2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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--みなさん、こんにちは。本日は「“先(さき)スプレイニング”が阻害する、部下・後輩の可能性 『よかれと思って』の誘惑に打ち勝ち、互いに成長する術とは?」といったタイトルのイベントでございます。
私たちは、部下や後輩など「自分たちが先んじている」と思っている相手に対して、よかれと思ってアドバイスをしてしまいがちです。でも、よかれと思ってのアドバイスが、逆に彼ら彼女らのやる気を阻害してしまうことがあるんじゃないか? といったテーマでお話をうかがっていければと思います。では本日のゲスト、若宮和男さんです。よろしくお願いします。
若宮和男氏(以下、若宮):よろしくお願いします、若宮和男といいます。キャリアパスがわりとぐちゃぐちゃで、自分でもアレなんですが(笑)。もともと建築をやっていたんですが、その後アートの研究をして。2006年からはずっとモバイルインターネットの領域で、いわゆる新規事業の立ち上げをしてきました。
今は、メインではuni’queというITベンチャーをやっています。これには特徴が2つあって「全員が副業をしていないと入れないベンチャー」であるという点と、あとは「新規事業を女性メインで主体になって立ち上げる」ということをやっています。変わった会社なのもあり、東洋経済さんの「すごいベンチャー100」に選んでいただいたりしています。
事業アイデアを持った女性と一緒に事業を立ち上げることをやっていますので、事業アイデアがあれば、ぜひご応募いただければと思います。
あとは、いろんな企業さんの新規事業のお手伝いや、「日経COMEMO」という媒体で記事を発信しています。今日のイベントのきっかけもそれ(“先スプレイニング”に関するnoteの記事)ですよね。また、最近はVoicyという音声メディアでパーソナリティもやっています(「(若宮の価値観の凝りをほぐすラジオ)」ので、よかったら聞いてみてください。
--ありがとうございます。(机上の本を指して)著書はこちらの2冊『ハウ・トゥ・アート・シンキング』と『ぐんぐん正解がわからなくなる! アート思考ドリル』ですね。これは私の私物なので、めちゃめちゃ付箋が付いちゃっていて恐縮なのですが(笑)。私は両方読ませていただきまして、本番前にも軽くお話させていただきましたが、どちらもめちゃめちゃおもしろくて。
特にこちらの『ハウ・トゥ・アート・シンキング』は、20個の章がある本なんですが、それがバラバラに組まれているところが他の本にはないなと思っています。普通の本って1章から始まって20章で終わるんですがこちらは、確か2章、13章、11章という感じで本当にランダムに章が組まれているので、このかたちで本として成立するのがすごいなと思いました(笑)。
若宮:そうですね(笑)。これは実業之日本社の白戸(翔)さんという方が2冊とも編集で入っているんですが、まずこっちの『ハウ・トゥ・アート・シンキング』はけっこう揉めました(笑)。
--(笑)。
若宮:「やっぱり順番を戻させてください」とか「章をバラバラにするんだったら、章番号を載せちゃうと乱丁していると思われちゃうので、それを消させてください!」とか(笑)。いろんな攻防がある中、やっぱりアート思考って価値観が揺れるところなので、素直に体系立てて読んじゃうとそのままやりたくなるんです。でもそのまま鵜呑みにしてしまう読書体験にはしたくなくて、ぐちゃぐちゃにさせていただいて、なんとか本にしていただきました(笑)。
--すごいですよね。こちらの『アート思考ドリル』もネタバレになってしまうので詳細は伏せますが、ある仕掛けがあったり。
若宮:そうですね。それも編集さんが大変で(笑)。
--いろんなところで編集者さんが調整されたんだろうなと思いながら、両方とも読ませていただきました(笑)。こちら絶賛発売中になっておりますので、書店やネットでお買い求めいただければと思っております。
若宮:ありがとうございます。
--ではさっそくですが、本編に移っていければと思います。最初のテーマはこちらです。「やりがち行動『先スプレイニング』とは、いったい?」というところで、「先スプレイニング」って、たぶん世の中のほとんどの人が聞いたことない言葉だと思います。
若宮:もともとは存在しない言葉ですからね(笑)。
--ですよね(笑)。若宮さんが作られた言葉?
若宮:そう。僕が勝手に言い出した言葉ですね。
--その「先スプレイニング」って、果たして何ぞや? というところを、最初にご説明いただけますでしょうか。
若宮:僕は女性の起業家が少ないことも含めて、最近、ジェンダーギャップのお話をよくすることがあるんです。それで、ジェンダーの文脈では「マン(男性)スプレイニング」という言葉があったり、日本はあまり人種の多様性がないですが、黒人の方に対して白人の方が上からスプレイニングすることを「ホワイト(白人)スプレイニング」と呼んだりします。
マンスプレイニングというのも、例えば女性がPCで作業しようとすると(男性が)「あ、それさ……」って横から説明しに入るといったものなんですが、その行動って人種とか属性だけじゃなくて、誰しもやっちゃう可能性があるなと思っています。
じゃあそれってどういう時にやるんだろう? と考えていたら、自分より先にいる「先輩」とか「先生」って、日本でいうと「敬わなきゃいけない相手」だし、教える側も「上から教えている感じ」があると思うんですが、そういう時に起こりやすいなと。なので「先にいる」と思うとそうやって先周りして教えちゃうことを「先スプレイニング」としたんです。
一言でいうと「特に頼まれてもいないのに『先輩』や『先生』や『先行者』として説明をしてしまう」という感じでしょうか。
--なるほどですね。あえて略して「先(さき)スプ」と呼ばせていただきますが、なんで私たちは先スプしてしまうのか? というところ。私も先スプをしてしまうので、気持ちはすごくわかります(笑)。先スプした後に「やってしまった……」という感じになるんですが、している最中はけっこう得意気になりがちで(笑)。なんでそもそも我々は先スプしてしまうのか? というところが気になっているんです。
若宮:これはめちゃくちゃ難しくて。難しいといっても、けっこう地続きなところがあって。そもそも「本当によかれと思って手助けしてあげよう」という気持ちから、純粋に始まっている行動の時もあるんですよ。ただ、それをしている間に(手助けの気持ちより)「自分が気持ち良くなること」のほうがメインになってきちゃう(笑)。
「良い手助け」と「先スプ」をどう分けるか? でいうと、2個くらいポイントがあると思うんです。1つは、相手のことを最初から劣後していると決めつけて「知らないでしょ?」とか、女性がITのことをやろうとすると「それさ!」と言うのは、「女性だからITに疎いはずだ」という謎の決めつけがあるわけじゃないですか。
「見下し」と言ってもいいぐらいだと思うんですが、それが根っこにある。先スプかそうじゃないかの“リトマス試験紙”としては、(自分の説明・アドバイスを)相手が素直に「うん」と聞き入れなかった時に、だんだん説明している側が怒ってくるんですよね(笑)。「教えてあげているのにさ!」という感じで、先スプゾーンに入っていく。
--先スプゾーン(笑)。なるほど。
若宮:気付くとヤバい感じになっちゃっていることが多いので、僕もすごく反省しています。だからけっこう地続きで、スロープというか。「最初はそうじゃなかったんだけどな」みたいな。
--なるほど。出発点は「本当に相手のためをと思って」からスタートしているんだけど、気付いたら「あれ? 違う方向に行ってるな」みたいな。「教えてやってんのによ!!」という感じに……。
若宮:そうなんですよ。楽しくてお酒を飲んでいたんだけど、いつの間にかアルコール依存になっているみたいな感じ。「もう誰も得をしてないし、本人も楽しくないんだけど」というゾーンに行くのと一緒で、行動自体もそうですが、頻度とかで罠に落ちちゃう時があるんですよね。
--なるほど。それを「聞かれていないのにやってしまう」ところですよね(笑)。
若宮:そうです。聞かれてない。求められてないのに(笑)。
--なるほど。要は「先輩、これはどうやってやったらいいんですかね?」と聞かれて、それに対して教えるのは「普通の指導」だと思うんです。ですが「あいつ、困ってるんじゃないか? 先輩である自分が教えてやらねば!」となって、そこからスタートして。「なんで俺の言っていることに『うん』と言わないんだ!」にたどり着いてしまう、ということですね。
若宮:そうですね。なんだったら、もうちょっと難しいのは「教えて欲しいんだけど」と求められても、途中から気持ち良くなっちゃうと聞かれている以上のことをどんどん出すことがあるんです。本当は相手によってもちろん知識レベルも違いますし、知っていることをダラダラ話していたらお互いにとって時間の無駄になりますが、気持ち良くなると独演会みたいになっちゃう。
--独演会、本当によくありますよね(笑)。「この話、いつまで続くんだろう……?」と思うこともあるし、でも言っているほうはそれに気付かないんですよね。悦に入っているというか。「教えてやっている俺、かっこいい」とまで思っているのかどうかはわからないですが。
若宮:「explaining(エクスプレイニング)」はもともと「説明する」という意味で、explainingの「plain」って「平面」「平らかにする」という意味なんですよね。もともと上下関係みたいなものが前提とされているので、それをやっているうちにどんどん優越感が高まってきちゃうのがけっこう罠だと思うんですね。気持ち良くなっちゃう。
--なるほど。ちなみにマンスプレイニングの時だと「男性からの女性」。ホワイトスプレイニングの時だと「白人の方から、有色人種や黒人の方」というかたちだと思うんですね。
今回の先スプでいうと「先んじている人」。つまり「上司・先輩から部下・後輩」が一般的かなと思うんですが、イレギュラーなパターン。例えば街中で「店員さんに」してしまうこととかもあるんですか?
若宮:店員さんの場合だと、また違う問題が日本にはあると僕は思っているんです。お金を払っている自分が「お客さま=神様」になっちゃうと、友だちや家族だったら絶対にしない扱いを店員さんにしちゃうみたいな。……これはちょっと違う話として(笑)。
--(笑)。
若宮:「相手がプロなら、どれだけ追い詰めてもいい」と思っちゃう人がいるんですが(笑)。それとは別に、さっきの「よかれと思って」でいうと、実はけっこう難しいのが「年代だけの話」ではなく、シーンによって「自分のほうが先んじていること」って入れ替わるんですよね。
最近、ハラスメントで「テクハラ」って聞いたことあります? テクノロジーハラスメントのことで、若いエンジニアが多いところにおじさんがいると「あの人はわかってない」という扱いをしちゃって、それがハラスメントになるとか。
他にも例えば女子高生の中におじさんが1人で入って話をしていると、女子高生のほうが優位じゃないですか。そうすると、当たり前のように今流行っているものや用語を教えることも起こってしまいます。
日本人はそんなに初対面で、外で急に割り込んでまではやらなかったりするんです。ですが、それが自分の場所……よくあるのはバーとか特定の場所で、常連さんが一見さんに見える人に、急に「あ、それさ」とか(笑)。お店の人が言うならわかるんだけど、ということがあるじゃないですか。
--ありますね(笑)。
若宮:やっぱり「自分がこの居場所では先達である」という意識の時には、どこでも起こり得るのかなと思います。
若宮:あとこれは本当に難しいなという事例ですが、僕の大学時代の学友に伊藤亜紗さんという研究者の人がいて。『記憶する体』という障害者の方のお話を書いた、すごくおもしろい本があるんです。
その中に視覚障害者の方の話が出てきて。視覚障害者として街を歩いたりトイレに行こうとすると、本人はけっこう体感で周りのことがわかっているんだけど、(周りの人が)先回りして「あ、こっちにこれが!」とすごく言ってくれる・教えてくれる。毎日が「はとバスツアー」みたいになっていて(笑)。
--ガイドしてくれるんですね(笑)。
若宮:そうすると「障害者を演じなきゃいけなくなる」。悪気はなくて、よかれと思ってやってくれているから、それ(周囲の助言)は素直に聞くんです。「めっちゃ助かります。ありがとうございました」って。本当は1人でできるんですよ? できるんだけど(笑)。
なので、本当は手助けしようと思っているけど望まないところまでサポートしてしまうとか、そもそも本人ができる可能性を先回りして潰しちゃうところがあって。これが本当に難しいなと思うんですよね。
--なるほど。今のは視覚障害者の方のエピソードでしたが、私も新人のときに、先輩から「既に自分は知っていること・わかっていること」を教えてもらっている時にまさに“わからない体”で聞くというか。わからない新人を演じていることはありました(笑)。
若宮:ありますよね(笑)。
--あります、あります(笑)。
若宮:「はー! 勉強になります!」と言って。めっちゃ知っているし、むしろ詳しいんだけど(笑)。
--それは本当にありますね(笑)。
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