2024.12.24
ビジネスが急速に変化する現代は「OODAサイクル」と親和性が高い 流通卸売業界を取り巻く5つの課題と打開策
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松浦真弓氏(以下、松浦):今、次の世代とか教育の話が出てきましたので、「次の世代を育むために」というテーマで少しお話をうかがっていきたいと思います。プレゼンの中でもご紹介されていた「スミファ」、すみだファクトリーめぐり。
次の世代の方々に、ご自身の原体験になったものづくりの世界を知って欲しいという思いで始められたとお聞きしていますが、このスミファでの活動についてもう少しお話を聞かせていただけますか?
浜野慶一氏(以下、浜野):今年は残念ながらオンライン限定での開催でしたけど、始めたのは10年前なので今年が10回目だったんですね。冒頭でも触れましたけど、墨田区って大田区に次いでものづくりが集積された地域なんですね。1960年代、1970年代最盛期の時には工場が9,800くらい墨田区内にあったんです。
でも、令和3年の今はもう1,600社しかなくて。毎年地域から職人さんの技術だけでなく、情熱や思いもどんどん消えてしまっている。墨田区ってどういう地域かと聞くと、相撲もあり、ちゃんこ鍋もありますけど、やっぱりものづくりの地域だよねと。
確かにそうなんですよ。江戸時代からものづくりをやっている地域なんで。でも、そのものづくりがこの墨田区からどんどん姿を消している。1社1社小さい工場ばかりなので、サプライチェーンの中で5次下請け、6次下請けぐらいでやっている人たちが多くて。
せっかくいい技術を持ちながらも、直接エンドユーザーさんや、いわゆる大元のお客様、発注先にその技術や情熱が伝わっていないんですね。自動車業界の仕事をやっているとしたら、そこからなかなか飛び出せない人たちがいっぱいいたので、業界や業種を飛び越えて、いろんな方々に技術や情熱を見ていただくことで販路を拡大してほしいという思いで、当初は始めました。
松浦:私もスミファのWebページを見せていただいたんですけど。たくさんの工場の様子が動画で紹介されていますね。ああいうのは、工場の方々がご自身で撮るものなんですか?
浜野:スミファ実行委員会というのを作って中核的にいろんな取りまとめをしているんですが、みんな本業がありながら実行委員をやっているので、なかなか全部の企業さんの動画を撮ることができなくて。基本的には「各社さんに自分たちで動画を撮ってください」とお願いをしていました。
松浦:なるほど。町工場の方々ってわりと高齢の方も多いと思うんですけど、そういうところに抵抗はないんでしょうか?
浜野:そりゃ、抵抗はありますよ(笑)。撮れないとか、中にはパソコン持っていないとか、メールアドレスを持っていないとか。注文はFAXのみみたいなところが、実を言うとけっこうあります。これは墨田だけの話じゃないですけどね。
松浦:はい。
浜野:なので、撮れないのも「それはそうだよね」と。撮影ができる会社さんもありますし、まったくできない、わからないという会社さんも半々くらいいて。私らぐらいの世代になると、若い人たちと違って小さい時から動画の撮影などやっていないですし。とっつきにくいしわからないので、説明会を開催したんですね。
ただ説明会を開催して、「あとから家でやってください」「会社でやってください」と言ってもたぶんできないので。とにかく「スマホを持ってきてください。アプリのダウンロードの仕方も教えるので、一緒にやっていきましょう」と呼びかけました。
そしたらあるお婆ちゃんが私のところに来て、「すみません。私、スマホ持っていません。ガラケーです」と言われて。そっか、これはちょっとハードルが高いなと思いながら、説明会の日を迎えたんですよ。
松浦:はい。
浜野:そしたら、「スマホしか持っていない」と言ったお婆ちゃんが、私のところへやって来て、「浜野さんね、今日は説明会があるっていうから、昨日スマホショップに行って、ガラケーをスマホに変えてきた。これ買ったのよ」って。すごくうれしかったのと、中小企業のDXってこういうことじゃないかと、私は勝手に思っているんですけど。
松浦:まさにそのお婆ちゃんのイノベーションですよね。町工場のDXの始まりと言ってもいいかもしれません。それをきっかけに、そのお婆ちゃんが自分の工場の動画を撮って、それを世の中に公開することで新しいつながりが生まれるということになるわけですよね。
浜野:そうですね。
浜野:私たち実行委員会も人手が足りないので、すべての人、企業さんに説明に行くとか、動画の手伝いをするというのはなかなか厳しい。先ほども言いましたけど、やっぱりスミファも実行委員会も中小企業なんで、できないことがいっぱいあります。
だったらできる人たちとうまく組んでやればいいじゃないのということで、昨年4月に墨田区に専門職大学が開学して、学生がいっぱいいるんですね。iU(情報経営イノベーション専門職大学)という専門職大学で、私はそこの客員教授もやっているので、先生方とか学生に「ちょっとこういうことをやるから手伝ってくれないか」と言ってみて。
高齢者や動画が撮れないというところに学生が行って、撮影や編集、テロップ付けをしてくれたり。そうやってできる人たちをうまく巻き込んで、プロジェクトを進めています。
松浦:ちょっと難しい言葉を使うと、地域のプラットフォームみたいな感じですよね。
浜野:プラットフォームみたいにちゃんと整備されてはいませんけど、そんなイメージかもしれません。
松浦:つまりは、高齢だからとか、スマホを持っていないからとか、技術がないからとか、そういうことがいわゆるDXの制約条件にはならないということですよね。
浜野:そうなんです。確かに自分では難しいし、とっつきにくいかもしれない。セミナーに行ったり、説明書を読んでもわからないことが山程ある。でも、そういうことに明るい人たちもいっぱいいるので、うまく手伝ってもらいながらやっています。
やっぱり取っ掛かりのところを疎かにしてはいけないですね。1回できると、必ずその次、その次となってきます。「できないものは、できる人に手伝ってもらえばいいんじゃないの?」という、下町の長屋の「お互い様」「互いに助け合って生きていく」みたいな、そんな中で確実に各企業さんが事業構造を変えていっています。新たなお客さんが開拓できたとか、15年ぶりに新卒が入ってきたとか、そういう展開になっていますね。
松浦:なるほど。やっぱり1社で戦うのではなく、チームで戦ったほうが強いですしね。アイデアもより多く出てくるでしょうし。
浜野:今まではものづくりの業界だと、業界団体とかの枠組みに縛られていましたけど、枠を外したり目線を広げると、できる可能性が高まるんじゃないかと感じています。
松浦:続いて浜野製作所さんの、採用や人材育成についてお話をうかがいたいと思います。組織である以上は、会社を構成する人たちをどう育てるかは重要な観点だと思います。
浜野製作所さんがいいお仕事ができるのは、同じ方向を向き、志を持ってイキイキと仕事をする社員の方々がいらっしゃるからだと思いますが、社員教育で何か工夫されていることがあったら教えてください。
浜野:資格(取得支援)制度だったり、そういうものは社内制度としてありますけど、それは多くの会社さんがやっていることだと思います。会社概要の後半でもお話させていただきましたが、成長に必要な能力というとみなさん技術的なものに注力しちゃうんですけど、それを実践していくのは人です。人が能動的に積極的に動いて、初めて技術が効率良く回っていくはずなんです。
やはり企業文化ですよね。いっぱい勉強して技術検定に受かっても、朝来て誰もお互いに挨拶を交わさないとか、ゴミが落ちていても拾わないとか、そういう会社ではよろしくないと思いますし。
逆にそういう雰囲気の会社だったら、できる人からどんどん辞めてしまう。その離職を抑制するための企業文化ではなくて、ここで働くのが楽しい、あるべき姿をこのメンバーと一緒に成就したい、そういう企業文化を作ることが土壌の部分であって、これをしっかり作る。これは社長の役割だと思います。そこがないといけないと思いますね。
松浦:今、文化をしっかり作ることとおっしゃいましたけれども、例えば社会人の基礎的な部分、素養はOJTや研修を受けたり、デジタルツールを使ったりとかで身に付きますよね。
浜野:はい。
松浦:一方で、マインドや文化は、浜野さんが新入社員の人たちに繰り返し伝えていくものですか?
浜野:毎日彼らにそういう話をしているわけではないですし、勉強会やセミナーも毎日行っているわけではありません。道具の使い方とか、挨拶の仕方とか、報告の仕方とか、日々の仕事の中でそういうことを繰り返し教えて、まず腹落ちしてもらうことが大切だと思いますね。
スミファのところでも言いましたが、「行け」と言われればセミナーや勉強会に行きますし、それなりのレポートを書いてくるんですけど、強制してやらされるものって腹落ちしていないから実践されないんですよね。こういうところが足りない、できていないと自分で考えて、自発的にセミナーや勉強会に行くから腹落ちする。
松浦:そうですね。
浜野:勉強会だけじゃなく、日頃の仕事もそういう姿勢や取り組み方のほうがいいんじゃないかと思っています。
松浦:人はモチベーションが高い状態のほうが、学びのフィードが高くなりますし、定着率も高くなりますからね。おそらくそのモチベーションアップのところが大事なのかなと私も思います。ありがとうございます。
松浦:教育とか人材採用の部分で、インターンシップにも取り組んでいるというお話があったと思うんですが、例えば人材を採用する時の必須の要件などはありますか?
浜野:一応ありますが、人は個性もあるし、得手不得手もそれぞれじゃないですか。そういうことも含めて、うちは60人くらいなので、インターンシップを含めた採用というのが、一番マッチング度合いが高いと思っていて、新卒に関してはインターンシップからの採用しかしていません。
松浦:そうなんですね。
浜野:ですから、しばらく一緒に仕事をするわけですよね。そうするとお互いの人となりや企業文化みたいなのもわかってもらえる。なんとなく良さそうだなと思って行ったけど、あまり良くないなとか。逆に採用する側も、この子はこういう局面でこんな行動をするんだとか、あまり目立たないけど、バックヤードの仕事をちゃんとやっているんだとか。
そういうところをみんなに日頃から見てもらったり、そういう意識を付けておくと、インターンシップの翌年に、「インターンシップにいた○○くんが、うちに入りたいと面接に来る」となった時に、「彼はインターンシップの時にこういうことをやっていたから、彼はすごくいいと思う。一緒に仕事をしたいです」と、パッと結びつくわけですね。
松浦:なるほど。
浜野:単年度で50人とか100人を採用する企業だとインターンシップでは厳しそうですが、うちの場合は単年度に採用しても2~3人くらいなので、インターンシップがたぶん「一番お互いのミスマッチが少ない」と考え、そういう採用方法を取っています。
松浦:お互いに良さや苦手なところとかも含めてわかった上で、納得して入ってくるということですよね。
浜野:最近は若い子たちは、1~3年くらいですぐに辞めたり、転職する子が多いですけど、うちはあまりそれがないですね。新卒で入った子もそれなりにがんばって、我慢しているのかもしれないですけど、うちには長くいますね。
松浦:そろそろお時間になってきましたので、最後の質問をさせていただこうと思います。浜野さんはさまざまな活動を展開されていらっしゃいますが、次は何にチャレンジをして行きますか?
浜野:私がこんなことを言うのはすごくおこがましい話ですけれども、せっかくいい技術を持ちながら、日本のものづくりがどんどん弱体化し、なかなか日の目を見れない時代になりつつあります。
量産の仕事はどんどん海外生産拠点に移っていますが、ちょっと表現がおかしいですけれども、量産の仕事を海外の国から奪おうということはしちゃいけないと思うんですね。量産の仕事はこれから成長していく国に、受け渡していかないといけないと思うんです。我々日本は社会を変えていくとか、新たな市場を創出していく。そういうものづくりをしていく必要がある。
先ほども申し上げましたが、新たなサプライチェーンの在り方とかをこの町工場から発信し、町工場がハブとなっていろんな連携ができたら、新たな意味での「日本のものづくり」を世界にちゃんと理解してもらえるんじゃないか。次の世代に理解してもらえるんじゃないか。今後はそういう活動をしていきたいと考えています。
松浦:ありがとうございます。浜野さんのお話を聞いていて、町工場発のDXを実現されていくのかなと感じております。ありがとうございました。
浜野:ありがとうございました。
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