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雪本智史氏 インタビュー(全1記事)

“思い出”を引き継ぐために、としまえんの迷路を移設 コロナ禍で増収増益、地方のテーマパークが大切にしていること

“コロナ3年目”となる2022年の正月を迎えました。今回『ログミーBiz』では、コロナ禍で特にダメージを受けた「飲食」「アパレル」「レジャー」「スポーツビジネス」の4業界において、好業績を残した企業のキーパーソンの方々にインタビューを行いました。同業他社が苦しむ中で、何を見て、どう判断して結果を残したのか。4者それぞれの「成果を上げるモノの見方・考え方」をご覧ください。 本記事では、栃木県で那須ハイランドパークや那須高原りんどう湖ファミリー牧場を運営する日本テーマパーク開発の代表・雪本智史氏のインタビューを公開。滞在時間と客単価を上げるために行った取り組みや、自社の強みを生かした新規サービスなどが語られました。

コロナ禍で、リソースを遊園地からホテル・別荘事業へ一気に転換

ーーコロナ禍で、レジャー業界全体が受けた影響をお聞かせいただけますか。

雪本智史氏(以下、雪本)経済産業省が発表した資料に基づきますと、2019年から2020年にかけて遊園地・テーマパークの売上高は約7,200億円から約2,600億円まで下がっています。入場者数も約8,000万人から約3,100万人まで6割ほど減らしています。売上高も入場者数も業界全体で2019年がピークでしたが、そこから急落して1年半以上にわたって低迷した状態が続いています。

ーーその影響は御社にもあったわけですね。

雪本:我々も他の遊園地と同じように、2020年4月の1回目の緊急事態宣言を受けて、毎年7、8万人のお客さまにご来場いただける、一番の書き入れ時のゴールデンウィークに休園せざるを得なくなりました。2021年の夏休みは休園の必要はなかったのですが、感染者数が多い時期でしたのでお客さまの入込(客数)は例年の半分以下となりました。

ーーそうした中でも、親会社である日本駐車場開発の2021年7月期決算で、テーマパーク事業の売上が前期比75パーセント増と好調でした。

雪本:我々は遊園地だけではなく、同じ那須エリアでホテル事業や別荘事業もやっています。遊園地のお客さまが減る中で、需要の伸びる兆しがあったのがホテル事業と別荘事業でしたので、遊園地に配置していた人材を、急きょその2つの事業に振り分けました。

コロナ禍でも、別荘であれば家族などグループ単位でお泊りいただけますし、我々のホテルは大型ホテルとは異なるコテージタイプですので、極力他のお客さまと会わずに安心して過ごせ、長期で滞在されるお客さまもいらっしゃいました。

そのため、経営資源を遊園地からホテル事業と別荘事業に割くという判断をしたわけです。「遊園地は今はこんな状況だけど、いずれ戻るだろう」という甘い考えは一切捨てて、「今できることに全力を注ぐ」という判断です。

少人数&一軒家での宿泊ニーズを見て開始した、別荘のバケーションレンタル

ーー具体的にホテル事業や別荘事業では、どういった取り組みをされたのでしょうか。

雪本:我々が管理する別荘には、オーナーさまが長く利用されず、手入れされていない土地や建物もありましたので、草刈りや枯れ木の伐採をご提案し、収益を上げながら別荘の価値を上げるための整備を進めたところ、東京で暮らすオーナーさまの別荘利用が増えました。感染者が多く、いろいろと制限の多い都内を出て、那須で時間を過ごそうと考えられる方が増えたのかと思います。

また何十年も別荘に来られていないオーナーさまもいらっしゃいますので、再び那須に足を運んでいただこうと我々のホテルの無料宿泊券をお送りする営業も行いました。積極的にオーナーさまとコミュニケーションを取って、今のお困りごとや今後の別荘の活用法などをお聞きしながら、もっと別荘の価値向上のためにできることはないかと考えました。

ちょうどホテル事業でコテージやグランピングの利用者が増えているところでしたので、別荘を不稼働資産にしておくのはもったいないと考え、オーナーさまが利用されない間に別荘を貸し出して収益化するバケーションレンタルを提案させていただきました。

ーー別荘の整備を進めた上で、オーナーにバケーションレンタルを提案されたわけですね。

雪本:そうです。コロナ禍で東京への出張等ができない状況でしたので、過去に我々のホテルをご利用いただいたお客さまに電話やメールでバケーションレンタルのご案内をさせていただきました。別荘は一軒家タイプの宿泊施設になりますので、コロナ禍ではそれが強みになると考え、積極的に営業をさせていただきました。

また先ほどお話ししたように、我々のホテルにはコテージタイプやグランピングタイプもあります。キャンプ需要が高まりつつある時期でしたので、グランピングやキャンプ施設もPRして、そちらをご利用されるお客さまも増えました。

ホテル事業では、コロナによって売りであったレストラン・バイキングができなくなりましたが、代わりに屋外でのバーベキューを1泊2食で販売したところ、非常に好評いただけました。こうした取り組みによって宿泊の予約が増えて、別荘事業と同時にホテル事業の売上も上がっていきました。

滞在時間と客単価を上げるため、閉園した遊園地から遊具を移設

ーーコロナ禍でも需要の兆しのあったホテル事業と別荘事業にリソースを割かれたということですが、遊園地事業ではどういった取り組みをされたのでしょうか。

雪本:2020年5月にグループ化したりんどう湖ファミリー牧場は、那須エリアで3番目ぐらいに集客できる施設でしたが、1〜2時間園内を歩いて動物と触れ合って帰られるという利用のされ方が多く、お客さまの滞在時間が短く、消費単価も低いという課題がありました。

そこでお客さまの滞在時間を増やすために、コロナ禍で閉園した遊園地から0歳~6歳児が楽しめる遊具の移設を行いました。お客さまにとって、自分の好きな遊園地の遊具は大切な思い出です。そういった方たちの思い出をつなぐ取り組みができないかと考え、閉園した大阪のみさき公園さんと東京のとしまえんさんから観覧車と迷路を譲り受けました。

そのような取り組みの結果、滞在時間が長くなり、乗り放題券の販売比率が上がって消費単価を伸ばすこともできました。またシーズンパスの販売も開始したところ、地元の方を中心に2,000枚近く購入いただきました。

実はみさき公園さんは私の実家の近くでして、小さい頃から何度も通った思い出のある遊園地です。私のように、みさき公園さんやとしまえんさんに思い入れのある方々もたくさんいらっしゃるのでしょうし、そういう方たちも来ていただけたらと思っています。子どもの頃に遊園地で遊んだ記憶は一生残るものです。将来家族を持った際に、自分の思い出に残る遊園地にまた行きたいと思っていただければと考えています。

東京や関西への修学旅行を断念する学校を、那須に誘致

ーー他にもコロナ禍での新たな取り組みはありますか?

雪本:那須ハイランドパークでは東北エリアから修学旅行生を、そして近隣県からは研修旅行生を約6万人誘致して、入込(客数)を増やすことができました。

修学旅行と言えば東京や関西方面と考えられる傾向があり、那須にこういった観光施設があることを知らない学校さんや旅行会社さんは少なくありません。那須町の観光協会でコロナ禍での集客を考える中で、それまでは集客のPRは東京方面に向けて行っていましたが、東北エリアからの問い合わせが増えていることを受け、東北に向けた旅行の誘致に注力をすることになりました。

コロナ禍で修学旅行を中止される学校さんも多くあった中、我々も1件1件の学校や旅行会社さんにメールや電話でご連絡をしました。例えば、那須だけでなく日光にも1泊するなどの具体的なプランをご案内し、「東京に行かなくても、こういった素晴らしい観光資源があります」ということをお伝えしました。

また、研修旅行は近県の小中学生を対象としたもので、座学ではなく園内で半日スタッフ体験をしていただき、残り半日はお客さまとして遊園地を楽しんでいただくという就労体験プランで、好評を得ることができました。

社長や役員が、東京本社ではなく那須に常駐する意味

ーーコロナ禍の逆風で、他の多くのレジャー施設が苦しむ中、なぜ御社は売上や入場者数を伸ばす施策を実行できたのでしょうか。御社が岐路や苦境に立った時の判断軸や重視することを教えてください。

雪本:スピード感だと思います。そのために、私も他の役員もここ那須に常駐しており、今何が起きているのかを自分たちの目で直接見て、それに対してどういう対策を打つのかを考えています。やはり遠隔ではなく、現地に身を置いて新しいことを素早く次々と試していくことが、いい結果に結び付くのかなと考えています。

ーー雪本社長ご自身が那須に常駐され、さまざまな施策の判断もされているのでしょうか?

雪本:基本的にはそうですね。

ーートップが常駐しているから、素早く正しい判断ができるのかもしれませんね。

雪本:最終的に正しいかどうかは、やってみないとわかりませんが、今できるベストな選択を早くできるのではないかと考えています。基本的には、課題も解決策も現場にあると考えますので、取締役も全員現地に常駐して、改善するよう努めています。

ーー東京で報告を待つのではなく、全社みなさんで那須に事業所を構え、那須の空気を感じ、お客さんの顔も見ながら判断して、新しい取り組みをされているということですね。

雪本:そうですね。私はもともとグループ会社のスキー場に長くいました。大学を卒業して日本駐車場開発に入社し、3年ぐらいでスキー場に異動して、その後10年ぐらい長野のスキー場事業に携わりました。その時に、地方には東京などの方々が魅力に感じる資源がたくさんあるのに、地元の人たちは近すぎて自分たちの持つ資源やその素晴らしさに気づかないところが多分にあることを知りました。

やはり外から来た人間のほうが、その土地の魅力を客観的に見つけやすいのだと思います。なので、外から人を連れてくると言いますか、私も含めて外から現地に入るということが重要かなと考えています。

自社でデータを集め、他の遊園地のDX推進を支援

ーー雪本社長がコロナ禍でのビジネスで得られた教訓があれば、お聞かせください。

雪本:繰り返しになりますが、コロナのような危機に見舞われた時は、いずれ回復するだろうという甘い考えは捨てるべきだと思います。この状況が今後もずっと続く、あるいはさらに状況が悪化する可能性も考え、その時々で予測をしながら新しい打ち手をどんどん打っていくことが重要だと思います。

ーー最後に、2022年の雪本社長の展望をお聞かせください。

雪本:まだ実際に困られている遊園地がたくさんある中で、我々のノウハウを少しでも共有しながらこの業界を盛り上げることができればいいなと考えています。最近はDXが推進されていますが、レジャー業界はまだまだ遅れているところが多くあります。

先日リリースで発表しましたが、我々はアソビューさんやデジタルシフトさんと組んで、レジャー施設のDX支援を加速させる取り組みを開始しました。受付時間を減らせるチケットの電子化だけでなく、効率的なスタッフの人員配置や、お客さまの動線をもとに2回目、3回目の来場時により楽しんでいただけるような改善をするなどして、集客と生産性の向上を実現する遊園地さんが増えればいいなと考えています。

まず自社でDXを進め、データを集めて他の遊園地さんに「こういう効果があります」というご提案をしていきたいですね。

ーーレジャー業界全体にとって明るい2022年になることをお祈りしています。本日はありがとうございました。

雪本:ありがとうございました。

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