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田中聡氏 インタビュー(全2記事)

今の管理職が疲れているのは、昔はなかった「ジレンマ」があるから 若い人が管理職に魅力を感じない本質的な理由

ここ数年各種メディアに取り上げられる「リーダーや管理職をやりたがらない若者」問題。なりたくないと思う理由や、そういった若手社員に対する指導法などは語られる一方、当の本人達に対する「どうしたらいいのか」という具体的なメッセージはあまり多くありません。「マネジメント経験がないと出世や転職で不利になる」という不安もあるなか、若い世代の私たちには「管理職になりたくないなら、ならなくてもいい」という選択肢はないのでしょうか。そこで今回は、『チームワーキング ケースとデータで学ぶ「最強チーム」のつくり方』著者の立教大学・田中聡氏に、「令和のチームの動かし方」というテーマでインタビューを行いました。本記事では、若い世代が管理職に対して思う本音について、こんなにも管理職が大変になってしまった理由についてうかがいました。

インターン生が感じている「管理職って元気なさそう」

――ここ数年、「若い人がリーダー・管理職をやりたがらない」と言われています。田中先生はふだんから大学生と接する機会が多いと思うんですけれども、その中でこの課題に対して感じたことがあればぜひ教えていただきたいです。いかがですか? 

田中聡氏(以下、田中):ありがとうございます。まさに今おっしゃられたように、管理職になりたがらない学生が増えてきている実感を私も肌で感じています。

――どういったところで感じますか。

田中:いくつかあるんですけれども、まず彼らが就職活動をしますよね。今就活の前倒し化が進んでいて、大学1年生でもインターンをやってる学生がけっこういます。たとえば、私たち立教大学経営学部の学生で言うと、30パーセント近くの学生が大学1年時から就職活動を始めているんですよ。

――3割近くの方が、大学入学早々から就活されているんですね。

田中:そうですね。だから彼らは、大学入学して間もない時期から、就活を通じていろんな社会人と接点を持っているんです。

そこでみんなが口を揃えて言うのは、「管理職の人たちってなんか元気なさそうですよね」という(笑)。面接を通じた印象ではなく、実際にインターン生として社会人と一緒に働いた上での実感ですから、なんともリアルですよね(笑)

ーー(笑)。

今の学生にとって、管理職は「魅力を感じない大人」になっている

田中:就活サイトや自社の新卒採用ページでのアピールポイントも変わってきたという話をよく聞きます。今まではどこを一番のアピールポイントにするかというと、その会社の顔である経営層とか、人事責任者のインタビューページだったんです。「会社がどこに進むのか」「どんな人を求めてるのか」といった「会社としてのメッセージ」を強調していました。

ただ、今はそういうコンテンツではもう学生の関心を引けないようです。むしろ、自分たちよりも3〜5年ぐらい上の先輩の生の声。「自分の未来を投影できる人」のインタビューじゃないと、もう関心を持たないんですね。

だから、○○事業部の△△役員とか××統括部長とかが、ドヤ顔で美辞麗句を並べ立てるような話を語っていても、学生たちは「ふーん」って感じで聞き流しています(笑)。そんなことよりももっと身近で、もっと自分に近い人の生の声を聞きたいと言います。

要するに、そんな学生たちにとって、管理職は「魅力を感じない大人」なんです。言葉を選ばずに言うと、ちょっと空虚に感じたり、リアリティを感じられない存在。そう感じているケースが多いんじゃないかなと、学生たちと話していて思うんですよね。

――まだまだ遠い存在みたいな感覚なんですかね。

田中:遠い存在というのもあるでしょうし、なんか人間的に魅力を感じにくいというところはあるんじゃないですかね。

面接で話していても、ずっと会社のことを延々と話をしていると。つまりいつまでたっても話の主語が「会社」のままなんですよ。学生が聞きたいのは「はたらく個人」としての生々しいリアルな話で、「ぶっちゃけその人はどういう思いでその仕事をしているのか」とかなんです。

その「個人としての思い」がすっぽり抜けて、いわゆる「会社の顔」として、あるいは「経営の代弁者」として発言をするところに、あまり人間的な魅力を感じにくいのかなと思います。

若い世代が管理職になりたがらない2つの理由

田中:あと、今の学生たちの親世代ってちょうど管理職として働く40歳半ばから50歳ぐらいなんですよね。そうした親の働き方を直近で見ている中から生まれる率直な感想なのかもしれませんね。

ただ、統計的に見ても、学生たちの大企業志向は以前と比べて大きく変わっていません。大企業志向は特に変わってないんですけれども、大きな組織の歯車の1つになり、自分らしさを表現できない管理職という仕事には魅力を感じないというかもしれませんね。

――親からマイナスイメージを感じてしまうというのは、なかなか悲しいところがありますね……。大学生のみなさんが管理職になりたくない理由って、他にもあるんでしょうか。

田中:なりたくない理由はいくつかあると思いますが、代表的な理由としては「自分はそこまでできないかな」って思ってしまっている側面と、「うまみを感じない」ことの2つだと思います。

管理職の方って、当然ながら仕事にものすごく多くの時間をかけているわけですよね。求められる成果もどんどん高まってきている中で、「あんなにバリバリ仕事して得られるものはこれだけなの?」という。

――リターンがそこまでないんですね。

田中:そうですね。少なくとも学生たちにはそう映っているということだと思います。人生の多くの時間を捧げて働いているのに、全然幸せそうに見えないということですね。

マネジャーの役割は「業績のやりくり」と「人のやりくり」

ーー「管理職の大変さ」って、具体的にどういうところがあるとお考えですか? いろいろあると思うんですが。

田中:「マネジメント」という仕事の語源をひもといて考えるとわかりやすいです。「マネジャー」というと、よく「管理する人」と訳されますよね。でも実は、マネージの語源は「やりくりする」なんですよね。だからマネジャーは「やりくりする人」なんですよ。チームにまつわるいろんな困りごとをやりくりして、なんとか解決したり改善したり前に進めたりする人です。

マネジャーの役割は大きく2つあります。1つはとてもシンプルで、業績を上げることです。チームの目指すべき方向性や目標を設定して、それぞれのタスクがどれくらい進んでるのかをKPIで管理しながら、必要な打ち手を講じることです。つまり「業績に関するやりくり」です。

もう1つは、チームは人で動いてるので、「ひとに関するやりくり」ですよね。やる気がないメンバーやキャリアで悩んでるメンバーがいたら、その人に駆け寄って「最近どうなの?」って声をかける。メンバーのモチベーションを引き上げたり、強みを引き出したりすることもマネジャーにとって大事な役割です。

要するに、この「業績」と「ひと」の2つの課題を同時にやりくりしながらチームを率いるのがマネジャーです。

管理職の大変さの本質は「背反するジレンマの難易度」

田中:そして、管理職がなぜ今大変なのかというと、この「ひと」と「業績」という2つの課題のレベルが上がったからです。

――レベルが上がったというと?

田中:例えば「ひと」に関するやりくりでいうと、今までだったらチームの兄貴分的な存在の人が、「自分についてこい」というノリでやれていたんだと思うんです。でももうそんな時代ははるか昔に終わっています(笑)。「男性・大卒・正社員」で「24時間365日働けますか」が通用する世界の住人だけでなく、多様なメンバーをリードし、それぞれの強みを活かしたマネジメントができなきゃいけないんです。

「きっと自分と同じような悩みを抱えているんだろう」と思って接しても、会話が通じないんです。自分とは異なる考え方や価値観を持った他者に対して、どういう働きかけをしてモチベーションや強みを引き出していったらいいのかって、かなり難易度が高いことですよね。そんなこと学校で学んできてないわけですから、なおさらです。

業績に関するやりくりもそうです。今はテレワークが中心で、顔を合わせない中でお互いにコミュニケーションをとって進捗状況を把握し、成果を出さなきゃきゃいけないわけですよね。

さらに難しいのが、会社は「新しい価値を生み出せ」と言うわけです。しかも「現業は現業としてきちんと着実に成果を残しながら、新しいビジネスを作れ」と求められるんですよ。

しかも、働き方改革で時間はかけられません。その上、「成果はできるだけ早くお願いね」って言われる。そんな環境なわけですね、今マネジャーが置かれている状況は。

マネジャーとかリーダーは、人手が不足し、業務量が上がったから大変だと思われるんですけど、その本質は「背反するジレンマの難易度」が上がっていることにあります。

常に要求される「どっちも」に疲弊する人が増えている

田中:例えば、「今のサービスで成果を出しながら、新しいサービスも考えてね」とか、「業務量は増えるけど、労働時間は短めにね」とか、「会社側の意向とメンバーの意向をうまく調整して何とか離職をセーブしてね」とか。こういった背反する2つの要求に同時に応えていかなければならないのです。どちらか一方にコミットできれば話は早いのですが、そういうわけにはいきません。常に要求されるのは「どっちも」なんですよね。

だからこの背反するジレンマをやりくりしなきゃいけないというところに、本質的な難しさがあるんだと思います。

――管理職が元気がないって言われるのは、そのやりくりに対してちょっと疲労感を感じてしまっているところがあるんですよね。

田中:そうだと思いますね。やっぱりみなさん疲弊してますよね。

――身体の疲弊と同じく、日々のやりくりで脳と心も疲弊しているんですね。

田中:そうなんです。恐ろしいのは、ある日突然バーンアウトしちゃうということですね。燃え尽きちゃったり、精神的に健康な状態を保てなくなることが管理職でも増えてきている。やっぱりそういうのを間近で見ているメンバーたちは、「自分はああはなりたくない」と思いますよね。そこに自分の求める幸せはない、と直感的に感じちゃうのもわかる気はします。

「強いリーダー」が通用しなくなった「ビジネス環境」の変化

――先ほどの話と重複してしまうんですけれども、昔はいわゆる体育会系の、強いリーダーシップを発揮して先導してくれるような方がリーダーに向いていると言われていました。今はどちらかというと、内村光良さんのような優しい人が理想の上司像に挙げられますよね。なぜ「強いリーダー」が通用しなくなってしまったのか、教えていただきたいです。

田中:ビジネス環境の変化が大きな要因だと思います。さっき言ったようにマネージャーって、端的に言うと「成果を出さなきゃいけない人」です。その成果は、ビジネス環境に合わせて求められるものを提供していくことで得られるものですよね。

強いリーダーシップが機能していた時代というと、高度経済成長期がわかりやすいと思います。ある程度「この路線でビジネスをすれば勝てる」とわかっていた。圧倒的な技術力があって、大量に安くタイムリーに提供できる製造業のビジネスモデルがとてもうまく機能していた時代なので、「しのごの言わずにとにかくやれ」でよかったと思うんですよ。

「金太郎飴」ってよく言われますけど、同質的な人というか、会社や上司の方針に違和感を持たずに、とにかく体力勝負、根性一筋でやれる人が多いチームが勝てる。そういう人たちを束ねられるリーダーが、その時代の「いいリーダー」だったと思うんですよ。それは悪いとかいいとかって話じゃなくて、たまたまそういう時代のビジネス環境の中では通用していたんです。

不確実な時代においては、チームで正解を探したほうが可能性がある

田中:では、今はどうかというと、ビジネスの答えがわからない。もっと言うと、そもそも「課題」がどこにあるのかすら、よくわからないような時代の中でビジネスをしなきゃいけないんですよね。その中でリーダー1人が道しるべを定めることが難しくなってきたんだと思うんです。そこで、「これまで通りの強いリーダーシップでは成果を上げることが難しい」という現実に、多くの人が気づき始めたんじゃないかなと思います。

もちろんスティーブ・ジョブズのように、よっぽどのカリスマ性や先見性を持った卓越したリーダーがいれば別かもしれませんが、多くの場合、どれだけ優秀であっても1人の認知には限界があります。

解くべき課題がどこにあるのかを把握しようと思ったら、できるだけ多様な見方を持ったメンバーを集めて、お互いの意見を交わしながら少しずつ方向性をチューニングしていくほうが、チームとしては正解にたどり着ける可能性が高まるんですよね。

こっちでやってみよう。だめだった。ちょっと軌道修正して、こっちの進路に進んでみよう。そうやって柔軟に変化しながら、挑戦と学習を繰り返していけるチームのほうが強いチームなんですよ。少なくとも今の不確実な時代においては。

だから、メンバーが「私はこうだと思います」「私はその意見に反対です」って対立を恐れずに、自分の思ったことを率直に伝え合えるようなチーム環境を作ってあげるほうが、今のリーダーとしては大事なことなんです。これは最近よく「心理的安全性」というキーワードで掲げられたりもしますよね。

そういうチームの風土だったり関係性を作れるのは、孤高の1人の強いリーダーシップを持った人よりも、「あぁ、この人がリーダーだったら何を言っても受け止めてくれそう」と思えるような、心を許せるリーダーのほうが発信しやすいですよね。

今職場で成果を出すのは「できるリーダー」より「心を許せるリーダー」

田中:これはリーダーシップの研究でもよく言われていることですが、メンバーから見た「上司に対する信頼」には、ざっくり言うと2つあります。1つは認知的な信頼、もう1つは情緒的(感情的)な信頼と言われるものです。

わかりやすくというと、前者は「できるリーダー」です。認知的に能力が高いリーダー。後者の情緒的リーダーは、「心を許せるリーダー」。なんか人間的に好きっていう人ですね。「できるリーダーだから尊敬できる」と「なんか人間的に好き」って、ちょっと違うじゃないですか。もちろん両方持ってる人もいますけれどね。

先ほどの話に戻すと、強いリーダーシップは前者の「できるリーダー」だと思うんですよ。一方、優しさのあるリーダーシップって、後者の「心を許せるリーダー」に近いですよね。そして、今多くの職場で成果を出しているのは、後者の「心を許せるリーダー」です。

そのほうがメンバーは気兼ねなく自由に発信できるし、ネガティブなことも含めてお互いにフィードバックしあえる。そして、そういう心理的安全なチーム風土の中からいろんなチャレンジが生まれて、結果的にチームとして前に進んだり、正解を見つけにいける可能性が高まるということです。

――会社ではよく、業績の良かった人がそのままマネージャー職に就く傾向がありますよね。でも今のお話だと、「能力が高くて仕事ができる人」がリーダーになったとしても、必ずしもうまくいくとは限らないということですね。

田中:おっしゃるとおりです。「名プレイヤー名監督にあらず」ってスポーツの世界で言われますけど、それはビジネスの世界にも言えることだと思います。

優秀なプレイヤーが陥る、「過去の栄光」による過信

田中:今のビジネス環境では、マネジャー職のみなさんがプレイヤー時代に成果を上げていたノウハウが業界によっては全く通用しないほど環境の変化が激しいわけですよね。それなのに、上司から「俺のやり方でいうとぜんぜん違うんだけどな」ってフィードバックされても、メンバーは「ぽかーん」だと思うんですよ。もうゲームのルールがまるで変わっているわけですから。

――なるほど。時代が移り変わっているのに、自分の成功体験だけで語ってしまうんですね。

田中:そうですね。優秀なプレイヤーがマネジャーになる時に陥りがちなポイントっていくつかあると思うんですけど、そのうちの1つは「自分の成功体験にしがみつき、新たな学び直しできないこと」です。自分の成功体験は1回脇に置いて今の状況を直視できるかって、すごく難しいですよね。どうしてもみんな「過去の栄光」に引っ張られます。

あとはやっぱり、「自分がやったほうが早い」と思って巻き取っちゃいますね。心もとないメンバーに預けられないというのもあるんじゃないかな。

特に優秀な場合だと、そういう過去の栄光や成功体験に引っ張られて、「自分1人でできるんじゃないか」って過信がある。そういうリーダーのもとにいるメンバーは苦しくなるでしょうね。

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