2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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井上和幸氏(以下、井上):今日の本編は、社長が“今”、もしくは“将来”役員にしていきたい方の25の条件になります。どういう方が役員に適するのか。あるいは、逆にいわゆる中間管理職に適するのか。このあたりを秋山さんからお聞きできればと思っています。
秋山進氏(以下、秋山):はい、わかりました。きっとしゃべり始めるとすごく時間がかかってしまうので。長くなりそうだったら「そろそろ止めてください」と言ってくださいね。
井上:大丈夫です(笑)。
秋山:『社長が〝将来〟役員にしたい人』という本を、5年前ぐらいに出しました。もともと私はリスクマネジメントや社長の側近の仕事みたいなことを、ずっとやっています。
その中の1つに、将来うちの幹部、場合によっては社長になれそうな人を「ピックアップしてくれ」という仕事があります。ライン(基幹業務の遂行部署)の人、あるいは普通の人事の人に任せていると、誰がいいかがわからないので。今日、参加しているみなさんがどういう会社かちょっとだけ見たんです。もしかしたら、僕がやったことがある会社もあったかと思います(笑)。それはちょっと置いておきまして。
幹部や社長候補を早めにピックアップするというのを長くやらせてもらっていますが、その時に「どんな基準で、どういう人をピックアップするか」がベースとしてあります。ただ、それだけ書くと私の、あるいは今までお付き合いした会社の状況に限定されてしまうので、基準が偏る可能性がある。その時に、日本経済新聞に「私の課長時代」という連載があります。
井上:ありますね。
秋山:社長さんが課長時代をどう過ごしたかという連載で、本にもなっています。その本の中身と、取り入れられるだけの「私の課長時代」を集めて、どんな動き方をしたら、あるいはどんなことを考えて動いたら社長になれたのかを、ぜんぶ調べて条件にしたんです。
井上:なるほど。社長になった方なので、メディアに取り上げられるような活躍されている方ですよね。「私の課長時代」の情報から得た、その方の課長時代の共通項を調べたと。
秋山:そうなんです。これをすごく真面目にちまちまと、ひと夏ぜんぶそれで潰したような(笑)。将来社長や役員になる人は、どんな力を持っているかをまとめたのが、『社長が〝将来〟役員にしたい人』なんですね。最終的に本では「25の習慣」になっているんですけど。編集の段階でいろいろ読みやすさを考えて、私がもともと思っていた思考フレームとは違って特性に寄せています。
秋山:今日お話しするのは、この本を書く際に作った最初の企画書です。たまたま発見したんですよ。びっくりしたんですけど、「役員になる人は、最終的にはこの3つの力を持つんだ」と書いてあって。それが「構想する力」「良い情報を集め判断する力」「遂行する力」と書いてあったんです。さっきの経営者JPさんの5つの力があったじゃないですか。5つの力のうちの3つとまったく同じなんです。
井上:「診断の項目に揃えて作ってくださったんだと思いました」と事前にお話ししていたんですが、そうではないんですよね。
秋山:揃えてないんです。「あれ、一緒じゃん!」って、僕がびっくりしました。
井上:5つの因子の中の特に骨格となる3因子「構想力」「決断力」「実行力」と重なると。それをレバレッジさせていくのが、あとの2つの「リーダーシップ」と「学習習慣」という分析を僕らはしたんですけど。
秋山:あるいは、井上さんと私の生存領域が同じだったからかもしれません。ただ、僕はリクルート時代はリクルートの仕事をしましたけど、その後は、製造業の仕事や海外にも進出している会社、外資や財団法人とかいろんな仕事をしました。リクルートは重なっていますけど、井上さんと僕でものすごく重なりがあるかというと、そうでもないと思うんですよね。なので、こういうのはある意味、ユニバーサルな感じかなと思いました。
秋山:問題は、この3つの力は最終的に身につける力なんですよね。このような力が実際に身につくためには、若手の頃や30代、40代の頃に、日々どのような思考様式や行動様式を持って仕事をしたかが重要になる、と思っています。それをまとめていきましょうというのが、この本のもともとの企画でした。
したがって、それぞれの構想力、良い判断力、遂行力を最終的に高める人はこんな動きをしていますよ、ということが書いてあります。
将来「構想する力」を持つ人が、いったいどんな思考様式や行動様式を持っているか。ちょっと読みますね。
1つ目が「視界が広いのではなく、広くなっていく人である」。2つ目が「出羽守ではなく、異なる価値体系を理解できる人である」。Google「では」とかエストニア「では」とか、(他者の例を引き合いに出して物事を語る人を)「出羽守(でわのかみ)」と言いますね。
3つ目は「今を見るだけではなく、歴史的必然を見る人である」、4つ目は「総合ではなく、統合できる人である」、5つ目「偉い人の追従ではなく、持論を臆せず表明できる人である」、6つ目「他者からの評価に依存せず、自己を定義して動く人である」、そして7つ目が「どうするかではなく、何をするかを考える人である」としています。
まとめとしては、今自分はどの領域で仕事をやっていて、どういうアウトプットが最適かという「空間認識」がわかっている。そして、どんな時間スパンで考えるかという「時間認識」。その上で、「自己認識」がちゃんとできる人。それゆえに自分なりの「世界観を構築」することができると。かつ、その可能性がある人は、だいたいこんな行動をしてますということが書いてあります。
井上:なるほど。
秋山:ぜんぶ説明すると何時間でもできそうですけど。例えば、1つ目の「視界が広いのではなく、広くなっていく人である」は、本の中に書いてあるのがそこそこわかりやすいので、ちょっと読みますね。
「視界が広い」は、もともと視座が高くて、いろんなことをいっぱい見ているみたいな感じですけど、そんな天才的に、最初から視野の広い人間なんかいないんです。ただ、仕事をやればやるほどどんどん視野が広くなっていく人が現実に存在している。そういう人はぜったい将来、構想力を持てますよ、という感じです。
「仮にあなたが、これまで使ったことのない新しい材料を購入するという仕事を与えられた場合を考えてみましょう。最初に行うことは、いろいろな材料を探し、試すことでしょう。
次に、それらの代替品がどんな地域で作られるのか。安定供給は可能なのか。品質を安定させられる管理体制ができているのか。どんな工場で生産しているのか。その国のカントリーリスクはどうか。ロジスティクスは効率的か。
通貨は何を使うか。現地の取引先企業のマネジメント体制は大丈夫か。相手側企業が政治関連の汚職に巻き込まれるような問題はないか。地域住民との関係はどうか。こうした山のようにある検討課題に目を向けるのです」。
その上で、「もし自分のお金をかけるオーナー社長だったら、当たり前のこととして上記のようなことをすべて考えます。そして、伝聞情報だけでは危険なので、現地に足を運んで自分の目で確かめようとします。本気の仕事とはそのようなものだからです」と。
ここでタイプが2つに分かれます。できる人は何が違うのか。
「この時、上記のような懸念事項をさまざまなルートを使って自ら調べ、いくつかの選択肢を用意し、自分なりの評価軸をもとにどの材料をどこから買うべきかを提案する社員と、ただ取引先、例えば商社に問い合わせて、相手に代表的な材料をよくあるスペックで評価付けさせ、『いや、安くて良いものを見つけました。これでいいんじゃないでしょうか』と済ませようとする社員がいます」。
「結果的に同じ材料が採用されるとしても、自らわざわざ調べた社員と商社に評価表を出させただけで済ませた社員では、3年後にはまったく別人になります。10年後には埋めることのできない差がついていることと思います。前者なら、当該国の治安が急変しても、すかさず代替品が調達できます。材料を調べていくプロセスで、多方面との人的ネットワークや対応の知恵が生まれているからです」。
「一方、後者なら取引先、商社に連絡して、『どうにかしてくれ』と頼むことになるでしょうが、競合も含めて同じ行動をとるため、こちらが先方にとってよほどの得意先でない限り、代替品は回ってこないでしょう」。
引用はもうこれぐらいにします。
秋山:これは、今回のコロナで明確に起こったことなんですよ。これは調達の話ですが、ちゃんとこういうかたちでしっかりと自分の足、自分の頭で考えて、きちんとやってきたところは、今の調達先がダメになった時に二の矢、三の矢がある。それでパパッと手を打って、どうにか調達できたんです。
今は時短の時代だから仕方ないですけど。結局商社に頼んで「良いもの」と選ばせていた人は、商社がポジティブな時は、商社同士を競い合わせて「安いもの」を選んでいるんですよ。でもコロナ下では、何も手立てが打てずに、部品調達ができずに止まってしまうという状況になっているんですね。
自分でやっていると、それぞれの領域のいろんなことに対してしっかりと調べますし、調べると興味が湧きます。そうすると、いろんな情報ルートもできるので、気がつけば視界がどんどん広がるんですね。こういうやり方できちんと仕事を積んでいく人は、何かあった時に頼りになりますし、何かあった時に頼りになる人こそが、やっぱり幹部なんです。
構想する力を持つためには、本当の意味でちゃんと仕事をやり続ける意識と行動を持つ人でないとダメだということですね。今回のコロナで、あらためて感じたと思います。
井上:おっしゃるとおりだと思いますね。外部丸投げの話もそうだし。あと、ありがちかなのがテンプレート主義というか、汎用企画書頼みになってしまうとか。
秋山:会社としてはそういうのをちゃんと作って標準化できると、底上げはできるんですけど。
井上:大事なんですけどね。
秋山:底上げは悪いことではないんですけど、底上げで満足していると困りますね。みなさん仕事が忙しいので、ぜんぶがぜんぶできないにしても、自分が興味を持ったことは突っ込んで調べるということをやり続けると、20年も30年も経ったら別人になりますよ。
井上:差はつきますね。このへんは学習力と相関がすごくあります。
秋山:そうですね。構想するためにはいろんな情報が必要です。そういう面でいくと、視界の広さ、情報網あるいは誰を知っていて、どんな人からどんな情報を持ってこれるかが、良い構想をするための必然中の必然であり、重要です。
秋山:もう1つ話しておくと、3つ目ですね。「今を見るだけではなく、歴史的必然を見る人である」。全体的な競争ルールや業界のルールとかって、どんどん変わっていくわけですよね。コンピュータの世界が一番わかりやすいですね。例えば汎用機の時代があって、クライアントサーバーになり、クラウドになったとかね。それに合わせて、全体的に使っているツールから何から全部が変わる。
例えば食品や機械などのハイテクじゃない系のものだとわかりづらいですけど、実際はそれでもやっぱり変わっているんですよね。その時に、「こういう時代を経て、次の時代に入った。次の時代に入ったから、もうやり方を変えないといけないんだ」と言うのが、社長の仕事なんですよ。そういうのって、社長になって突然はできないんですね。
「今はどういうパラダイムの中で生きている」「でも、もしかしたらこういうことがあるかも」など、そういったことをよその業界も見ながら自分なりに考える。「次の歴史はこうなんじゃないの?」ということを考えている人って、たまにいるんですよ。
こういう人を見つけたら、(上層部に)「お願いします」と言って、どうにかこの人に良い仕事をやらせたりします(笑)。それでうまくいったケースが個人的にはあります。
井上:なるほど。これって、原理原則を見ることとはまた違うんでしょうかね。
秋山:原理原則というか、自分たちが社会に対して提供する価値がわかっていれば、今後世の中から求められる状況になりうるのかというシミュレーションができます。そうすると、新しいツールやテクノロジーが出てきたら、「これを使って代替できるな」とか、あるいは「これを使ってさらにポジティブに変えられるな」と考えられるので。
その意味では、自分たちが今どういう世界の中で、どういうパラダイムの中で、どういう位置づけにあるのかがそれなりに明確になっていれば、「時間認識力」がつくんです。だから、まずは自己認識がちゃんとできているかどうかです。それが井上さんのおっしゃる原理原則であれば、そこはそうだと思います。
井上:この前、BtoBのWebプラットフォームで、けっこうレガシーな領域の中で革命に近い構造を起こして伸びている会社の社長さまとお話をして。まだベンチャーですが、けっこう急拡大されている会社です。
その方の話を聞いてた時に、すごいアイデアフルな方だったので、「どういう情報に触れたり、本を読まれるんですか?」と聞いたら、「いや、僕が読むのは歴史書と原理原則。時代の洗礼を受けて生き残ったものだけを読んでます」とおっしゃったんですよ。
そこには必ず、生き延びているだけの通底する構造とか普遍的な要素があるはずだから、「そういうものだけ見ています」とおっしゃっていたのがすごく印象に残っていたので、今パッと思い出したんですよね。
秋山:おそらくその通底する、時代を超えて生き残るものに、自分たちを近づけるためにはどうすればいいかを、常に考えられているんだと思いますね。
併せて、それをやろうと思えば、現象面的にはむしろ、いろんな変化にある程度アジャスト(調整)しないといけない。ベースの部分を守りつつ、自分たちの中で新しい変化をどう作るかを考えられているのではないかと思いますね。
井上:そういうことですね。ありがとうございます。
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