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マザーハウス流 会社のつくりかた ~マザーハウスというコミュニティ~(全3記事)

「お客さまの話で経営者が泣ける」という幸せ 経営者から職人にまで共通する、ものづくり企業のモチベーションの源泉

ビジネスの各分野で豊富な実績を持つ経営者をゲストに迎え、「先人が下した経営の決断」を共有するオンライン経営者会「蛍茶屋」。10月6日に開催されたイベントでは、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」を理念とする、株式会社マザーハウスの副社長・山崎大祐氏が登壇。マザーハウスで働く一人ひとりのモチベーションの源泉や、コロナ禍でコミュニティとしての結束を強めた秘訣などを語りました。

お客さまの想いを知ったことで、職人のモチベーションが高まり、品質も向上

森啓子氏(以下、森):「お客さま総会」で、お客さまとも対話をされると思うんですけれども、お客さまの思いがきっかけで事業に発展したり、何か新しいサービスが生まれたりするんですか?

山崎大祐氏(以下、山崎):もう本当に、そういうことだらけですよ。例えば、すごく大きいところで言うと、僕らはバングラデシュでバッグを作っていたんですけれど、ジュエリー事業を始めた理由は、さっきのインドネシアの線細工の技術に出会ってからなんですね。

当時山口が国際会議に出てインドネシアに行ったのがきっかけで始まったんですけれども、2ヶ国目のジュエリーってスリランカなんですよ。それはなぜかと言うと、お客さまから、ジュエリーをやるんだったら絶対スリランカの採掘所まで行くべきだ、ダイヤモンド以外の石が全部採れるからスリランカに行ってごらん、と言われたからなんです。

スリランカに行ってみたら本当に(石が)あって、スリランカでのジュエリー作りが始まりました。今はこういうことをやりたいと言ったら、お客さまがいろんな情報を提供してくれますね(笑)。

:最高ですね。いろいろな人たちのアイデアに溢れている経営のあり方は本当にすごいなと思って。逆に、現地の方がお客さまの声に触れることで何か影響とか……。

山崎:ありますね。僕らは実際にHISさんと組んでツアーをやっているんです。今はコロナ禍でできないんですけれども、ツアーで500人ぐらいのお客さまが工場に行っているので、品質が良くなりました。

途上国の人たちって、途上国だからじゃないですけれど、日本などの先進国の商業のイメージがないんですよ。日本の品質がどうとか言われても難しいじゃないですか。でもそれ以上に、彼らはつながりを大事にするから、目の前に来てくださったお客さまがこんな思いで買ってくれているんだというのはものすごく響くし。

:ちゃんと互いの存在の想像ができる状態になれているのかはすごく重要ですね。

山崎:SDGsとかも全部言えると思うんですけれど、見えないキーワードのためにものづくりをやっているわけじゃないので。見える関係性の方がよっぽどものづくりのモチベーションになると思いますし。

お客さまとの間に生まれる日々の物語が、働くみんなのモチベーションになる

:おっしゃるとおりだと思います。「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という理念を掲げていると思うんですけれども、それ以上にビジョンの広がりが起きているんじゃないかなと思っていまして。コミュニティ自体の存在意義を、山崎さんはどう考えてらっしゃいますか。

山崎:おっしゃるとおりで、森さんが最初に言ったことなんですよ。究極を言うと、僕らは途上国から世界に通用するブランドをつくるという理念よりも大切なものがある。それは毎日生まれる物語のほうがよっぽど尊いんです。

たまたまイベントに参加していただいたお客さまが話してくれたんですけれど、「実はこのバッグは友達との思い出の品なんです」と。なぜなら、ある友達とこのバッグを買った瞬間に告白されたことがあって。「自分は癌になって余命がそんなにないんだ」と告白されたことがあって。

「その友達はもう亡くなったんですけれど、このバッグがあるとその友達がいるみたいなんです」と言われた時に、そんな理念なんかよりも、よっぽど尊いじゃないですか。

うちの会社って、お客さまにも生産者のみんなにもそういう人生の物語がたくさんあるんですよ。(会社の理念より)そっちの方がよっぽど大事だと思う。なんかすみません、涙出てきちゃった。何なんですかね、この回。

僕はそういうアクションを大事にしていて。例えばうちはブライダルリングとかもやっていて、インドネシアの職人さんたちが作るんですけれど、ブライダルリングを作る際は必ず結婚するお2人の写真をお預かりするんです。

インドネシアの職人さんにお預かりした写真をお渡しして、そばに置いて指輪を作ってくださいとお願いしているんですよ。作った時の職人さんのプロセスを全部ブックにしてお渡ししていて、何百組とかが作ってくださっていて。そういう物語のほうがよっぽど僕は愛おしいなと思います。

理念は大事だし、言い方はあれだけれど効率良く何を目指すのかはすごく分かりやすいけれど、その周りに日々たくさんの物語が生まれていくことのほうが、実はみんなのモチベーションになるという。

「人を豊かにするか」とか、「幸せにするか」とか。もうちょっとミクロな話で、みなさんの会社が人を幸せにしたり、生きる意味を作ってあげられるかを見つけにいくほうが大切なんじゃないかなと。

これからの企業は、個人の価値観や物語を大切にできるかが問われる

:一人ひとりがどういうふうに自分の思いを物語っていけるか、それが誰かのためになっていくか、価値につながっていくか。役員も経営者も1人の人として、社員と同じように関わるお客さまと同じようにやっていくのが経営のあり方としてすごく重要だなと思っていて。

私たちはBtoBの仕事なので、いろんな企業のお客さまとご一緒するんですけれども、ビジネスの話よりも私生活の中で何を大切にしているかというところから実は話をしています。

例えば、ある家電メーカーで働いていらっしゃる方は、東北の東日本大震災後から今も続けてらっしゃるんですけれども、子どもたちを幸せにしたいからと気球を飛ばしている方がいて。

そういう何を大切に生きているかを互いに知ることで、どういう取り組みを一緒にやっていくかという、ルートになるところから共創し合える関係になるので。そのストーリーをどう書いていけるのかは非常に重要だなと思います。ありがとうございます。

山崎:会社がそういう個人の物語を大切にできるかどうかというのは、これから重要だと思うんですよね。大括りにして言うのは良くないですが、今までの会社って個人の価値観と物語をあまり大切にしてこなかったと思うんですよ。だから僕は、今後経営を通してそれを変えていかないといけないと思いますね。

:続けていくために、ぶれないようにするために山崎さんや山口さんが経営者として意識されていることってありますか。

山崎:やはり僕らがお客さまと会う機会を持っておくことですね。ちょっと言葉が良くないですけれども、僕は「前近代の戦争型」と呼んでいるんです。現代の戦い方って、戦略室にこもって地下シェルターに行って指示を出すみたいになってきてたところから、再び経営者がトップを取りながら新しい市場を開拓していく時代になってきているなと思っていて。

山口は今でも全部の商品を自分で作っているし、店頭に立つこともありますし。いろんなイベントを通してお客さまとつながっていると、少なくともお客さまと対峙している時間は、僕にとっても個人の時間なんですよね。

お客さまから個人の話を聞く時、たった1人とか2人でもいいから誰のためにものを作っていて、その人にどういった感情や物語を生んでいるのかをリアルに経営者が感じられることがすごく大事だなと思います。

経営者がお客さまから直接エピソードを聞き、泣けるという幸せ

山崎:さっきの癌でご友人が亡くなったという話も、僕がイベントの中で直接教えていただいて。そのイベントも何百人もの人が見ていたんですけれど、ガン泣きするという(笑)。

でも、なんか幸せだなと思うんですよね。お客さまのエピソードを聞いて経営者自らが泣けるという、こんな幸せなことはないなと思って。こういう機会が1年に1回か2回でもあるだけで、何のために仕事をしているのかというか。

いやもうマジで、本当この時代に経営者をやる意味はないですよ。コロナがいきなり起こるし、明日何が起こるか分からない時代の中で経営者をやるのは、本当にしんどいと思うんです。みんなが自由になっていく時代の中で、人手不足の問題とかもあるし。

森さんのお話を聞いて、経営者こそ「何のために仕事をしているのか」という、個人のモチベーションを保てないといけないんだなと思いました。

:すごく分かります。私は取締役になったのが2016年からで、代表に就任したのが2019年だったんですけれども、自分の人生の貴重な時間の中で、エフアイシーシー という会社に自分がいる意味は何だろというところからあらためて自分自身に問うて。

自分の人生を振り返って社員に伝えたり、やはり経営者自身がなぜここにいて、何をしようと生きているのかというところから、企業やビジョンが作られているのかなと思いますね。

山崎:やはり森さんは相当変わっていますね。どう言ったら良いのか分からないんですけれども、僕はこういうBtoBというかブランドコンサルティングファームは、すごく珍しいと思いますし、面倒くさいことをしっかりとやられているのはびっくりしました。ごめんなさい、僕は知らなかったので、けっこう感動的だなと思います。

:ありがとうございます。自分自身は両親が教育者で、自分が5代目のクリスチャンで。キリスト教でずっと来ているので、哲学とか、なぜとか、抽象概念に幼少期から触れていたんです。もしかしたら何をやるにしても、「なぜ自分がこれをやるのか」を問われる環境にいたのかもしれないですね。

経済活動ができない中で、「何をやるか」を問われたコロナ禍

:最後に少し聞きたいなと。コロナ禍におけるチャレンジというのがあると思うんですけれども、山崎さんはこのコロナ禍をどういうふうに捉えていますか?

山崎:そうですね。いくつもポイントがありますけれども、1つ目は「Why」が重要だと思いました。本当にドラスティックに変わる可能性があって、何が起こるか分からない時代だから「How」にこだわったらダメだと思いました。

というのは、僕らはお店が45店舗あって、場としてものすごくこだわって作ってきたんですね。それがコロナ禍で全店がオープンできなかった時期があって。こんなに大切にしているものが(あるのに)何もできなくなるのがこれからの時代なんだと思ったし、「How」にこだわったら会社はなくなると思いました。

そこで大事だったのは、何のために会社があるのかという「Why」でしたね。すぐにオンラインに切り替えて、オンラインでの売上は数倍になりました。お客さまとつながるためにできることは全部やりました。

2つ目は、コロナ禍でこそ問われたのが、「経済的な意義じゃないもの」だと思います。さっきも言いましたけれど、コロナ禍で「予算達成ができていない」といくら吠えたところで意味がない時に、予算を達成できないし、極端な話、会社が大赤字になるかもしれないけれど、「それでもみんな何をやる」っていう。

経済活動ができないけれど、何をやるかを問われて、こういう時にこそ会社の真価とか、経済的なモチベーションじゃないところでやることが社会的意義だと思うわけです。

だから、(これを)聞いてくださっている会社の方々にも考えて欲しいのは、コロナ禍でも絶対守ったものがあったと思うんですよ。それが、みなさんが経済的な理由ではないところで守ったものかもしれないと思っています。

コロナ禍でもすべての国で雇用を維持し、強まったコミュニティとしての結束

山崎:もう1つあらためて思ったのが、リスクが大きくなれば大きくなるほど、今日のテーマにもつながりますけれども、コミュニティとしての会社が重要になってくるということです。ちょっとだけ説明させてもらうと、僕はコロナ禍で、まず全世界のマネジメントに連絡をして、「1人の雇用も給与もカットするな」と言ったんですよ。

とにかく会社のお金は大丈夫だと。2月の時点で僕はもうやばいと思って、銀行さんとかとお話をして資金を調達していたので、まず最初にやったことは絶対にみんなを守るということでした。

グローバルでもそうしました。バングラデシュとかインドは人を切りまくって、失業者で溢れましたが、うちの会社はコロナ禍で1人もカットしていないし、1人の給与もカットしないんですよね。

それが本当に良かったなと思います。結果としてほとんど辞めてないし、本当にコミュニティとしての結束が強くなったなと思っています。みんなの力を結集して乗り越えていく必要性がある時に、コミュニティ作りは何が基準になりますかと。いろいろあると思うんですよ。

例えば、共通のテーマで集まるとか。会社は間違いなく1つのコミュニティになるはずですよ。ましてやボーダレスの時代です。ボーダレスに社会課題が起こっても、当たり前ですけれども、会社がボーダレスであれば、会社の中で11ヶ国のみんなが助け合っていくことができるわけです。

コロナ禍の状況は、国によってぜんぜん違うし、ひどいところもいっぱいある。ミャンマーの政権の問題とかもある。だけど、僕らは全部(の国)で職の提供をやっています。

それは1つの会社だからですよね。だから今回のコロナ禍で、コミュニティとしての会社の作り方の重要性がますます増しているなと感じています。この3点ですかね。

:冒頭で山崎さんがお話していた、小学校4年生の時に衝撃を受けたベルリンの壁崩壊のお話と重なるところがありますね。人が壁を壊すという行為、それが「Why」を起点としたコミュニティ作りにつながっているんだなと思いました。すごく素敵なお話をありがとうございます。

ミッションを達成するために、収益を上げる

松浦道生氏(以下、松浦):ありがとうございます。私も、お話をお伺いしていてすごいなと思ったのが2つありまして。最初の会社紹介の中で途上国に工場から販路まで自前のサプライチェーンを作られて、それを途上国で5ヶ国で展開されているというお話。経営管理といったところで素晴らしいなと思ったんですけれども。

そして、ファッションというものにどう向き合っているのかとか、共創力の源泉ですね。顧客とのストーリーとそれを拾い上げる力や、メンバーに対して答えのないものを問い続ける教育だったり。そういうのを含めて共創力の源泉に通じるものだなと思いました。あらためて(マザーハウスさんが)やられていることがすべて意味があることなんだなというのが分かって。

こういうアプローチでやられてる方とか、こういう経営手法はたぶんファッション業界を含めてなかったりするので、そういう意味では本当に感動しました。

山崎:ありがとうございます。

松浦:とはいうものの、経営者の仕事として経営指標があると思うんですね。そこで言うと、毎年の経営目標はどんな定量的なものを立てられているんですか?

山崎: そうですね。けっこう数値管理が厳しい会社です。よく誤解されるポイントなんですけれども、うちの会社は「店長が経営者であれ」って言われている会社なんですよ。「店舗は中小企業である」と言われているので、店舗ベースで全部きちっと管理されています。

店長には店舗の経営戦略とそれに対するコミットメントが求められるっていうのはすごくあります。コミュニティって綺麗なんですけれども、コミュニティにベクトルが向いてしまうと得てすると、みんなを助け合うことが目的化されてくるんですね。

僕らのミッションを達成するためには、収益を上げないといけないので。収益のユニットはやはりお店にあるので、お店の収益管理は、いろんな KPIを設定して管理されている部分はありますね。

ただみんながいくら努力しても(目標を)達成できない場所に(お店を)出してしまうとミスってしまうので、出店に関しては僕が全部やり、出店責任を負うかたちになっています。

利潤を求める領域と、経済価値の物差しで測ってはだめな領域を両立させる

山崎:そこはけっこう難しくて、うちの会社はちょっと変わっていて、1個だけお伝えできるのは、めちゃくちゃ回収期間、いわゆるリターンとか収益率が厳しいプロジェクトと、ぜんぜんそんなのが問われないプロジェクトの2極があるんですよ。たぶん森さんはすごく納得されると思うんですけれども。

何のためにやるのかというところで。要するに次なるチャレンジとか社会的意義のために稼がないといけない領域がちゃんとあるし、そこはそこで知見が必要で、ストックがされていないといけない場所がある。

一方で、予見できないこととか、経済価値で測れないものは経済価値の物差しで測ってはだめなんですよね。そういうものを両立させている会社で、難しいのは、結局誰がオーソライズするかなんですよね。

分かりやすく言うと、経営者が言うから大丈夫だみたいな話とか。その経営者が言うから大丈夫だというケースと、みんなで決めたから大丈夫だよねっていうケースの2つがうちの会社の場合はあって。そういうものが両立しているのは、ちょっと変わっていると思いますね。

松浦:ありがとうございます。勉強になりました。

山崎:すみません。なんかお答えになっているか。

松浦:いえいえ、ありがとうございます。

松浦:お二方のお話がすごくシンクロしているなと思った理由も、森さんが5代続くクリスチャンという理由なのかなと思いました。

:私は小学校の時の愛読本がマザー・テレサだったこともあり、名前のルートを聞いた時にあっと感じてました。

山崎:山口絵理子がマザーテレサを尊敬しているので、マザーハウスという名前がついています。

:本当に貴重な対話と出会いをありがとうございます。

松浦:みなさま、本日は貴重なお時間ありがとうございました。

山崎・森:ありがとうございました。

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