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人材不足時代を勝ち抜く経営の道筋 ~全員戦力化を実現する組織力開発~(全3記事)

人事・経営層に必要な、優秀でない人“にも”戦力となってもらう努力 止めるべきは「取り残される人たち」がたくさん出てくる状況

日本企業が抱える大きな経営課題の1つとなっている「人材不足」。これを引き起こす原因は、少子高齢化による生産年齢人口の減少だけではなく、経営環境の急速な変化や、働く人の働き方や価値観の多様化が背景に存在しています。複雑化する人材不足という難問に直面して「何から手をつければ良いか分からない」「働き方改革を進めているがこのままで良いのだろうか」などの悩みを持つ経営者や人事責任者の方が多いのではないでしょうか。そこで、人材マジメント研究の第一人者で、書籍『全員戦力化 戦略人材不足と組織力開発』の著者・学習院大学 経済学部経営学科 教授の守島基博氏が登壇されたウェビナー「人材不足時代を勝ち抜く経営の道筋 ~全員戦力化を実現する組織力開発~」の模様を公開します。

人事・経営層に求められる“優秀でない人”にも戦力となってもらう努力

斉藤知明氏(以下、斉藤):ではQ&Aのコーナーに移らせてください。ではさっそく匿名の視聴者の方からいただいているご質問です。

「組織力開発の必要性に100パーセント同意します。一方、全社員に公平に投資をするというのは、コストがかかりすぎて難しいと思ってしまう側面もあります。優秀な人材の成長スピードやレベルが落ちるのではないか。選抜型の採用育成、成長支援のスピードが落ちるのではないかと思ってしまいます。限られた資産を配分する、資源を配分するには、どのような基準を持てば良いでしょうか?」。守島先生、どう思われますか?

守島基博氏(以下、守島):はい。ありがとうございます。確かにそういう面はあると思います。私は、公平(はともかく)、特に平等に資源を分配するという話をしているわけではなくて。

もちろん優秀な人たちには、優秀な人たちなりの投資をしないといけない。同時に、そうでない人たちにも、それなりの投資をしていかないといけないんです。しかし、過去20年くらいをみていると、階層別研修をやめる企業が多くなっているんですね。

すると結局、取り残されてしまう人たちがけっこうたくさんいるのではないかと。そこが大きなポイントなんです。そういう人たちにも戦力になってもらう努力を、人事として経営としてやっていきましょうという話なんですね。

ですから全員をイコールで、同じように取り扱えという話では決してないんです。優秀な人たちには、もちろん傾斜配分を続けて良いと思います。ただ、それによって取り残される人たちがたくさん出てくる状況をやめていこうという話ですから。十分、私は両立するのではないかと思っています。

斉藤:「公平であって、平等ではない」とおっしゃっていたのが肝だなと思いました。ある意味、機会は均等なんですよね。(経営側が)「こういうミッションを実現していきたい」「そのためにこういう人材が必要だ」「今はこんなギャップがある」「埋めるための手段にはこういうことがある」(と説明した上で、)「やりたい人は手を挙げて」と言う。

ある程度はオファーをするかもしれませんが、押し付けるのではなく「手を挙げて」とすると、優秀な人ほどいっぱい手を挙げる。そうじゃない人は、手を挙げづらい。あまり挙げないかもしれない。

そうすると、結果的に機会は均等だしみんなにチャンスはあるのだけど、やりたいと思う人がどんどん得られる状態になっていく。優秀層に対して結局、資源が配分されている状況が生まれていく。それは別に否定していないわけですよね。

守島:はい。それは否定していないですね。さらに難しいのは「来年、こんなスキルのある人が必要だから手を挙げてください」と言っても、実は働いている人からするとそんなスキルは持っていない。でも、2~3年あれば、そういうスキルが得られるかもしれない。そう考えると、そういう工夫をしていくことが「全員戦力化」につながるのではないかと思いますね。

斉藤:なるほど。(コメントをいただきました)Aさんの視点、すごく素敵だと思いましたので(紹介させください)。「全部、社内で機会を作らないといけないという考え方自体がバイアスだと思います。社外でのワークショップやコミュニティを活用することで、コストミニアムで成長機会を提供することも可能です」。

守島:そうだと思いますね。

斉藤:「こんなミッションを実現するため、こんな成果を出すために、こんな人たちが必要」「今はこんなギャップがある」ということがきちんと提示されていれば、個人が機会を外に取りに行ってくれる可能性もありますよね。

すべてお膳立てしなくても、必要なことを提示してミッションを理解する。また個人の理解が必要であるということにもつながった気がしますね。

「組織開発」と「組織力開発」の違いとは?

斉藤:続いての質問です。「守島先生は『組織開発』ではなく、『組織力開発』というワードチョイスをしていらっしゃいました。それは何か意図があるのでしょうか?」いかがでしょうか。

守島:はい。ありがとうございます。ある意味、すべて組織開発なのかもしれないのですが。「組織開発」という言葉は、1950年代ぐらいにアメリカで生まれた伝統的な小集団において「チームワークを強くしていこう、コミュニケーションを良くしていこう」というものなんですね。それは確かに重要だと思います。

でも、それはあくまでも基盤であると。例えば、さっき言ったような心理的安全性やインクルージョンを作るみたいなことは、コミュニケーションの基盤の上にたぶんできてくる。そういう力だと思っています。

だから組織開発を否定しているわけではないんですが、もうちょっと進化した組織に対する働きかけをしていこうよという意味で、「組織力開発」という言葉を使っています。まぁ、有り体に言えば「ちょっと新しめのものを狙った」ってことなのかもしれません(笑)。

斉藤:(笑)。そうですよね、今までの用語を使ってしまうとそっちに引っ張られてしまうし、誤解されたくないなという思いが詰まっているというか。

守島:ということですね。

日本で、急速に「人を入れ替える戦略」を進めるのは難しい?

斉藤:なるほど。次も、難しい質問がきていますね。僕がディスカッションで投げかけたものに近いかもしれません。

「日本の企業でも、リストラクチャリングも含めて、人を入れ替えようというケースが徐々に増えているのではないかと感じています。守島先生としては、その考え方は日本では成功しないとお考えなのでしょうか? グローバル的にも、日本がどう変わっていくと捉えていらっしゃいますか?」という質問ですね。

守島:さっき「日本では人の入れ替えができない、クビにできない」という話をしましたが、確かにおっしゃるとおり、今は少し変わってきていると思います。つまり、人の入れ替えをして、戦略と人のフィットを作っていく方法に少しは動いてるんだと思うんです。

しかしながら、やっぱり日本の文化や人々の考え方を前提とすると、やっぱり会社というものに「所属している」「所属したい」というイメージがこれからも強いと思っています。

そういう面が完全になくなる時代が、いつかは来るのかもしれませんが、少なくともその時代は私は生きていないし、たぶん斉藤さんも生きていない時代になるんではないかなと思っていて。

斉藤:(笑)。

守島:(リストラなどの戦略が)完全にうまくいかないかどうかと言えば、少しずつのトライの中でやっていくことは十分に可能だと思います。でも、急速に(その戦略に)移行するのは、たぶん日本では難しいんじゃないかと思います。

斉藤:そうですね。全員「いっせいのせ!」で、給与制度や個人の価値観、何から何まで変わるということは起こらないだろうと。

守島:起こらないでしょうね。

斉藤:そうですね。(今後は)そっちになるから、そっちだけの戦略でいきましょうということはまず難しい。

守島:難しいと思っています。

日本的な強み=「すり合わせの強み」「調整の強み」

斉藤:やっぱり現状の延長線上で、地続きで考えていかないといけない。そっち(人を入れ替える戦略)はもちろん考えをめぐらせておかないといけないというのが、実際の課題なんじゃないかということですかね。

守島:そういう話ですね。

斉藤:いやぁ……。悩ましいですね(笑)。

守島:悩ましいんだけど、少しずつ変えていくしかないわけであって。最近言われている「ジョブ型」みたいなものも、そういうところに向かう第一歩でしょうね。第一歩というか、小さな1歩だと思っていて。

そういうものを少しずつ入れていくことで、グローバルに戦える企業になっていく。日本的な強みも残しつつ、同時にグローバルで戦える企業になっていくことが重要なんです。

斉藤:「日本的な強み」というキーワードが、今日何回か出てきたと思います。守島先生が考える日本的な強みとは、どういうところにあると思いますか?

守島:表現が適切かわかりませんが、日本的な強みとは「すり合わせの強み」「調整の強み」ですね。つまり、これらはある意味では暗黙知なんです。働く人たちの濃密なコミュニケーションを、非常に強く前提としているんですね。

そういうものを養っていくためには、やっぱり「ある程度は長期的な雇用」「働き手たちとのボンディング」みたいなものがないと難しいと思います。

すべてを形式知化できる業界もありますが、そういう業界だけではないので、やっぱり日本の強みである、すり合わせや調整が(大切だと思います)。

もちろん、時間がかかりすぎる・遅すぎるというマイナス面もあります。でも、そういう部分をどうやって活用していくのかというところが、これからの課題になると思います。

斉藤:グローバルな市場をみていると、(日本は)すごく特殊なポジションにいると思ってしまいます。でも、いきなり「(グローバルスタンダードに)同一化しましょう」ということも、(日本の)価値観を含めて難しい。それだったら、やっぱり(日本の)強みを活かしていくことですよね。

ビジョンとパーパスの違いとは?

斉藤:続きまして、Nさんからいただいた質問がユニークだなと思いますのでご紹介します。

「ビジョンやパーパスの共有が重要な中で、その浸透や共感が難しい企業も多いと思います。うまく浸透できている企業には、どういうものがあるのでしょうか?」

守島:ありがとうございます。少し前のコメントに「ビジョンとパーパスって何が違うんですか?」という議論がありましたので、併せてお答えしたいと思います。

「ビジョン」というのは会社の「ありたい姿」「あるべき姿」なんですね。それに対して「パーパス」はその企業のビジネスや事業が、社会や顧客、一般のピープルへどう貢献できているか。その部分が私はパーパスだと思っています。

そして「自分のやりたいこと」「どういう貢献をしたいのか」が明確にわかっている人であれば、それを「会社のやりたいこと」とアラインを取って同一化していく。(そういう人たちがいる)企業が、私は非常にパーパスやビジョンが浸透している企業だと思います。

だから、もちろん「会社のパーパス」を明確にすることも重要ですが、同時に「『私のパーパス』って何だろう?」ということを考えていく。自分の仕事の中での、自分の人生の中でのパーパスが何であるか。これを考えていくと。この部分を、会社が一緒になってやっていく企業というのは、浸透がなされていると思います。

例えばセールスフォース・ドットコムという会社では、「個人のパーパス」と「企業のパーパス」をどうやってアラインするか? ということに対して、ものすごくコミュニケーションを取っています。そこをやっていくのが非常に重要なポイントですね。

斉藤:僕らがよくご支援している企業さんで、「チームのパーパス」を(「個人のパーパス」と)同時に決めているところがあって、すごく良いなと思いました。会社としてのパーパスだと、やっぱり個人からするとちょっと壮大すぎたりしますから。

守島:そうだと思います。

斉藤:そこ(チームのパーパス)と個人のパーパスを紐付けた時に、みんながわちゃーって広がっちゃうんですが、「このチームとして、僕らは企業の中でこうなるんだ。こんな存在意義があるんだ」ということを1回(決める)。それで、「自分」「チーム」「会社」の3つのパーパスをすり合わせるような取り組みをされている企業さんは(良いと思いました)。

守島:そうなんですよね。

斉藤:個人発信での行動も増えている印象がありますよね。

守島:ビジョンだと、それがちょっと難しいわけですよ。ビジョンは「会社の行きたい方向をあなたに理解してほしい」というものだから。パーパスだと「あなたが目的としているものって何ですか?」「会社が目的としているものって何ですか?」という対話が成立する。まあ、流行りではありますが、パーパス経営であるということが重要だと思います。

斉藤:だから、ビジョンは1個なんですよね。会社として制定されている、あるべき一つの(姿)がビジョンで。それに対して「なんで会社が存在するべきなのか」「なんで個人のあなたは(ここに)存在して、ここに関わり続けているのか」という理由・意義がパーパスである。だから個人も千差万別、人によって見方が変わってくるのがパーパスなんだなと理解しました。

価値観や母語が違う外国の方とうまくやっていくためには?

斉藤:次も難しい質問です。少し、(意味を)広げて質問させていただきますね。

外国の方を受け入れていくことについて。「受け入れていく」という考え方も(適切かどうかわかりませんが)。外国籍の労働者の方が、国策としても今後は確実に増えていくといわれています。今後10〜20年のうちに、3,000万人ぐらいになるんじゃないかみたいな統計や予測もあります。

そんな中で「価値観や母語が違う外国の方とうまくコミュニケーションを取りながらインクルージョンを図っていくために、どのような工夫をしていけば良いと思いますか?」とお悩みの方からのご質問です。

守島:ありがとうございます。パーパス、理念、ビジョンなどにおいて、会社として絶対に譲れないところ、「ここは絶対にわかってね」というところは崩さない姿勢が大切だと思います。

逆に言うと、相手が崩さないところ・崩してはいけないところも、企業としては理解をしてあげる。特に外国の方の場合は、そこからすべてが始まると思います。さっき高齢者の話もありましたが、それと同じです。

要するに「会社としてはこれを大切にしているけれど、あなたが大切にしたいものは何なの?」と対話を進めていく。それが外国の方を含め、いろんな意味でダイバースなワークフォースを雇用する時の、一つの大切なポイントだと思います。

今のやり方を単に押し付けるわけでもなく、相手のやり方をすべて受け入れるわけでもなく、コミュニケーションを作っていくのがポイントですね。

斉藤:ぜんぜん違う文化の方もいるので、それこそ事前に認知的なバイアスというか、アンコンシャスバイアスを取り払っておくことですよね。受け入れていくためには、「個の尊重」をしていくための労力をより多く払わないといけないのは間違いないでしょう。

一方で、(外国の方などが)持っている強みや、考え方の相違を活かせる職場なのであれば、積極的に登用していくべきですよね。代表的なことでは、語学力などが活かせる可能性がある。でも、やっぱりある程度コミュニケーションの難易度は上がるので、そういう存在であると受け入れていくのが良いのかなと思いました。

たくさんの質問をありがとうございました。(コメントを見て)そうですよね。日本の文化を押し付けてはいけないから、難しいですよね。その分対話で埋めていくということかなと思いました。

ではQ&A、少しまだ残っている部分もありますが、お時間なので、本日こちらで以上とさせていただきたいと思います。守島先生、最後に一言いただけますでしょうか。

守島:みなさん、日常のマネジメントや人事のお仕事で迷っていらっしゃることがたくさんあると思います。でも、やっぱり最後は「働く人たちをどうやって幸せにするのか」です。幸せにして、会社に納得して、貢献してもらう。それが大きなポイントだと思います。日本企業はそれをやってきたようなフリをして、結果的にはやってこなかったところが多かったんだと思います。

「全員戦力化」の定義でいうと、「働く人たちが何を考えているのか」「何を大切にしているのか」ということを、丁寧に聞く。もしくはちゃんと理解する。ぜひそういうことをこれから心がけていただきたいと思います。今日は長時間にわたってお聞きいただいて、どうもありがとうございました。

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