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新規事業を後押しする、イノベーターのための評価制度(全2記事)

「優秀な人」だけを集めても新規事業はうまくいかない 「起承転結」4タイプで考える、イノベーターのための評価制度

新規事業やオープンイノベーションの重要性は誰もが認識している一方で、既存事業の評価指標では測れない部分も多く、結果が出るまでの間の評価は非常に難しいとされています。そこで『たった1人からはじめるイノベーション入門』 著者の“しーさん”こと竹林一氏に、イノベーター人材を評価・後押ししていくための考え方と制度についてうかがいました。本記事では、新規事業がうまくいく組織・うまくいかない組織のをわける3つのポイントについて、新規事業を立ち上げる「起承転結」人材の特徴と評価のポイントについて語られました。

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人気スピーカーに聞く「イノベーターのための評価制度」

ーー本日のテーマは「新規事業を後押しする、イノベーターのための評価制度」です。ゲストは京都大学経営管理大学院客員教授で、オムロン株式会社イノベーション推進本部シニアアドバイザーの、竹林一さんです。

竹林さんはオムロン入社後、鉄道のカードシステム事業やモバイル事業、電子マネー事業など、さまざまな新規事業開発に携わりまして、現在もイノベーション推進分野の第一線でご活躍されています。

ログミーと竹林さんのご縁は、2019年にZENTechさま主催イベントに竹林さんが登壇されまして、そちらを記事化させていただいたことでした。大変多くの反響がありまして、その記事をご覧になった日本実業出版社の編集部の方が竹林さんに声をかけられて、2022年1月に『たった1人からはじめるイノベーション入門』という本が出版されたという次第です。私どもも大変うれしいご縁があったと感じております。

『たった1人からはじめるイノベーション入門 何をどうすればいいのか、どうすれば動き出すのか』(日本実業出版社)

今日はその竹林さんに、人事評価の観点からお話をおうかがいしていきたいと思っております。では竹林さん、よろしいでしょうか?

竹林一氏(以下、竹林):こんにちは。

ーーまずは、書籍の刊行おめでとうございます。

竹林:ログミーさんの記事がバズったところから始まりまして、「ログミーさんには足を向けて寝られへんな」というくらいお世話になって、そこから本の出版まで来ました。本当にありがとうございます。

ーーこちらこそありがとうございます。今日はよろしくお願いします。

新規事業がうまくいく組織・うまくいかない組織をわける3要素

ーーさっそく本題に入ります。まず最初の質問は、「新規事業がうまくいく組織とうまくいかない組織はどう違うのか?」です。

竹林さんはオムロン以外の企業もいろいろと見てきていらっしゃると思います。新規事業がうまくいく組織にはどういう特徴があるか、簡単におうかがいしてもよろしいですか。

竹林:今日は難しいお題をもらったなと思って。評価制度なので、今までやってきた中で「現場の人がこんなところに困っているな」というベタなお話をさせていただきたいなと思っています。

まず、この「新規事業がうまくいく・いかない」の前に、そもそも新規事業とは何かという話なんですね。3つポイントがあります。1つは「共通言語ができているのかどうか」ですね。

例えば「新規事業をやる。何でもいいからアイデアを持ってこい」って言って、みんなが持っていくでしょう? そうしたら、「これはちゃうね」とか、「それって100億円になるの?」「何年で立ち上がるの?」とか。これは「持ってこい」と言う人と持っていく人の間に共通言語ができてないことが多いんですよね。

ーーせっかくアイデアを持っていったのに、「思っていたのと違う」と言われるんですね。

竹林:そう。いろんな現場のあるあるですね。よく上の人は「新規事業を立ち上げるからいろんなアイデアを持ってこい」って言わはるんですね。それで若い人が持っていったら、「こんな領域はやらへんのや」って、後出しじゃんけんが起こるんです。若い人からしたら、「『何でも持ってこい』って言わはったやん」ってなりますよね。

新規事業がうまくいかない組織によくある「後出しジャンケン」

竹林:あとは「これで100億円になるのか?」「500億円になるのか?」と言われる。「え!? 500億円要るんですか?」ってなるんですね。

ーー規模感の違いですね。

竹林:そう。我々の新規事業でどんなことをやるのかという規模感が、1,000億円かもしれませんし、100億円かもしれません。それによってやり方や仕掛け方が変わってくるんです。それも合ってない。

あるいは時間感覚ですね。10年間、したたかに技術から開発して、ゴソッと変えてやろうというものもあるし、一般的に言う「3年単黒(単月黒字)、5年累損(累計損失)一掃」。例えば3年単黒になったけれど、すぐに出来るものなら(他の企業に)すぐ追いつかれまっせという話なんですけど、これが合ってなかったらうまくいかない組織になる感じがしますね。

まず、この擦り合わせが一番重要やなと思います。後出しジャンケンのようにグーを出したらパーが出てくるとか、パーを出したらチョキが出てくるとか。上の人に聞いたら「おもろいアイデアが1個も出てけえへん」って言わはるし、下の人たちに聞いたら「どんなものを持っていっても『あかん』って言われる」というこのすれ違いがいろんなところで起こっていますね。

ーー1つ目のポイントが「共通言語ができているか」ですね。

イノベーションに必要なのは、コミュニケーションのある組織風土

竹林:2つ目が、「コミュニケーションのないところにはモチベーションはなく、モチベーションのないところにイノベーションは生まれない」ということです。

イノベーションも新規事業も一緒で、コミュニケーションもモチベーションもなく指示命令された新規事業は、なかなかうまくいかないですよね。

ーーやらされ感があるということですね。

竹林:やらされ感があるので、置きにかかるんです。なぜかと言うと、新規事業をやり始めるとコンフリクション(衝突)が起こるんです。「なんでそんなんやるねん」とか、「そんなんで儲かんのか?」とか、「僕らのお金を使って何やってんねん」とか、いっぱいコンフリクションが起こるんです。「既存のお客さんのところに、そんなこと言いに行かんといて」とか。

ーー(笑)。

竹林:コンフリクションのマネジメントを間違ったらハレーション(悪影響)が起こって潰されていくんですよね。その時にコミュニケーションやモチベーションがある組織だったら、このハレーションとコンフリクションをうまいことバランスを取って乗り越えられるんです。

新規事業をやる前に、実はコミュニケーションのある組織とか風土を作っていかなあかんのです。風土がないのに新規事業だけとかイノベーションだけとか、なんたらトランスフォーメーションだけやっても、「またか、しんどいな」って。これが2つ目です。

モチベーションのない人は、モチベーションのある人に負ける

ーーなるほど。新規事業がうまくいかない原因は、実はコミュニケーション不足なんですね。

竹林:そうです。特に今流行っている「心理的安全性」は、まさにコミュニケーションがちゃんと回っているのかという話ですよね。

ーー言いたいことを安心して言える環境になっているのか。

竹林:せやないと、モチベーションもないのにやっていても、モチベーションのある人たちには負けますよね。

ーーそうですね(笑)。モチベーションがある人とない人では、ある人のほうが絶対仕事ができますよね。

竹林:よく言われるのが、ベンチャーはがーっと立ち上げて成功しはるでしょう? そうすると大企業が「この領域いけるで」と、いっぱい参入してきはる。「いっぱい入ってきはるけどどう?」ってベンチャーの方に聞いたんですね。そうしたら「大丈夫です。僕らはモチベーションがあるんですから。いろんなことが起こっても乗り越えられるんですよ」って言っておられましたね。「生半可な気持ちでやってないから」って。

ーーその領域1本でやっているベンチャーと、既存事業がある企業では、ある意味覚悟が違いますからね。

「既存事業の優秀な人」を集めてもうまくいかない理由

ーー3つ目は何でしょうか。

竹林:3つ目はやっぱり「人」ですね。新規事業は優秀な人ばかり集めてきて立ち上がるのかという話です。「既存事業の優秀な人を集めてきました」「やれ」って言われても、「既存事業で成功して、今までせっかくやっていたのに、私はなんでここのチームなんですか?」ってね。「そもそも何をやるんですか?」とか。

今日のテーマじゃないですけど、「新規事業に行ったら評価が落ちるんじゃないですか?」とかね。

ーー不安ですよね。

竹林:だから、風土のデザインもちゃんとしなあかんし、人もちゃんと「こんな人を集めなあかんね」とデザインしなあかん。この3つのポイントがそろっていかないと、うまく回っていかないやろうなと思います。

みんな新規事業のところだけ見て、「こんなプロセスを作ったらええ」ってハウツーの話をするんです。でも、風土ができてへんのにプロセスだけ作ってもあきませんし、もともと共通言語がズレているのにプロセスばかりできてもあきません。

最後の「人」も、「どんな人が必要になるか」という認識が揃ってないとうまくいかない。そのへんも1回きっちり俯瞰して、揃っているかどうか見ること。揃っているところは案外うまくいっていますし、例えうまくいかなくても、「このパターンうまくいかへんな」と言って、また調整が始まるんですね。ずっとうまくいき続けることはないですからね。

ーー試行錯誤ができるのは大切ですよね。

竹林:そう。新規事業はうまくいかないことが多いんですけど、そういう時にどうぐるぐる回して学んでいけるかが、うまくいく組織とそうでない組織の差かなという感じがしますね。

「起承転結」で考える、新規事業を立ち上げる人材の特徴

ーー「人」というお話が出たので、2つ目の質問です。「『起承転結』人材の適性と評価」というところで、竹林さんの書籍の中でも「イノベーションは起承転結である」というお話をされています。このお話を、少し詳しくおうかがいしてもよろしいですか?

竹林:僕は新規事業を立ち上げたり既存事業の構造改革をやってきたんですけど、7年ぐらい前に各社の新規事業を立ち上げている人や人材育成をやっている人とか、独立して自分でベンチャーをやっている人とかいっぱい集めて、「ハウツーばっかりセットしても、やはり新規事業を立ち上げているのは『人』やな」ということで、富士山で合宿をやったんですね。

本にも6人で合宿したという話を書いているんですけども、「どんな人材がいたら新規事業が立ち上がると思う?」という時に出てきたのが、「ひょっとしたら『起承転結』ちゃうか」という。「起承転結」で、一回整理してみたんですね。

起の人材というのは、0から1を発想するような人がいるんちゃうかと。

ーー0から1を考える人が、起承転結の「起」。

竹林:たくさんはいないんですけど、発想するのが好きで、めちゃめちゃ好奇心のある人がいるんですね。ただ、そういう人が大企業とか普通の企業にいると「じゃんくさい人(面倒くさい人)」ですね。「あの人の言うことわからへんわ」と。なぜかと言うと、直近の利益にならへんからなんですよね。でも、意外にその人が言うように世の中って動いていくんですよ。

ーー意外と(笑)。

竹林:でも、今日明日の利益や売上にならない。利益を直近で追求する人からすると、「何を言ってるかわからへん」「ややこしいわ」と言われるんです。でも先を読んでいたり、こういう世界を作っていきたいと思っている人は、いろんな発想をして発信し始めるんですね。

大事なのは「4つの人材がどう揃っているのか」

竹林:次に必要になってくるのは、最先端を読んで、あるいはこんなことをやりたいという話を聞いて、それを「そもそもそれがどんなことか」と概念化する力がある人。要はグランドデザインを描く力のある人が必要なんです。これを僕は「承」の人材と呼んでいるんですよね。

承の人材は「ひょっとしたらこんなことちゃうか」というグランドデザインを描いて、「こんな世の中を作ろう」とストーリー立てて話し始めるんですよね。そこに人が集まってくるんです。

グランドデザインを描いて発信したら、次は1個ずつのビジネスが出てくるんですよね。「そんなグランドデザインだったら、こんなサービスができるのちゃうか? あんなサービスもできるのちゃうか?」という1個ずつのサービスのイメージが出てくると、今度は「転」の人材が必要になってきます。

転の人材は、ちゃんと事業計画を書けるような人ですね。KPIをきっちり設定して、リスク管理をして、マーケティングをする人です。ここからKPI通りにできるかという計画が立てられる人ですね。

最後に、その計画に従ってきっちりやる人が「結」の人です。この4つの人材が僕は必要だと思っています。これはどれがいい・悪いじゃないんです。新規事業をやる時に、この4つの人材がどう揃っているのかが大事です。

日本を代表する企業をつくった「起承」の創業者と「転結」の番頭

竹林:往々にして、起承は新しいことを仕掛けていくのが得意ですし、転結は決まったことをきっちりやっていくのが得意なんですよね。だいたい既存の事業では、転結の人たちが優秀やと言われるんですけど、この人だけでは起承の部分ができないので新規事業がうまくいかないんです。だから今は起承の人材が必要だという話になっているんですね。そんなことを本に書いています。

ーーこれは1人ではなく、複数人で起承転結をやるということですよね。

竹林:そうです。自分で起承転結を全部やれと言われたらしんどいですよ。全部できる人もいるかもしれないですけど、やはりこれは「どこが得意か」ですよね。

戦前・戦後で、いろんな企業が出てきましたよね。松下幸之助さんにしても、創業者はやはり起承のタイプの人が多いんですよね。発想と概念と哲学を持って進めていく人です。それで日本の企業のおもしろいところは、創業者には必ず転結を担う番頭さんがついてはるんですよ。

ーーナンバー2のようなイメージですか?

竹林:松下幸之助さんに対してなら高橋荒太郎さんとか、井深大さんに対しては盛田昭夫さんとか。転結の人がきっちり組織を作るんです。ところが今は創業者がいなくなって、創業者が作ってきたビジネスモデルが腐り始めているんですよね。だから今こそ、起承の人材が必要だと言っているんです。

今までは転結で儲かってきたんですよ。今までのビジネスモデルをさらに分析して、さらにちょっとだけKPIからにじみ出していたら勝てたんですよね。ところがコロナで事業構造ががらっと変わって、世の中が変わってきたので、起承から考え直さないと勝てなくなってきた。

ただ、自分で全部をやる必要はないんです。誰がどこをやるのか分担できたら、一番いいですよね。

ーーそうですね。転結が得意な人が起承をやらされるのも大変ですし、逆に起承の方が転結の部分をやるのもしんどいかもしれないですね。

人事評価のポイントは、起承転結に合わせた「目標」

ーーこの起承転結のタイプに対して、「評価」の部分はどうされていますか?

竹林:それぞれ得意技が違うんですよね。僕と一緒にこの「起承転結」の理論を立ち上げた人が、「起承転結研修」というおもろい研修をしているんですよ。どんな研修かというと、自分が起承転結のどこが得意かわかったら、ディズニーランドに行くんですね。そこで起承転結のそれぞれの人に与える「目標」が違うんです。

僕は人事評価のポイントは「目標」やと思うんです。目標を達成したら、ちゃんと達成しましたと評価するというお話ですよね。じゃあ何を目標にするのか。

例えばディズニーランドの研修だったら、起の人には「まったく新しいアトラクションを企画しろ」とか「第3のランドを創るとしたらどんなランドがいいか」という目標を設定するんです。次の日に、起の人間はみんな「こんなランドがいい」「こんなアトラクションがいい」と、どんどんアイデアを出してくるんですね。

承の人は、その起の人が言ったやつをもうちょっとブレークダウンして、グランドデザインを描く。例えば「それをするためには誰と、どんな企業とコラボレーションしたらいいか」とかね。グランドデザインを描いて巻き込むのが得意なので、それを目標設定にしたらいい。

転の人はもっと論理的な思考が強いので、グランドデザインができた時にカップル別とか家族別に、どんなお勧めワンデーマップを作ったらいいのかとかね。

ーーマーケティングの部分ですね。

竹林:最後の結の人は、詳細をきっちりやるのが得意ですね。なので「残念と思うことを100個挙げてこい」と。例えばトイレの男女の比率について「女性のほうがいつもたくさん並んではるから、女性をもっと多くしたほうがええのとちゃうか」とか。

ーーまさに観察する力ですね。

竹林:そう。だからこの「目標」がとても大事です。結の人は「私はこう思う」と残念なところを100個挙げてくるんですよね。

目標は管理のハウツーではなく、「どう設定するか」が重要

竹林:この研修の一番おもしろいところは何かというと、次の日、挙げてきたものを全員で見てディスカッションするんです。

これは起の人からしたら、「結の人は100個も思いつくんや」と。逆に結の人は「起の人はそんなことを考えとるんや」とかね。承の人は「起の人がそんなことを思いつくんやったら、こんな人とコラボを組んだらええ」と考えるし、転の人は「こういうふうに変えたらもっと精緻化しておもろい導線ができるで」とか、みんなの考え方が変わるんですね。これがとても重要です。

その適性に合わせて目標管理をどうできるか。実は評価って「決められた目標をどう実現したか」ですよね。だいたいどこの企業も目標管理のハウツーをどうするかで悩んではるんですけど、大切なのはこの「目標をどう設定するのか」だと思うんですよ。

これをお互いに認識し合うことが必要です。この中のどの目標が大事か、じゃないんですよね。ディズニーランドにとっては、どの目標も大事でしょう?

ーーそうですね。

竹林:この目標が曖昧だと、評価も曖昧になっていくんだと思います。

ーーなるほど。ありがとうございます。

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