2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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田久保善彦氏(以下、田久保):これは個人的には非常に興味深いなと思ったんですけど、堀内さんは資本主義と長年向き合われて、「本当に資本主義って人間を幸せにしているんだろうか」というような、いろんな疑問を感じてこられた。でも仕事としてはやはり、ある特定のロジックに従って仕事をしなければいけないことが当然あると思うんです。
そういう厳しい状況下において、読書をしてきたことで、何か頭の中を巡るワンフレーズや、ご自身がご自身らしくいられたご経験、自分の心を支えてくれたことなど、経験談があれば、ぜひ教えてくださいという質問が来ています。
堀内:私が悩んでいた時に読んだのは、さっきのマルクス・アウレリウスの『自省録』とか、フランクルの『夜と霧』とか、瀬島龍三の『幾山河』とか。ああいうふうに本当に何かの枠にとらわれ、自分が自分でなくなってしまうようなつらい状況に置かれた時に、自分が自分であることをどう担保したのかという本は、すごく心に響きましたね。
組織のロジックがあって、自分のロジックがある。それが100パーセント合っていれば、組織的な悩みは何もないと思うんですけど、だいたい何かズレていますよね。そのズレ方が10パーセントなのか、30パーセントなのか、50パーセントなのか。たぶん50パーセントもズレていると、もうその組織にいられないんじゃないかと思うんですよね。それは辞めたほうがいいと思うんですけど。
10パーセントとか20パーセントぐらいのズレだと、たぶん「どうやって折り合いをつけようか」みたいな話になると思うんですよ。自分が自分であることは担保しながら、組織のロジックとどうやって折り合いつけていくのかということですよね。その部分を読書で埋めるのか、それとも心を無にして働くのかは人それぞれだと思いますけど。
私自身について言うと、やっぱりそのズレが大きかったので、組織は離れたということなんですね。組織を完全に離れてしまうと、組織と自分のズレを埋める必要もなくて、今度は自分がどう生きていくかというだけの話になるんですね。
さっきは紹介しなかったですけど、「人生は重き荷を負うて行くが如し」という徳川家康の遺訓に出会って。自分の一番苦しかった時期は、その後もう少し長く続くんですけど、その時はひたすらそれを唱えていましたね。とにかく今の状況に対して、どう耐え忍ぶのか、どう折り合いをつけるのか。
とにかく今は我慢の時だ、という時はひたすら徳川家康の「人生は重き荷を負うて行くが如し」という遺訓を心の中で唱えていました(笑)。あんまり答えになっていないかもしれないですけど。
田久保:いやいや。今の徳川家の遺訓の話にしても、『夜と霧』は相当有名かもしれませんけど、やっぱりいろんなものを堀内さんがご存知でいらっしゃる。そもそも困った時に拠り所になるインフォメーションが頭の中になければ読めないわけですよね。
ですから堀内さんが、大量に読むことは目的にあらず、教養にあらずというのはその通りだと思う一方で、ある程度の情報のストックがないと「あれを読み返してみよう」と思うことも難しいというのもまた事実ですよね。
それがゆえにこの『読書大全』が僕らの手に入ったことは、ものすごく大きな意味がある。4月の中頃に1回読んで、今回この8月を迎えるにあたってもう1回読んでいたんですけど、それが私が今感じていることなんですよね。なので、やっぱりある程度のデータベースは必要なのかなと思うのですが、そのへんはどうお考えになります?
堀内:僕はこの本を書くにあたって、ものすごくたくさん出ている『○○の100冊』とか「××の200冊』という本を、ほとんど買って読んでみたんです。でも、ただ100冊、ただ200冊なんですね。そこにまっすぐ流れているものがないし、体系立っているものもない。有名な本を100冊や200冊集めたばかりなんですよ。
これが出る半年か1年ぐらい前に、外交官だった佐藤優さんという有名な方が、やっぱり『200冊』という本を出していた。佐藤さんが『200冊』を書くのならちょっと私はいらないかもしれない、と思って買って読んでみたら、あれは結局佐藤さんが書いたわけではなくて、20人のライターが1人10冊ずつ書評を書いたという(笑)。前書きと後書きを佐藤さんが書いてということで。
その時に世の中にこんなに本があって、こんなに『100冊』とか『200冊』という本があって、なぜ一気通貫で書かれたものがないのかなとすごく不思議に思いました。もっとほかの人は書こうと思わなかったのかと思ったんですけど、自分で書いてみてわかったのは、すごく大変だということ。あとやっぱり本の内容をよくわかっているのは学者ですよね。だから学者は、本については書けると思うんですよ。
堀内:ただ学者は、自分の専門外のことはよほどの自信がない限り書かないんですね。ほかの人の専門の領域を侵食するようなことはしないんです。やっぱり「自分の専門分野だ」と自分も他人も認めている部分のことしか書かないんですね。だから私みたいに、途中でビジネスマンから学者になった無鉄砲な人じゃない限り、こんな自分の専門でもないことを書かないんですよ。
だから意外にこういう本を書く立場の人がいない。たぶん佐藤さんみたいな人なら書けるんでしょうけど、時間がないんだと思うんですよ。これはコロナで私が、10ヶ月家にこもっていたので書けたというのがある。
それからこの『読書大全』のアドバンテージは、私がビジネスの経験が長いので、ビジネスマンの人たちに理解できるように書けているところだと思うんです。私はアスペン研究所なんかに参加して、本を読んだりもしましたし、東大のEMPもそうですけど、学者の人ってやっぱり知識レベルではすごくよくわかっているんです。でも逆にビジネスのことがぜんぜんわかっていないので、ビジネスマンが何について悩んでいるかがわからないんですよ。
そうすると「さすがによく書けてるな、よく知っているな」で終わってしまって、ビジネスマンが読んでも「なんか古典って難しいな」と、それ以上のことにならない。やっぱりなかなか自分ごととして読めないんだと思うんですね。
ということで、意外にこれを書く立場の人がいない。それから時間もないということに気がついた。たまたま私がビジネスマンから大学の先生になって、書評家をやっていて、おまけにコロナで閉じこもっていたという、いろんな偶然が重なってこの本ができたんだというのが改めてわかったという感じです。
田久保:この本の帯が、孫泰蔵さんの「ペスト禍がニュートンに万有引力を発見させたように、コロナ禍は堀内さんに『読書大全』を書かせた。そう言いたくなるほどすごい本」というコメントなんですけど。まさに、このコロナによって得られた大きなものの1つは、この本だったなと思うんです。
やっぱりなかなか難解な本も、正直ありますよね。気軽に手にとって気軽に読みましょう、というものではないものも、この200冊の中にはあるとは思うんですけど。そういう意味ではこの本が、ビジネスを学ぶ、ビジネスをやっている、もしくはビジネスに関わろうとしている方との、架け橋になってくれたのかなと、改めて思いました。
田久保:では次の質問は、ちょっと本から離れるんですけど、やはり前半の堀内さんの人生の部分に対するご質問です。
「人生をより良く生きるということで、リベラルアーツについてのご指摘、非常に共感しました」と。「森ビルのプロジェクト。美術館の開業だとか上海のビルのプロジェクトだとか、この期間は本当に楽しかったとコメントされていらっしゃいましたが、堀内さんにとって森美術館が東京・日本・世界に果たした成果。どんな成果があったと思われますか」ということなんですけど。
それに関連して、やっぱり「アートと触れ合う」ということと「自分の羅針盤を持つ」ということに、私はすごく深い関係があるように思うんです。堀内さんはそのへんどんなふうに考えられて、アートに接せられているか。Facebookなどを拝見していると、アート系もすごく造詣が深くていらっしゃいますので、そのへんも併せてコメントいただけたらと思います。
堀内:一番最初に私がアートに関心を持ったのは、単に「きれいだから」という理由だけなんです。もともと私は、日本の伝統工芸が好きで、その中で漆が好きで、それはもう単純に美しいからなんですけど。アートの意味もだんだん変化してきていて、宗教的な意味を持っていた時代もありますし、貴族や王侯が権威を示すための肖像画もありました。
現代的なアートの意味って、やはり「既成概念に揺さぶりをかける」ということが一番大きな存在意義だと思っています。さっき申し上げたように我々は、常に何かの枠にとらわれて生きているんですよね。それは外的な「会社」という枠だったり、部長さんや取締役という「肩書き」という枠だったり、「家族」としてはお父さんや息子だったりとか。
それから自分の思い込みですよね。人種差別の問題とか、性差別の問題とか。とにかく我々はガチガチにいろんなものに固められて生きている。逆にその枠組みがあるからこそ、なんとなくその枠組みに沿っていれば、楽に生きられる。なんとなく常識的な社会人だとみんなに見てもらえて、生きていられるわけなんですけど。
アートの現代的な意味って、その枠組みを1回ぶち壊してみたらどうなるのかということなんですね。だから例えばコンテンポラリーアートなんかを見ると「これはどこまでがアートで、一体どういうふうに解釈したらいいんだろう?」というのが山のようにあるじゃないですか。「そもそもこれってアートって呼べるんですか?」とか、「こんなのアートじゃないだろう!」と言ったりもするじゃないですか。
田久保:「俺でも描ける」みたいなやつですよね(笑)。
堀内:そうそう(笑)。
堀内:「なんでこんなのが10億円するんだ」とか「こんなの猿でも描けるだろ」みたいなことをいろいろと思うわけですよ。そう思うことが大事で、「こんなのアートじゃない」と言った時に、「じゃあそもそもアートって何なんだっけ」という議論になるわけですよ。
「こんなの俺でも描ける」と思った時に、じゃあ「俺でも描ける」とはどういう意味で言っているのか。物理的に同じような様式のものができると言っているのか、そこに込められているメッセージを自分でも発することができるのか。ではそこに込められているメッセージとは一体何なのか、とか。考えれば考えるほどわからないことだらけなんですね。それに向き合って、自分を1回解体するような手段。それがアートだと思うんです。
その時に初めて「自分って変な思い込みをしてたけど、本当にそうだったのかな?」みたいなものを一瞬にして考えさせてくれるものがアートだと思うんですよ。ですから単純によくできていますね、ただ単にきれいですね、ただ単に細かく描けていますねというのは、工業製品であってアートではないと私は思うんですね。そういうのがアートの意味かな、と思います。
田久保:なるほど。さっきも「自らに由る」という、まさに書いて字のごとくの、「自由」という言葉もありましたけれど、何か枠を取り払い、頭の中を1回リフレッシュすること、そこに本質の1つがあるんじゃないかと。
堀内:そうですね。さっきのマリリン・モンローの言葉じゃないですけど、やっぱり自分が自分であるということが、私は一番重要だと思っています。自分が自分であることの意味を、そもそも自分がわかっているのかということも含めてね。自分を1回解体してみて、自分の中で自分自身をちゃんと構築していくようなプロセスに、アートはすごく役に立つのではないかと思います。
田久保:堀内さんのFacebookを拝見していると、映画もたくさんご覧になられているので、釈迦に説法みたいな話ですけど、グロービスのクラスの中でネルソン・マンデラの『インビクタス』という映画を教材に使っているんですね。
『インビクタス』の詩の最後に「私が我が魂の指揮官なのだ」という言葉が出てくる。まさに「自分の生き方は自分で決めようよ」という、メッセージで、それをマンデラがこよなく愛していた。その詩の名前が「インビクタス」。そんな文脈があるんです。
最後のほうに堀内さんに引用していただいた、有名なスタンフォードでのスピーチも本当に「自分の人生の生き方は自分で決めないとダメだ」というジョブズからのメッセージでしたし。すべからく最後に「自分の人生を自分で決める」ということの、まさに今日の「羅針盤を持つ」ということの大事さが、最後の最後のメッセージでいろんな人から出てくるということを、改めて感じました。
これはぜひうかがってみたいんですけど、本の中にも「Good LeaderはGood Readerである」という言葉が使われていました。堀内さんの周りにいらっしゃる方で「この人はGood LeaderだしGood Readerだな」と思うのは、どんな方ですか。
現代に生きている日本人のリーダーで、「この人は本当に本をよく読まれていて、本当にすばらしいリーダーだな」と堀内さんが思われている方を、何人か教えていただければと思いますが、いかがでしょうか。
堀内:いろんなレベルでありますけど、私は自分が仕えた森ビルの森会長は、すごい人だったと思います。彼はコルビュジェの『輝く都市』という本を読んで、それで都市開発を始めるんですね。その話は『読書大全』にあります。
もう1人すごいなと思う経営者は、やっぱり孫正義さんですね。彼の新入社員向けのスピーチとか、YouTubeにもアップされていますけど。やっぱり本を読んでいるし、人間のことがよくわかっています。それでいろいろ調べてみると、肝炎で入院されていた時に3,000冊ぐらい本を読んだと言われていて、やっぱり孫さんはすごいなと、つくづく感心しますね。
それからもうちょっと私に近い人では、経営共創基盤の冨山和彦さんなんて、ストリートファイター系のくせにすごく本を読んでいるので(笑)。
田久保:(笑)。
堀内:まさに実践的な読書家という意味ではすごくて、だから彼と本の話をしているとけっこうおもしろいですね。それから、今JTの副会長をされてる岩井睦雄さんは、現役の大企業の経営者としては異例なほど読んでいますね。アスペン研究所でも理事をされていますけど、教養があって経営をしている……だからマルクス・アウレリウスの「哲人皇帝」みたいなイメージで(笑)。あれぐらい勉強した経営者はそんなにはいないなと。
田久保:ありがとうございます。ちなみに堀内さんのFacebookというのは、お友だちではない方にも公開されていらっしゃるんですか?
堀内:今は本の書評とかだけは時々公開していますね。
田久保:なるほど。今日聞いてくださっているみなさん、もしご覧になれるのであれば堀内さんのFacebookの書評は、どこよりも早く、リアルに、ガチの書評が相当な頻度で上がってくるのでぜひ。
堀内:(笑)。
田久保:私は今お名前が出ていた冨山さんとの掛け合いをFacebookで見ているのが一番勉強になると、最近思っています。そんなものが展開されていますので、僕が宣伝するのもなんですけど(笑)。
堀内:(笑)。わかりました、では本は全部公開にします。
田久保:もし見られるような状態になっていれば、参加者のみなさんもぜひご覧になることをおすすめしたいです。
堀内:食べ物の投稿は友だちだけにしていますけど(笑)。
田久保:(笑)。ありがとうございます。では本当に今日、たくさんのいろんな気づきをいただきましたが、聞いてくださっているみなさんに、最後に堀内さんからメッセージを一言いただけたらと思います。
堀内:はい。もう1回画面を共有させてください。さっきは簡単にご紹介しましたけど、ニュートンの言葉です。時間がなかったのですごい勢いで説明してしまいましたけど、これはフランスの哲学者の本からの引用なんです。その中でニュートンが友人に宛てた「私がかなたを見渡せたのだとしたら、それは巨人の肩の上に乗っていたからだ」という書簡を紹介している。
要はニュートン自身が巨人で、天才だから私たちと違うと思ってしまうかもしれませんけど、ニュートンでさえ、自分がいろんな発見をしたり知見が広いのは「巨人の肩に乗っているからだ」と言っています。
ということで、人類の知というのは古代ギリシャも東洋もそうですけど、さっきお話ししたように、2,500年とか3,000年ぐらい前からの積み上げでできています。ですから本を読んで巨人の肩の上に乗れば、さらに遠くの地平線が見渡せるということです。
その本が1冊1,500円とか2,000円ぐらいで手に入るわけで、こんなに安いものはないというのが私の理解です。ということで、ぜひこの『読書大全』をまず入り口にしていただきたいと思います。これを読んで、本を読んだ気になってしまうのは困るのですが(笑)。『読書大全』を読んで、これは読んでみたいなという本があったら、ぜひ自分でその本を買って、読んでみていただければと思います。それが私のメッセージです。
田久保:ありがとうございました。本当に今日はたくさんのコメントもチャットに流れて、大変いいお話をうかがえました。堀内さん、お忙しいところ本当にありがとうございました。
堀内:どうもありがとうございました。
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