2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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山下悠一氏(以下、山下):お二人とも会社を経営されているんですが、川原さんは『Be Yourself』という本も出されていて、個人としてどう豊かに生きていくか、個人からよりよくしていく、ということがテーマになっているなと感じています。
社会の仕組みから「右肩上がり」をやめようとした時に、どういう仕組みが必要になってくるのか。武井さんは社会システムデザイナーと名乗ってらっしゃるので、最近どんなことをやられているのかという事例を踏まえて、より具体的にお話を聞けたらなと思います。
武井浩三氏(以下、武井):社会システムや会社の仕組みだと、僕は仕組みのほうにけっこう意識が行くんですが、根本はたっくん(川原氏)が言ったのとまったく一緒です。なぜそこにすごく関心があるかというと、まずは僕自身が自分らしくいられる環境を作りたいんですよ。
もともと音楽をずっとやっていたのもあって、生きること自体が自己表現なんですよね。自分らしく生きたい。誰にも支配されたくないし、誰も支配したくないし、会社に上司・部下なんていらないじゃんと思って、会社を一回失敗した経験もあります。
上司・部下じゃなくて、みんな結局は同じ仲間じゃん。仲間としていい関係性を築いたり、一緒に協力して仕事し合える仕組みを作れないかなと考えて2007年から始めた経営が、今になって「ティール組織」と呼ばれるようになっただけです。僕は、一人ひとりがその人らしくいられる仕組み作りをがんばっている。
できればこんな面倒くさいことはやりたくないですが、自分が自分らしくいるために、そういうのが整っていないとムカつくので。ムカつくというか、「俺らしくいることを、なんでお前が邪魔するの? というか、とにかく邪魔しないで」みたいな感覚があって。だから、会社の仕組みに関してはだいぶ理屈がわかってきました。
武井:最初は「いい会社を作りたい」と思って。いい会社の定義は、一人ひとりが自分らしくいられることですが、いい会社を作ろうと思うといっつも邪魔するのは、法律だったんですよね。社会の今の仕組みとか、常識とか。
常識が全部悪いという話じゃなくて。社会は人間関係でできていて、その関係性はインターネットの出現によって大きく変わってきているわけですよね。社会環境が変わってきたら、社会の仕組みも変わって然るべきで、今はちょうどその過渡期なのかなと思うんです。
社会の仕組みのどこらへんが問題なのかなと、ここ2~3年はいろんなことを調べているんですが、やっぱり最後はお金にたどり着くなと。
山下:武井さんがよくFacebookでも書いていますが、武井さんの名前が「浩三」なので、構造がよく見えるんですよね(笑)。
武井:そうそう。
山下:じゃあ、資本主義の仕組みのどこが構造的におかしいのか。あるいは、貨幣経済のどこがおかしいのかを端的に言うと、どんなところにあるんですかね?
武井:端的に言うと、私的所有権が強すぎるところに尽きますね。資本主義も貨幣も、結局は所有権なんですよね。今までの社会システムは、世の中全体で、社会的共通資本と呼ばれる「豊かさ」がとにかく足りなかったわけですよ。
これもたっくんが言っていたこととまったく一緒ですが、高度成長期の頃はがむしゃらに「物を増やそうぜ」という時代だったわけですよね。実際にそれが、社会全体の多くの人にとっての幸せだったわけです。
ただ、バブルが弾けた頃から(物が)多くなり過ぎて、逆に余っちゃった。でも、金で金を生むような仕組みがまだまだ残っているから、金で金を生んでいる人たちが、まさにJカーブの勢いで大富豪になっていくわけですよ。
武井:確かビル・ゲイツとかも、1日の資産運用だけで30億円くらい稼いでいるんですよね。毎日資産を増やしているんですよ(笑)。
山下:毎日。寝ていても資産が増えるんですもんね。
武井:世界一優秀なファンドマネージャーに預けているわけですから、勝手に増えちゃうわけですよ。僕のすごく好きな経営者で、ブラジルのSEMCOという会社をやっているリカルド・セムラーという方がいるんですが、彼は1980年くらいからどんどんみんなに株を渡して、「みんなの会社にしていこう」ということをやっている人なんです。
彼が自分の会計士に、「あなた、そうやってお金や株を撒かずに自分の資産運用に回したら、今の10倍、100倍くらいはあったんじゃないの?」と言われた時に、彼が言った言葉ですごく的を得ているなと思いました。
「ビル・ゲイツもウォーレン・バフェットも素晴らしい人物だ。あれだけ社会に貢献して、今なお自分が得た富を社会に還元している。きっと彼らは取りすぎちゃったんだね」と言っているんですよね(笑)。返すんだったら、最初から取らなきゃいいじゃんという話です。
川原卓巳氏(以下、川原):ほんまやね(笑)。
武井:1回誰かの懐に(資産が)入っちゃったら、外に出ずに循環しない。だから、富の格差がずっと広がっていっているだけなんですよね。仕組みというのは、責任に応じて収入の格差がどんどん大きくなるので、権利が強い人がお金を持ってしまう。それを、責任も全部分散しちゃえば、収入も格差がなくなるだろうと。
つまり、社内で情報の透明性を高めると、「いや、さすがにこれはねーだろ」というような給料の格差は作れないんですよね。
山下:情報の格差ですよね。
武井:そうそう。だから透明性を高めていくことが1つのキーワードだと思う。
武井:そこを突き詰めていくと、最後は権利の話になるんです。僕は不動産テックのオーナーの資産運用のシステムも作っていたりしていましたが、やっていく中で気付いたのが、世界中の大金持ちは株主か地主のどっちかなんですよ。
山下:なるほど。
武井:もしくは、マイケル・ジャクソンみたいに著作権という不労所得の権利を持っている人たち。せいぜいこれぐらいです。でも、みんな不労所得を得る権利を持ってるんですよ。
じゃあ不労所得はどこからくるのかというと、労働者が生み出した価値の上澄みをちょっとずつ取ってるから、自分が働かなくても(所得が)入ってくるわけです。こういう仕組みの問題点に気付いちゃったら、それに乗っかりたいとは思わなくなっちゃって。むしろ、何か是正できないかなと思ってますけどね。
山下:最近の活動の中では、eumoは新しい貨幣のあり方だと思います。今の問題点に対して、どういうふうにカウンターの文化や制度を作ろうとしているのでしょうか?
武井:カウンターと言うよりは、オルタナティブと言ったほうがニュアンスが近いなと思って。競争が全部悪いとは思っていないですし。そう、そこなんですよ。今までの主義の主張って、「社会主義なの? 資本主義なの?」という右か左かになってますが、両方とも必要で、そのバランスの話だと思っていて。
資本主義、私有財産、個人の資産、個人の持ち物が強い時代において、社会的に必要なのは、みんなの物が少ないんですよね。例えば昔の不動産で言うと「入会地」と言って、誰のものでもない土地が村にはいっぱいあったんですよ。
井戸、山、道とかもそうですが、先祖代々守ってきたものであって、誰かが個人的に所有していいものではありえない。というか、みんなのものでしかない。それは英語で言うと「コモンズ」です。
武井:今、世の中にはお金も食べ物も溢れてるのに、お金に困る人もいれば、食べ物に困って日本でも餓死しちゃう人がいるぐらいですから。これは量的に足りないわけじゃなくて、行き届いていない。
だから、みんなの物を増やす。みんなの物というのは、そこにアクセスできるということですよね。「ご自由にどうぞ」みたいな。そういう、みんなの物を増やしていかないとなと思っています。まずeumoでやっているのは、会社自体をみんなのものにするアプローチ。その大きな考え方の1つが、株価をつけない。株価が上がらない。
山下:そうですね。株式会社なのに。
武井:というのも、eumoは非営利株式会社にしちゃったので、もう金銭的メリットは何もない状態なんです。今は2億9,000万円の資本金が集まっていて、株主が300人いる状況でもある。じゃあ、みんなは何に投資してるのかって、「こういうものが世の中にあったらいいね」という、「共感」というキーワードだと思っていて。
eumoで作っているコミュニティ通貨も、お金をみんなの物にしようという感覚なんですね。“共通のお財布”みたいな。通貨にも期限があって、自分で貯められないから他の人のために使うし、あげちゃう。それが特定の通貨の中で循環しているから、手放すことが怖くなくなるんですよ。だって、自分の知ってる誰かに巡ってるだけなので。
困った時に「誰かちょうだい」と言ったら、くれるんですよ。「貯められるお金をいきなりなくせ」と言ってるわけじゃなくて、今はこういうオルタナティブなアプローチにすごく意味があるのかなぁと思っています。あとは何より、めちゃくちゃ楽しいんでね。
山下:どんなところが変わりますか?
武井:仲間がめっちゃ増えるんですよね。だって、仲間集めみたいなものなので。
山下:そうですよね。
武井:みんな、お客さんじゃなくて仲間なんですよね。
山下:株主も含めて、さっきみたいに「詰められる」とかじゃないですもんね。
武井:そう、すごいんですよね。ありがたいんですよ。だから楽しい。楽しいが一番。
山下:そんな経営のやり方を聞いていて、川原さんはどうですか?
川原:一貫してるなと思うのが、何が自然な状態なのかを考えると、今のお金の仕組みはむしろ自然なんですよね。本来、循環して交換していくために生まれたものをより交換しやすい状態にしているだけなので。「お互いさま」という、持ちつ持たれつの仕組み化だと思っていて。今の社会って、それがむっちゃ減ったやん。本当に分断、分断です。
川原:1つ武井さんに聞いてみたかったことがあって。会社で情報透明性を上げようとして全情報を公開する時に、大前提として信頼がないとそれはできないと思うのね。
ある程度の(会社の)サイズまでだったらできるんだけど、そこを越えていく時に、「どこまで信頼していいんだろう?」って自分を試されているような気もしていて。どういう感覚で作って、運用してたんだろう?
武井:いろんな議論をしてきたけど、信頼は結果として生まれるものだなぁと思っていて。最初から信頼があるか・ないかは、あまり気にする必要がない気がしている。いろいろやっていく中で生まれるし。
あと、僕がダイヤモンドメディアを辞めた後に気付いたんですが、村社会と一緒で、1つの組織だけだと「給料」がすごく意味を持ってしまうのが恐ろしいなと思っていて。だって、給料の金額とその人の人間的価値はまったく関係ないはずなのに、組織の中においては、どうしても給料が高い人のほうが優れた人間みたいに見えちゃうわけですよ。
川原:わかる。ニアリーイコールみたいな。くっついてくるよね。
武井:そう。例えば月給1,000円の差だとしても、1,000円なんて1回コンビニへ行ったら飛んじゃうぐらいの金額なのに、月額1,000円の差が意味を持ってしまうことのほうが恐ろしくて。これが、村社会が持っている閉鎖性という力なんですよね。これが悪さをしているということに気付いて。
だから、自然経営では「開放性」というキーワードを挙げているんです。個人が複数の組織を跨いだり、稼ぐ・稼がないは別としても、1つの企業だけじゃなくていろんなところで活動をし始めると、その人自身の価値軸が多元化するので、社内の給与の差が意味を持たなくなるんですよ。これがすごく重要だなと思って。俺、いろんな会社から「給与制度の相談に乗ってくれ」って頼まれるんです。
川原:(笑)。もう、ほんま何屋やねんという。
武井:散々いろいろやってきたんですが、気付いたのは、1つの会社の中で給与制度を整えるのは絶対に無理なんですよ。
川原:おもろい! なるほど。
武井:めちゃくちゃ稼いでいて、平均年収が普通の会社の2倍みたいな会社は別ですが。だけど、意味が絶対生じちゃうので絶対に無理です。大企業を中から自律分散に変えるのは不可能なので、僕が大企業に一番言うのは「副業をいっぱいさせましょう」と。副業させるのが難しかったら、副業人材を外からばんばん入れましょうと。
普通の会社だと、年下のやつに給料を抜かれたら立場がなくなっちゃうわけですよ。大企業というか、組織の中だと。
川原:そうだよね。多少、普通にしゅんとするよね。
武井:そんなんだったら、たぶん中小企業でも居づらくて辞めちゃうよ。それは金額の問題じゃなくて、意味の問題です。でも、今の時期はそれ自体を相対化させる工夫が必要だと思っていて。だから専業を捨てて、たくさん仕事を持つ「現代百姓」になる時代です。
川原:それ、最高。僕個人の観点からたどり着いている結論とも一緒です。自分らしく生きていくために、具体的に何ができますか? と言われたら、絶対に複数の仕事を持つことなの。たぶん一本足打法でやっていると、仕組み上は100パーセント、我慢や自分にとって快感じゃないものを一緒に抱え込むことになる(笑)。
それを「嫌だ」と言えるようにするため、自分のラインまでを押し戻すには、他の入り口があることがすごく大事です。希望としては3個ぐらい、もっと言うと5個ぐらいあると、むちゃくちゃ自由です。武井さんのように(お酒を飲んで)ほっぺを赤くして、こういうところも来れるようになります(笑)。
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