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ホワイト企業大賞表彰企業と武井浩三委員との対談 ③鼎談(全1記事)

店長も管理者もいなくても、何十年も続く店舗経営 老舗クリーニング店に見る、自律分散型組織のヒント

今年で8回目を迎えた「​​ホワイト企業大賞表彰式」。​​本記事では表彰式当日に行われた、昨年のホワイト企業大賞の受賞企業であるメゾンカカオ代表の石原紳伍氏と谷川クリーニングの谷川夫妻、そして企画委員の武井浩三氏による鼎談の模様をお届けします。数十年にわたって自律分散型の店舗経営を可能にした谷川クリーニング先代社長の言葉や、同僚の仕事の進捗が見えることのメリットなどを語っています。

「ホワイト企業」経営者たちの仕事のモチベーション

武井浩三氏(以下、武井):それでは鼎談のお時間に移りたいと思います。なかなか揃うのが珍しい顔ぶれで、谷川さんと石原さんはお互いの考えで重なる部分もすごくあると思うので、フリーで話を盛り上げていけたらなと思います。まず会社というよりは一個人として、仕事に対する情熱やモチベーションはどんなところから湧き出ているのでしょうか? よかったら、石原さんからお願いします。

石原紳伍氏(以下、石原):そうですね。やっぱわくわくできるかどうか。それが誰の笑顔につながるのかというのはモチベーションになりますね。

武井:コロンビアにも毎年行かれていますが、やっぱり直接人を訪れるというのもそこにつながっているんでしょうか。

石原:そうだと思います。

武井:ありがとうございます。麻美さんと祐一さんは、仕事のモチベーションについてはいかがですか?

谷川麻美(以下、麻美):私はあんまり湧き上がる感覚がないんですけど……。やる気がないとかではないですよ(笑)。湧き上がりますか? 

谷川祐一(以下、祐一):ありがたいことに仕事と他のことを特にわけずにやらせていただいています。上司と部下とかお客さまと店員さんといった関係ではなく、自分にとって大切な人たちが集まり、お付き合いをさせてもらっている感じですね。その大切な人たちとの関係は地域にも広がり、毎日好きな人たちと楽しく生きています。

麻美:そうそう、そんな感じで生きていますね(笑)。

武井:谷川さんはそうおっしゃると思っていました(笑)。

祐一、麻美:(笑)。

イカ焼き屋やアイスクリーム屋を経て、チョコレートに出会った石原氏

武井:仕事も人も巡り合わせというものがあると思いますが、自分で手に入れるというより、自然とたどり着いたみたいな感覚があるんでしょうか?

石原:そうですね。

武井:石原さんはチョコレートにたどり着くまでにいろいろ経験されていると思うんですけれども。チョコレートブランドのメゾンカカオと、それ以前の事業との違いってありますか?

石原:やろうとしていることは大きく変わっていません。今も僕たちはチョコレートを販売していると思っていなくて、「チョコレートではない何か」なんですね。商品としてはチョコレートなんですけど、これが(生産者とお客さんの)時間をつないだり、思いをつないでいたりします。

武井:まさにそうですよね。おもしろいことに石原さんは、以前はイカ焼き屋さんをやっていたり。

祐一、麻美:へぇ~。

石原:(笑)。

武井:本当に幅広くやられていて。

石原:アイスクリーム屋をやっていたりとか。

武井:でもそれがチョコレートというフィールドでたまたま芽吹いたみたいな、そんな感じなんですかね。

石原:そうですね。僕はチョコレートって魔法があると思っていて。人を幸せにする、すごい魔法がかかっている食べ物なんですよね。それに巡り合えたことで、やりたかったことが加速した感じはありますね。

どんな仕事も、人に喜ばれると「自分の居場所」ができる

武井:祐一さんは先代から事業を継がれましたが、人生の変遷の中での巡り合わせとか、クリーニングとの関係ってどうお考えですか?

祐一:もともと僕はクリーニング業をまったくやりたいと思ってなかったんです。

武井:(笑)。

祐一:クリーニング屋さんと工場がくっついているような家に生まれたので、朝から晩まで両親はずっと仕事をしっぱなしで。今でこそ女性スタッフが9割ですけど、当時はがたいのいい強面の男性の職人さんがたくさん働いていて。

怒声が響き渡るのが普通な状況を見ていましたし、商売をやっているといい時と悪い時の波があって両親がたびたび口論になって、僕と妹はそれに振り回されていたので、あまりやりたいとは思わなかったですね。ただ、自分が引き継いでやり始めてからは、それは物事の一面しか見ていないと気づきました。

もともと僕はゲーム会社みたいなところに勤めて、その後俳優をやろうとか、いろいろステージを変えて……。

石原:俳優!?

祐一:プロダクションに入って仕事をちょっともらえるぐらいまではやったんですけど。

石原:すごい。

祐一:人に喜ばれると自分の居場所ができて、選ばれなければ存在できないのはどの仕事でも一緒だなと思うんです。僕が今やっている経営は、仕事を通じて「いい体験」を多くの人に提供できるものかなと思っています。仕事って表現の1つで、人とつながることができる便利なツールでもある。その仕事の中でいい思い、いい体験がたくさんできるといいなと考えています。

クリーニング業って多くのお母さんたちが働く場所なので、お母さんがそういったいい体験をしているのを見たら、お子さんたちが仕事に対していい印象を持ってもらえるんじゃないかなと思って。それはすごくいいことだなと思っています。

スポーツのチームワークと経営の共通点

武井:祐一さんは役者をやられていて、学生時代はサッカーをされていた。

祐一:そうですね。サッカーは真面目にやっていなかったですけどね(笑)。

武井:僕は野球少年だったんですけれども、サッカーとラグビーは野球とけっこう違って流れていくスポーツじゃないですか。この流れていくスポーツのチームワークのあり方って、最近の経営トレンドに近いなとすごく感じていて。僕が初めて祐一さんとお話しさせていただいた時も、サッカーの配置の話をしましたよね。

祐一:そうですね。覚えています。

武井:そういったスポーツでの人との関わりって経営と紐付いていますか?

石原:ラグビーではアンストラクチャー(攻撃も防御も混沌となった局面)な状況の中で、正解が見えなくてもみんなでまとまってやれるかどうか。今のコロナ禍においては、いろんな変化が激しい中でどういうチーム編成であっても、それぞれが判断して動けるかどうか。そういうのは、共通して大切にされているところかなと思いますね。

自律分散型の店舗経営を可能にした、谷川クリーニング先代社長の言葉

武井:谷川クリーニングさんは、16店舗ある中で店長がいないという仕組みを作っているじゃないですか。ここについてちょっと触れていただけたらと思うんですけど。

麻美:店長がいない仕組みというよりは、店長を作るということを気にしなかったですね。

武井:気にしなかった?(笑)。

麻美:忘れちゃっていたのかな? 

祐一:もともと管理者がいない感じなんですね。

武井:(笑)。

祐一:それは僕らがやったことではなくて、父の代からそうだったんです。もともと父親が女性のパートさんたちに「自分の店だと思ってやれ」と言って、やっていたので。女性のパートさんの中には、私物を持ち込んで店舗を自分の家みたいにされている方もいたんですけれど。でも結果的にそういうふうにやることで、シフトの組み方とかも全部自分たちで考えてやるようになって、問題なく何十年もやっていました。

でも、僕が東京の飲食店とかでアルバイトをした時は、店長が必ずいたし、シフト管理者やバイトリーダーみたいなのもいて。そういう人がいないといけないと思ったりしたんですけど、逆に店長や管理者がいなくてもやれるし、いないほうがいいこともたくさんあるなと感じました。

クリーニング業はワンオペが多いので、いないならどうしたらいいかを自分で考えるし、行動もする。それでもちゃんとやれるというのは、逆に僕が教えていただいたことですね。

武井:なるほど。ワンオペが多いとか、これは業種業態や仕事によって正解が変わってくるということなんでしょうね。ありがとうございます。

同僚の仕事の進捗が見えることのメリット

武井:谷川さんに続けて振ってしまいますが、お店で働いているスタッフさんたちが1つの店舗だけじゃなくて複数の店舗に行ったりしていますよね。これは、一般的な経営管理の仕方からすると、ちょっとはみ出た感覚かなと思うんです。谷川クリーニングさんでは当たり前かもしれませんが、これが生まれた経緯を教えていただけますか?

祐一:そうですね。多店舗展開で、しかも工場と店舗の場所がすごく離れていて、みんな自分以外のことがうまくわからない状況だったんですね。見えないと、意識できないじゃないですか。どこの会社でもそうですけど、管理職や社長は全体が見えるわけですね。視点や見ている景色がぜんぜん違います。

そういうのはサッカーでよく感じていたことなんですけど、小学生ってボールがある場所に集まっちゃうじゃないですか。だけどプロのサッカー選手ってそういうことがない。右のサイドバックから左のフォワードに一気にロングパスが飛ぶのって、見えているからだと思うんですよね。見えているとそういう選択肢も取れるけど、見えていなかったらできないと思うんです。

うちの会社の場合だと、例えば他の店舗が困っていたら助けてあげたいと思うような人でも、困っていることを認識できなかったら助けられないなと。なので、1店舗に2人という体制でやっていたのを、3店舗を6人でやる体制にすると他の5人のことが見えるようになって、それを広げていくと全部が見えてくる。

そこの関係性がよければ、見えている範囲のことは自然とみんなで助け合おうというかたちになります。たまたまトラブルが起きた時に、サポートに入るために他の人が自然に店舗を移動したことがあって、それを実感したんです。それからは3店舗で6人をデフォルトにするようになりました。

武井:なるほど。ありがとうございます。メゾンカカオではスタッフと店舗の関わり方や店舗間の連携などで工夫されていることはありますか?

石原:お客さまが何を購入されたかといった情報は、これまでは各店舗で管理していました。ただ、どこのお店でも同等か、それ以上のご案内ができるようにしたいという思いがあって、最近では全店舗でそれを共有するようにしています。それによって、ファンでいてくださっているお客さまとの関係値がすごく近くなったというのはありますね。

武井:やっぱり仕組みも大事ですね。

「店」とお客さんの関係ではなく、「店に立つ人」とお客さんの関係

武井:ちょっと質問が来ているので、ぜひお二人に聞いてみたいんですが。店舗と地域との関係性についてはどのように捉えていらっしゃいますか?

麻美:ここは石原さんにお答えいただいても……(笑)。

祐一:助けてください。

石原:そうですね。僕たちは食べ物をご提供しているので、生まれ育った場所や自分の好きな町の食べ物がお祝いの席や日常の中で楽しまれていくことで、地域の食文化を担う役割を果たしていけるのかなと思っています。

地域ごとのニーズや特徴を商品とどういうふうに合わせていくかは、商品開発会議などでもすごく話題になっています。本来どういったかたちで商品開発会議をやるのが正しいかはわかりませんが、僕たちはさっきのワンチーム精神で、配送メンバーも含めてみんなでやっているんですね。

そうすることが自分たちらしいということと、お客さまや町のことなどいろんな視点を取り込めるので。地域との連動という意味では、そういった部分にこだわりをもってやっています。

武井:ありがとうございます。谷川さんはいかがですか?

祐一:そうですね。企業と地域というふうに考えるとすごく難しいんですけど、ただ店に立つ人とお客さまの関係だと思っていて。各店舗にいい人が揃っているので、お客さんはその人が好きで来てくれている感じなんですね。谷川クリーニングだからいらっしゃるのではなく、店頭に立つ人が好きで足を運ばれているんです。

武井:すごくおもしろいですね。ありがとうございました。名残惜しいですが、時間が迫っておりますので、ここで締めさせていただきたいと思います。あらためまして谷川クリーニングの谷川祐一さん、麻美さん、そしてメゾンカカオの石原紳伍さん、ありがとうございました。

一同:ありがとうございました。

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