CLOSE

「90分腹落ちセミナー」女性活躍への処方箋! 疲弊させない組織づくり「ヘルプシーキング」徹底解説(全4記事)

今の時代「優秀なプレーヤーの延長線上が管理職」ではない マネージャーでも「できない」を言語化し、助けを求めてもいい

女性活躍推進の第一歩として、多様な人材が活躍できる職場をつくるには「長時間・残業ありきの労働」からの脱却が欠かせません。しかし未だに「特定の人材に業務が集中し属人的になっている」「業務が減らないまま働き方改革が進み現場が疲弊している」「困っていることが開示しづらい」「助けを求めることで甘えとみられてしまう」といった風土のある組織も少なくありません。そんな中、一人ひとりが「気合・根性の働き方」や「自分の仕事は自分一人でやり遂げなければならない」という思い込みを捨て、チームとして成果を上げる「ヘルプシーキング力」が注目されています。そこで、多様な人材が活躍×組織の成果を実現させる「ヘルプシーキング」について、多数企業での人材育成支援に携わってきたNOKIOOの小田木朝子氏と、組織開発のプロフェッショナルである沢渡あまね氏の2名が徹底解説するセミナーの模様を公開します。

ヘルプシーキングはタイプ論や性格論でなく、ビジネススキル

小田木朝子氏(以下、小田木):ではまず沢渡さん、今日のキーワードからですね。

沢渡あまね氏(以下、沢渡):「ヘルプシーキング行動」。

小田木:今日のキーワードとして「ヘルプシーキング」というフレーズを使わせていただいております。意味は読んで字のごとくなんです。「ヘルプをシークする」「周囲に援助や支援を求める行動」。これを今日は「ヘルプシーキング」と呼ばせていただいております。また、私たちは今、このキーワードを使いながらいろいろな発信をさせていただいております。

「みなさんは、助けを求めることをどう捉えていますか?」「どんなイメージを持っていますか?」このあたりも含めて考えていきたいと思います。なぜこの言葉が今注目されているのか。なぜ私たちはこれが大事だと発信しているのか。それには3つの観点があります。(スライドを指して)下のブロックをご覧ください。

まず1つ目。周囲に援助や支援を求める行動、ヘルプシーキングの考え方と行動を「ビジネススキルとしてみていきましょう」という前提があります。「ビジネススキルじゃないなら何?」ということなんです。

私がこういう発信をしていると「でも私って、そういうのできないタイプなんですよね」「性格的になかなか難しいんですよ」みたいに受け止められることも、入り口としてよくあるんですね。

今や、適切に周囲に支援を求める行動はタイプ論や性格論ではなくて、ビジネススキルとして定義されていて、かつ注目されています。この前提をまず1つ目として共有したいと思います。

「みんな、ヘルプの声を上げるように。以上」ではない

小田木:そして2つ目。「組織スキルとしての注目」。これは沢渡さんから共有いただきたいと思います。

沢渡:そうですね。「組織スキル」とはどういうことか? というと、個々ではなく組織全体としてヘルプシーキングしやすい環境を作っていく。あるいはヘルプシーキングするための手段や場を作っていく。また当然、ヘルプシークして「助けて」と声を上げても、みんなが「しーん……」としていたら「二度と声を上げるか!」と思うわけで。

小田木:トラウマになる。

沢渡:そうですね。ヘルプシークを受け止める側も、マネジメントとしてどう受け止めていくか(考えていく)。マネージャーとして、リーダーとして、もちろん同僚同士として。こうして、組織としてヘルプシークが起こりやすい環境を整えていく。そういう意味で「組織スキル」と説明しています。

小田木:「みんな、ヘルプの声を上げるように。以上」ではなくて、どういう組織作り、チーム作り、仕組み作り、プロセス作りをしたら、相互にヘルプシークし合う環境を作っていけるのか。そういう意味での着目ですね。

沢渡:そうですね。そう考えると、個々のマネージャーは振る舞い方を(考える)。総務部門は職場でヘルプシークしやすいオフィス環境を作っていく。情報システム部門は、例えばビジネスチャットみたいなツールでヘルプシークしやすい環境を作っていく。人事部門は、ヘルプシークした人をマイナスではなく、きちんとプラスに評価する人事評価制度を作っていく。あるいは(ヘルプの声を上げた人の)スキルを育成していく。このような多面的な読み解きができると考えます。

小田木:ありがとうございます。スッキリしました。

今の時代「優秀なプレーヤーの延長線上」に、管理職はない

小田木:そして、最後のブロックは「女性活躍推進のカギとしての注目」。女性を含む多様な人材から最高のパフォーマンスを引き出せる組織を作るために、このヘルプシーキングが(不可欠です)。つまり相互に助けを求め合って、連携できる組織作りが欠かせない。この観点が3つ目です。

沢渡:そうですね。みなさん勘が良いのでおわかりだと思います。今日のテーマは「女性活躍推進」ですが“女性だけ”とは限らないわけですね。

例えば、最近は複業人材を登用する会社も増えています。そうすると、会社にフルタイムでコミットする人以外の人材も束ねて仕事をしていかなければならない。プロジェクト業務なんてそうですよね。

私はIT業界が長いのですが、この業界のプロジェクト業務は正社員だけではなかなか行われにくいんです。協力会社の方、派遣社員の方、それこそ出向で来られた方など多様な人材が同じゴールに向かってチームを動かし、行動していくことになるわけです。

そうすると、さまざまな立場、さまざまな働き方の人がチームビルディングしながら連携していく。コラボレートしていく。そのためには、なおのことヘルプシーキング行動がものすごく大事になっていくんですね。

小田木:今、「多様な立場の人」に関してお話しいただきましたが、男女にかかわらず「管理職の働き方」のようなことも、実はここにつながるんですよね。

沢渡:はい。間違いないですね。

小田木:「俺はマネージャーだから、管理職だから誰よりも責任を背負わなければいけない」「管理職は誰にも頼らずに1人で抱えなきゃいけない」と言っていると、今度は管理職がつぶれてしまう。これでは、きちんと仕事をしていくことも難しくなります。

また、そういった仕事ぶりを見ていれば、次に(管理職に)なりたいという人材が増えていかない。この観点でも、多様な人材の活躍、女性活躍推進につながるカギとしてヘルプシーキングがあると思うんですね。「特定の立場の、特定の事情を抱える人だけがヘルプシークできれば良い」といった話ではないんです。こちらが最後の、3つ目の観点になります。

沢渡:そうですね。管理職はスーパーマンではないんですよね。さらに技術革新や価値観の変化も激しい時代ですから、ベテランの延長線上にマネージャーの適性があるかというと(そうではない)。ベテランの延長線上にマネジメントを位置付けしにくい時代になってきている。

そうすると、マネージャーであっても「できること・できないこと」をきちんと言語化する(必要があります。その上で)できる人に、いわゆるエンパワーしていく。あるいは外の人とつながって、それこそ越境しながら足りないものを縦・横・斜めに補っていく。こういう行動が求められていく。その基盤としてヘルプシーキング行動が求められます。こんな意味付けができるかなと思います。

小田木:プレーヤーとしてできる人の延長線上に、マネージャーはない。

沢渡:そういう時代ですね。

小田木:そこにすごく腹落ちですね。(スライドを指して)このページでこんなに止まってちゃいけないんですけど。

沢渡:そうですね(笑)。

「仕事において、不測の事態は常に起こり得る」という大前提

小田木:では、そんなヘルプシーキングをどこからひもといていくか。まず入り口として1つ目にあるのは「誰もが不測の事態と常に隣り合わせ」という前提だと思います。沢渡さんご自身も、不測の事態と常に隣り合わせだという感覚はありますか?

沢渡:ありますね。今回も我々はCOVID-19という未知の事象に向き合ってきましたが、そういう時にいかに事業を継続するか。あるいは、新しい物事を生み出してビジネスモデルを変えていくか。我々はこういったことに、多かれ少なかれ必ず遭遇するわけですね。

小田木:特にずっと働き続けて、仕事をしながら人生を送る期間が長くなってくると、もう起こらないわけがない。

沢渡:そうですね。この「90分腹落ちセミナー」に以前お越しいただいた立教大学の中原淳先生も、「誰もが訳あり人材になる世の中」とおっしゃっていましたね。

小田木:その言葉、象徴的ですね。まず大前提としてスタートラインに置きたいのは、「仕事において不測の事態は常に起こり得ます」ということ。

沢渡:はい。

小田木:つまり「不測の事態が起こること」が問題なのではなく、さらに「不測の事態に遭遇する個人」が問題なのでもなく、本来は「チームとしてそのリカバリーができないこと」が問題なんですよね。

すなわち、この「ヘルプシーキング行動」とは、ちょっと困った事情を抱えた個人のための行動ではなくて。もしくは、今ちょっと頼らなければいけない自分のための行動でもない。「チームのために必須の行動」と認識して、「誰もが身に付けていく必要性があるのがヘルプシーキング行動である」と。この前提からスタートしていきたいと思います。

90%の人が困難を感じている、ヘルプシーキング行動

小田木:そして次に考えたいのは(スライドを指して)こちら。

とは言っても、先ほどの問いでも「自分がつい抱え込んでしまう」と選択肢Aを選んでくれた方も多いですし。また「周りで抱え込むメンバーが多い」という方も含めて、私もそうでしたが「抱え込むことが常態化」しがちなんですよね。

とある調査では1,000人中900人が「いつ何時でも助けてもらえるように、協力してもらえるように積極的に働き掛けているとは言えない」と答えたと言われています。これは、どういうことなんですかね。ここからひもといていくことで、この課題の対処法を考えていきます。

沢渡:90パーセントって、なかなか衝撃的ですね。

小田木:そうですね。「え!?」って(思いますよね)。

沢渡:「そりゃ日本の職場はギクシャクするわ」と、自分が出した本『なぜ、日本の職場は世界一ギスギスしているのか』の納得感を妙に感じていました。

小田木:本当ですね。そういう意味では「え? 余裕で頼れますけど?」「むしろ1人でなんて1ミリも抱えませんけど?」という人は、かなり稀有な人材と言えそうですね。じゃあなんで、困ってしまうのに(1人で抱え込んでしまうのか)。雰囲気なんですかね? どうなんでしょうか? 

沢渡:雰囲気もありますね。雰囲気は複合要因で作られるものですから。そこを因数分解していきたいですね。

「『こんなこともできないのか』と思われたら恥ずかしい」

小田木:そこで、全部で9つに因数分解してみましたので、ざっと解説していきます。みなさんご自身の「頼れない」に影響しているのは(9つの要因のうち)どれなのか? ぜひ番号で選んでシェアしていただきたいと思います。全部は難しいので、いくつか深堀りしていきますね。

まず要因1として、(スライドを指して)一番上の「心理的ハードル」。これは間違いない。「助けを求めることは甘えである」「自分でやり切ることが是である」みたいな感じでいくと、やっぱり(助けを)求められない。「仕事ができないと思われたくない」「これは私がやらなければいけない仕事なので」といった心理的ハードル(もありますね)。

沢渡:あと、プライドみたいなものも心理的ハードルでしょうね。

小田木:そうですね。

沢渡:「『こんなこともできないのか』と思われたら恥ずかしい」。

小田木:「上司である私が部下に頼るなんて」とかね(笑)。

沢渡:(上司は)「聖人君子であるべきだ」みたいなね。

小田木:「頼られる人間でいたい」とかも。わかります。(私もかつて)そうでしたから。

要因2が「業務プロセス」。「自分だけがやり方を把握していて、(他の人に)説明できない仕事なので、頼るという選択肢そのものがない」。超ブラックボックスなんですね。説明するほうが時間がかかるので、もう自分でやるしかない。属人化など、いろいろな要因があると思います。

要因3は「知識とスキル」。ヘルプシーキングの考え方を知らない。要は「頼っても良い」ということを知らない。あと、説明スキル(がなくて、)助けてほしいことを説明できない。

沢渡:説明能力、言語化スキルですね。

小田木:自分中心の狭い視野で考えてしまう。これもチームで成果を出すことに対しての知識やスキル不足が影響していそうですね。

沢渡:業務プロセスにおいて「自分のやり方は、自分にしかわからない」と思い込んでいる人もいるかもしれないですね。「この仕事は私にしかできない」みたいなね。

小田木:あると思います。「これは自分がやらねばならぬ」と。

困っている人を助ける人が適切に評価されない

小田木:じゃあ真ん中の段を見ていきましょう。要因4は「残業削減・人員削減」。これはどういうことかというと、誰もが忙しくて余裕がない。物理的に助けられない。かつ、できる人に仕事が集中しちゃっているから、できる人は助ける余裕がますますなくて、自分の仕事の助けを求める相手がいない。ループですね。

沢渡:けっこう、要因4と要因1の合わせ技の職場もありますね。残業削減・人員削減で優先度の高い仕事が多すぎて、他の人を手伝っていると「なんでおまえ、そんな余計なことをしているんだ」って責められるという。

小田木:あと、めちゃくちゃ忙しい中で「どうしよう、助けて」って言えない。「協力してほしい」と言って(他の人の)手を止めさせるなんて、とてもじゃないけど申し訳なくてできない。

沢渡:そうですね。

小田木:やっぱり要因1とつながっていますね。次は要因5の「個人主体の評価」。これはどういうことかというと、メンバーとの相互連携によって成果を上げる人や、困っている人を助ける人が適切に評価されない。

沢渡:そうですね。

小田木:結果として「(誰かを)助けても(意味ないし)な」となる。

沢渡:個人にのみ加点されてしまって、「助けても自分の評価に影響しない」という話。よくありますね。

小田木:そうですね。やっぱり、個人で成果を上げる人がチーム内で「あいつはできる」と評価されていると、それがロールモデルとなり、サイクルができる。

そして要因6は「頼る場がない」。チームの中に助けを求める場や発信できる機会がない。リモートワークでお互いの状況が見えなくなり、さらに頼ることが難しくなる。

沢渡:これもありますね。そもそもキーパーソンが忙しすぎて全然席にいなくて、なおかつチャットも見てもらえない。こんな八方塞がりなケースもありますね。

個人で抱えてがんばることで業績を上げてきた、過去の成功体験

小田木:聞いていて辛くなってきますね。最後の3列目へいきたいと思います。要因7は「ロールモデル」。「頼るより、頼られる人が優れている」「リーダーは後輩や部下に頼らない」。

これも要因1ラインに乗ってきますね。組織の中で「こんな考え方・行動をする人が仕事ができる人である」というロールモデル認識がどのようにされているか。そこからくる制約、障がい。

要因8は「成功体験と同調圧力」。個人で抱えてがんばることで業績を上げてきた過去の成功体験がある。そこから「同じようにがんばるべき」「そうすると業績が上がる」みたいな空気や共通認識が存在してくる。「みんな忙しい。みんな抱えてがんばっている。だから誰しもそうするべきだ」という同調圧力。

最後は要因9の「相互理解の不足」。自分以外の状況が見えない。相手をよく知らないため、相手に関心が持てず、頼る・助けるといった行動ができない。

沢渡:そもそも誰に助けを求めて良いかわからないこと、ありますね。

小田木:ありますね。以上のような分解を、私たちなりにしてみました。

要因はどれか単一ではなく、複合的

小田木:この中から、みなさんの「なぜ連携・助け合いが100点にならないのか」に当てはまる要因があれば、番号を選んでシェアしていただきたいと思います。沢渡さんがおっしゃったように「複数の要因が絡み合っている」場合もあると思いますが。

沢渡:そうですね。

小田木:「何に課題のフォーカスを当てれば、連携して、かつ成果が出せて、多様な人材が活躍していける組織作りができるんだろう」。ここのフォーカスポイントは、やっぱり状況や行っているビジネスによっても変わってきますよね。だから、この要因分解でいろいろ考えるきっかけになればと思います。

沢渡:(コメントを指して)あ、9ね。「周囲に関心を持たない・持てない」。そこから4。2、4、9。やっぱり複合要因ですね。

小田木:複合要因ですね。

沢渡:これ、本当に複合的ですね。5と8と9が複合している。3や9。9が多いな。

小田木:9が絡みながらの組み合わせが、けっこう多いですかね。

沢渡:そうですね。まさに「相互コミュニケーション」や「お互いを知るきっかけ」がなかったりする。特にリモートワークになると、なおのこと意識的にコミュニケーションを設計していかないとうまくいかないですから。「2と9。丸投げされる場合もある」。そうですね。9で丸投げだと本当に八方塞がりですよね。言われた人が、もがいてやるしかないですからね。

小田木:(ヘルプを求めて)相手に莫大な負担をかけてしまったほうも、そういった仕事を引き受けたがために苦労したほうも、両方トラウマになっちゃいますよね。

沢渡:そうですね。

小田木:助け合って成果が上がったという成功体験が積まれないと、ますます(ヘルプシークしていく)サイクルにはならないですよね。

沢渡:本当におっしゃるとおり。すべてが絡まっていますね。「9番。リモートになって、新しいメンバーのスキルや“人となり”もよくわからない」。おっしゃるとおりですね。「質問したり頼ったりするのも、ちょっと気が引けてしまいます」。

小田木:ここ2年、これが若手、特に新入社員の間に広がって「どうしたら良いのか?」という課題が持ち上がりましたよね。

沢渡:そうですね。逆に「新入社員同士はチャットなどを使いこなして相互理解しているんだけれど、中間層より上の人たちと景色が合わない」。こういうお悩みもよく聞きますね。

小田木:そうですね。「複合要因である」が大きなキーワードですね。

沢渡:間違いないです。

小田木:そして拝見したところ、9と4など、けっこう共通性の高い要因がありそうですね。

沢渡:はい。2もそうですね。

続きを読むには会員登録
(無料)が必要です。

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
著者フォローや記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。

無料会員登録

会員の方はこちら

関連タグ:

この記事のスピーカー

同じログの記事

コミュニティ情報

Brand Topics

Brand Topics

  • 実務経験ゼロなのにマネジメントを任される管理職 部下から信頼されるための2つのポイント

人気の記事

新着イベント

ログミーBusinessに
記事掲載しませんか?

イベント・インタビュー・対談 etc.

“編集しない編集”で、
スピーカーの「意図をそのまま」お届け!