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CULTURE3 ダイバーシティ&インクルージョンー ジェンダーギャップを乗り越えるために必要なこと(全3記事)

D&Iに理解のない管理職に、どうアプローチするべきか? 先進企業の経営者が語る「異能」を入れられない会社の末路

大企業の若手中堅社員の実践コミュニティ「ONE JAPAN」が主催する、日本最大級のカンファレンスイベント「ONE JAPAN CONFERENCE 2021」が開催されました。今回は、資生堂・魚谷雅彦氏、プロノバ岡島悦子氏、日本IBM福地敏行氏、元AERA編集長・浜田敬子氏が登壇した、「ダイバーシティ&インクルージョン ジェンダーギャップを乗り越えるために必要なこと」のセッションの模様をお届けします。最終回の本記事では、参加者からの質問に回答。D&Iに理解のない上司に対してできることをアドバイスしました。

40歳で管理職になるために意識しておいたほうがいいこと

浜田敬子氏(以下、浜田):質問に移りたいと思います。みなさんたくさん質問を出していただいてありがとうございます。この質問はちょっと違う視点でおもしろいと思います。これから女性管理職割合を増やしていくという会社の方からです。

「管理職の手前に入るまでに、自分のキャリアを考える上で意識すべきことはなんですか」と。この方は14年後に40歳手前ぐらいになるそうなので、まだ20代ですね。40歳で管理職になるために、意識しておいたほうがいいこと。みなさんそれぞれ簡単に教えていただけたらと思います。魚谷さん、いかがですか。

魚谷雅彦氏(以下、魚谷):当社は2年前に管理職、そして今年から一般社員にも、ジョブ型の制度を導入しました。僕はこれを「究極の適材適所」と呼んでいます。

ジョブディスクリプションに合う人、つまり求めているものに対して期待しているものができる人、責任に対してできる人は、男性だろうが女性だろうが、日本人だろうが外国人だろうが、年齢が上の人だろうが若い人だろうが、障害のある方だろうがLGBTQであろうが、関係ないんですよね。

ですから、今のご質問に対して答えるとしたら「自分はこれができます」「自分はこれが得意です」「このことに非常に興味関心が強いです」という、自分のキャリアの1つの軸となるものは何かということを(持って)、しっかりとキャリア構築してほしいですね。

日本の企業の新卒一括採用・年功序列・終身雇用という、昔のベーシックなモデルの中でいうと、ローテーションをして結果的に40~50歳ぐらいになって本当に重要なリーダーとなった時に、あなたは何ができるんですか(と聞いたら、)営業もやっていました、人事もやってました(となるんですが、)そういうものではなくて。

マーケティングなのか、営業なのか、財務なのか、私はこの分野で(という軸を持って)、その分野で多くの人を率いていったり、あるいは人材開発をしていく力を持ってほしいと僕は思います。

管理職になることだけが、充実したキャリアの道ではない

浜田:ありがとうございます。岡島さん、いかがですか。

岡島悦子氏(以下、岡島):私たちはやはり現状維持バイアスにかかりやすいということを肝に銘じるべきだなと思っています。どうしても長年会社に勤めていると、過剰適応をしていきやすいですし、現状維持をしていきたくなってしまうんですよね。そうなった時に、チームに異能な視点を入れることが楽しいと思えることがすごく重要です。

今日はカルチャーの話にもなってきたんですけれども、例えばユーグレナはCFO、「Chief Future Officer」である15歳の子たちから、私たち経営チームはものすごくいろんな耳の痛いことをいっぱい言われているんです。ざわっとするんですが、「その視点が自分たちに抜けてたよね」と、ハッとさせられることもたくさんあるんです。

そういうことが楽しい、異能はおもしろいって思えるマインドセットを持たれることが、ここから長くやっていかれる中で、すごく重要なのではないかなと思っています。

浜田:ありがとうございます。福地さん、いかがでしょう。

福地敏行氏(以下、福地):まずは1つは、「自分は何のために働くのか」というのを、あらためてどこかの時間で考えてみるのもいいんじゃないかなと思います。個人のキャリアという意味では、決して管理職になることだけが自分のキャリアを充実させるものだとは思わないですから。

自分は仕事をやる以上はやはり昇進したり報酬を得たりしたいのか。あるいはあるスキルをつけてその道のスペシャリストとして生きていきたいのか。あるいはそういうことより、ワークライフバランスというか、家庭とのバランスのためにある程度時間を融通させながら働きたいのか。

自分がなんのために働いているのか、これからどうしたいのかというのを、あらためて考えてみるのは1つかなと思います。

それを考えた上で、今の自分に満足してるかと自問自答してみるのもいいかなと思います。やはり自分のことは自分しかわかりません。たぶん人間というのは、がんばっている時とかチャレンジしている時とかのほうが、自分のことを好きだと思うんですね。時間を持て余していたり、スキルがあるのにやっていなかったりする自分のことは嫌いだと思うんです。

だから自分のこと。自分は満足してるかなぁ、今の自分は好きかなって自問自答をして、好きと言えたら、たぶんその道を行けばいいんじゃないかなと私は思います。

今大きく進めるべきことは、「DX」と「ダイバーシティ」

浜田:ありがとうございます。先ほどの両立の問題や、性別役割分担の問題に関していくつか質問が来ているので、ちょっとこちらでアレンジして質問させていただきます。

「例えば女性がキャリアを積みたいと思った時も、配偶者の転勤などの問題でキャリアを中断せざるを得ない時があります。そういった問題に何かソリューションを設けていらっしゃいますか」という質問が来ています。魚谷さん、資生堂では何かありますか。

魚谷:配偶者の方が転勤されるような時には、例えば場所的な意味であれば考慮します。逆もありますよね。女性の方が転勤で、ご主人がという場合もありますから。なるべくその人のキャリアをどうやって実現できるようにしていくのか、制度的な意味合いにおいてももちろん必要です。でもそれ以上に、相談できる相手がいるというのが非常に大事です。そういう時ってやはり不安になりますよね。

上司であったり人事であったり、周りにそういったことを(相談できる相手がいるかどうか)。先ほどの「NEXT LEADERSHIP SESSION for WOMEN」ではコミュニティができるので、「私はこうだったんだ」(と体験を共有できる)。それから、それ(キャリア中断の問題)を経て、今まさに部門長や役員になっているような人たちと話す機会として、「Speak Jam」をやっています。

そこで1回話すだけじゃなくて、転機が来た時に相談できるようにすることが大事です。他の人のいろんな経験を聞いてみるのは大事かなと思って、そういうコミュニケーションのような機会を増やしています。

浜田:ありがとうございます。福地さん、IBMも何かありますか。

福地:私どもも一緒で、どちらもございます。男性が女性についていくケース、女性が男性についていくケース。制度としてもどちらもあります。

ただ思うのは、今まさにワークスタイル、働き方・暮らし方が変わってきて、リモートワークが本当に増えてきています。まさしく今大きく進めるべきことは、「DX」と「ダイバーシティ」やと思います。そういう意味では、働く選択肢が今回のコロナでものすごく増えたので、時間と場所を問わずにできる絶好の機会かなと、私自身は思います。

女性にとってのキャリアの壁は、男性には「自動ドア」

浜田:ありがとうございます。ある大企業の役員の方に聞いたら、コロナ禍でリモートワークが定着したことによって、女性の中から管理職をやってみたいと手を挙げる人がすごく増えたとおっしゃっていました。これはすごく大きな変化だと思います。

岡島さん、ちょっと違う視点で今の質問に答えていただきたいんですが、女性自身には、特にライフイベントといういくつもいろんなハードル、壁がありますよね。それに対してどういう気持ちでいればいいと思いますか。

岡島:さっき魚谷さんがおっしゃっていた「3つの壁」について、私もそうだろうなと思っています。これは私はよく「自動ドア」と言ってるんですね。男性にはドアがガーッと開かれていくので、そこにドアがあることすら気がつかないんだと思うんですけれども、女性はいちいちそこでスタックしてしますんです。

私は三菱商事に、総合職171名中の女性2人で入っているので、そういう意味では壁にいっぱいぶち当たってきて、その度にちょっと声高に言うと、「あの人はちょっと声が大きいよね」と言われちゃう。そんなことをずっと越えてきました。

そしてIBMでは、内永ゆか子さんらから本当にいろんなことを教えていただいて、武器にしてきたんです。それで言うと、やはりそういう壁を取り払っていくエクイティのような話がすごく重要なんだろうなと思います。

アンコンシャスバイアスと同時に、やはりマジョリティの人たちが持っている特権に自分たちが気づくということも、とても重要なのではないかなと思っています。なので私はいつも「迷ったら女性をあげてください」と申し上げていますね。

組織を変えるために必要なのは、トップが姿勢を示すこと

浜田:ありがとうございます。あと1問いけるかな。自分の会社がダイバーシティ&インクルージョンに対して熱心じゃないという方からです。「上司にデータを示して、『女性をあげるべきだ』と言ったら、『あげるメリットがよくわからない』と言われました。どのように上司にアプローチしていけばいいんでしょうか」。

もう1人の方も似たような質問です。「D&Iの取り組みに置いて行かれると思っている男性が多い」と。「そういう人たちを巻き込むために、ボトムアップでできることはなんですか?」というご質問がきています。

このお答えで最後になるので、お答えと同時にみなさんへのメッセージがあったら一緒にお願いしたいと思います。魚谷さん、お願いしてもいいですか。

魚谷:まず最初の質問の方、事務局を通じてその会社の社長を僕に紹介してください。

岡島:(笑)。

魚谷:ぜひ1度お話しする機会を作りたいと思います。上司の方も組織社会ですから、そのまた上司がいて、あるいはその上に社長がいて、CEOがいてという環境下です。それであれば、やはりトップの姿勢を示すことで、上司の方も変化をする可能性が高くなるんじゃないかなと思います。

SDGsの「ジェンダー」は、「女性だけを特別に」と言っているのではない

魚谷:それから次のご質問の方、いろいろ示して説得しようとされているのはすばらしいなと思います。あきらめないで、もうちょっとがんばってほしい。なんなら僕らもお手伝いできればなという気持ちで聞いていてなりました。

あと男性の逆差別ですとかいろんなこと言う人もいるんですけれども、要はそもそもSDGsの「ジェンダー」に書いてあるのは、「不平等をなくそう」ですよね。不平等があるんだという前提が、世界中にある。だから「(平等が)当たり前の社会にしていきましょう」と言っていて、どちらかに、特に女性だけを特別にと言っているわけじゃない。

企業社会を前提に考えると、いろいろな仕事がいっぱいあって、いろんな産業の会社の方がいらっしゃいます。その中で、先ほど福地さん言ったように、最近の言葉でいう「パーパス」とか「ミッション」とかがある。それにどう貢献できるのかが大事になります。

どんなスキルやどんなセンスや感性を持って仕事をすることで、それに貢献できるのか。あるいは、自己実現にも夢の実現にもなるのかというのを、よく考えていただくといいと思います。そのための自己啓発も大事ですね。

“資生堂ショック”が示した、育児は女性だけの特権ではないという事実

魚谷:ちょっと長くなって申し訳ありませんが、それともうひとつ。過去に「資生堂ショック」という出来事が報道されたことがあります。復帰された(女性の)方々に対して、子どもも小さいので、少し特別なローテーションを組んで仕事の時に優遇するとしていました。

でも「これっておかしいんじゃないか」という声が、(現場の)当人たちから出たんですよね。土日にも出勤してもらうような店頭の仕事でそういう制度を組み替えました。そのことが“資生堂ショック”と言われたんです。

でも逆にそのことによって、(育児は女性だけの)特権じゃなくって、今度は男性のほうもごく当たり前のこととしていくんだと(いう考え方に改めたわけですね)。

おもしろい話があったんですが、(復帰した女性が)今までのローテーションになかった土曜日や日曜日に職場に出るようになったら、今まで家庭のことを顧みなかったご主人が、自分が子どもの面倒を見なきゃならなくなって、子どもと遊ぶ時間が増えてよかったとか。そういう副次的なことも出たんです。

今日聞いていらっしゃる方々は若い世代、30代とか20代とかの世代の方々と聞きました。みなさんが社会や企業の中心にまもなくならなきゃならない。その時点では、グローバルな価値観ももっと広がってくると思います。

ジェンダーダイバーシティがなぜ必要か、どう乗り越えるかって言ってること自体がおかしくなるような社会を目指して、僕らはその基盤を一生懸命作ります。なのでみなさんは「乗り越える」ではなく、もうそれが当たり前であるとして発展させていってほしいなと思います。

浜田:ありがとうございます。

「異能」を入れられない会社は淘汰されていく

魚谷:高度成長期のように、1つの答えじゃもう企業は成長できないですよね。いろんな視点が必要ですし、DXも必要だし、人権問題はいろんなことに取り組まなきゃならない。そしてグローバルに成長すると考えたら、参画するステークホルダーのみなさんがそれぞれ知恵を出し合わなきゃならない。ダイバーシティ経営が必要なのは、単純にそういうことだと僕は思っています。

浜田:ありがとうございます。岡島さん、お願いします。

岡島:ありがとうございます。ONE JAPANにご参加の方々は、たぶんかなり目線の高いかたちで、「会社を変えていかなければいけない」「自分はなにができるんだろう」って考えながらお聞きいただいている方が多いんじゃないかなと思います。

そのためには2つあるかなと思っていまして。1つはやはり、異能な人たちを入れられない会社は淘汰されていくし、それについていけない人たちは淘汰されていく。この時間の問題もあると思います。

例えば、リクルートグループは「すべての階層を女性50パーセントに」ということが上から降ってきているので、そこに体を合わせられない人は淘汰されていってしまいます。一見冷たいようですが、会社を存続させていくためには必要なので、経営はこういう覚悟でやってらっしゃるという方が多いかと思います。

1つは時間の問題だと思うということと、2つめは、そこ(異能を入れられない会社)に働きかけていくこと。このONE JAPANの活動はそういうものだと思います。ミドルマネジメントの方々が声を1つにして、「変わっていかないと、選択される会社にならない」と束になって伝えていったらいいんじゃないかなと思います。

経営者は、「D&I」の「D」よりも「I」を追うべき

浜田:ありがとうございます。ちょうどONE JAPANの事務局の方が入ってきたので言いたいんですけど、このテーマは来年、絶対にメインのセッションでやってほしいですよね。

岡島:本当ですね。

浜田:D&Iがやっぱり分科会でやってるということ自体がちょっとまだまだ……。

岡島:おそらく今日聞かれてる方々は、ここに興味がある方々です。本当に聞いてもらわないといけないのは、興味がない人たちですよね(笑)。

浜田:質問してくれる方は、圧倒的に女性が多いんですよね。なので、やはり男性に聞いてもらいたい。ぜひ来年はぜひキーノートでやってください。お願いします。では福地さん、最後になりました。よろしくお願いします。

福地:私も、最初の質問(の答え)は魚谷さんと一緒で、どこかで引き合わせていただけたらと思います。トップとトップは難しいでしょうから、もし女性のコミュニティがおありでしたら、例えば私どもIBMの女性のコミュニティとコミュニティ同士で、いろんな痛みとかどう乗り越えてきたかを意見交換する場を作りますから、お声がけいただければいいと思います。私が引き合わせます。

やはり私が常々思うこととして、「ダイバーシティ&インクルージョン」といいますけれども、ダイバーシティは数値目標だとかいろんな人がいるという状態であり、形だと思うんですね。かたやインクルージョンは、いろんな人がいることを認めて受け入れて、リスペクトする。そういった人に配慮した「振る舞い」だとか「言葉遣い」をするということです。むしろ心ですね。

だからDは形であり状態。Iは心であり、振る舞い。トップとか管理職の役割は、Dを追うよりIを追うべきだということを、私は常々考えております。今日はどうもありがとうございました。

浜田:ありがとうございました。参加者の皆様、たくさん質問をいただいたのに全部取り上げられなくて本当にすみませんでした。

ぜひ来年は2時間にして、メインセッションでよろしくお願いします。また今日の方にも出ていただけたらと思います。魚谷さん、岡島さん、福地さん本当にありがとうございました。聞いていただいたみなさんありがとうございました。

一同:ありがとうございました。

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