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第7回ホワイト企業への道を共に学ぶ 「谷川クリーニングに学ぶ“抜群の自律型組織”の作り方」(全4記事)

経営者が恐れと不安を払拭できれば、社員は自然に育つ 離職者続出のクリーニング店が、ホワイト企業になれた理由

ホワイト企業を目指す人たちと共に学び交流する場として、2021年5月から12回にわたる講座を開催中のホワイト企業大賞アカデミー。第7回目の講座では、茨城県の企業として、またクリーニング業界として初のホワイト企業大賞を受賞した「谷川クリーニング」の代表取締役 谷川祐一氏と専務取締役 谷川麻美氏が登壇。最終回となる本記事では、谷川祐一氏が従業員が「育つ」環境を整えることの重要性を語るほか、「ホワイト企業大賞」企画委員会代表の天外伺朗氏が自律型組織の形成に必要なことを語っています。

社内の多様性が、トラブルに対応する力を生む

小森谷浩志氏(以下、小森谷)まさに自然治癒という感じですよね。自然といつも一緒にいる史郎さんとしては、植物的なメタファーとも通じますかね?

吉原史郎氏(以下、吉原):畑とまったく同じだなと思ってお聞きしていました。祐一さんと麻美さんのパーソナリティがつながりあって、今のような経営観というか世界観、人間観になったということを聞き、気持ちいいなと思っておりました。

とは言え、例えばその生態系に大打撃というか、これは危ないというものを察知する時は、たぶんメンバーさんが気づいてやっていかれているのかなという感じもしたんですね。要は管理者が気づいて直すわけじゃないので、何かが起きて対応していくという中で、自然とみなさんがそれを感知するようなエネルギーとか力が強まっているのかなと思ったんです。

谷川麻美氏(以下、麻美):生態系というお話が出てきたので、最近すごく社長と話をしたことがあるんですけど。うちの会社の社員さんにはカラーがないんですよね。いろんな会社さんを見学させてもらうと、その会社の社員さんだなと感じることが多いんですけど、うちの会社にはそういう意味でのカラーがないというか。別にそれが嫌ということではなく、多様だなと感じるんです。

生態系もそうじゃないですか。背が高く日光をたくさん浴びる木があったり、あまり日光を浴びなくてもいい木があったり。その下のジメジメした地面に暮らす虫がいたり、それを食べる小動物がいて、その糞を分解するバクテリアがいたり。多様というのが、そういった自然にすごく近いかたちというか、ありのままという感じがします。

多様であると、何かの出来事に対応する力が強いと感じることがあるんですよ。だから私たちが「あっ」と思うようなことが起きても、その多様性を活かした処理がされていくのを見て「パワーがあるな」と思う時が多いんです。

谷川祐一氏(以下、祐一):それはすごくあります。今回はこの人が活躍するんだ、という感じのことが起きたりしていますね。

吉原:みなさん一人ひとりが、大自然が持ついろんな特徴、環境に応じた能力の発揮の仕方をされているんですね。

麻美:そうですね。違うからこそ、つながりを感じられるかどうかがけっこう肝になってくるんだろうなと。「違うから関係ないよね」となると、生態系が弱くなっていくので、「全部の循環で、私たちはつながっている」と感じやすいような仕組みとか、そういう話をしていますね。

吉原:ありがとうございます。本当に共鳴します。

コミュニケーションの「見える化」が安心を与える

小森谷:「関係ない」と感じない、「関係している」と感じる。つながっているから自然と助け合うし、「今回は俺だろう」みたいに、ふだんそれほど前面に出ていない人がトラブルに対して主体的に行動する。そんなことが、自然に起きているんですね。

麻美:不思議ですよね。その時の場の流れで誰かが行動する。

小森谷採用時の面談で関係性について丁寧にお話をされていて。その後、つながりを感じやすい工夫というか、みんなで集まって話す機会はあるんですか? 以前サッカーのモードみたいなものがあるとお聞きしましたけど、「こんな工夫をしています」というものは何かあったりするんですか?

麻美:そんなに大きなことはしていないんですけど。まず社内のコミュニケーションツールは、顔が見えて隔たりがないものを使うということ。

祐一:コミュニケーションが全部見えるようにはしています。工場と店舗は離れた場所にあるし、店舗同士も離れた場所にありますけど、工場でどんな話がされているかを見ようと思えば誰でも見られるようになっています。

ただ興味がなかったら別に見なくていいし、見なければいけないとも決めていないので。でも見えるようにしておくと、自分で何か気になった時に見る人が出てくるんですね。見えるというのはけっこう安心するみたいです。

店舗が離れていたり勤務時間が違ったりすると、ぜんぜん会ったこともない人が会社の中にいるんですけど、コミュニケーションツールに顔を出してもらっているので、どんな人がどんなことを言っているかも見えて、会ったことがなくても「あっ、はじめまして」みたいな感じですぐ仲良くなれる感じにはなっていますね。

麻美:あえて「みんなで集まりましょう」ということはしないように会社で決めていますが、知らないところでみんなで集まったりしているみたいですね。

祐一:有志でされているみたいですね。

麻美:会社で集まる場を設営すると、用意されているから行くという感じになってしまうので、みんなが好きに集まるのがいいかなと思っていますね。

祐一:「もしお金が必要だったら会社で食事代を出すこともできるよ」という感じで、本当に自由な感じでやっています。

工場内での作業効率化につながった、サッカーでの例え

麻美:さっきサッカーのモードの話がありましたけど、画面共有をしてもいいですか?

小森谷:もちろんです。

祐一:これは工場の見取り図という感じなんですね。このマグネットが機械と人の配置です。うまくいっていない時は同じ場所に固まって、チームワークがないような感じだったんですよ。

なんでだろうと考えた時に、サッカーで言うとわかりやすいかなと思ってこういうのにしちゃったんですけど。僕はこういう状態で(俯瞰で)見えていたんですけれど、選手(工場の人たち)はこういう感じで(自分がマークする相手だけを)見ているんです。「視点が違うんだ」と思って、工場の人たちにこういうホワイトボードにマグネットを貼って見せたことがあります。

麻美:もともとみなさん自律的に自分の持ち場をやっているんですよ。自律的にやってくれているんですけど、どういう流れでそれが動いているとか、自分のしたことがどんなふうに全体に影響していくとかが見えていなくて……。

祐一:自律的に自分の目の前のことをがんばっていて、結果チームが試合に負けていることにも気づいていないみたいな。

小森谷:なるほど。

祐一:サッカーの試合をやっている時にスコアボードがなくて、残り時間が何分かもわからなくて、かつお互いに目隠しして試合をやっているような感じなんだなと思って。

麻美:だからその方の能力がどうとかじゃなくて、「見えるようにするだけでいいんじゃないの」みたいな。「ちょっと情報が違うだけじゃない」という話をしています。この見取り図は、私が作ったものよりもきれいに作り直してくれていますけど。

祐一:昔はただのマグネットだったんですけど、今は人型のマグネットになっていて向きを示せるんですね。「この人はこの人の手伝いに行くつもりでやりましょう」とか、「今日はここが大変だから、余裕のありそうなこの人はこっちに行きましょう」みたいな。

こういうのをみんなで一緒にやると、部外者が1人もいないとわかるんです。現状がどうなっているのかがわかって、「じゃあ、こうやってやらないといけないね」と。当日の入荷量はITとかでわかるので、入ったばっかりの人でも「今日は大変なんだ」とわかって協力したり、チームでちゃんと動けるようになっていく感じですかね。

「ご褒美で釣る」では、自律的な行動にはつながらない

祐一:うまくいっていない時は、こういう対話や作戦会議が起こらなかったんですね。「とにかく俺の言うことを聞け」という感じで、工場長みたいな人が指示を出すんですけど、全体がわからないので自分で考えて動けないじゃないですか。それで結果的に自分の目の前の仕事だけをやっていたと。他の仕事をやったり、勝手に動かないという状態になっていたんだなと思ったんですね。

麻美:本当にこれくらいで、後はあまり何もしていないので。

祐一:単純なことなんですけど、この見取り図を置いただけで自分で考えるようになるんだというのはすごく勉強になりました。

小森谷:見えるべきことが見えることで、自分で考えるスイッチが入るということですね。先ほどおっしゃっていたようにもともと人は自律的だし、悪いことをしようと思っているわけでもないし、こういうちょっとした仕組みを用意するだけで表に出やすくなるというか。

祐一:ちょっと意識が変わればいいのかなと。そうすると「怒られたくない」みたいなところが、「自分もチームの一員として貢献したい」「役に立ちたい」という感じになって、ぜんぜん行動も違うんだなと。

ご褒美みたいなものを用意してそれをやると意味が変わっちゃうので。そこにいる人とのお互いの関係の中で「みんなが困っているんだったら私も一肌脱いでやろう」と本人が思わないとうまくいかないんだなと。

小森谷:まさに今日のテーマの「抜群の自律型組織」ですね。人からされて自律型になることはもちろんないわけで。一肌脱ごうみたいなのも、「お前、一肌脱げ」と言われたら嫌ですものね。自分が「いや、これはちょっとやらせてくださいよ」となるわけで。

祐一:「これでめっちゃ困っているから助けてくれない?」というお願いがすごく多いんですよね。

小森谷:なるほど。お願いが言える関係性だというのもありますよね。ありがとうございます。

従業員を「育てる」ではなく、自然に「育つ」環境を整える

小森谷:みなさんから今までのお話の中で何かご質問やコメントはございますか? 視聴者の方からのご質問ですね。どうぞ。

視聴者:今日はありがとうございました。大変勉強になりました。1つ伺いたいことがあります。入社の面接をしっかりされているということでしたけれども、すでに働いていらっしゃる方との面談もされていますか?

祐一:入社時の面接だとほぼ僕しか面談をしなくて、後は現場の見学に行った時に工場にいる人とお話をする感じですね。今働いている人との個人面談、1on1は基本的にしません。

ライフイベントでの相談などを受けるんですけど、こちらから面談の設定はしないようにしています。僕らが相談を受けたり面談をやるのではなくて、周りの人と自然にやれるようにならないとうまくいかない感じがするんですね。

麻美:昔はスタッフさんのモチベーションを上げたり、動機づけを目的にコミュニケーションを取る時もあったんですけど、ちょっと不健全だなと思って。

うちの会社だとグルーミングというんですけど、井戸端会議的に「最近嫌になっちゃったわよ」みたいに、一緒に働く仲間にまず相談をするのがいい状態かなと思って、なるべく我々が介入しないようにしていますね。

祐一:店舗ではクリーニングの受付を1人でやるんですけど、若い女性のスタッフさんだとうまくいかず落ち込みやすかったりするんです。周りのスタッフさんの対応が上手すぎて、お客さんが笑顔で「何々さんこんにちは」みたいな感じで入ってくるのが、自分の時にはぜんぜん笑顔にならないと感じちゃったりして、ショックを受けるんですよ。

そういう時に、昔はいろんなアドバイスや面談をしたりしていたんですけど、今は一切やっていません。自分でとことん考えて、うまくいかなかったらベテランの人のところに行ってみたりとか、いろんな経験をしていくんですね。

泣いたり笑ったりしながら最終的に自分がつかんだものが一番価値があると思っています。自分でがんばって突破し、「お客さんはこんなことで喜んでくれるんだ」と気づいた人は、その後もすごく伸びるので。

「育てる」のは正直難しいと思っていて、どちらかというと自然に「育つ」という感じですかね。周りの人と関係を作りながら、その人個人がいろいろつかんでいって、結果その人が育つのを見ることが多くて。育っている人を見て周りの人も育つんだなというのが、僕らの見方です。

視聴者:ありがとうございます。

いい関係性を築くと、人の成長を見て他者が育つ「育ちの連鎖」が生まれる

小森谷:なるべく介入しないと言うね。史郎さんは、草をあまり抜かず、農薬とか肥料を過分に与えないとか、なるべく介入しない自然農をされていますね。井戸端会議が勝手に起きているみたいな話は史郎さんのやっていることとすごく近い印象を持ちました。

吉原:うれしいですし、興味しかないですね。祐一さんや麻美さんがおっしゃっていたように育てようと思って育てられるものじゃないですし、育てようとする人がいなければ、自分で生きられない生命力になってしまう可能性もあるので。お野菜でも人でも同じだなと思いますし、個人的にはもともと長く旅館をやっていましたので、今日の祐一さんと麻美さんのお話はすごく響いています。

「育てる」「育つ」というのを、お野菜ではなく人の世界でやるのはまた違った難易度がありますし、当然会社というキャッシュのプレッシャーがある中でやっていくことなので、本当にすごいことだと思っております。

小森谷:勝手に育ってそれを見て他の人が育つという、育ちの連鎖みたいなものが自然と出てくる土壌づくり、環境づくりが「いい関係性」なんですね。ただ、この「いい」は「いいよね」の「いい」で、言語化が難しい。「いい~」と伸ばすしかないですかね。では天外さん、全体を通じて感じたコメントなどをいただければと思っております。

天外伺朗氏(以下、天外):最初の頃の話に戻っちゃいますけどね。麻美さん、社長が血だらけになって入ってきた時にどんな感じがした?

麻美:おもしろかったですよね。みなさんから「びっくりしませんでしたか?」とか「ショッキングじゃないですか?」とか言われるんですけど。本当に写真を撮っておけばよかったなと思っているんですけど、今みなさんが見てもたぶん笑うと思うんですよ。血だらけですごく暗くなって帰ってきて。その絵が最高におもしろいなと思って。なんでこの人はこんな暗くなっているんだろうとかって(笑)。

祐一:確かに今思うとドリフのコントで爆発した後みたいな感じで、服もビリビリに破けていて血だらけで(笑)。

麻美:ザクザクなんですよね、切られた後って。えぐれているっていうんですか?(笑)

人が本来持つ「自律性」「善意」を発揮し、助け合う自律型組織

天外:これがすごいんだよね。祐一さんには天外塾にも出ていただいて、親子の葛藤はもう解消しておられるんだけども、それの原理的なところもあるのでインナーチャイルド・ワーク(幼少期のトラウマを解消するワークショップ)にも出ていただいて。僕はひしひしと麻美さんの存在を感じています。

(一同笑)

だから今日、初めて顔を拝見してすごくうれしかったんですけどね。動じないという、1つの精神的な境地が見えるわけです。他にもいろんなエピソードがありますけど、やっぱり麻美さんが動じないことで祐一さんが変容されていったというのも、僕は申し訳ないけどすごく感じていました。「いや、すごい奥さんだね。5億円くらいで譲ってくれない」とか言って。

(一同笑)

何にもしないんだけれどもみんなが自律的に動いてうまくいっているという、パタゴニアに似ているんですよね。さっき祐一さんから話が出たように、そもそも人は自律的だし、善意を持っている存在なわけですよね。それを、ルールや仕組みを作ることで邪魔をしているわけですよ。例えばルールを作るというのは「あんたを信頼していないよ」という1つのメッセージになりますよね。

それに対し、何かことがあっても自分たちは出ていかないとかね。あるいは物事がうまくいかなくなることを事前に止めようとしないとか。そういうことによって自律性が発揮されるわけです。人から自律性や善意を損なわせるような要素を排除しているから、みなさんが自律性や善意を発揮して助け合うという1つの自律型組織の典型的なパターンなんですけどね。

自律型組織の形成には、経営者自身の恐れと不安の払拭が必須

天外:これは今日お聞きのみなさんがやろうとしても簡単にはできませんよ。なんでかというと、自分の中の恐れと不安が相当減ってこないと、できないわけですよ。恐れと不安があるからルールを作るし、事前に失敗しないようにするわけ。

それが今までの一般的な管理型のマネジメントだった。ただその恐れと不安がなくなってくると、自然とこういうマネジメントになるという。僕はそれを存在のマネジメントと言っているんだけど、麻美さんがその震源地だね(笑)。

麻美さんの存在そのものがそれを可能にしていて、祐一さんがそれに染まって変容していったという感じを僕は受けましたので。だから基本的には、いかに自分の中の恐れと不安が減っていくかがポイントで、恐れと不安があるまま真似するとひっくり返ります。

恐れと不安がなくなるから本当の意味での信頼ができるわけですね。恐れと不安があると、どこかでそれが出てしまう。それは言語によるもの、言語によらないものの症状かもしれないですね。

恐れと不安がどこかに出ると、自律性は生まれないと思うんですよね。ですから、真似してできることじゃなくて、どれだけ自分と向き合えるかということです。だんだんこっちに近づいていくより仕様がないということで、これは掘り下げるともっともっと掘り下げられるんだけど、掘り下げてもなんの意味もないという。

(一同笑)

掘り下げてもなんの意味もなくて、さっき小森谷さんが言っていたように「いい~」と伸ばすより仕様がない(笑)。前にゴルフを教わった時に、ともかくスムースに振れと言って、「スムース」は「smooth」でしょ? その「o」の数を伸ばせということを教わって。

はっきり言ってごく普通の言語表現を超えているんですよね。でも、今日はその真髄みたいなものをものすごくわかりやすくお話しいただいて、素晴らしかったと思います。どうもありがとうございました。

祐一・麻美:ありがとうございました。

小森谷:天外さん、ありがとうございます。麻美さんと祐一さんが、自分の中の心象風景が外側に映し出されているとおっしゃっていましたけど。

今天外さんがおっしゃったように「恐れ」と「不安」が解けていった時に自然に(自律性や善意などの)いろんなものが広がっていくというね。自然に育っちゃうし、応援してくれるし、出会うし、始まるし、といろんなことが起きるということですね。

まさに「抜群の自律型組織」ですが、これが広がると日本や世界にまたいろんなことが起きてくるだろうなと思います。今日は本当にありがとうございました。

祐一・麻美・吉原・天外:ありがとうございました。

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