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高橋浩一氏 インタビュー(全2記事)

「意味がない」と思っている社内ルール、上司にどう伝える? 人を動かすのが苦手な人がぶつかっている「4つの壁」の正体

営業力のノウハウを記した『無敗営業』が大きな反響を呼んだ、TORiX株式会社 代表取締役の高橋浩一氏。2021年8月に新刊『気持ちよく人を動かす』を上梓した高橋氏に、インタビューを行いました。人を動かすことが上手な人・下手な人の違いを解説しながら、相手との合意を妨げている原因になっている「4つの壁」の正体を明かしました。

人を動かすのが上手な人・下手な人の違い

――新刊『気持ちよく人を動かす』を出されたタイミングでぜひお話をおうかがいしたいと思い、今回お声掛けさせていただきました。本日はどうぞよろしくお願いいたします。

高橋浩一氏(以下、高橋):ありがとうございます。よろしくお願いします。

――著書のテーマは「気持ちよく人を動かす」ということですが、そもそも人を動かすのが上手な人・下手な人がいる気がします。その決定的な違いはどこにあるんでしょうか?

高橋:相手がうまく動いてくれないケースって、「どっちが正しいか勝負」みたいな感じになっていることが多いんですよね。例えば、上司からすると「部下が間違っていて、自分の言うことは正しい」。部下も「いやいや、上司は自分のことをわかってない」とか。正しさがぶつかりあってしまうと、なかなか生産的に前に進めない。やっぱり、こういうケースに陥りやすい人っているんですよね。

上司が部下に動いてもらうケースでも、営業がお客さまに動いてもらうケースでも、自分の正しさを一生懸命主張しようとしていたり、「変に突っ込まれたくないなぁ」「反論されたくないなぁ」と、ツッコミや反論をよくないものと考えて、封じ込めようとしてしまう。

そうするとやっぱり、相手側もうまく動いてくれない。正しさを主張し合うようになると、うまく動いてもらう方向からはどんどん離れていってしまいますね。

逆にうまく動いてくれるケースでは、どっちが正しいかではなく、「いい結論やいい未来を一緒に作ろう」と思うようにすると、相手側から出てくる疑問や反論も鬱陶しいものではなくて、「これも実は何かのヒントじゃないか」と受け止められます。

相手の「愚痴」の中に隠されているヒント

高橋:今はDXという言葉が世の中を騒がせていますが、例えば、アナログで古い仕事のやり方をされているお客さまに、営業の方がDXを進めるような商材を提案したとします。

「絶対にこのやり方がいいですよ」と、おすすめしようとした時に、お客さまが「いや、うちの会社ってもう古臭くて。ちょっとそういうのはいきなり受け入れられないと思うんですよ」と言われた時に、営業側がお客さまの意見を鬱陶しいものと捉えると、さっさと説得しにいこうとしちゃうわけですね。

でも、それが何かのヒントなんじゃないかと考えると、ちょっと言うことが変わってくると思うんですよ。

営業の方が「もう少し詳しく聞かせていただいてよろしいですか?」と聞いてみると、「実はうちって、代々続いているオーナー企業で、経営者が70歳を超えてもまだ現場の細かいことに口を出すような感じで。現場としても本当はいろいろ変えなくちゃと思っても、ぜんぜん進まないんですよ」という、お客さまの愚痴が聞けたりします。

そうすると、経営者の方に反対されそうだとしても、実は現場の方々の総意としては改革したいんだとわかったり。そうしたら、「じゃあ一緒に作戦を考えませんか?」と、お客さまを巻き込めたりします。でも、営業がお客さまの言うことを片っ端から説得・論破しようとしていると、なかなか(本当に目指すところに)たどり着けなかったりするということですね。

「相手にわからせよう」という気持ちを捨てる

――なるほど。上司・部下のコミュニケーションがうまくいかない時にも応用できそうですね。

高橋:そうですね。例えば、納期通りに仕事をしない部下に指導するとします。確かに納期どおりにすることは大事だし、正しいことです。でも、相手が間違っていると上司が決めつけてしまうと、部下の言うことは全部「言い訳だよね」という一言で片付けちゃったりすると思うんですよね。

部下が「忙しくて……」と言うと、上司が「いや、でも約束は約束だよね? 遅れる時は事前に言うのが普通だよね?」とか。そうすると、上司の言うことは正論なので、部下もなんだか反論を言えずに、いろいろ気持ちを封じ込めてしまいますよね。

でも、部下も忙しくて手が回ってないということを、「何かのサインじゃないか、ヒントじゃないか」と上司が思うと、たぶん言うことが変わってくるんですね。「今どんなことで忙しいのか、もうちょっと詳しく聞かせてくれる?」と。

そうすると、部下もいろいろ言えるようになり、Googleカレンダーには記載されてないけど、実はこんなタスクも抱えていて、あんなタスクも抱えていて。実は仕事のやり方がうまくつかめてなかったとか、いろんな事実がわかってきます。

納期どおりに出してもらうことを要求する前に、もうちょっと部下に仕事の進め方を教えてあげなくちゃいけないな、とか。自分が依頼しているルートとは別に、先輩が勝手に仕事を頼んでいることがわかって、上司である自分がちゃんと介入しないと、部下がパンクしてしまうと気づいたり。

やっぱり「自分が正しい」「相手にわからせよう」という気持ちを捨てて、疑問や反論ではなくちゃんと何かを発見するモードで接すると、いろんな気づきが起こりますよね。

相手との合意を妨げる「4つの壁」とは?

――まずは自分の正しさを押しつけずに、相手の話に耳を傾けることが大事なんですね。著書では、相手の合意を妨げる原因として「4つの壁」を掲げておられました。改めて詳しく聞かせていただけないでしょうか。

高橋:「4つの壁」というのは、相手が動いてくれない理由を場合分けしたものですね。「関係性の壁」「情報整理の壁」「思い込みの壁」「損得勘定の壁」というものがありまして、だいたい初期段階に発生する順に並べています。

まず相手が動いてくれない原因のうち、初歩的なものは、まだ関係ができていないから。「あなたのことがよくわからないから、そう言われても簡単に動きませんよ」というのが「関係性の壁」です。

例えば、先ほどの話の上司が、締め切りを守らない部下に改善を求める指導をしたいとします。でも、まずは上司と部下が打ち解けていないと、部下も遅くなってしまう本当の理由を正直に話してくれないというようなことですね。

2つめの「情報整理の壁」は、ある程度関係ができてきたとしても、情報を整理しきれていなくて、相手がもうちょっと考えさせてくださいという状態になっているもの。

部下の方が忙しくてぜんぜん手が回っていない。そのせいで仕事が遅れてしまうと分かって、上司が「いったい何が原因なんだ?」と聞いても、「いや、ちょっとですね……」という感じで、うまく状況や考えを整理できなくて、上司のアドバイスが機能しない。これが「情報整理の壁」ですね。

さらに、この部下の方が「上司に些細なことで注意された」という経験が頭の中に残っているとします。中途半端なものを出すといろいろ言われるんじゃないかと思ってしまって、「早く出せ」と言われても、うまく動けない。(上司は協力しようと思って接していても、怒られるのではないかという)固定観念、過去の経験に囚われてしまい、素直にアドバイスが聞けないというのが、「思い込みの壁」です。

最後に4つめの「損得勘定の壁」は、思い込みでもなく冷静にきちんと判断しようとした時に、「投資対効果の点でどうなんだろう?」という疑問が発生するもの。

上司の言うスピードや納期に部下が間に合わせようとすると、ちょっと大変な思いをしなくちゃいけなかったり、もしかしたら残業しなくちゃいけないという時に、「残業してまで間に合わせるかな?」というようなことが「損得勘定の壁」ですね。

会社のルールに不満がある時、部下のベストな行動は?

――これらの4つの壁を意識することで、お互いに気持ちよく動くヒントになりそうです。ただ、やはり上司と部下などの対等でない立場だと、疑問や反論はちょっと言いづらい気もします。そういう時は、どんなアプローチが有効ですか?

高橋:例えば、部下の方が「意味がない」と思っている社内ルールがあって、上司の方に変更してほしいと言いたいことがあるとしますよね。それで、部下の方が上司に対して、「このルール、意味がないと思うのでやめませんか」と言うのって、ちょっと角が立ちますよね。

正論から言うと、確かにそれって無駄かもしれないけれども、「なんでそのルールが設定されたのか?」という背景を、上司の方に聞いてみる。実は上司の前任の部長が決めたルールで、上司もそんなに意味があるとは思っていないけど、部長の顔を潰したくないから、とりあえず今のままやってるようなこともあるわけじゃないですか。

「これはもう実態として機能してないから、やっても意味なくないですか?」と、部下が正論だけで説得しようとしても、上司は上司で「部長の顔を潰すのもなんだしな」とか「でもそれ、いまいちな理由なんだよな」と思うだけで、きちんとした話し合いに踏み込めないですよね。

だから、「じゃあこのルールはどういう経緯で作られたのか、少し教えていただいてもよろしいですか?」というところから入れば、「前の部長が作ったから、実は課長も僕も本当にいいかどうかは疑問ではあるんだよね……」とポロッと上司が言うかもしれない。そこで、「じゃあ、みんなにとっていい道を一緒に考えませんか?」と提案できます。

そしたら、部長の顔を潰さずに済むような方法を一緒に議論できたりすると。こういうふうに、自分が正しいと思って論破しないことは、上司に対するアプローチでも同じように有効ですね。

双方向の会話を生むための場作りのコツ

――やっぱり、「自分が正しい」という一方通行の押しつけにしないことが大事なんですね。著書には、双方向の会話を生むためには、前提として場作りが大事だとも書かれていました。関係性ができる以前の、初対面の相手と上手に会話するための場作りのポイントもおうかがいしてもよろしいでしょうか。

高橋:場作りで大事なことは、まず「ちゃんと相手を受け入れる時間」と、「踏み込んで議論する時間」を分けることですね。

前半がちゃんと相手を受け入れる時間なんですが、端的に言うと、自分がいきなり一方的にしゃべりすぎないということです。早めの段階で相手にボールを渡してあげる。でも、いきなり「どう考えてますか?」と言われると、相手も困っちゃうじゃないですか。

さっきの話にあったように、上司が部下を指導する際に、「君、最近納期に遅れてばかりなんだけど、どうなの?」と問い詰めると、部下も何から話していいかわからなくなってしまうんですね。

そういう時に、気持ちのいいボールの渡し方があります。それは、ある程度最低限の情報をちゃんと伝えた上で、何について話を聞きたいか明確にすることです。

「別にこの場で詰めようとか、叱責しようというわけじゃなくて。何が起こっているかを知りたいから、最近ちょっと遅れがちな仕事について、裏側でどういう進め方をしたのかを教えてほしいんだ」と、ちゃんと言ってから指導をすれば、部下も「わかりました」と、話してくれると思うんですよ。

部下が話し始めた時に、いきなり「それってプロとして甘いよね」と口を挟んじゃうと、相手も言いづらくなりますので、前半はまず、十分に相手の発言に耳を傾ける。

場合によっては「それって言い訳じゃないの?」「それって無責任だよね」と感じるコメントがあるかもしれませんが、いったんそれはそれで置いておいて、ジャッジをせずに聞いておくことですね。ここでジャッジしてしまうと、相手が言葉を選ぶようになってしまって、あまり本音を話してくれなくなってしまいます。

会議の内容を「途中で」まとめると、冷静な話し合いができる

高橋:ただ、一方的に聞きっぱなしだと、今度は自分が会話をリードする時に困ってしまいますよね。そこで私が本に書いていることの一番の特徴は、「会話の内容を早めにまとめましょう」ということです。

人と人とが話をする時って、最後にまとめる人が多いと思うんですよ。1時間のミーティングだったら、残り5分でまとめるとか、30分を残り3分でまとめるとか。でも、最後のまとめって、だいたい中途半端になりやすいですよね。

私は、「ラフでいいので、会議の真ん中でまとめちゃってください」と言うようにしています。かつ、まとめたものを相手と一緒に見えるかたちで共有できるのがベストですよ、ということをよく言ってるんですね。例えば紙に書いてあげるとか。

昨日も、「部下にイラッとしないで指導するにはどうしたらいいですか?」と、ある上司の方に聞かれたんですが、一緒に紙に書きながら考えましょうとお話ししました。そうすると、(部下が)何を考えているのかが、けっこう冷静に見られると。

会議の真ん中で一度話をまとめてから、考えるべきポイントに的を絞って、ちゃんと議論する。ここでは多少、自分の意見を言ってもいいと思うんですよ。ただ、前半でしっかり聞く時間があるからこそ、後半ではちゃんと冷静にお互いを大切にしながら話ができる。最後は、しっかりと会話をたたむということですね。

ですので、場作りのポイントをまとめると、大きく前半・後半と分けて、前半はしっかりと相手を受け入れる時間、後半は議論する時間に分ける。そして、その間で一度、話をまとめて相手と共有することが大事です。

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