2024.10.10
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#2 渋沢栄一「論語と算盤」から学ぶ経営論|これから生き残れる会社・経営者の共通点(全1記事)
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森本千賀子氏(以下、森本):これからの時代の「変化」をどういうふうに捉えていらっしゃいますか?
楠木建氏(以下、楠木):もちろん、これからいろんな変化があると思うんです。ただ本質はそんなに変わらないので、これまで必要だったことはこれからも必要だし、これまであんまり必要なかったことはこれからもあんまり必要ないと思っているんです。
ビジネスはいつでも長期利益を考えることが大切だと思っているんです。「余計な話が入ってきているな」というのが、僕の感覚です。
商売やビジネスの目的がなんで長期利益なのかというと、カネ、カネ、カネということではないんです。一瞬稼ぐのであれば、客を騙して儲けたり、従業員を泣かせて儲ける方法がありますよね。ところが、それはもたないんです。
森本:そうですね。
楠木:ですから、あくまでもゴールは「長く儲け続けるためにはどうすればいいか?」を徹底的に考えることです。
森本:サステナブルに、ということですね。
楠木:それは、競争の中で独自の価値を作ってお客さまを満足させていることとまったく同じなんです。一番正直な顧客満足の指標は、長期利益だと思います。当然、株式会社であれば、株主に対して利益貢献をしなきゃいけないんです。ですが、どうやったら株主を儲けさせられるのかというと、「会社が儲けること」なんです。
儲け続けていれば、「やめてくれ」と言ったって投資家は高く評価します。なので株価も上がります。また、配当といっても利益処分の一形態なので、そもそもの儲けがないと話にならないわけです。社会貢献が従業員の満足という意味でも、雇用を作って守り、給料も払えるのは儲かる商売があってこそできるわけです。
楠木:例えば気になるのは、最近は渋沢栄一さんの伝記が注目されています。『論語と算盤』です。
森本:書店でも並んでいますよね。
楠木:『論語と算盤』という話を、ほとんどの人が誤解していると思うんです。よく言いがちなのは、「資本主義が暴走する」「算盤だけだと暴走してしまうので、論語に象徴される道徳観できちんとブレーキをかけなきゃいけない」ということです。
森本:倫理観ですね。
楠木:「ESGやサステナビリティが話題になっている現代を、渋沢さんは先取りしていた」と言うバカがいるんですよ(笑)。
森本:そういう展開ですね(笑)。
楠木:その人たちは、単純に『論語と算盤』を読んでないだけなんです。
森本:間違った解釈なんですね。
楠木:間違った解釈以前に、たぶん読んでいないのだと思うんです。僕は、ちゃんと読みましょうよと(言いたいんです)。渋沢さんは「算盤しかない奴は単に欲がないだけで、道徳的であることが一番儲かるんだ」と言っているんです。
「商売で欲を持って大成功しようとするなら、道徳的でいることが最も優れた方法である」というのが、『論語と算盤』なんです。それがすごく大切だと思っています。
楠木:ESGやサステナビリティを利益とトレードオフで考える人がいるんです。二酸化炭素を出して企業活動をバンバンやって、環境に負荷をかけることを抑えて、ESGやサステナビリティをやりましょうというのは大間違いだと思います。
もし本当に二酸化炭素を減らしたいのであれば、企業活動をすべて即時停止するのが一番良いんです。「即、企業を解散してください」と。
森本:そうですね(笑)。わかりやすいです。
楠木:これはまったくトレードオフじゃなくて、少し時間軸を伸ばせばごく自然にトレードオンになると思っているんです。例えば、いろんなエピソードがあります。まだご存命なのですが、僕が仕事をしている競争戦略という分野自体を作ったマイケル・ポーター先生という、競争戦略の大御所の方がいます。この人はゴリゴリの資本主義者なんです。
森本:ゴリゴリなんですね(笑)。
楠木:競争戦略論で「長期利益が……」と言っているくらいなので、たぶん共和党を支持しているんじゃないかなと思います。
森本:算盤のほうですね(笑)。
楠木:ご存じだと思うのですが、彼は10年くらい前にCSVという議論を主導したんです。Creating Shared Value(社会共通の価値を作る)という考え方です。今でいうとまさにサステナビリティの話で、「社会問題を解決するのが企業の役割だ」という話をしているんです。
10年前にそれを聞いた人々はみんな、「宗旨替えだ」「これまで金儲けでやってきた競争戦略論のポーター教授が社会共通価値なんて、ずいぶん言うことが変わりましたね」と、ポーターさんに突っ込みを入れたんです。
これはどういうことかな? と、僕は思いました。その頃、僕はポーターさんに会う機会があったので、「どういうことですか?」と聞いたら、彼が一言。「バカ野郎。CSVが一番儲かるんだ」と言っていました。
森本:なるほど(笑)。
楠木:そうなんですよね。あらゆる商売は問題解決なんです。今、一番大きな問題は社会レベルの問題なので、大きな問題を解決するほど、また儲けも大きくなるんです。
楠木:もう少しわかりやすく最近の日本の例でいうと、ユニクロもかなりサステナビリティに投資をしているんです。例えばリサイクル活動はけっこう有名ですが、商品作りでいうと、ペットボトルから再生した糸でポロシャツが売れているんです。30年前だったら、こういう商品を買う人は緑の党員だけですよ。
森本:そうですね(笑)。
楠木:インテリで社会問題や環境問題にすごく関心がある人が、自分の意見表明でそのような消費をしていたと思うんです。ところが、特にヨーロッパは市場がそうですが、今や普通のお兄ちゃんやお姉ちゃんが買っているんです。「なんで?」と聞くと、「こっちのほうがカッコイイから」ということなんです。
森本:クールなんですね。
楠木:そうなんです。ファストファッションで売ったり買ったり捨てたりするよりも、こっちのほうが気分が良いよねと。つまり、ESG経営論とは実需なんです。ですから、商売のど真ん中のことなんです。消費税でもそうですよね、産業財であれば、エネルギー負荷を小さくするものは実需ど真ん中なんです。
なので、企業は単なる儲け話だと思って、変わらず長期利益を追求していけばいいと思っています。だいたい経営は、余計なことを考えるところから悪くなっていくと思うんです。なので長期利益です。長期利益さえうまくいけば、あとは全部良いことが起きるようになっているんです。
企業ができる最大の社会貢献は99.9パーセント、納税です。ワクチンを1回打つのにもコストがかかります。どこから来ているのかというと、税金なんです。ガンガン稼いで、ガンガン納税。トヨタ砲5発で国防が可能なんです。これは最大の社会貢献だと思います。すごくシンプルなんです。
シンプルにできているのが商売の良いところです。せっかくシンプルにできているので、ぜひそのメリットをもっと追求するべきだと思います。余計なことを考えるところから(経営は)悪くなってくるんです。
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