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マザーハウス流 会社のつくりかた ~マザーハウスというコミュニティ~(全3記事)

小学校でいじめられ、非行に走った中学時代に始めた柔道で日本代表候補に 「可能性の証明」にこだわるマザーハウス創業者の原点

ビジネスの各分野で豊富な実績を持つ経営者をゲストに迎え、「先人が下した経営の決断」を共有するオンライン経営者会「蛍茶屋」。10月6日に開催されたイベントでは、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」を理念とする、株式会社マザーハウスの副社長・山崎大祐氏が登壇。可能性の証明にこだわるマザーハウス創業者の原点や、これからの中小企業の採用で「応募者のモチベーションになるもの」など、株式会社エフアイシーシー代表の森啓子氏とさまざまなトピックスを語り合っています。

「途上国と一括りにされた場所にも、可能性があることを証明したい」

森啓子氏(以下、森):先ほどイントロダクションの中でもお話しされていた言葉なんですけど、マザーハウスさんの(Webサイトの)About Usページを見た時に一番最初に書かれている言葉がすごく刺さって。

「途上国と一括りにされた場所にも、可能性があることを証明したい」という。私も経営の中でリベラルアーツを語る時に「人の可能性」というふうに言っているんですけど。

可能性という言葉一つをとっても、場所が持つ可能性などをどう定義されて、どう考えているのか。その可能性の定義は変化されていったのか。そういうことも聞きたいのですが、いかがですか。

山崎大祐氏(以下、山崎):ありがとうございます。とても難しいところですけど、まず大前提としてお話しておかないといけないのが、僕らの会社の生まれ方みたいなところなんですね。どういうことかと言うと、「どこにでも可能性があることを証明したい」という言い方をしていますが、その原点は創業者の山口絵理子の原点なんですよ。

山口絵理子の原点って何かと言うと、彼女は小学校の時にいじめられていて、学校に行けていなくて。中学に入って非行に走り、社会から抑圧されて、その時に柔道を始めて柔道で日本代表候補までいくような人間なんですけど。

彼女が小さい頃、いじめられている中で自分の中に可能性があると信じたかったというのがあって、そこから始まっているというか。

彼女がバングラデシュに行った時に、途上国だからダメでしょ、援助してあげなきゃダメでしょ、と言われている姿みたいなものに、自分をオーバーラップさせたんだと思うんですよね。だから「可能性」には、極めて主観的な話が原点としてはあると思います。

一方で、教科書的なことを言っちゃうと、ラベリングされている世界は、ものすごくビジネスチャンスでもあるというのも重視しています。

「こうでしょう」「これくらいしかできないでしょう」「こういう場所ってこうだよね」「こういう人たちってできないよね」という声は、いろんなところにあって。でもやってみるとできることって、(森さんの)おっしゃるとおりで、場だったり、人だったり、ものだったりで、全部あると思っているんですよ。

そのずれみたいな感覚をいろんなところで感じるので、ビジネスライクな言い方をすれば、「ビジネスチャンス」だし、もうちょっと崇高な言い方だとすれば、「社会的意義」だと思います。

SDGsの流行は、日本の企業が「存在意義」に苦しんでいることの表れ

:本当に今お話を聞いて、例えばSDGsとかは、世界でラベリングしているセグメントだなと思っていて。そこにみんなが飛びついていますけど、それよりもなぜやりたいと思うのか、一人ひとりのストーリーがあって初めて新しい市場が作られていくと私は信じているんですけど。

今の山口さんのお話を聞いて、彼女の思いと経験があるから、そのストーリーからビジネスが生まれていくというか。やっぱりルートとなる人のストーリーがこれから社会を作っていくんじゃないかと、お話を聞いていて思いましたね。

山崎:すごい。すみません。この場で言うのもなんですけど、森さんと気が合いそうな気がしています。というのは、僕たちの会社はSDGsとかぜんぜん言わないんですよ。もちろん、SDGsを背負って会社でいろいろやるのは意味があることだと思うんですけど。

究極で言うと、「SDGsを外してもある存在意義」のほうが重要で。その存在意義は誰が作るのかと言ったら、会社が作るというよりも、会社の中にいる個人が作るものだと僕は思っているんですよ。

だからおっしゃっていただいたこととまったく同じことを思っていて。SDGsがこれだけ流行ってしまうのも、逆に言うと日本の会社がすごく存在意義に苦しんでいることの表れでもあると僕は思います。

僕自身も、もともと母子家庭だったので、さっき言ったラベリングや、可能性があると証明していくことに対するモチベーションもあるなと思っています。

価値観で会社を作り、価値観で人材の採用を考える時代

:モチベーションと言われたように、組織は一人ひとりが動機に溢れた共同体であるのが一番いいと思っているんですけど。マザーハウスさんの場合は企業としての理念があって、その中にみなさん一人ひとりがいて、それぞれの思いをどう企業のビジョンとつなげていったり、クロスしたりされているんですか。

山崎:採用段階がすごく重要かなと思います。僕は採用には経営者が絡むべきだとずっと言っていて。森さんはたぶんすごく意識されていると思うんですけど、これからの時代は「誰に船に乗ってもらうか」と言うか。

価値観で会社を作っていかなくちゃいけない時代に、その価値観に入ってくれる人をどう選んでいくかがものすごく重要です。そういう考えで、これまで僕が採用の仕組みをいろいろ作ってきたというのはあります。採用以外では、とにかく自分の価値観について考える機会を増やすことだと思っています。

:すごく共感します。

山崎:ありがとうございます。自分もそうだったんですけど、例えば大学を卒業して、社会人になったら22歳じゃないですか。22歳で自分の価値観は固まっていないですよって話だと思っていて。僕は今40代ですけど、ここまでにいろんな揺らぎや苦しみがあったし、自分の価値みたいなものに気づかされた瞬間もたくさんあった。

ただ、企業がミッションに対する生産性をとにかく求めて、価値観を考える時間を与えないということになりがちだと思っていて。僕らの会社はそういう意味では、価値観の揺らぎを許容するセーフティネット、機会みたいなものを作っているつもりではあるんですね。

具体的に言うと「ファクトリービジット」と言って、今ちょっとコロナ禍でストップしていますけど、スタッフが自分で選んで、1年に1回途上国の生産現場に行って、一緒にものづくりをやるんですね。その時にみんながホームステイとかもするんですよ。そうするといろんなことを考えて帰ってくるんです。

社員が自分のストーリーを語る、人事が主導しない採用説明会

山崎:あと、変わったところで言うと、うちの採用説明会って人事がやっていなくて、みんながやるんですよ。各店舗とかがやるんです。それもリハがほとんどなくて。

もちろん採用の情報とかは提供しますけど、働いている人たちのパネルディスカッションでも、何を喋るか、どんな質問が飛ぶかとか、事前に打ち合わせをしないんですよ。それで、自分が何のために働くかを自由に話していいよ、と。「来年辞めます」とか言ってもいいよ、というのがうちのルールなんで。

そうすると、この会社でなんで働いているんだっていうことを自分で考えるわけですね。それを人前で言わなきゃいけないから、責任も発生する。こういう機会を会社として、いくつ提供できるかが僕はすごく重要だと思っていて。

確かに危ういし、面倒臭いし、それによって人が辞めちゃうという不安は経営者の僕だってあります。でも結局辞めちゃう人は辞めちゃいますよね、という話だと思っているので、そういう機会をたくさん作れたらいいなと思ってやっています。

:共同体の文化ってストーリーだと思うんですよね。一人ひとりのストーリーの集合体が共同体の文化だと思うので。今の採用説明会のお話の中の、社員の方一人ひとりが自分のストーリーを物語るというのは、まさにすごく重要なことで。

うちの会社の例で言うと、答えのない問いに向き合うことで、自分の価値観を知るということをやっていまして。ものすごくアブストラクト(抽象的)な質問を投げて、それに対してみんなで毎月ワークショップをやって向き合っていくんですね。どうやって自分が興味を持ってそのテーマに当たってくるのか。

それをやり続けることで、自分ってこういうことに興味があるんだな、こういうことを社会でやっていきたいんだなって。私たちはものを売っている会社じゃないので、そういうアブストラクトな問いにひたすら向き合っていくことをやっています。

山崎:でもそれってめちゃくちゃ面倒臭くないですか。

:ぜんぜん効率的な経営のあり方じゃないんです。ただ何のために経営をやっているんだろうと思った時に、やっぱり毎日一緒に過ごしていく人たちじゃないですか。その毎日をどういう日々にしていきたいかを考えると、動機に溢れて、生きている喜びとか、何かを価値として生み出しているところに自分の存在意義がある。

私が社員から言われてすごくうれしいのが、会社の中で体験したことを子育てで活かしていますと言っていただけることです。一人ひとりが未来を作っていく存在なので、会社ってお金を作るところではないんじゃないかなと。もちろん経済活動は必要ですけれどね。

報酬ではない、中小企業への採用応募のモチベーションになるもの

山崎:すごくよく分かりますね。うちの会社でも、このコロナ禍で一番最初にやった研修が「自由とは何か」だったんですよ。まさに抽象的なことを問いかけて、議論したんですね。

なんでかと言うと、第二次世界大戦が終わって、こんなに自由を失ったこと、世界の人が全員一緒に自由を失ったことって初めてだよね。じゃあ自由ってそもそも何だっけということを、議論させて目線を高くしたんです。

コロナが起こって漠然と不安だと思うことよりも、今お話があったように教養とか抽象度に対する自分なりのしっかりとした答えを持つのって、やっぱり芯ができるというか、冷静になれるツールだと僕は思っているんですよ。

マネージャー陣との勉強会みたいなものは僕らもやっています。自由な会社をどうやったら作れるかとか、自由についての定義をいろいろ考えたりとか。

:今おっしゃったように、自由という言葉の定義から考えていくということが哲学的だし、そういう力があるとどんな環境変化があっても、自ら価値を作っていけると思います。社会の動きがすごく速いからこそ、ルートをちゃんと持っていくのが重要ですよね。

山崎:すごく大事なことなんですけれど、一方で聞いていただいている方もめんどくさいなと感じるところもあると思うんですよ。ただ、とても大切なのは、やはりある程度価値観で会社を作っていかなきゃいけない時代になると思っていて。

うちの会社は離職率がすごく低い会社なんですけれど、それでもたまに「辞めます」みたいな。大体起業するか、すごいグローバル企業から倍くらいのオファーをもらって転職するんですよね。

金銭面のモチベーションで言ったら、やはり中小企業は敵わないと思っています。だからこれだけ人材不足とか、人材の取り合いが起こってくると、やはり条件面で勝負していくのはサスティナブルじゃない。

そういう中で、どういう価値基準の中で会社を作って、こういう人たちと一緒に仕事したいと思ってもらうかどうか。もしかするとその先にいるお客さまも含めて、どういう人たちのために仕事をしたいかがすごく問われている時代だと思います。そういう会社を作らないと、ビジネス的にも難しくなっていくと僕は思っているんですけれどね。

お客さまは、共に会社や商品を作っていく人たち

:今おっしゃった、お客さまを含めて、みんなでどう価値観を作ってきたかというところで、御社のサンクスイベントの話を聞きたいなと思うんですけれども。去年のコロナ禍の中でやられていたり、すごく興味深いなと思っていて。

山崎:ありがとうございます。サンクスイベントは15年の歴史があります。なぜサンクスイベントかと言うと、1年目のマザーハウスがまだ1店舗も店がなかった当時は、オンラインとか卸だけだったので、お客さまに会えなかったんですよ。

お客さまと会って感謝の気持ちを伝えたいと思って、サンクスイベントという名前をつけて、買ってくださったお客さまに来てくださいとお願いをし。いわゆる今でいうオフ会みたいなものに、40人くらい集まってくれたというのが最初のサンクスイベントだったんですね。

ただおもしろいことに、資本金250万円で創業し、会社にお金がなかったので、実は有料だったんです。参加費を5,000円ぐらい出してもらって。(商品を)買ってくれているのに、5,000円払って来るみたいな。それでサンクスとはよく言うよという話なんですけれども。

でも、その時に5,000円を払って来てくれたお客さまたちがすごく応援してくれて。「こういうことのために途上国の発展のためにがんばっているんだったら応援するわ」とか、「こういうものがあったらもっと良いのに」とか言ってくださって。その時、僕が最後に挨拶したんですけど、今でも覚えてるのが、会社がどんなに大きくなってもこういうイベントをやり続けますと約束をしたんですね。

僕はもともと、お客さまってある意味で敵対するわけじゃないけれど、お客さまの期待値を超えていくことが会社の役割、商品の役割だと思っていたんです。でも、そうじゃなくてお客さまと共に会社や商品を作っていくものなんだなという、すごい学びがあって。

それからずっと15年やり続けていて、今は年間で延べ1万人近くが来るイベントになっています。ただご存知のとおりコロナでまったくリアルイベントができなくなっていて、オンラインに切り替えたら、やっぱり1,000人とか来てくださるイベントになりました。オンラインはオンラインでつながるおもしろさがあって、リアルだとみんなが手を挙げたりコメントしたりはできないじゃないですか。

オンラインだとすごい数のコメントが流れるので、それはそれでめっちゃ楽しいんですけれど。どんな方法でもつながり続けていくことの大切さとか、苦しい時こそ、それをちゃんと見せて共に歩んでくれることは、このサンクスイベントで教えてもらったと思いますね。

高価なバッグを買う人の気持ちは、成長を期待する企業の株購入時の心理に似ている

:去年の9月にやられた(サンクスイベントを)Twitterで見ていたんですけど、みなさんがすごく発話されて、完全にファンだなと思いながら見ていました。コロナでみんなが旅行に行けない中でバーチャルツアーで、まるで旅行に行ったかのように旅のしおりか何かを配られていましたよね?

山崎:そうですね。バングラデシュやネパール、インドやインドネシアなどに行く、オンラインツアーみたいなものをやって、僕も船長さんの格好をして出るという。もう1個数万円のバッグを売っている会社のブランディングとして正しいのかみたいなね(笑)。

:でもTwitterですごく印象的だったのが、みなさんの発話の内容が、コロナ禍で心が塞ぎ込んでいたけれど、この体験を通じてすごく希望をもらったとか、その人たちの生きる意義になるような体験設計をされているなと思って。本当に意義あることをされているなと思いました。

1からのブランド経営』という本で御社が紹介されていて、その中で事業の内容や活動がサンクスイベントの中で、顧客の方々にかなり透明性を持って伝えられているという話が書かれていて。どこまで内容を伝えているのかすごく興味深いと思ったんですけれども。

山崎:1つおもしろいのが、うちには「お客さま総会」というのがあるんですよ。株式会社なので当然株主総会はあって、4時間とか議論するものがあるんですけれども、非上場だし、外からのキャピタルをそんなに入れていないし、VCとかも入っていないので、創業者をはじめとした個人が株式を持っています。

結局僕らのバッグって1個数万円して、下手したら1株より高いわけですよ。普通に僕らが上場して、株式分割とかいろいろやっていけば、1株例えば1万円で買えます、2万円で買えますとかとなって。かつ株を買う時って将来成長を見込んで買うわけですけれども、数万円の僕らのバッグを買うのだって、当たり前に10年20年使い続けられるって想定していなかったら、絶対買わないじゃないですか。

僕は(数万円のバッグを買うことは)よっぽど株とかに近いと思っているんですよね。このブランドはいいかたちで大きくなってくれるだろうと意識して、みなさん買ってくださっている。ということはやはり株主と同じだと思っていて。

だから、お客さまにきちっとした経営方針とかを説明する責務があると思っているんですね。それでサンクスイベントとは別で、お客さま総会というのが毎年3月に開かれています。東京、大阪、福岡とか全部合わせると千何百人が来るんですけれども。

その時にどういう話をしているかと言うと、基本的には経営陣が所信表明をする場ですね。対談もしますけれど、こういうことを考えていますとか、こういうふうに会社を大きくしていきますとか、こういうのに注力していきますみたいなことを言います。業績発表まではしないんですけれども、そういうことをちゃんと説明しますね。

:すごいですね。あまり聞いたことがなく、すごく新しいかたちですし。みなさんが企業を一緒に作っている感覚になっているから、あれだけファンになっているんだなと思って。

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