロセスを設定して一度数字で置いてみる。

例えば、「アプローチして10人ぐらいに声を掛けたら、3人ぐらいがオッケーを言わないとビジネスにならへんのちゃうか」と。3人ぐらいオッケーしはるかなと思ったら、1人やったと。ならば「なんで3人にならへんのかな」ということを、本来の仮説検証なら追っていきたいですよね。

僕も直近で、最初は「新規事業を立ち上げる前に、このぐらいお客さんを獲得していたらええな」という最終目標を設定したんです。ただこれを設定しちゃうと現場で何が起こるか。みんな最終結果ばかり取りにいくんですよ。「足を突っ込んででも取ってきました」と言ってね。「いや、まだ今足を突っ込んで無理に受注を取ってくる時とちゃうで」と。

(本来新規事業で追いかけるべきは、)このパターンで人・モノ・カネをかけたらいけるという「仮説」が腹落ちできるかどうかなんです。そこを数字に置きかえてみると。いろいろ改善点が見えてきます。

数字が悪いのではなく、「何を置くか」が重要

竹林:おもしろい数字の置き方があります。お客さんにアポを取って、その1時間の中で最初は営業が30分話をして、あとの30分はお客さんからいっぱい突っ込まれるんです。それで「なんぼ得すんねん」とか「他社の製品はどうやとか」。

それを「1時間をどう配分してお客さんに何を伝えたらわかってもらえるか」という数字の置き方にして、いろんなことを学習し続けました。今は10分説明して、あと50分はお客さんが困っている事を話し続けていただき、最後に、これ採用するはと言っていただけるところまで持ってこれたんです。

このパターンができて腹落ちすると、あとは営業サイド(人・モノ・カネ)を増やしたら勝手に売れていくと思ったので、ゴーをかけたんですね。

結果ばかりを数字で置くからややこしくなってくる。それぞれもう一回「何を置いたらええねん」と、みんなで話し合いできたらええなと思いますね。数字だけが悪いんじゃなくて、「何を置くか」「何を大切にしているのか」というのを上司と部下で握れたら大きいなと、思います。

ーー数字で見ることが悪いわけではなくて、数字の置き方の問題なんですね。すごく納得できました。

評価制度で大切なのは「目標」が握れていること

ーー次の質問は、そもそもの「評価制度の在り方」についてです。

会社によって状況は異なりますし、正解は1つではないのでいろいろ試行錯誤して見つけていくものかなと思うんですが。イノベーター、つまり新規事業をやろうとしている方を後押しするような評価は、どのようなかたちが理想なのか。竹林さんの目線からおうかがいしてもよろしいですか?

竹林:僕が最初から一貫しているのは、「目的と目標は何ですか?」という話なんですね。基本的に、みなさん目標管理をされていると思うんです。その目標の擦り合わせをどうしていくかという話なんですよね。

起の人に対しては「起の人の目標は何にしよう」、承の人には「承の人の目標は何にしよう」と考える。ディズニーランドの研修の話をしましたけど、起承転結どれも大切なんですよね。

そこで大切なのは、「あなたと私は何の目標で握りましたか?」ということです。やはり目標を達成したら、「がんばったな」と評価してあげなあかんのですよね。この目標の設定や、目標の上にある目的をもう一回考えてほしいんです。

人事は最終的に「その人が納得するかどうか」

竹林:みんな「目標管理はこうしよう」と、ハウツーを考えるんですよ。相対評価よりも絶対評価のほうがやりやすいとは僕は思うんですけど、相対評価をすると、「あっちの部門とこっちの部門のどっちがええねん」とか「こいつとこいつはどっちが上やねん」ってなるんです。そんなもん、起の人と転の人でどうやって比べるのかっていう話ですよね。

ーー比べようがないですね。

竹林:起の人からすると「転の人はええな」「目標がきっちりしているからやりやすいやろ」と。でも転の人からすると「ええな、起の人って。ふわふわした目標で」ってなりますよ。

ーー(笑)。

竹林:人事は最終的に「その人が納得するかどうか」です。絶対評価にして、1to1で目標がちゃんとできているかどうかですよね。実は案外できてないんです。特に新規事業を立ち上げる起承の部分は、上司がやったことがないんです。

転結の人は、その部門で成功してきた人が昇格して上司になっているので、何をやったらいいかもわかっているし、何の目標を設定したらいいかもわかっているんです。だから起承の人こそ、目標設定の時にどれだけ上司・部下で時間をかけるのかがとても大事になってきます。

僕もいくつも部門を立ち上げてきましたが、そこだけは徹底的にやります。目標さえしっかりと設定したら、最後の評価面接は数分で終わったりするんですね。「僕はこうでした」と言うだけ。目標は合ってますからね。

ーー最初にちゃんと握れているからこそ、納得感が違うんですね。

新規事業を進めていくと、途中で目標が変わる

竹林:納得感があるのが1つ。それから新規事業を進めていくと、途中で目標が変わるんです。

普通は「目標は変えたらあかん」と思ってガチガチになるんですけど、起承のところは、上司と話して目標を変えたらいいんです。だって、やっていたら「この仮説は違うな」「次はこの仮説をやってみよう」となるじゃないですか。なら、「仮説を何回回したかというのを評価しようか」とかでも、ありですよね。

仮説を何回も回したら、次の「新規事業をやる人」のためになるんですよね。「この学習ノウハウをためてきました」と言ったら、(次の人にとって)プラスなんですよ。

僕も去年の1年で、いくつかの部門の目標を第1四半期からごろっと変えたんです。最初は「えー!」みたいになったんですが、そのほうが現場はすっきりするので、「握り直ししようか」と言ってね。

目標が合っていないと、人事評価をハウツーだけでなんぼ変えたって、最終的な問題は残り続けます。仮説をぐるぐる回していくのが重要だと思いますし、新規事業における転結も、最終結果の数字ではなくて、途中のプロセス成果の数字にしていくと、みんな納得感が出てくるのかなという気はしますね。

イノベーションを起こすのは「WILL」を持って動き出す人

ーーなるほど、ありがとうございます。最後に竹林さんから「これからのイノベーターに期待すること」として、一言いただければと思います。

竹林:イノベーションは新規事業だけじゃないんですね。本にも書きましたけど、シュンペーターは「5つのイノベーションタイプがある」と言っています。今日は人事の方も聞いていただいていると思いますが、シュンペーターが言った5番目のイノベーションは「新しい組織を作る」なんですね。心理的安全性のある組織を作ったり、人を作ったりするのもイノベーションです。

最後に「イノベーターって何ですか?」という話です。新規事業を立ち上げている人、新しい価値を生み出す人は、自分で自分のことを「イノベーター」とは呼んでいないんです。

志を持って「こんな会社にしたいな」とか、人事だったら「こんな人を育てたいな」とか「こんな人に報われてほしいな」という「WILL」があるんです。

そのWILLを持って動き始めると、そこに仲間が集ってくるんですね。だんだん仲間が集まってくると、大きな岩を押し始める。1人では動かなかった岩も、みんなが集まって押していたらだんだん動き始めるんですね。その岩が動いた時に、外部の人たちが「成果が出たな。イノベーションが起こったな」と言うんです。

後からイノベーションだと言われるだけで、やっている最中は、イノベーターはハレーションを起こす以外の何者でもないんですよね。「あいつ、ややこしいことを言いよるね」って。

ーー(笑)。

竹林:だから、志がなかったらできないんですよ。

「失敗しないことが大失敗」

竹林:「イノベーションってやっているふりをするのが一番楽や」と言っているんですが、眉間にしわを寄せて「イノベーションをやっているんですが、難しいですわ」と言っているのが、何も起こらないので一番楽なんです。大切なのは、WILLを持って動き出す人をどう作るのかです。

最後にWILLを持って動き出す人へのメッセージです。この頃イノベーションとかデジタルトランスフォーメーションの講演によく呼ばれるんですけど、「竹林さん、失敗しないイノベーションの話をしてくれ」とか、「失敗しないデジタルトランスフォーメーションの話をしてくれ」って言われるんです。

そんな時は、一番最後にこう締めくくっています。「失敗しないことが大失敗」。

ということで、私の話を終わらせていただきます。

ーー(笑)。ありがとうございます。今日お話しした内容以外にも、『たった1人からはじめるイノベーション入門』の中にたくさんのエピソードや要素が入っております。

『たった1人からはじめるイノベーション入門 何をどうすればいいのか、どうすれば動き出すのか』(日本実業出版社)

竹林:Googleで「1人イノベ」って入れてもらうだけでも、この本が出てくるようになりましたので。

ーーぜひ(笑)。1人でも多くの企業に、新規事業に取り組んでいただけるとうれしいなと思います。竹林さん、本日はありがとうございました。

竹林:ありがとうございました。みなさん、応援しています。

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