2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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斉藤知明氏(以下、斉藤):みなさん、おはようございます。Unipos株式会社の斉藤です。本日は「全員戦力化を実現する組織力開発 人材不足時代を勝ち抜く経営の道筋とは」と題して、Uniposウェビナーをお送りします。
プログラムですが、まずは本日のテーマである「人材不足」について参加者全員で考え、守島先生にご講演いただいてからディスカッションに入り、最後にQ&Aという流れですので、どうぞよろしくお願いします。
改めまして、Unipos株式会社執行役員CPO、プロダクトの責任者の斉藤です。在学中にAIを研究して、その後、株式会社mikanで英単語アプリを立ち上げてから、今のUnipos株式会社の前身となるFringe81株式会社に入社しました。その後、社内で「Unipos」を立ち上げて、社名もUniposと変えて、プロダクト責任者を務めています。
スタートアップの立ち上げや、約100名の組織のマネジメント経験。また、いろんな組織のみなさまをUniposを通してご支援させていただいている観点から、本日はファシリテートを務めます。
では本日のゲスト、学習院大学経済学部 経営学科教授の守島基博先生です。よろしくお願いします。
守島基博氏(以下、守島):守島です、よろしくお願いします。慶應義塾大学を出て、その後、イリノイ大学で博士号を取りました。カナダのサイモン・フレーザーという大学で最初の職を得まして、それから4つか5つぐらいの大学を経て、今は学習院大学におります。一橋(大学)時代について、(私のことを)ご存知の方もたくさんいらっしゃると思います。今日はよろしくお願いいたします。
斉藤:よろしくお願いします。ではさっそく、参加者のみなさまと考えるオープニングのセッションに入ります。今回のテーマは「人材不足を勝ち抜く経営の道筋」。みなさまは「人材不足」に対してどんな課題感や期待をお持ちでしょうか?
クエスチョンを2つご用意しています。まずは1つ目。「人材不足の影響を受けてしまうような組織・受けてしまっている組織には、どのような特徴があるでしょうか?」。
実際「今、影響を受けているな」という方は、なぜそう思うのか。また、どういうことを危惧しているのかについて、チャットでお書きください。
(コメントを指して)さっそくいただいていますね。「リーダーが育っていない」「社内の空気がギスギスして、仕事の改善ができていない」「一部の人だけ忙しいという状況になってしまっている」、仕事に偏りが出ているということですかね。
「一人ひとりの負荷が高く、新しいことにチャレンジできない」「柔軟な発想を出す場がない」「ハラスメントが横行し仕事に専念できない」「現有人材での運営で精一杯のため、戦略的な取り組みができず、思考停止してしまうのではないか」、なるほど。
守島先生、見ていて「確かにな」って思うコメントはありますか?
守島:すべて「確かにな」と思いますね。要するに、人が辞めてしまう会社、エンゲージメントが下がってしまう会社などの特徴が、たくさん挙がってきていると思います。
一方で、もうちょっとポジティブな理由で人材不足に陥っていることもあると思いますので、それは後ほど申し上げたいと思います。
斉藤:なぜ、そういった人材不足が構造的に起こる社会になっているのか? 今日はこちらを解き明かしていきたいです。
「公正・公平な評価制度が整っていない」「事業拡大に伴って人材不足が起こってしまう」、確かに、こういうポジティブな理由もあるかもしれないですね。
守島:「一人ひとりの生産性を上げるチャンス」というのは、けっこう重要な視点だと思いますね。
斉藤:人材不足を前向きに捉えている、ということですね。「事業や会社がイケイケの状態で、人気が高すぎる」。なるほど、いろんな視点がありますね。「人材要件のレベルが高すぎるんじゃないか」という話も出ています。ありがとうございます。ポジティブな面でも、みなさん思考を巡らせていただけたかと思います。
斉藤:では続いて、クエスチョン2です。今度は「人材不足を乗り越えている組織」です。「人手が必要なタイミングで、良い人材が育っている。あるいは登用できている組織には、どのような特徴があるでしょうか?」。
(コメントを指して)「みんなでリーダーシップを発揮していて、チーム感が醸成できているのではないか」「パッション」「全員に当事者意識があり、できることから取り組めている」「成長支援が行われている」「ワークエンゲージメントの高さ」「社員が指示待ちではない」「業務の効率化が進んでいる」「多様な価値観を許容できる組織になってきている」。このあたりも今日、テーマとして出てくるかもしれないですね。
「みんなで助け合える組織」「多様な働き方を尊重する組織」「適材適所の人材配置」「従業員が自律的に動く組織」「社員の育成制度がある」……続々といただいていますね。「メンバーで助け合いができるなど、職員が理念やパーパスに基づいて常に目的意識や目標管理ができている」。
守島:「ありのままの組織を受け入れられる」というのもけっこう重要ですよね。心理的安全性の議論にも重なってくると思いますが。
斉藤:良いところばっかり見るのも、それはそれで違いますもんね。逆に「組織が人材の特徴をよく把握できている」「チーム運営をよく把握できている組織」「RPAの活用等で生産性がアップして、属人的な仕事が排除されていっている」ということもあるかもしれないですね。「『人材戦略がしっかり立っている』など、戦略の面も必要になってくるのではないか」。
「給与制度が社員にも伝わっている」、なるほど。給与制度が納得感あるかたちで透明化していることも(重要)ですね。そこが透明化されていると、自分のキャリア設計も立てやすいですよね。ありがとうございます、さまざまな意見をいただきました。
今回は「人材不足時代を勝ち抜く経営の道筋」と題しています。組織に関わらず、なぜ人材不足が恒常的に起こる状況になってきているのか? まずこちらを捉えた後に、じゃあどうやったら乗り越えていくことができるのか? について、みなさんとディスカッションをしていきたいと思います。
では、守島先生。ご講演をお願いします。
守島:みなさん、あらためまして、おはようございます。守島でございます。Uniposウェビナーに出させていただくのは2回目ですね。みなさん、非常に活発な議論をされるので、前回も非常に楽しませていただきました。
すでに先ほどからいろんなご意見をうかがっていて、みなさんに同意する側面もたくさんあるなと感じつつもですね。同時にやはり、先ほども申し上げたとおり「人材不足」とは、ある意味で企業に必ずついてくるものなんですね。別に「今、起こっている」とか「今、起こり始めた」とか(そういうものではないんです)。もちろん多少、今は状況が変わっているところもありますが「人材不足は、ある意味では企業の『常態』である」と、私は思っています。
「人材不足を常態」だと考えた場合、じゃあ企業はどういうことをやっていけば良いのか? 今日はこのことについて、少しお話をしていきたいと思います。人材不足は企業の常態ですが、今、人材不足が起こっている状況には、それだけではない要因もいくつかあります。人材不足に関して、今、極めて問題になっている「3つの変化」。1つ目は、これは非常にポジティブな面ですが、やっぱり大きなポイントとして「経営戦略の変化」があると思います。
先ほど「構造改革をやっている企業では、そういうこと(人材不足)が起こるんじゃないか」というご意見もありましたね。今、DXやグローバル化、事業ドメインの改革・変革など、企業戦略の変化を推進している企業さんはけっこう多いと思います。逆に言うと、これをやっていかないと企業として生き残れないので、当然やると。
そこで新しい戦略が実行されるとなると、当然、そのための人材が必要になってくるわけです。それは、必ずしも「新しい人材でないといけない」ということではないと思います。でも、やっぱり新しいスキル・新しい能力・新しいコンピテンシーを持った人材が必要になってくるということはあると思います。
つまり、人材不足が起こる1つの大きなポイントは「経営戦略の変化」です。そして、先ほど申し上げたように、これが起こっていない企業はだんだん死んでいく。そういう意味ではこれが「(人材不足は)常態である」ということの、1つの大きな要因であると思っています。
守島:2つ目です。今、人材不足が大きく取り上げられている要素には「人側の変化」もあると思います。例えば価値観が変化していたり、ダイバーシティが進んでいたりする。
また、こうした価値観の変化やダイバーシティに対して「企業が対応する」ことが、ある程度は求められるようになってきたのもあると思います。「社会的責任」みたいなことがいわれている中で、企業は、働く人たちの価値観を無視することなく、ある程度は対応していかなくてはいけない。こうした社会的な要請が出てきていると思います。
価値観の変化が起こってくるとどうなるのか? 要するに「人材の獲得がどんどん難しくなる」わけです。多くの企業は、今までの人事のやり方で人材を獲得して、戦略に(対して)貢献してもらってきました。これまでのそうしたマネジメントが、だんだん適用できなくなってくるんですね。
例えば、ワークライフバランスをすごく重視するような人たちに対して「24時間戦えますか?」のようなメッセージを出す人事システム。それではやっぱり、なかなか働いてくれない・貢献してくれない状態になります。
価値観が変わると、結果として今の人事制度と、働いている人の価値観や考え方、大切にしているものなどがミスフィットを起こす。これが、日本の企業で、特に若手の人材不足が起こっている大きな要因ではないかと思います。
守島:次に3つ目。これは、もうここ2年間ぐらい、みなさんが常に悩まされている話題です。やっぱり「新型コロナの感染が拡大」ということがあると思います。新型コロナはいろんな面で社会的な影響をもたらしている、大きな災害です。人事や経営の観点としては、これまで常識だった働き方や組織運営のあり方を大きく変えたところがポイントとなります。
例えば、今こうやってオンラインセミナーをやっているのも1つだし、ハンコを使わなくなった企業もあるかもしれない。研修のやり方も大きく変わっています。つまり、今までの組織運営とは異なったやり方が出てくる。
例えばテレワークを取り上げてみます。テレワークの中で苦労されているマネージャーのみなさんは、けっこう多いんじゃないかなと思っています。これも、今までのやり方で人事やマネジメントを行おうとすると、結局は新しい働き方にフィットしない。これは(新しい)価値観ではなく、新しい働き方ですが、(従来の人事やマネジメント)とフィットしない状況が起こってきます。これが、今の人材不足を起こしている、もしくは人が働いてくれない状況が起こっている、多くの要因の中の1つではないかなと思っています。
それに付随して、もう1つの要素が出てきました。「新型コロナの感染拡大は、働く人たちの意識を変えている」というデータもあります。ご覧になった方もいらっしゃると思いますが、今年の冒頭の日経新聞に「米国でコロナ退職が増えている」という記事がありました。
要するにコロナ禍になってから、今までの働き方に対して満足ができなくなって「戻るのはいやだ」(という人が増えた)。また、(今後も)企業に対しての信頼感を大きく失う中で「もう辞めるんだ」と考えている人たちが、かなり増えてくるといわれています。
守島:これは米国の例ですが、日本でも社員の考え方が変わってきているというデータも出ています。(スライドを指して)左側は、リンクアンドモチベーションという人事のコンサル会社が行った調査です。2019年卒と2020年卒の新入社員を比べてみると「何を大切にしているのか」「何を会社に期待しているのか」ということが、多少変わっていることが見て取れます。
例えば、2019年卒はやっぱり「ワークライフバランス」的な要素が非常に強いんですね。でも2020年卒はそうではなくて「自己成長の実感」「責任」「やりがい」など、比較的、仕事のおもしろさ・やりがいみたいなところに興味を持ってきています。
同じように、右側はGPTW(Great Place to Work)が行った調査です。こちらは「今後もテレワークを続けるとしたら、会社に何を期待しますか?」という質問を、新入社員ではなくて、一般社員にしたものです。
結果を見ていくと、1位はやっぱりワークライフバランスですが、3位に「新しいことや改善にチャレンジする機会」があります。要するに「自分の仕事にやりがいを見出したい」ということです。このように日本でもけっこう、仕事のおもしろさ、価値観みたいなものに興味を持ってきている。
そして、今後は仕事の「やりがい」や「働きがい」を提供してくれない企業では、人は働いてくれない。(人が)辞めていく。こんなことが起こってくる可能性を、多少なりとも示唆しています。
守島:そういう中で、じゃあどんな人事戦略をとっていかなければいけないのか? これは、私の本『全員戦力化 戦略人材不足と組織力開発』に書いた内容になってきますが、「全員戦力化」という人材戦略をとっていくことが必要だと思っています。
「全員戦力化」といった言葉を使っていますが、必ずしも全員を戦力化するわけではありません。「全員を戦力化するような努力をしていく」という人事戦略なのであって、結果として全員が戦力化されているかどうかは、また別の問題だと思っています。
「全員戦力化」とは何かというと「可能な限り、全人材の能力や意欲を企業目的の達成のために活用する人事戦略」です。バブル経済が崩壊して以降、これまで比較的多くの企業がいわゆる「選抜型」人事を、人事戦略としてやってきました。優秀人材には多くの投資をして、その人たちにがんばってもらう。多くの企業がこうであったと、私は理解しています。
でも、それで本当に良いのか。当然、優秀な人材に傾斜配分をすると、そうでない人材は取り残される傾向があります。すると結果として、やっぱり能力を発揮できないし、能力の開発もできない。そうなると当然、モチベーションを削ぐことも起こってくると思います。
だから、過去20年間ぐらい日本が行ってきた「選抜型の人事」は、本当にそれで良いのかと。これが、私の「全員戦力化」の大前提となっています。「可能な限りの多くの人材を戦力化していこう」という戦略になっています。
守島:具体的な方法論としては、人材マネジメント面を含めいろいろあります。例えば「全員対象のタレントマネジメントをきちんとやっていこう」。タレントマネジメントは、(これまでは)比較的優秀層だけにフォーカスしたやり方が多かったと思います。
そうではなくて、全員に対して丁寧なタレントマネジメントを行う。ジョブと人材のマッチングをきちんと図っていく。こうしたことがやっぱり重要になってきます。
また働き方改革についても、今までの「働きやすさ」中心のものから、もう少し「働きがい」に(着目したものに)変わっていくのではないかと思っています。それと「ウェルビーイング」という言葉が最近使われますが、本人の人生がフルで生きられるような、ウェルビーイングを追求できるような制度・働かせ方になっていく。だから、人材マネジメント面でももちろん、やらなくてはならないことはたくさんあると思っています。
でも、それだけではなく、もう1つ重要な側面があります。それは「組織力開発」、いわゆる組織作りです。みなさんに考えていただきたいのですが、例えば、優秀な人材がたくさんいるとします。全員が戦力化されるといった状況の中で「本人が優秀になるだけ」「本人のモチベーションを上げるだけ」では、十分ではないんです。
やっぱり周りのサポート(があって)、リーダーから見てフォロワーがしっかりついてきてくれるような場が揃っていないと、なかなか(難しいと思います)。(そうでなければ)どんなに人材が優秀になったとしても、タレントマネジメントをされたとしても、力が発揮できない状況になります。
(他には)例えば、ビジョンとかパーパスが共有されていることも(大切です)。あと、職場というものは組織の中でいろんな機能を持っています。例えば「人が育つ」のも職場で行われる。それから「人がなごむ」ということ。
職場に行って安心して仕事ができることは、極めて重要だと思います。例えば「心理的安全性がある職場」「人が育つ職場」「OJTが機能している職場」といった職場を、私は「機能する職場」と呼んでいます。
守島:また、インクルージョンもけっこう重要だと思っています。例えば今、多様性・ダイバーシティという議論がされていますが、ダイバーシティだけで終わっている企業は、結果的にダイバーシティを活用できていないんですね。
多様な人材はたくさんいます。考え方はたくさんあります。でもそれが、例えば「心理的安全性がない」などの理由で、「(自分の意見が)言えません」となると、どんなにダイバーシティを高めたとしても、結果としてはそれが無駄になっていく。逆に言えば、コストになっていくような側面があると思います。
多様な人材を活用していくためには、やっぱりインクルージョンや心理的安全性を(高めて)、いろんな人たちがいろんなことを言えるような環境を作っていくことが重要です。
最後に、情報公開・トランスペアレンシーも極めて重要だと思います。今の働く人たち、特に若い人たちは自律的に働こうという意識をけっこう持っています。意欲のある人が増えている中、その人たちを暗闇の中に置いて「とにかくお前はこれをやっとけ」というタイプのマネジメントをすれば、働く人たちは反発するし、反発しなかったとしてもストレスを感じます。
ストレスを感じると、結果としてやっぱり戦力ダウンになってくるわけですね。だから、そういう意味でも「今、会社で何が起こっていて、どこに向かっているのか?」、(また)良い面・悪い面含めて「あなたの仕事を企業としてどのように評価しているのか?」など、きちんと(情報を)提供していくことは極めて重要です。
(スライドを指して)ここに挙げている「ビジョンやパーパスの共有」「機能する職場」「インクルージョン」「情報公開」といったものは、必ずしも人材の話ではありません。どちらかといえば組織として持っているべき特徴なんですね。
「人が育つ職場であるか」「ビジョンやパーパスがきちんと共有されているか」「インクルージョンがなされているか」「情報公開がなされているか」といったことは、人の特徴ではなくて組織の特徴です。
「(組織が)こういう側面(を持っていないと、)人材にどんなに投資をしたとしても、結果としてそれが無駄になる」と私は申し上げています。もしくは、戦力が発揮できず、ダウンしてしまうんです。だから「全員戦力化」のためには、もちろん人材に対するアプローチも必要ですが、同時に組織を作っていく(ことが大切です)。
それも、働く人たちが自分のモチベーションやエンゲージメントを高めて、ワークライフバランスを維持しつつ、生き生きと活躍できるような組織を作っていく。この重要性について、私は本を書いたわけです。
ちょっと時間もオーバーしてしまいましたので、私のお話はこのぐらいで終わりにさせていただきます。
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