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『これはデザインではない 「勝てない」僕の人生〈徹〉学』刊行記念 千原徹也×さらば青春の光 森田哲矢トークイベント(全7記事)

キングオブコントで負け続け、東京に出てきて負け続け… 2人の「てつや」が考える「負け」を人生のプラスにする思考法

代官山 蔦屋書店にて、『これはデザインではない 「勝てない」僕の人生〈徹〉学』刊行記念イベントが開催されました。著者で、株式会社れもんらいふ代表の千原徹也氏と、お笑い芸人・さらば青春の光の森田哲矢氏が登壇しました。会社の経営者であり、名前が「テツヤ」という共通点を持つ両者の、仕事や生き方に関する〈徹〉学が語られた本イベント。今回は千原氏の今までのデザインの仕事で「断った仕事」のエピソードについて、負け続けてきたという共通点から導き出された、負けた時のマインドの話が語られました。

オーダーの縛りがあると「おもしろい領域」が減る

森田哲矢氏(以下、森田):これ、ずっと金の話をしてますけど……。デザインの話、もっと聞きたい。デザインの話をしてくださいよ! 

千原徹也氏(以下、千原):確かに(笑)。

森田:すいません。俺が振ったんですけど。

千原:なんか質問あったでしょ。(スタッフに)その紙、ちょっと持ってきて。

森田:あ、なんかあるんですか。でも(『これはデザインではない 「勝てない」僕の人生〈徹〉学』を読んだ感想として)意外でしたね。千原さんってむちゃくちゃ映画・漫画、サブカルから自分の知識を得てるんですね。そういうものを血肉にしてるんですね。

千原:まさにそうですね。新しいものというよりは、本当に子どもの頃好きやったもの。あんまり変わってないですよ。

森田:例えばどこまでの要求があったほうがいいのかとか。縛りはないほうがいいのかとかというのは、どうなんですか。

千原:仕事の縛りですか?

森田:例えば「千原くん、これを売ってほしいんだよ」という時に、「売れるデザインを考えてほしいんだよ」って言われるほうがいいのか。それとも「青ベースは絶対にマストで」とか、ちょっと縛りがあったほうがいいのか。

千原:ないほうがいいですね。そっちのほうがおもしろいじゃないですか。「青ベースで」って言われた時点で、青いところはもう自分で考えてないから、もうおもしろい領域がちょっと減ってますよね。

森田:そうか。もう邪魔してんねや。

千原:例えば水を売りたいとなったら、「パッケージから形から何から何まで、この水を売るためのアイデアをください」のほうがいいですね。

森田:この形、この容器に入ってる時点で邪魔してんねや。

千原:邪魔してます。こいつ(容器)がもうアイデンティティを持ってしまっている。何もないほうが、やれる箇所が多いのでおもしろいですよね。

ネーミングとロゴから考えるのは、共通認識を作るため

森田:着想は何からなんですか。どっからいくんですか。

千原:最初はやっぱりロゴとかですかね。例えば一番最初は「ネーミング」と「ロゴ」ですよね。水を売りたいとなった時、例えば「ハワイの水です」って言われたら、そのネーミングとマークから最初はやりますね。

森田:それはなんでなんすか。そこがやりやすいのか、そこさえバシッと決まってしまえば売れるものになるのか。

千原:それがないと、僕たちもそうですし、クライアントである水を売りたい人たちも、何をどういうイメージで僕たちは物を売ればいいのかがわかってないんですよ。

でもマークとネーミングができると、全員が「こういう感じなんや」ってわかるんです。その共通認識のために作る感じですね。

森田:作って、そこからデザインですか。

千原:そうです。そこからパッケージとかですね。でもネーミングやロゴを作る前に、うちのスタッフには一番最初に「まずこの水がいるかいらないかから考えよう」という話をよくしています。「水売りたい」という依頼なのにね。「ほんまに売る必要性ある? 今世の中的に」ということから、こっち側が考えてあげることがすごく大事です。

「新人なので予算がないんです」にカチンとくるワケ

森田:例えばそれで断ることもあるんですか。

千原:あります、あります。

森田:ざっくり、どういう時に断ったんですか。

千原:CDジャケットって制作予算がめっちゃ安いんですよ。今、CDが売れなくて、世の中配信じゃないですか。昔はもはやレコードなんですよ。レコードのあのサイズだとデザイン性が必要ですけど、今は配信のこれ(スマホサイズ)。

だから本当にCDジャケットが必要かどうかって言われると、もうアーティストの顔写真だけでいいですとか言われる時もある。そうなったら、もうあまりやることがないんですよね。

新人アーティストをデビューさせる時に、よく担当の人が「新人なので予算がないんです」と言ってくるんです。それがけっこうカチンとくるというか。

森田:(笑)。

千原:「新人なので」でなんとか誤魔化そうとしている。

森田:こっちに払う額は(新人だろうとベテランだろうと)関係ないやろってことですよね。

千原:そう。僕が断った時は、「そのスタンスでこのアーティストを売りたいということ自体がおかしい。新人でもあなたたちがデビューさせたいということは、期待をかけてるわけ。期待をかけるってことは、ある程度予算を投じてそのアーティストを売っていこうというチーム作りをしないと、誰も幸せにならないですよね。だからまず、デビューさせなくていいんじゃないですか?」って。

森田:いや、そこまで踏み込んだらあかんわ。

千原:(笑)。

見ているのは、アーティストのデビューに対する「温度感」

森田:レコード会社のとこやねんか。なんすか、デビューさせなくていいって(笑)。

千原:いいよいいよ。だってその期待値で予算もそれしか割いてないのに、なんでデビューさせるんですかって。

森田:その人、帰ってからアーティストにどう説明するんですか。「ちょっとデザイナーが……」って(笑)。

千原:いや、でもそんな感じですよ。

森田:もうそのレベルってことっすよね。

千原:「この人がデビューします」って、曲を聴くじゃないですか。それがめちゃめちゃ良かったら、やっぱりどんだけ予算が少なくたって応援したい気持ちになりますし、やるけど。半分ぐらいは、ぜんぜんいい曲じゃないんですよ。

森田:そうなんや。ちゃんと曲も聴くんすね。

千原:もちろん聴きます。聴かせてもらえない時もあるんですけど、聴いても「いや別にこれデビューせんでよくない?」みたいな。

森田:いやいや(笑)。それは主観やから、もしかしたら世間はね。

千原:まぁそうですね。

森田:でも結局、千原さんの好みに合わんってことでしょ。「こんなんデビューしたってしゃあないやろ」という音楽をやってるってこと。

千原:それもあるけどチームの予算に対する……なんて言えばいいのかな。デビューさせて、このアーティストを売りたいと言っているのに、「予算かけずにやろう」という、その精神がちょっといややなと。

森田:(笑)。じゃあ「すいません、新人なんで予算ないんです」っていう文言で来たら、だいたい断るということですか。

千原:いや、まずは本当に予算がないけどデビューさせたい人なのか、なんとなく「そろそろデビューの時期が来たからいっとこうか」ぐらいの人なのか、温度感を探る感じですよね。

森田:温度感が高かったらやってもいいけどってことですよね。

予算の話を最初に話す、「リスペクト」を感じる体制

千原:やっぱりジャニーズさんとかはギャラがちゃんとしてるんですよ。すばらしいです。僕たちに対するリスペクトもすごいんですよね。だいたい、予算の話とかお金の話って最後にされるんですよね。どうですか?

森田:わかります(笑)。ロケとかやってて、めっちゃしんどくて。でも「この番組まだギャラの金額言われてないぞ」みたいなことありますよ。

千原:でしょ? しかもいつ言うのかなと思って、こっち側から「このギャラいくらですか?」って言った瞬間に、シーンってなるでしょ。

森田:わかります。ほんで「予算ない」って言ってきます。

千原:お金の話するのはこっちもすごく苦しいんです。別にお金が欲しいわけじゃないんですけど、ちゃんとしようよっていうのはあるじゃないですか。

でもジャニーズ事務所さんとかは、最初の依頼の時に「この金額でここまでやってください」とか、プラスアルファ、「何か起きたらこんだけまたさらに払いますから」って、ちゃんと送ってきてくれるんですよ。すごくいい会社だと思います。

森田:ちゃんと透明性があるということっすよね。

千原:そういう体制でできるところは、やっぱりちゃんとしてるなと思いますね。

2人の共通点は、間違えられやすい「でつや」の名前

森田:これ(質問の紙)は読まなくていいんですか?

千原:読みますか。

森田:1個の話が出たらずーっとしゃべっちゃいますね(笑)。

千原:そうですね。「2人の共通点は何ですか?」って。

森田:「てつや(哲矢・徹也)」じゃないですか(笑)。下の名前。「徹也」、気に入ってます?

千原:この「徹也」は、どうですかね。

森田:俺(の「矢」)はぜったいにこの「也」のほうにされるんすよ。

千原:間違われる。武田鉄矢しかないですよ。この「矢」、珍しいですよね。

森田:これ珍しいんですかね? 確かに武田鉄矢さんぐらいしかいないですね。

千原:僕は逆に、「徹」をこれ(「哲」)にめちゃくちゃ間違われるんですよ。

森田:マジすか? 俺はこれ(「哲」)は自分で気に入っているんですよ。「どういう字ですか?」と言われた時に、「哲学の『哲』に~」と言えるんですよ(笑)。「哲学」という言葉を入れられるから。わかります?

千原:確かに、それはいいですね。僕は「徹夜」する時のやつですから(笑)。

森田:(笑)。だって徹夜した人生ですもんね。

千原:そうそう(笑)。でも、僕もこっちの「徹」は気に入っています。「也」は、そんなに気に入っていないですね。

森田:なんでこの「也」が一番ポピュラーなのかな。俺はもうレギュラー番組とか、なんやったら冠番組でも楽屋の名前を間違えられる時があるから。

千原:僕は、たぶんこの漢字(徹)までは意識的に打ち換えているから、一番多いのが「夜」なんですよ。徹也の也が「夜」になってる間違いが多い。

森田:あ~、そっか。変換でね。

千原:そんな(子どもの名前に「徹夜」と付ける)親はいないでしょ。

森田:そうですよね。言ってみれば、打ち込む人がどこまで気遣いができているかじゃないですか。

千原:まあそうですね。

森田:たぶん俺の「哲矢」が「哲也」になっている時は、文字を打っている人は何の疑問もないんですよ。「どうせこれでしょ」みたいな。なめんなよと。

千原:「他にないでしょ」と。

森田:俺がこれ(「也」)なわけないやろと、ちゃんと思ってくれっていうね(笑)。「てつや(哲矢・徹也)」という共通点。

キングオブコントで負け続けてきた“浪速の通天閣ルーキー”

森田:あとは、やっぱり本を読んで「負けてきた」というのが(共通点じゃないですか)。

『これはデザインではない 「勝てない」僕の人生〈徹〉学』(CCCメディアハウス)

千原:それは知りたいですよね。この次の質問も「どうしても勝てない時、どうしていますか?」みたいな話ですよ。森田さん、負け続けていたとかありました?

森田:ありましたよ。負け続けています。

千原:どんなんですか?

森田:めっちゃわかりやすく言うと、賞レースとか。

千原:「M-1」とか?

森田:僕らは「キングオブコント」に6回出て、決勝戦で6回負けている。「(負けた時に)どうしてますか?」というと、ふてくされていましたけどね。

千原:(笑)。

森田:まずはいったんふてくされたほうがいいんですよ。

千原:なるほどね。

森田:そんなに人間できていないんですよ。だって、「キングオブコント」って本当に毎年、優勝者以外幸せじゃないんです。「打ち上げに行きましょう」と行くけど、優勝していないから何も楽しくないんですよ。

ほんで優勝者は、打ち上げをやっている間に記者会見をやっているんです。だからもう、打ち上げは負けたやつの吹き溜まりというか。

千原:(笑)。

森田:もう本当に、全員がやけ酒みたいな感じで、別にその会もそんなに盛り上がらない。もう負けてるし。「また1年や~」みたいな。「来年また(コント)作らな」みたいな。最後、打ち上げが終わってタクチケ(タクシーチケット)をもらえるんですけど、なるべく遠回りして帰ります。

千原:ああ、なるほどね。

森田:テレビ局にダメージを与えたいので(笑)。

千原:「お前らのせいや」と(笑)。

森田:それで寝て起きて、「また明日からがんばろう」でいいんじゃないかという。

負けたときは「それでもいいよね」のマインドのほうがいい

千原:確かにね。でも、1年やってきたことの切り替えって難しいですよね。

森田:マジでむずいっすよ。

千原:そういうのは、しばらくありますよね?

森田:そう、なんかね。でも、人ってやっぱり忘れるじゃないですか。だから、そこでなんか「切り替え法」みたいなのは、僕はないですけどね。

千原:いったん落ち込んだり、周りのせいにしたりするみたいな感じですかね。

森田:千原さんはそんなことはあります? 負け続けて「もう死んでもえっか」ぐらいの時が。言ったら一番苦しかったのは、東京に来た時とかじゃないですか。

千原:そうですね、ありました。でも、やっぱり僕も負け続けていたんで。なんか「そういう人や」「勝てない」と思っていたから、逆に気になっていなかったですね。

森田:負けることに関して。

千原:負けることに関して慣れていたというか。「どうせそうですよね。僕はそういう人ですよね」という感じでした。

森田:その感覚は今もあるんですか?

千原:今もあります。

森田:プレゼンで負けたりとかすると、そのマインドになるんですね。

千原:なりますね。常にどこかにあります。

森田:でも、自分のやっていることに対して、あまり奢りはないじゃないですか。なんならむしろ、俺みたいなもんが、こんなに大勢の人の前でしゃべれていることがまず奇跡やし。

千原:いや、本当にそう思います。

森田:そう考えると、なんか負けても「いやいや、俺みたいなもんが何を勝とうとしてんねん」というマインドのほうがいいんじゃないかという感じもありますけどね。

千原:そうですね。僕も、本が出るとかそんな人生になるなんて思っていないですから。ある種、負け続けて、負けたことを本に書けるというね。それもプラスにしていかないとね、という感じぐらいですよ。

『すべらない話』に出る前に言われた、小籔千豊氏の言葉

森田:そうですよね。小籔千豊さんが、『すべらない(人志松本のすべらない話)』に初めて出る時に思ったんですって。

「自分みたいなもんが、フジテレビのゴールデンにまず出られるだけで御の字。ここで普通に、そんなにミスなくしゃべれただけでもういい」と。「あとはもうウケようがすべろうがどうでもいい。すべったのなら俺を呼んだスタッフが悪い」と。「『そりゃ、こんなやつウケるわけがないやろ』って思うことがええ」というのを聞いて。でも、そういうことやろなというのはあるなと。

千原:小籔さんも下積みも長いですもんね。ある種、そこで「それでもいいよね」というレベルのマインドがずっとあるんでしょうね。

森田:だから、正直緊張してもしょうがないと。緊張しているということは、自分に期待しているから。「ここでお前ごときが、何ウケようとしてんの?」ということなんですよ。

千原:すごいですね。

森田:「だから、緊張すんな」とこの間、小籔さんに言われて。それで、『すべらない』に出たんですよ。めっちゃ緊張しましたけどね(笑)。「緊張するなあ!」と思いましたわ。

千原:(笑)。いやだって、すべらない番組やからすべれないですよね。

森田:そうそう、本当に(笑)。だから、小籔さんの言葉は俺にこんなに響いていなかったんやなと思いました(笑)。やっぱり緊張のほうが勝つんや。でも、そのマインドってめっちゃ大事やなっていうね。

千原:そうですね。やっぱり常にそういう精神じゃないと、足下をすくわれる感じがあると思うんですよね。

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