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「DX」って結局誰のため? 何のため? DXで進める未来の働き方構想会議(全3記事)

未だに無くならない「注文は電話、発注書はFAX送信」の働き方 DX推進で最も困難な「アナログに慣れてる仕事のデジタル化」

「“働く”の未来を考える1日」というテーマで開催された「WORK and FES 2021」。本記事ではその中から、株式会社Kaizen Platform 代表取締役の須藤憲司氏、楽天グループ株式会社 常務執行役員 CDO/グローバルデータ統括部 ディレクターの北川拓也氏が登壇し、Zホールディングス株式会社 Zアカデミア学長/武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 学部長の伊藤羊一氏がモデレーターを務めたセッション「『DX』って結局誰のため?何のため?DXで進める未来の働き方構想会議」の模様を公開します。 ※本記事の内容は2021年12月4日現在のものです。

「働く」ことと「DX」は、切っても切り離せない

伊藤羊一氏(以下、伊藤):みなさん、こんにちは。DXをテーマにしたセッションを始めたいと思いますが「(モデレーターを依頼された際に)まだスピーカーが決まっていない」ということだったので、これはぜひ、このお二人にお願いしたいと思いまして。

「何がなんでもお願いしたい。『出ない』と言ってもお願いしたい」と言ったら、お二人とも喜んで出ていただけることになりました。そんなお二人を紹介したいと思います。須藤憲司さんと北川拓也さんです。よろしくお願いします。

北川拓也氏(以下、北川):よろしくお願いします。

須藤憲司氏(以下、須藤):よろしくお願いします。

伊藤:DXについて、この3人でお話ししていきたいと思います。まず簡単に自己紹介と「どんな文脈でここにいるんだろう」ということを推測して、お話しいただきたいと思います。じゃあスドケンさんから。

須藤:みなさま、はじめまして。Kaizen Platformという会社を経営しております、スドケンこと須藤憲司と申します。ふだんは、大企業のDXをサポートする仕事をしていまして。やっぱり「働く」ことと「DX」って、切っても切り離せないと思っています。

今日は北川くんとも、伊藤さんとも久しぶりで。対面で会うのが本当に懐かしいです。

伊藤:何年かぶりですよ。

北川:懐かしい。

須藤:すごく楽しみにしてました。よろしくお願いします。

伊藤:よろしくお願いします。Kaizen Platformという会社のお仕事が、もうDXの真っ只中ですよね。

須藤:そうですね。

伊藤:そういった文脈でリアルな例も含めて、いろいろお話しいただければと思います。スドケンさんとは、4年前に「Schoo(スクー)」というサービスでご一緒させていただいた以来で、超久しぶりでございます。

須藤:本当に超久しぶりです。

伊藤:よろしくお願いします。(北川さんは)スドケンさんと、相当、昔から知り合いでいらっしゃるということで。

須藤:10年以上前からですね。

北川:そうですね。僕が大学1年生の時にお世話になっていたので。

データはお金ではない、違う価値を発見するもの

伊藤:なるほど。そんな楽天の北川拓也さんです。よろしくお願いします。

北川:よろしくお願いします。楽天でAIなどのデータの責任者をしています、北川拓也と申します。データのDXということが、よく話題になります。僕の中で、なんでデータが大事かというと「データはお金ではない、違う価値を発見するものだから」なんですね。

つまり資本主義において、資本主義をアップデートするためには「次に何をゴールにして経営すれば良いのか? 何をゴールに僕たちは生きていったら良いのか?」これを知らなければいけない。それを見つけてくれるのがデータなんです。

「データ」という言葉を使っていますが、それは「新しい価値」のことなんですね。DXとは「新しい価値を生んでいこう」という動きそのものなので、(これは)本質的であると。今日はそういう話をしたいと思います。

伊藤:なるほど。今、楽天ではどんなお仕事をされてるんですか?

北川:AIとかデータの責任者をしていまして。AIの戦略だとか、執行ですね。データのプラットフォームを作ったり、プロダクトを作ったり、コンサルしたり、研究所を運営したり。1000人弱ぐらいの組織でやっております。

伊藤:そういう意味では「データ」という切り口でこのDXを語っていただく。そんな感じで、ぜひよろしくお願いいたします。

北川:はい。お願いします。

伊藤:ちなみに北川さんはYouTubeで、西岡賢一郎さんと3編にわたって対談しています。みなさん、このセッションの後、そちらもぜひ観てみてください。もう、めちゃめちゃおもしろいです。そこでDXについても語られていますので。

北川:ありがとうございます(笑)。

伊藤:スドケンさんはDX関連の本も書かれてるし、Kaizen Platform自体がそもそもDXを支援する会社なので。あと北川さんは、データという切り口でのDX。そういうわけで、DXを語るにはこのお二人しかいないということで、この3人でやっていきたいと思います。

「HRのデータをどうためて、活用していったら良いだろう」

伊藤:私はモデレーターの伊藤羊一でございます。なぜこのDXセッションのモデレーターをやることになったか、改めて考えてみました。以前、SmartHRの宮田(昇始)さんと「HRのデータをどうためて、活用していったら良いだろう」みたいなことを、ヤフーでちょっとやっていた時期があって。

その時に、一緒にイベントに登壇したんですね。とどのつまりが「SmartHRを入れたいんです!」みたいなことを言っていたもんで(笑)。それで、データ関連とかDX関連も詳しいだろうということで、モデレーターをさせていただくわけなんですけども。今日は僕、素人目線でお二人にいろいろ聞いていきたいと思っております。

こちら(自己紹介のスライドを指して)ですね。いろいろやっております。本も書いております。ほとんど自己紹介が本の書影になっていますが。よろしくお願いします。

先ほど司会の方からのご紹介もありましたように「WORK and FES 2021」ということで、ハッシュタグ「# WORKandFES2021」をつけて、ぜひTwitterに感想、コメントをいただければと思います。このセッションでたくさんツイートいただけますと、次回以降もお仕事が回ってくると思いますので(笑)。

(一同笑)

伊藤:ぜひよろしくお願いします。

北川:お願いします。

須藤:なかなかシビアですね(笑)。

伊藤:3人で、リアルでこうやってお会いするのが僕うれしくてしょうがなくて。こういうところでお話しできるの、なかなかないですよね。

今さら聞けないDXの流れ

伊藤:ということで、セッションに入っていきたいと思います。

セッションはざっくり3つ、お話ししたいと思っております。1つ目は「DX入門」ですね。DXって、言葉としてはバズワード的にみんなもう知っているし「あれだろ? デジタライゼーションじゃなくて、DXだろ?」みたいなところまではたぶん、みんなわかっていると思うんだけど。「いったいどういうステップで、どうしていけば良いんだっけ?」というところを、まずはじっくり話したい。

それから2番目は「その先の未来はどうなっていくの」と。今、北川さんがおっしゃったようなところで「どう我々は未来を作っていくんだっけ?」「どう変わっていくんだっけ?」みたいなところを話していきたい。これがメインになると思います。

3番目に、これは僕の個人的な意識として「DX、DX」ってみんな言葉では言うんだけど「日本の経営者みんな、やんねえじゃん。これなんなんだ?」「どうしたら良いんだ」っていうところを、お話ししていきたいと思います。

最初のテーマである「昨今、話題のDXって何?」。スドケンさんの書籍を読み、北川さんの話を聞き、お二人のおっしゃっていることを(基に)めちゃめちゃ雑にDXの枠組みを作ると、(スライドにある図のように)なると思います。

これはもう、ガッチャンコした図なので、「ちょっとここらへんが違うんだよね」とか「ここはこういうことだよね」と、適宜おっしゃっていただければと思います。まあ「今さら聞けないDXの流れ」ということで。

ご覧になっている方には、いろいろな方がいらっしゃると思います。もうわかっている方・専門の方もいらっしゃれば「いや言葉はわかるんだけど、どうしたら良いの?」みたいな方もいらっしゃると思うんです。「今さら聞けないDXの流れ」「DX入門」を考えてみたいと思います。

まず最初に「デジタイゼーション」要するにデジタル化があります。そこで何を目指すかというと「自動化・効率化」であると。これを、スドケンさんは「業務プロセスのDX」と名付けています。

それから、その結果として出てくるものがある。3番目にある「大きな変革!(提供価値のDX)」です。大きな変革ってすごく雑なんですが。3番目に「提供価値のDX」があると。その間(「デジタイゼーション」と「大きな変革!」の間)に何があるかというと「自動化」とか「データがたまって、それを活用できる」みたいなことなのかなと思いまして、2番目は「データの利活用」としてみました。

業務プロセスのデジタル化にある、2つの利点

伊藤:ざっくりこの定義というか、このプロセス自体をお伺いできればと思います。じゃあスドケンさんから。

須藤:そうですね。例えば、今でも電話で注文を受けて、紙の発注書を書いて、FAX送るっていうことをやられてる会社とか事業って、たくさんあるんですよね。これって全部アナログなんで、デジタル化をしたほうが良い。

(そのやり方だと)そもそもデータも取れないので。電話で受けている注文を、できればデジタルで受け取って、そのままデジタルで処理できるのが望ましいわけですよね。

今みたいな業務プロセスをデジタル化していくと、良いことが2つあって。1つが自動化・効率化。要は、今は人が足りないんですよね。たぶんこれをご覧のみなさんもすごく感じていると思うんですけど、採用ってめちゃくちゃ大変なんですよ。

しかも、東京都とか大阪とかの都市部にいる方たちはあまり気づいていないかもしれませんが、実は地方に行くとめちゃくちゃ人が採れないんですよね。それで例えば「店舗を閉めます」とか、そういう業態が増えている。

日本はこれから40年間で、3,000万人ぐらい労働人口が減るわけですよね。そう考えていくと、これから「人」が一番希少になっていく時に、この「業務プロセスのDX」は、マストでやらなきゃいけないことだと個人的には思っています。

そうしてデータを取っていく。じゃあデータが取れるようになると(どうなるのか?)例えば、注文には波がありますよね。オーダーには当然「どういう商品が、どういう時に、どんなふうに集中する」という波がある。だから「こういうピーク性があるので、配送もその時期だけこうしよう」とする。

あるいは、別のデータを使って「物流や倉庫は、こういうところを変えていこう」といったこともできるようになっていくわけです。

つまり、今まで固定的に使っていかなきゃいけなかったインフラを、ちょっと変動的とか流動的に変えられるということなんです。これで、世の中的にはすごく大きく変わりますし。企業から見ても、例えばすごく大きな固定費の部分がちょっと変動費化できるだけでも、ものすごく変わるわけですよね。

こういうことが、提供価値のDXの一端です。それによって、例えば「納品のリードタイムがめちゃくちゃ短くできますよ」とか、(ピークが)予想できるので「これは先にこっちに運んでしまいましょう」っていうことを始められる。利用者としては「すごい! こんな早くオーダーしたものが届いたの!?」となる。

この提供価値というのは、エンドユーザーまで変わってきます。そこまで変えられると、ものすごく大きな変革なのかなと思います。

実は一番時間がかかるのは、業務プロセスのDX

伊藤:なるほど。そもそも最初のプロセスなんですけど。注文を電話で受けて、発注もFAXでやっている会社さん。「ここはさすがに自動化しようよ」みたいなところが、まだ自動化できていない会社って、けっこう多いんですか?

須藤:めちゃくちゃ多いんじゃないですか。それこそ、北川さんたちがやっているペイメントの領域だって、未だに「現金しか扱ってないです」っていうお店がたくさんありますよね。

伊藤:そりゃそうだ。それを一つひとつ「こうやってデジタル化していったらどうですか?」みたいなこともお仕事でされているんですか?

須藤:もちろん、そうですね。実は一番時間がかかるのは、この業務プロセスのDXなんですよ。なぜかというと、みんなそれ(アナログ)で慣れてるから。これを変えるのは、めちゃくちゃ大変なんですよ。

伊藤:なるほどね。そもそも、慣れていることをデジタル化しようとすると、そこにまず1つの壁がありますよね。

須藤:そう。働き方と密につながっているのは、まさにここで。結局、今までのアナログみたいなやり方を続けていると、次(デジタル)にいかないんですよね。ここに一番、慣性の法則が効いて、摩擦があって。これをどうやって乗り越えるかっていうことをやらないといけない。

一方で、データの領域の話を北川さんに聞きたかったんですけど。データがもし本当にきれいに取れるようになったら、できることはすごく変わりますよね。こっち側のスピードの世界はたぶん速いんじゃないかなって個人的には思っているんですけど、どうですか?

北川:そうですね。大きな組織だと、そこのデジタイゼーションのところで、オペレーションを改善しなきゃいけないので、組織が変わっちゃうんですよね。人が要る・要らないみたいな話につながっていく。だからめちゃめちゃ慣性の法則が強いんですよ。

つまり、人が関わるところは、変化がめちゃくちゃ遅い。おっしゃるように、1番目(デジタイゼーション)が一番大変なんじゃないかと思いますね。

「データがたまった先に何が起きるか」を想像できない?

伊藤:大変だし、データがきちんとたまらないですね。2番目のところで、データがたまってきて、3番目にAIとかを活用していく。北川さんがやられている領域も、そこ(2番目3番目)につながると思って「データ利活用&大きな変革」と言っているんですけど。北川さん、これでOKですか? 

北川:そうですね。スドケンさんがおっしゃっていた「データ利活用」について、ざっくり分けると2種類あるかなと僕は思っています。1つは、先ほどスドケンさんが説明されていた「効率化」です。より低いコストでやれますよと。もう1つは、おそらく「市場の拡大」だと思うんですよね。だいたい、そんな感じでつながっていきます。

例えば、僕らだとeコマースをすることによって、デジタイゼーションができました、と。ロジスティクスも含めてできました、と。今度はインベントリのコントロール、在庫の最適化を含めてコストの最適化をしました、と。

その次にどうするかというと「お客さまがどういったものを、どういったタイミングで欲しがるか」という需要が見えてくるので、それはメーカーさん、ブランドさんと一緒に(やっていく)。

例えば、お客さまは足が痛くならないパンプスを探しています。そのデータのボリューム感が1日に何千とあるならば、新しい商品開発につながって、マーケットの拡大につながる。それが大きな変革につながっていく。こんなイメージだと思いますね。

伊藤:なるほどね。だから、なんで「DX、DX」って言われているのになかなか進まないのか? というと、答えはめちゃめちゃ簡単で。最初のプロセスを変えるのが大変だったり、アップフロントでお金がかかったりして、やらないということ。

あと、今(北川さんは)軽くおっしゃいましたが、データがたまった後「その先に何が起きるか」ということを、想像できてないことが多いんじゃないかと。

データが取れると起こる、リアルとの接続

伊藤:スドケンさんのDXの本を2冊読んだところ「提供価値のDX」、つまり「大きな変革」に向けて、5つのステップがあると書かれていました。まずは、ここを簡単に解説願いましょうか。

須藤:ありがとうございます。提供価値のDXとは、要はみなさんが消費者として感じる体験ですよね。デジタルが、価値を(創出)できると何が可能になるのか? 僕は、基本的に2つの方向性があると思っています。1つは「体験をリッチにする方向」ですね。

伊藤:(図の)縦軸ね。

須藤:そうです。リッチにするって何か? 例えばフードデリバリーのサービスを使うと、今どこまで(配達員が)来ているかわかるじゃないですか。あれを見ているとイライラしないわけですよね。リアルタイムの「届けに来てくれているデータ」が自分のところにあるから。「今ここにいるんだな」「そっちじゃないよ」みたいなことを思いながら待っていると、待ち時間がすごく豊かなものになる。

実は、その「体験のリッチ化」って、デジタルの中だけでは完結しなくて、リアルとデジタルを行ったり来たりしながらやっていくんです。

伊藤:なるほど。

須藤:もう1つは、パーソナライズ化です。さっき言った足が痛くならないパンプスを求めている人が、それを求めている時に「あっ、これこれ」って(見つけることができる)。要は、本当にその人が求めているタイミングで出してあげること。これもパーソナライズなんですよね。時間をコントロールしていく。

これが両方ともデジタルによって実現していくと、めちゃくちゃ便利になるので戻れないんですよ。だから、そこまで行き着くのがDXだと思っています。これは体験から設定していますが、その裏側で会社や企業は何をやったら良いか。

よくモバイルファーストと言いますが、要はスマホで仕事ができたり、スマホで業務ができるようになったら良いんですよね。さっきの伝票・注文なんかも、スマホの中でできたら良いですし。

この(スライドの図の)中では「動画化」と書いています。つまり、使い方がわからない・説明が難しいなら「動画で説明すれば良いじゃん」っていうことですね。そうすると、そこからデータが活用できる。

例えば今、飲食店に行くと、ピッってスマホのQRで注文ができる仕組みが、たくさん出ていると思います。「だって、誰でもスマホ持っているんだから、それでオーダーすれば良いじゃないか」と。そうすると、データが取れるわけですよね。

データが取れると、今度はリアルとの接続になっていきます。要は、デジタルの世界とリアルの世界がくっついていく。そうすると、例えば「接客を変えようぜ」とか。あるいはデータが取れるので「ECで買っていただいたものに対して、店舗でレコメンドしよう」といったことがやりたくなるわけです。これがリアルとの接続。

こういうことをいろいろやっていくと「ビジネスモデルも変えていこう」となります。これは「お金の取り方を変える」という話です。

例えば、ワシントン・ポストはもともと新聞社で「コンテンツをリッチに作ろうぜ」と言っていろんなことをやっていた。(それで)CMS、コンテンツマネジメントシステムというものができてきて、それを外販しているんですね。(今では)SaaSの会社になっているわけなんです。

「自分たちのために作ってきた仕組みを、そのまま他にも提供しよう」とか「今までやっていたことからビジネスモデルを、構図を変えていこう」といったことが生まれていく。そこまでいくと、もうわりと戻せなくなるというか、商売として変わっていく。トランスフォームしていく。そんな感じなのかなと思います。

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