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第一部「篠田真貴子氏講演」(全2記事)

仕事に対する「内発的動機づけ」は最初からなくてもいい だんだん「自分ごと化」させていくために、許したい3つの“ワガママ”

組織課題に当事者意識を持ち、変革を自ら進めていく“自律型人材”の育て方について、年間1万セッション以上の「1on1」を提供する「YeLL」に溜まった知見をもとに、エール代表取締役 櫻井将氏と、『LISTEN――知性豊かで創造力がある人になれる』を監訳されたエール取締役 篠田真貴子氏が登壇されたイベント「"社員の内発的動機を高める"組織づくり」。本記事では、第一部の篠田真貴子氏の講演の模様をお届けします。

ビジネスで問われている、外発的動機の「自分ごと化」

篠田真貴子氏(以下、篠田):じゃあ実際仕事をする場面で考えると、「一番右の内発的動機でなければ駄目よ」というのは、やっぱりちょっと現実的ではないなと個人的には思いますね。要は動機の源泉を、少しでもいいから内側に持つだけで、十分ではないかと思うわけです。

ではそういった、「外発的動機だけど、より自分に引き寄せられている状況をどう作るか」というのが、ビジネスの世界で我々に課されている問いなわけですよね。これも研究でわかっていることですが、基本的な心理欲求が満たされると、この外発的動機付けを自律化、つまり自分ごとにしやすくなって、内発的動機に近づくんです。

この基本的心理欲求というのがこの表の左に書いた、「コンペテンス(有能さ)への欲求」「関係性への欲求」「自律性への欲求」の3つ。

一言で言うと、1個目「コンペテンス(有能さ)への欲求」は「できるようになりたい」。2つ目の「関係性への欲求」は「仲良くしたい」。3つ目の「自律性への欲求」は「やりたい」。これは、小さいお子さんをイメージしていただくと、こういう感じじゃないですか。「自分で服が着られるようになりたい」とか「お友だちや家族に甘えたい」とか。

それが大人になっても私たちをドライブしているので、この欲求を満たすことが、実は(外発的動機を)自分ごと化していくのに極めて大事なんです。中でもこの黄色で囲んだ、3つ目の「やりたい」、この欲求を周りがサポートしてあげることがとりわけ有効なんだそうです。

外発的動機を内発的動機に近づける5つの方法

篠田:「これは具体的にどうやるの?」というのを、文献で5つほど列挙してあったのをここに書きました。

1つ目は、傾聴して、他者が自分のやり方で振る舞うことを許容してくれること。「自分のやり方でいいよ」と。

2つ目が、内面にある自分の動機付けの源を育む。周りから見ると「それでいいんだよ」(とか)「何がしたいの?」と問いかけてあげるようなことでしょうか。

3つ目が、情報豊かな言葉を重視する。すみません、文献に書いてあったんですが、どうしても私の理解力では、これが具体的に何を意味するのか若干イメージできなかったので。もし聞いていらっしゃる方の中でご専門の方がいらっしゃったら、チャットに書いていただけると、ここに集まっているみなさんのプラスになって大変ありがたいです。

4つ目が、価値付けを促す。つまり「意義があるんだよ」と。よく子どもが「勉強をして何の意味があるんだ」みたいに言った時に、「意味があるんだよ」ということを理解させる。

5つ目、ネガティブ感情の表出を認め、受け止める。「宿題は嫌だ」と言っても頭ごなしに否定しないで「まあ嫌だよね」と。言わせた上で、じゃあどうするか。こういったサポートが、外発的な動機付けが自律化する、つまりより内発的になっていくために、周りがやってあげられること。

つまり、今日のテーマである組織、「内発的動機を育む組織とは何ですか?」と言うと、これができている組織ということになりますね。でもね、ちょっと抽象的なので「じゃあ(具体的には)どうするの?」というのがあるんですけど、それは最後にします。

やりはじめないとやる気は出ないし、やる気は伝染する

篠田:その前に、「動機はさまざまある」と申し上げました。今日のメインテーマは「内発的動機」ですけれども、2つほど知っていただきたいことがあります。

1つ目はこれ。「やり始めないとやる気は出ません」。すでにこれは一般向けの本に池谷(裕二)さんが書かれたのは20年以上前なので、脳科学ではもうスタンダードです。

だからこれも、先ほどの内発的動機というのをわかった上で、言ってみればこれって車で言うとセルモーターみたいな感じですよね。まず始めて、続けるのには内発的動機が要る。こういうことなんだと思います。

もう1つはですね、社会的伝染。つまりうつるんですよ。実はこの伝染するものはたくさんあって、感情の伝染とかも、みなさんは直感的にご経験があると思うんですよね。もらい泣きをするとかね。ほら、ジムとかへ行って音楽がわあってかかっていて、みんながワークアウトして「自分もちょっとやってやろう」みたいな気になる。

このような感情の社会的伝染もあるんですけど、実は行動面でも目標面でもあって、さらに内発的動機も社会伝染することが実験でわかっています。時間の都合上、この実験の詳細には入らないんですけれども。

意味合いとしては、「あの人は内発的動機でこの仕事をやっているんだな」と周りが認識すると、その人が発信源だとして、それがその子ども世代、孫の世代(まで伝わる)。例えば部長さん、課長さん、一般社員がいたら、伝言ゲームのように第3層の一般社員までちゃんとうつる。

ですので、組織にいる私たちにしてみれば、特にリーダーポジションにいらっしゃる方を中心に、まずご自身で内発的動機を持っているということがすごく大事だということがわかります。

仕事のやり方に自分を「ひと匙」入れる

篠田:ここまでをまとめます。やっぱりまずやり始めるといいです。外発的動機付けから入ってぜんぜん構わない。ただ、そこから始まってそこで周りが自律性をサポートしてあげることで、みんなでより内発方向に向かっていくという状況を作ることが、組織ならではの強みになっていくんですね。

しかも内発的動機は社会的伝播をしますので、10人のチームの中で2人、3人がより内発的動機を持つ方向に動くと、だんだん(他のメンバーにも)うつっていく。これが組織における内発的動機付けの姿だと思います。

これをですね、「実際の業務で(具体的に)どうする」ということをちょっと考えたんですね。先ほどリストで5つ(の項目が)あったんですけれども、実はこのうちの1個目、2個目が「ジョブ・クラフティング」という話とぴったり符合するんですよ。

ジョブ・クラフティングとは何かと言うと、すごくすてきな表現なんですが、決まったマニュアル的な仕事だとしても、その仕事のやり方に自分を「ひと匙」入れること。ちゃんとした定義は「働く人たち一人ひとりが自らの仕事経験を自分にとってより良いものにするために、主体的に仕事や職場の人間関係に変化を加えていくプロセス」。

変化を加える領域は業務でもいいし、関係性でもいいし、認知を変えるということもできます。「本当はあの仕事をやりたかったんだけど、今はこの仕事しかできなくて」というような状況でも、「だんだんおもしろくなってきたな」と変えていける。これが自分をひと匙入れることによって起きますよ、というのが、ジョブ・クラフティングの理論です。

このジョブ・クラフティングの定義を見ると、1つ目の「自分にとってより良いものにする」ということが、自律性を高める動きの中の「内面にある動機付けの源を育む」とぴったり符号します。そしてポチの2つ目の「主体的に変化を加えていくプロセス」というのが「自律性を育む」「自分のやり方を促す」、これとまったく同じことを言っているわけなんですよ。

「ジョブ・クラフティング」の3つのポイント

篠田:若干時間をオーバーしていますけど、「ジョブ・クラフティングって何?」というのを、少しでもイメージを持っていただきたいのでお話ししますね。要は「ちょっとしたワガママ」を自分に許すし、周りも許すということなんです。

例えば1個目の「業務クラフティング」でいくと、これは私ではなくて楽天大学の学長の仲山(進也)さんが20年前に始めた時のエピソードでおうかがいしたことです。楽天大学という楽天に出店している出店者さんに、言ってみればビジネス知識を付けていただくという場を創設する。

つまり「講師をやって」と言われたんだけど、その時、当時の仲山さんは人前で話すのがとにかく苦手であったと。「困ったな。講師なんて絶対できないな」と思って、そこで考えたのが「講師が話さなくていい研修プログラムを自分が作ればいいのだ」と。こうやって業務のかたちを変えて、それが仲山さんならびに楽天大学の個性になりました。

2つ目、「関係性クラフティング」。これは私自身が、昔、外資系の大きい会社で働いていた時の経験なんですけれども、本社がスイスにあって、そこからあるデータをくれという依頼メールが上司を通して私に来たんですね。

人間関係としては、(私はメールの発信)元の人は知らない。でも上司も私に転送しているだけなので、上司に聞いても、これが何の件なのかいまいちわからない。という時に、私は発信元の方に直接連絡を取って、言ってみれば新たに関係性を作ってそこでやりとりをしたことで的確に対応できた。これも私の持ち味でやったということですよね。

職場づくりに効果的なのは「ちょっとしたワガママ」の受け入れ

篠田:3つ目の「認知クラフティング」。これは自分の家庭で起きたことなんですけど、子どもが小学生だった頃に「宿題が嫌だ」とゴネるんですよね。

そういう時に、まず、「今日は先生が『宿題はこれです』と言った時に、何も言わずに『はい』と言って帰ってきたんでしょう? ということは、それはもう先生とすでに約束したことなので、約束は守らねばなりません。だから今日の宿題はやりましょう。でも、明日また先生が宿題を出した時には、『嫌だな』と思ったら先生に『嫌です』と言ってよい」ということを子どもに言いました。

これは子どもにとって「宿題というのは何なのか」という認知をちょっと変える手助けをしたんですよね。やらされるものではなくて、言ってみれば先生と自分が合意するものであると。「自分も何かそこに発言権があるんだ」という認知をサポートしたのかなと思っています。

この「業務クラフティング」「関係性クラフティング」、そして「認知のクラフティング」。この3つが、まさにジョブに自分をひと匙入れる時の3つのものですね。これを自分にも周りにも促すと、周りからのサポートが外発的動機付けの自律化にとりわけ有効である、その「とりわけ有効」が仕事を通してなされるわけなので、内発的動機が促されます。

さらに今言ったプロセスを考えると、定義とはずれるんですけど、実際ジョブ・クラフティングを促す過程で(5つのリストの)残りの3つも起きるので。管理職の方もそうでない方も今日はいらっしゃると思うんですけれども。

実際本当にやろうと思ったら、報奨制度から場作りまでいろんなことはあるんですけど、その中で、それぞれの職場でこのジョブ・クラフティングを認めて促すことが非常に効果的だし、実行もしやすいのかなと思ってお話をしました。

私からは以上です。ここまで聞いてくださってありがとうございました。みなさん動機はどうですか? 大丈夫? じゃあ、ありがとうございます。

福山栄子氏:篠田さん、ありがとうございます。篠田さんご自身の内発的動機のお話から始まって、一同でにやにやしながら聞いてしまいましたが(笑)、本当に自分事としていろいろ考えられる、たくさんのヒントをいただいたと思います。ありがとうございます。

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