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基調講演 アワード受賞企業・大川印刷に学ぶ SDGs経営実践の秘訣(全2記事)

明日あなたの会社がなくなったら、困る顧客はいますか? 「替えが利かない」存在になるために、企業が準備すべきもの

中小企業に対するSDGs経営の推進を目的に、名古屋青年会議所の主催で開催された「SDGs経営フォーラム」。同イベントの基調講演に、2018年に「ジャパンSDGsアワード」で特別賞を受賞した大川印刷の大川哲郎氏、「吉本興業のSDGs課長」とも呼ばれる次長課長の河本準一氏が登壇。本記事では、大川印刷がパーパス策定時に大切にしたことや、従業員の自発性を引き出すための取り組みなどが語られています。

「もし明日あなたの会社がなくなったら、お客さんは本当に困りますか?」

大川哲郎氏(以下、大川)さっきの河本さんの話に戻しますと、お笑い芸人さんとして必要とされることって、我々も同じなんですよね。企業として必要とされるということで、パーパスの話をちょっとしてみていいですかね。

河本準一(以下、河本):パーパスはワインじゃないですよね。

大川:ワインじゃないんです(笑)。

河本:ないですね、すいません。ちょっとわからないです。

大川:私はあまり「SDGs、SDGs」と言いたくないんです……。何でもSDGsのマークをつければいいといった流行りのようになっていてですね。

河本:(笑)。

大川:そんなところがイヤですが、SDGsの文脈でよく出てくるのが「パーパス」です。日本語で言うと「存在意義」だと思っています。

河本:存在意義。

大川:はい。芸人さんや企業にとって、パーパスとは何かなと。私が30歳ぐらいの時に出た経営セミナーで、「あなたの会社にとって使命とは何か」という話が出たんですね。芸人さんだと、個人かもしれませんから、「あなたにとって使命とは何ですか」と聞かれたら、何と答えますか?

河本:うーわ……。

大川:重たいですよね(笑)。

河本:「人に笑顔を与えること」が使命じゃないかなと。

大川:なるほど、いいですね。そのセミナーで私はこう言われたんです。「もし明日あなたの会社がなくなったら、お客さんは本当に困りますか?」と。それを聞いて、「どひゃー」となりました。これは厳しいなと。

河本:なるほど、厳しい!

大川:私どものお客さんには、10社以上の印刷会社と取引をされている会社さんがあるんですね。その中から大川印刷1社がなくなっても、困らないんじゃないかと思ったんです。

河本:なるほどなぁ。(取引する)印刷会社が1社しかないところって、今はなかなかないんじゃないですか?

大川:はい。いくらでも印刷会社はありますし、芸人さんもたくさんいますよね。

河本:今、コロナで陽性になった人は休むじゃないですか。そういう時に、すぐに替えが利くという。

大川:そうそう。

河本:「僕じゃなくてもよかったんだ」と思っちゃうから、芸人は病んじゃうんですよ。だから「陽性になりたくない」となって、いろいろと問題も起きちゃう。僕が本当に必要とされているかどうかって、いつも疑問に思うというか、葛藤しているところです。

大川:もしかしたら会社の従業員さんも社長も同じで、替えが利くんじゃないのか。逆に言えば替えが利かない、「あなたが必要なんです」とお客さんに言ってもらえると、本当に「やっててよかった」ってなると思うんですよね。

河本:なります。

大川:そういうふうにしたいですよね。

本業を通じた社会課題の解決を明確に示す、大川印刷のパーパス

大川:企業のパーパスでわかりやすいのは、Googleの「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにする」ですね。

本当にあった話かどうかはわからないんですけど、「Googleマップをやるぞ」となった時に、Googleはパーパスに立ち返ったんですって。Googleマップという事業が、パーパスに合っているのか、「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにする」から外れないものかって。それで「これは間違ってない。やろう」となったと聞いたんですけども。

河本:常にど真ん中にパーパスがあって、これに当てはまらないものは違うんだと。

大川:はい。存在意義からブレたことをやっちゃダメだということだと思うんですね。

河本:なるほど。そこに当てはまらなかったら外していく……。

大川:あるSDGsの推進をされている方に聞いたんですけれども。「日本の企業は、どこの企業でも言えることを掲げる企業が多い」と。特に理念とかそうですよね。「地球にやさしい〇〇工業」とかあるじゃないですか。

河本:(笑)。ありますね。

大川:そこで私どもは、2004年に「ソーシャル・プリンティング・カンパニー」という言葉を生み出して「社会的印刷会社」をパーパスにしたんですね。要するに本業(の印刷業)を通じて、社会課題解決をやっていくぞと。

河本:「会社のイメージは何ですか」となった時に、けっこう似通ったイメージの会社ってありますもんね。

大川:そうですよね。うちもそうだったんですけども(笑)。ホームページとか見ても、クリーンなイメージでブルーとか、横浜だからブルーとか、環境だから緑色とかってやっちゃうわけですよね。(今)うちは真っ黒なんですよ。

河本:遠浅にして全部をさらおうという考えですと、逆に全部がパーパスに当てはまりすぎちゃって(新事業やサービスの)精査ができなくなる気もします。だから、ピンポイントに「こういうことをやります」と言ったほうが良いのかなと。

大川:ほかにないパーパスを考えるのは、価値があると思うんですよね。

河本:考えるだけでも、おもしろいです。ワクワクします。

「他人ごと」を「自分ごと化」するためのワークショップ

大川:それを従業員さんと一緒に考えられると、一体感を持てるんですよね。実際に、うちの会社でどうやってみんなで考えたかというと、先ほど動画に出たようなワークショップをやって、この4つの質問をみんなで繰り返し考えました。

上に書いてある部分が大事です。(SDGsの目標達成に向けた取り組みを)「どこかアフリカの話でしょ」とか「東南アジアの話でしょ」と、他人ごとにしないためには、どうしたらいいか。要するに「他人ごとを自分ごと化するには、どうしたらいいか」ということです。

ここにお集まりのみなさんもそうだと思いますが、個々の経験ってみんな違いますよね。生まれた場所も経験も違う。その違いを認め合いながら、個々の経験から湧き上がる課題や希望を原動力にする。それがこのワークショップの狙いです。

話し合ううちに会社の話だけでなく、「うちは共働きでけっこう大変なんだよね」「子どもがちっちゃくて熱を出しやすいんだよ。でもカミさんも働いてるから預けられなくて……」という話が出ました。「じゃあ、本当に働き方改革をやらなくちゃダメじゃん」となって、「働き方改革プラス」というプロジェクトチームを作って、時間休を取れるようにするといった活動をしています。

河本:独身だけのメンバーで集まったら、絶対に出てこないような課題じゃないですか。

大川:確かにそうですね(笑)。

河本:いろんな従業員の方々と話し合うことで、気づかない部分をいかに他人ごとではなく自分ごとにして、かつそれをどう会社や生活に活かしていけるか。

大川:そうですね。でもたぶんその話を聞いていた独り者の若者も、「結婚したらこうなるんだなぁ」と想像できると思うんですよね。

河本:気づきますね。

大川:トップダウンで「働き方改革やるぞ」と言われても、「はい、そうですか」みたいな感じになって、やらされ感が出ちゃうと思うんですよ。

社内の取り組みで、従業員間に漂う「やらされ感」の正体

河本:どうしたら、社長だけではなく従業員の方々みんなの取り組みになるんでしょうか?

大川:実は青年会議所の活動を活かして、プロジェクトチームを単年度制にしているんですよ。何かチームを立ち上げても1年でやめます。壊して、また新しいチームを作るんです。

河本:1年で終わると最初に言うんですか?

大川:はい、それがルールです。青年会議所もそうです。そういうやり方で常にフレッシュでいられるようにしますが、うまくいく時もあれば、うまくいかない時もあります。委員会と同じですね(笑)。

河本:(笑)。

大川:じゃあどうするのかという質問を多く受けます。今、河本さんが言われたように、どういうふうにみんなでやっていくのかと。あるいは、どうやってこの取り組みを社員さんに浸透させるのかと聞かれます。その時に、「浸透」と言っている限りダメだなと思ったんですね。浸透って上からポチャっと雫が落ちて、地面にじわじわ染み込んでいく感じで、上から目線になるので。

河本:(社員からすると)「何かが落ちてきたなぁ」ぐらいですね。

大川:そうですね。「濡れちゃった」みたいな感じで、やらされ感たっぷりになっちゃう。そこで、浸透じゃなくて「共感・共有」だなと思ったんですね。ちょっと時間も限りがあるので簡単にお伝えすると、「クレド」という信条ですね。困った時に立ち返る考え方を13個作っているんですけども。これを社員さんが自由に選んで、好きな色で刷って「自分の名刺に入れていいよ」としています。

河本:おもしろいなぁ。洋楽のアルバムみたいでかっこいいですね。

大川:ブラックミュージックが好きなんで、こういうふうにしたんですけどね。これでもまだ十分じゃないかもしれませんが、自分たちでやりたいことが選べる機会を増やすのも、自発性を引き出す工夫だと思いますね。

河本:組織として団結し、まとまったほうがいいのか。それともトップの方々が個性を引き出してあげるのか。理想でいくとやっぱり今は後者ですかね。どうやってうまく個性を引き出していくんでしょうか。

大川:なかなか難しいんですけども、従業員さんがやりたいことを出せるような、さっきのワークショップであったり、あるいは若い人たちの意見を少しでも取り入れ、我々も敏感になれるようにインターンシップの受け入れに力を入れてみたりとかですね。

インターン生に仕事を「やらせる」という考え方ではなく、インターン生がやりたい・やってみたい社会課題を聞いて、(その解決に向けた取り組みを)インターシップ期間内にやってみてもらうとかですね。それは従業員さんも刺激を受けますよ。

河本:めちゃめちゃ受けますよね。うまいやり方だと思います。

これからは「環境にやさしい」ではなく「環境に正しくて楽しい」へ

大川:せっかく今日お呼びいただいたので、最後に「SDGsがこれからどうなっていくべきか」をお話したいと思います。これは冷静に考えなくちゃいけないと思うんですね。地球の将来はかなり厳しいと、「あと10年で取り返しがつかないところまでいってしまう」と言う科学者の人もいるんですね。

経営の持続可能性は、地球の持続可能性次第です。そこがわかれば、自ずとどういう行動が必要かもわかってくると思うんです。ここは河本さんとぜひ共有したかったんですけども、「環境にやさしい」という曖昧な考え方や行動は、もう通用しなくなっているわけですよ。

河本:もう効かないんですよね。

大川:「バッジをつけていれば環境にやさしい取り組みをしている」「SDGsやっている」という状態は、もう古いと思っていて。

河本:バッジをつけてらっしゃらないですよね。

大川:もうつけるのやめたんです。それで、これからは「環境にやさしい」ではなく「環境に正しい」。この「正しい」は、スウェーデン人のテオさんという僕の知人が教えてくれたんですけども、科学的根拠に基づく考え方や取り組みを展開していかないとダメでしょうと。

でも、それだけではダメだと言ったのが……日本環境設計さんっていう会社の岩本(美智彦)会長さんです。「環境に正しいだけではダメです。楽しくなければダメです」と言われたんです。(正しいだけでは)続かないってことですね。

河本:まさにそのとおりだと思います。「持続可能な」っていうところもあるし、続けていくことに意味があるので。1回ゴミを拾ったとか、お水を1回止めたということじゃなく、取り組む時に自分がまず楽しんでいないと始まらないんですよね。お笑い芸人は特になんですけど。

子どもたちが家に帰って、それ(お笑い芸人に聞いたSDGsの話)を話題に上げてくれて、楽しく家族が話をしてくれればいい。それが僕らの使命かなとも思っているし、ここはやっぱり社長と共感・共有したい部分です。

バッジなんかつけてる場合じゃなかった。すいません、俺もバッジ外しますわ! めちゃめちゃ恥ずかしくなってきました。今日東京駅からつけてきたのに。

大川:いえいえ(笑)。きちんと行動できている人はもちろん(バッジをつけて)いいと思うんですけどね。

河本:僕バッジつけて、リクライニングも倒さずに今日こうやって(姿勢を正して)来たんですから。意味が違いましたけどもね。

大川:(笑)。

子どもたちにSDGsを伝える、河本準一氏の取り組み

河本:(「『環境にやさしい』ではなく、『環境に正しい』。そして『楽しい!』へ」という)この思いは、社長も絶対持って……。

大川:本当にそう思うんですよね、やっぱりちょうど……まだ大丈夫なの?

司会者:それがですね……まだまだお話をうかがっていたいんですが、お時間がそろそろ! すいません大川さん、お時間にまでお気遣いいただきまして(笑)。

河本:すいません、私がまったく時間に気づいてなかったです。社長の話がおもしろすぎて。

大川:(笑)。

司会者:ぜひ最後に一言ずつ、みなさまにメッセージなどいただければと存じます。どうしましょうか、どちらがよろしいですか?

河本:僕から。

司会者:じゃあ河本さんから、お願いいたします。

河本:僕は企業ではなく、個人でできることもあるんじゃないかと思って、お笑いを交えてやっているんですけど。難しい言葉で、説明しなきゃいけないモードで入っちゃうと、子どもが離れてしまうんですね。

先ほど社長が「2030年まで」と言われましたけど、(子どもたちには)それどころじゃなく前倒しで、地球がかなり高熱で病気になっているんだよと。自分のなりたい職業がお医者さんじゃなかったとしても、(取り組みをすれば)明日から地球を治せるお医者さんになれるんだと。そのお医者さんになれる資格を持ちたくないか、というような言い方をするんですよ。

自分が住んでる地球が熱いと言ってるんやったら、自分たちで治しませんかという言い方をして広めていっています。企業の方々にご説明する話とは違うかもしれないんですけど、個人でできるレベルもそろそろ変えていかないとですね。

2100年に気温が44度にもなるという数値も出てきてるし、フードロスの問題もある。農業のことを理解してない方がたくさんいるなら、僕はお笑いの力で日本のみなさんに、これは発展途上じゃなく先進国の問題なんだということを伝えていきたいと思っております。以上です。

大川:ありがとうございます、拍手(笑)。

(会場拍手)

SDGsを「大衆のアヘン」にしない

大川:ちょっとプロジェクターの資料にもう1回戻してもらって、それをお話しして最後にします。これは今日聞いてくださっているみなさんにもお伝えしたいことで、こういったグローバルゴールズに向けてみんなで動いていくにあたって、注意しなくてはいけないことがあると。

それは先ほど申し上げたように、SDGsが流行のようになってしまっている中で、誰のため、何のためにやっているのかを外さない、忘れないということだと思うんですね。

去年の6月にこの写真にある「大川、SDGsやめるってよ!?」というイベントをやって、『人新世の「資本論」』というベストセラーを書かれた斎藤幸平さんという方に来ていただいて、討論をしたんですね。

その時に斎藤幸平さんが言っていたのが、「何か小さいことをして満足し、すぐに動かなければいけない本当に大切なことをしない」ということが起きてしまう。だから「SDGsは大衆のアヘンである」と言い切ってらっしゃったんですね。

これは僕もドキッとしたんですが。確かにここに書いたようなセミナーをググってみると、「誰一人取り残さない」がSDGsの基本理念なのに、どこかの銀行は「SDGsは生き残りをかけた緊急の課題」とか言っている。誰かが生き残れば誰かが死ぬわけですよね。これ、笑えますよね(笑)。ということで、みんなで誰のため、何のためにやっているのかを外さないで行動していきましょう。以上です、ありがとうございました。

河本:ありがとうございました。

司会者:どうもありがとうございました。

(会場拍手)

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