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中村一浩氏 インタビュー(全2記事)

信頼のないチームでは、対話は詰問、雑談は探り合いになる 「納得感のある意思決定」をするリーダーの「話の聞き方」

リーダーも正解を持っていない時代、組織にとってのいい意思決定・悪い意思決定とはそもそもどういうものなのでしょうか。めまぐるしく変化する時代の中で、「いい意思決定=早く決めること」という風潮がありますが、果たして本当にそうなのでしょうか。今回は『なぜ、「すぐに決めない」リーダーが結果を出し続けるのか? 勝手に稼ぐチームをつくるシンプルな3原則』著者・中村一浩氏に、組織にとって納得感のある「解」を導くための方法、リーダーの心得についてインタビューを行いました。

前回の記事はこちら:早過ぎる意思決定は、結果として非効率 あえて「すぐに決めない」リーダーが、より良い解を導ける理由

いい意思決定とは「開かれた意思決定」

ーー単刀直入におうかがいするんですが、中村さんが考える「いい意思決定」とは何でしょうか?

中村一浩氏(以下、中村):いい意思決定は「開かれた意思決定」だと僕は思っています。意思決定プロセスを他者に開いていく、場に開いていくことが大事です。

それができればできるほど、いわゆる集合知という、みんなの考え方を使った意思決定ができます。変化の激しい時だからこそ、集合知を使って多面的に考えて、多様な考えを採り入れた意思決定をすべきだと思っています。

意思決定プロセスを自分個人に閉じることによって、自分が負うものが増えたり、自分の知識・スキルばかりが問われる状況になってしまう。組織がよりオープンになっていっているように、意思決定自体も、僕はオープンにしたほうがいいと思っていて。

それは決めるというプロセスだけじゃなくて、メンバーそれぞれ、自分自身の価値観を通して世界がどう見えて、どう感じているのか、そしてこれからどうしていきたいと思うのかを含め、プロセスを開いていく。それが「対話」じゃないかなと思います。

「対話」の目的は理解すること、「議論」の目的は決めること

ーー最近1on1の機会を増やしている会社がすごく多いと感じる一方で、「対話しているつもりになってしまっているんじゃないか」という指摘もあります。

例えばメンバーから「特に1on1で話したいことがありません」とか、最終的には業務指示に着地したり、詰め会議のようになってしまったりすることがよくあると聞きます。対話がうまく行えていない原因はどこにあるんでしょうか?。

中村:僕自身は対話の研究をしているので、よく「対話って何ですか?」とか「どうすればうまくいきますか?」って聞かれるんですけど、わかりやすくなるように「対話」と「議論」を比較しながら説明しています。

対話の目的は「理解する」ことなんですよね。一方で議論の目的は「決める」ことなんです。なので意思決定に近いです。

でも、よりよい意思決定をするにはお互いの理解が必要になる。僕の考えでは、本来1時間の会議があれば、議論はラスト5分でいいんですよ。

ーー決めるための会話は5分でいいということですね。

中村:そう。でもみなさんは逆で、議論が60分のうちの55分で、残りたった5分でアイスブレイクのように対話しようとしているんです。

不信感からの対話は詰問になり、不信感からの雑談は探り合いになる

中村:理解するというのは、やはりお互い分かりたくて、もっと知りたいと思って、対話するんですよね。1on1も同じで、お互いの理解を深めるために、あえて別枠の時間をとって、より深くお互いを理解していこう、という話です。

なのに「何かを決める」時間になってしまったり、「話さなきゃ」と思って話し始めても、お互いの気持ちを出せないじゃないですか。だから、話したくないなら、話さなくていいんです。「話さなきゃいけない」と思って話すことが苦しさを生んでいるんじゃないかなと僕は思います。

ーーリモートワークで雑談が減ったので、「もっと雑談を増やしてください」と指示されるという会社もあったと思いますが、強制される雑談や対話は、あまり効果がないんですね。

中村:まさにそうですね。雑談や対話は話したくて話す、聞きたくて聞くものなので、まずそこは強制されるものじゃない。

「議論」や「対話」と比較して言うと、「雑談」の目的は「関係性を築くもの」です。要は「おはよう」とか「何してるの」という会話があるからこそ、最低限の関係性のベースができる。そして、お互いのことをもっと知りたいからこそ対話をする。そしてその上で、ちゃんと議論をして決めようというステップなんです。

そのすべてに通底するものに、僕はいつも「信頼」があると思っています。逆に不信感からの対話は詰問になり、不信感からの雑談は探り合いになります。だから、そこに対する「信頼」があるかどうか。要は、メンバーなり組織なり仕事を信じることが大切だなと思います。

相手に信頼して欲しければ、まずは自分から開くこと

中村:信じるということは、「行為」でもあるけど、自分の「姿勢」でもあるんです。自分から相手に対して自分を開くことによって、それに呼応するように、相手からも生まれてくるもの。僕が閉じていて「ちゃんと信頼してください」って言われても、相手は信頼できないし、心を開けないと思うんです。

僕が(研修などで)管理職である上司側に求めているのは、まず「無理に話さなくていいよ」と。強制でするものではないので、したくないならしない。やめることも大事です。

そして話すのであれば、自分から率先して心を開かないと、相手が心を開くわけはない。「開いているふり」は、絶対に相手に伝わります。自分が心を開いた範囲で相手も開いてくれるので、それをちょっとずつ繰り返しながら開いていけばいいんじゃないかなと思います。

ーーなるほど。

仕組みを作ったら、常に更新し続けること

ーー部下を信頼して、積極的に「知りたい」という姿勢を示せる方も多いと思うんですけど、どうしても上司や先輩としてのプライドや立場が邪魔してしまうのかなとも思うんです。自分を「開く」ためのマインドセットがあれば教えていただきたいです。

中村:そうですね。その前提として1個お伝えしておくと、今の話は、対話をする時にお互いの思いを大事にしてほしいし、対話するんだったら心を開いたほうがいいよということです。だから、僕は無理に対話はしなくてもいいと思っています。

(どちらかというと)ちゃんと仕組みを作る、ルールを作る、役割を作るっていう“ガワ”、つまりは(意思決定のための)仕組み・仕掛けをちゃんと作ることに意識を向けてもいいんです。そのほうが感情とか人の気持ちを排除していけるので、属人化しないという良さがある。

その代わりに、仕組み・仕掛けは変化に対応しづらい。もしそうするんだったら、仕組み・仕掛けを常に更新し続けない限りは、現状に合ったものになっていかない。

みんな楽をしたいから仕組み・仕掛けを作るんですけど、更新しないんです。そんな姿を観ると、僕は、間に挟まれた人、つまりは管理職に責任を押し付けている、という構図に見えてしまいます。

仕組みは、環境の変化を後追いするかたちで変わっていくので、時間軸のずれがあるんです。そのずれを修正する時に、やはり管理職の人の物理的・心理的なバッファ(余裕)が必要です。そして、その人がより良く環境を理解するために、より良く指針を作っていくためには、やっぱり周囲の人に対して意思決定のプロセスを開いたほうがいいんです。

ーーなるほど。

「受け取る」と「受け入れる」のプロセスを分ける

中村:その時のある種のコツをお伝えします。これは本にも書いたんですけど、「感情を理解しよう」「共感しよう」「気持ちを分かち合おう」とか思うとしんどい。そうではなく、淡々と事実を知るということで、僕は十分だと思うんですよね。

『なぜ、「すぐに決めない」リーダーが結果を出し続けるのか? 勝手に稼ぐチームをつくるシンプルな3原則』(日本実業出版社)

ーー書籍では「判断を保留する」という言葉で書かれていたと思います。その「保留をする」がなかなか難しい部分かなと思っています。リーダーが相手の話を聞く時のコツがその「保留」だと思うんですけれども、もう少し詳しく、中村さんがお考えになっていることをおうかがいしてもよろしいですか。

中村:そうですね。僕自身は聞く時のステップを2つ置いています。「受け取る」というプロセスと、「受け入れる」というプロセスに分けているんですね。この「受け取る」は必ずすると決めています。できるかどうかは別にしても、来たものはまず取る。

ーーそのままを受け取るということですね。

中村:「あなたはそう思うんだ」ということですね。それを受け入れるかどうか、(自分の)中に入れるかどうかは自分の判断なので、「受け入れたよ」という時もあれば「ちょっと受け入れられないな」という時があっても、僕はそれを当然だと思うんですね。

まずはこの「受け取る」と「受け入れる」のプロセスを分けたほうがいい。そして、「受け取る」ということは、いつも意識したほうがいい。(こうやって)手に取ってみると、見やすいと思うんですよ。「どんな形をしているんだろう」「どんな匂いだろう」「どう見える?」と聞いたり。これがいわゆる観察だと思っています。

観察すると、「これはちょっとしんどい」とか「いいな」とかがわかる。そして、時には受け取るのがしんどい時もある。そういうときは(身体的なイメージでいくと)ちょっと横に置くんです。視界に入っているけど、端のほうにあるという、そんな感じで脇に置いておく。

ーーど真ん中には置かないでおく(笑)。

中村:そう。相手は、自分が話したことを受け取りもせずに保留されると「何もされていない」と思っちゃうので拒否反応が出やすいんです。けれど、一度受け取ったうえで、「こういう理由で保留させて」と言えると、相手も納得しやすいんですよね。寝かしっぱなしじゃ怒られますけど、いったん保留という意味ですね。

人は身体化したものでないと理解しづらい

中村:そうして、仕事をしたり日常生活を送っていく中で違う視点や考え方が入ってくると、「そういえば、ありかも」とか「ここはできるかも」という時が急にやって来る。それが時間を置く、寝かせるという意味だと思っています。人とのやりとりにおける智慧として、そういう時間を持ったほうがいい、と僕は思ってますね。

判断をする時は、さっき言ったように「これは価値観として受け入れられないからステイ」という感じで(笑)。でも完全にどこかに投げるんじゃなくて、自分のテーブルの片隅に必ず置く感じのことをしていますね。

ーー客観的に見るということですか?

中村:「メタ認知」とか「客観視する」という言い方は概念としてはわかりやすいんですけど、僕のこだわりとして強調しておきたいことがあります。それは、人は自分の身体化したものじゃないと理解しづらい、ということなんです。

今言った「手に取る」は、ただの言葉遊びや言い換えのように聞こえるかもしれませんが、そうではありません。僕にとっては、とても重要な違いなんです。なぜか。それは、その言葉が、身体をつかった行動と繋がっているかどうか、を表しているからなんです。

例えば「コンセプト」という言葉があった時に、「それは『概念化』です」と言われても「何なんだろう?」と思います。でも、「物事のへそにあたるものです。お腹のへそと一緒です。」と言えば、「へそ?あ、身体の中心にあるものね。なるほど。」となる。

「概念化」と「へそ」では、だいぶ受け取る意味が違ってくると思うんですよね。そして、へそと言われたほうが、自分の体に落ちてくる。もし「へそ」じゃなくて「心のど真ん中」って言われたら、またイメージが違うじゃないですか。なので、僕はこの「身体化」が大事だと思っています。

話すときは、自分の体に引き寄せて体で覚える

ーーなるほど。確かに「客観的に見る」と「手に取る」では印象が違います。最近思うことなのですが、私を含めたビジネスパーソンのみなさんが、忙しすぎて頭でっかちになってしまっているところがあるのではないかと感じています。

中村:本当ですね。

ーー難しいビジネス用語を使って、空中で物事を考えてしまうので、地に足が着かなくなってしまっている。今の身体化の話はまさにそれかなと思いました。

中村:今、「空中戦で地に足が着いていない」っていうのもまさにそうで。体で言ったんですよね(笑)。そのことを大事にしてほしいんですよね。

ーー本当ですね(笑)。これは、意識すればできるようになるんですか。

中村:自分の体に引き寄せて体で覚えることを、僕はけっこうトレーニングしています。例えば「『話す』って何ですか?」と聞いた時、みんな「話す」のジェスチャーをするんですけど、全員違うんですよ。投げる人もいればこういう(手を広げる)人もいたりとか。

ーー同じ言葉でも、いろんなイメージがありますね。お互い抱いているイメージが違うから、体で表現して意味合いのすり合わせができるんですね。

中村:まさに。なので「保留」も僕にとっては「横に置く」なんですけど、実は保留自体はsuspending「吊り下げる」という意味の英語から来ているんです。ズボンを押さえるサスペンダーと同じです。「何かを吊るしておいて様子を見る」というのが、suspendingの原語です。

そういう「吊り下げておく」と考える人もいれば、僕のように「横に置く」という人もいる。体で考えて覚えていくことが大事かなと思いますよね。

ーーありがとうございます。身体化は、対話するときにぜひ活かしたいです。

不満の感情が顔に出るのは「納得していないサイン」

ーーリーダー側は開いたほうがいいというお話でしたが、メンバー側の開き方についてもおうかがいしたいです。実は恥ずかしい話、私は感情が顔に出やすいタイプなんです。

中村:(笑)。そうなんだ。

ーー以前勤めていた会社で、上司に「ビジネスマンたるもの、感情を顔に出してはいけないよ」と叱られてしまったことがありまして……。

中村:その上司の方はなんで感情を出してはいけないと言ったんですか?

ーー具体的に言うと、その上司ではなく、別の人に「こうしてください」と言われた時に、私が納得できなかったんですね。「なんでそうしなきゃいけないんだ」と思ってムッとしてしまった。それが顔に出ていて、上司から「相手に失礼になっちゃうよ」という指摘が入ったんです。

本当は納得がいくまで質問すれば良かったんですけど、まだ私も「上の人に質問する」という経験が少なくて(笑)。言われたからやらなきゃいけないけど、でも自分は納得していない。そういう背景がありましたね。

中村:今の話だけを聞けば、僕からするとそれは指示されたメンバーが理解をしていない、納得していないサインを出しているだけで、むしろすごくいいものだと思います。

納得していないまま行動しても、モチベーションは上がらないし、いい成果は出ないじゃないですか。成果を出さなきゃいけないのであれば、「どこが納得できないのか?」を知る手掛かりになります。

メンバーの感情のコントロールがうまくて、納得していないのにそのサインを出さなかったら、リーダーはそれを見逃しちゃいますよね。だから僕は、感情を出してもらったほうがいいと思うんです。

ビジネスマンとして感情を抑えるのは、結果的に非効率

中村:けれど、その場ですぐに決める、その場で指示して早急に終える、ということに対しては、感情を出さないほうが楽だし効率的です。だから、みんな出さないようになる。でも、最終的な成果を出すためには本人が納得して行動して、その行動を持続してもらわなきゃいけない。

そうやって時間軸を延ばして考えてみると、一時的に感情を抑えたほうが一見効率的だけど、結局納得してなくて、行動が持続しないので、結果として成果が出づらく、非効率なんですよね。感情が出てくるとややこしくなるので、みんな目の前の、一見効率が良さそうな対処のために、感情を抑えているだけなんです。

でも、最終的には、ちゃんと納得して、腹落ちしてもらってからのほうが成果が出るとわかるんだったら、一時的なコスト増かもしれないこのコミュニケーションをちゃんとしたほうがいいんです。

多くの組織において、一時的なコミュニケーションコストを下げにいくんですけど、結果的にめちゃめちゃ非効率、非効果的なんじゃないかなって僕はいつも思っています(笑)。「やる気・モチベーション」を上げたいと言ってるのに、やっていることは逆というか。

ーー(笑)。

相手と一緒に「喜ぶ」ことが、自然とチームのモチベーションを上げる

中村:ポジティブな感情を上司から出してもらうとモチベーションは上がるじゃないですか。例えば、「それ、すごくいい決定いいですね」と言われたら、普通にうれしいじゃないですか。

ーー確かに。仕事をしていると、「褒める」ことをついつい忘れてしまいますよね。

中村:僕から言うと、「褒める」よりも「喜ぶ」ほうがいいと思うんです。相手に喜ばれると自分も喜ぶじゃないですか。それで自然とモチベーションが上がるので、行動も促進されると思います。

ーー人と人として、一緒に喜びをわかちあえるチームになると、メンバーもリーダーも仕事がやりやすいですよね。みんなが納得して、最大限のパフォーマンスを発揮するための意思決定に「対話」が必要だということがよく分かりました。改めて、ありがとうございました。

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