2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
リーダーが語る DX推進とハードルの乗り越え方(全1記事)
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内野宏信氏(以下、内野):みなさん、お待たせいたしました。ここからは「リーダーが語る DX推進のハードルと乗り越え方」と題しまして、パネルディスカッションを行います。モデレーターを務めますのは私、アイティメディア株式会社編集局、IT編集統括部の内野宏信と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
それでは続いて、パネラーのみなさんを紹介したいと思います。まず最初、株式会社KADOKAWA Connected代表取締役社長、各務茂雄さん。どうぞよろしくお願いいたします。
各務茂雄氏(以下、各務):みなさん初めまして、KADOKAWA Connectedの各務です。本日はよろしくお願いいたします。
内野:よろしくお願いします。続きまして、日本電気株式会社業務改革本部長、井手伸一郎さん。どうぞよろしくお願いいたします。
井手伸一郎氏(以下、井手):初めまして、NECの井手と申します。本日はよろしくお願いいたします。
内野:よろしくお願いします。そしてフジテック株式会社、常務執行役員・デジタルイノベーション本部長、友岡賢二さん。どうぞよろしくお願いします。
友岡賢二氏(以下、友岡):武闘派CIOの友岡です、本日はよろしくお願いします。
内野:よろしくお願いします(笑)。以上のすばらしいパネラー3名をお迎えしてお届けいたします。それではさっそく、今日の議題に入っていきたいなと思うんですけれども。「DX」ってこれほど大きな注目を集めていながらも、昨今ですと、だんだん“バズワード化”しつつあるのかなという気もするわけですよね。
これまでDXっていうと、例えば「新しいITを入れてまったく新しいことをすること」ですとか。あるいはちょっと気の利いたところでいくと「ビジネスプロセスを変革していくんだ」という話もありますけれども、どうもそこで考えが止まってしまっているところがありますよね。このあたり、DXに対する企業の現状ですとか誤解、みなさんどう見てらっしゃるか。まず各務さんから一言お願いできますか。
各務:承知しました。私のキャリアはエンジニアなので、技術大好きなんですが。どうしてもDXというと「ITツールを導入する」というところが先にきちゃってる感じがするんですが、そこはやっぱり誤解が多いなと思ってます。あとでいろいろディスカッションすると思うんですが、私が感じることはやっぱり「戦う土俵」ですかね。自社がどこでどう戦う土俵を決めるのか? それを白黒はっきりつけながら決めていく。そういうところまで踏み込んでいくべきことなのかな、と感じております。
内野:漫然と捉えていてはダメだ、目的を見据えないとってことですよね。井手さん、いかがですか。
井手:今、各務さんにおっしゃっていただいたとおり、単にツールを入れるだけだとそれは単なる「D」だということで「X」の部分ということですよね。このトランスフォーメーションのところをどう設定して、どこまでどういうふうに連れていくか? と。こういったところをしっかり考えていくのが議論のポイントなのかなと思ってます。これは後半でたぶん議論するのかな、という感じですね。
内野:トランスフォームを中心に考える、デジタルはそのあとだよ、という話かなと思うんですけれど。友岡さん、いかがでしょうか。
友岡:ここはあえて、この2人の流れに乗らずに答えますよ(笑)。というのが、ツールもね、ぜんぜんワークフォースに与えられてなかったのよ。コロナでわかったのが、ほとんどみんな丸腰で戦ってたってことがわかったわけで(笑)。
内野:確かに。
友岡:だから本末転倒、ツールじゃないんだよってのもあるんだけども、コロナになってわかったのがやっぱり「どれだけ戦う道具が不足してたか」。そこの部分については、このコロナが後押ししてくれて。少なくとも経営者も「DX、DX」と言い出したことで、ある程度は原資が必要なんだけども、そういった追い風が吹いてるので。これをうまく使いながら仕上げていく。その仕上げ方をどうするか? というのが今日のディスカッションかなと思ってます。
内野:なるほど、ありがとうございます。そうですね、「突貫テレワーク」「強制テレワーク」なんて、この1年は呼ばれましたけれども。それを通じてデジタルの重要性というのを、改めて体感できたんじゃないかなと思うんですよね。なので「デジタルの重要性はわかった。じゃあその力をうまく使ってトランスフォームするにはどうするのか?」。今日はこのあたりのポイントを、次の議題から掘り下げていきたいと思うんですけれども。
「DXをどう進めたらいいのか?」というところで、まずデジタルの重要性を認識しておくというのは大前提として。先ほど各務さんがおっしゃられたように、目的をいかに明確化するか? ですとか、そこに向けて全社をどうリードしていくか? というあたりがカギになってくるかなと思うんですね。友岡さん。この進め方について、どのあたりがポイントになるとお考えですか。
友岡:進め方っていう時に、やっぱり目的。「なぜ我々はこれに取り組まなければならないのか?」っていう時の「Why」。「なぜ」という大命題をどのように設定するか、これがものすごく重要なんですよね。その最初の質問は「なぜ我々はここにいるのか」っていうね(笑)。「我々はどこにいて、何をしているのか?」「何のためにこれだけの従業員が集まっているのか?」っていう、そこの根本的なところをもう1回考えないと、DXで我々がどこに進んでいったらいいんだろう? ってことを正しく導けないんですよね。
その「なぜ」っていうのは、私の今所属してる企業と、私の前の所属してた企業ではぜんぜん違ったりするわけなんですね。存在意義が違うので、取り組みもまったく違うし。だから今、例えば私がこの会社でやってることを言ったとしても、それをそのままコピーすれば正解か? っていうと、ぜんぜん違うものなので。そこをみなさん、やっぱりよくよく良いとこ取りしてほしいと思うんですよね。
だから「何のために我々はDXをやるんだ?」という正をは、私は持ち得ないんですよ。みなさんの正解って、みなさんで見つけるしかないので。この最初の「Why」っていうところをすごく深く考える必要があると思いますね。
内野:確かに。「隣がやってるからうちも」っていうノリがあったりしますよね。そうじゃなくて、それ以前に「うちの会社の提供価値って何だっけ?」「うちの会社の強みって何だっけ?」と。で「それを際立たせるにはどうすればいいんだっけ?」という順番で考えていかなければいけないということだと思うんですけど。じゃあ井手さん、いかがですか。このあたり。
井手:「Why」の話、非常に抽象度が高いので、もう少し具体的にお話をしますと……まずコンセプトっていうんですかね。「まずDXでどういうバリューを出したいか?」っていうコンセプトをちゃんと明確にするということと「組織をどういうふうにそこに連れていくのか?」。これは組織の文化を変えるだけではなく、ITもあれば、人も変わらないといけない。いろいろ変えなきゃいけないわけなんですけども。それはそれぞれで考えていくっていうことかと思ってます。
で、この「変える」というところはたぶん後半に議論していくかと思いますので、その前半のところの「何の価値を提供するか?」。これはやっぱり丁寧に課題をひもといていくということが大事で。それは内部でいくと業務オペレーションというのがわかりやすいですし、事業を見ていくとマーケットを見ながら、お客さんに対してどれだけ会社として価値を出せているのか? ですとか。
我々の提供価値そのものが競合に対してどうなんだ? みたいなところですとか。未来に向けて、環境変化に対して我々はどういうふうなポジションを得たいのか? たぶんそのへんのところが、友岡さんにおっしゃっていただいた「Why」のところに入ると思うんですけども、やっぱりこれを丁寧に解いていくと。
で、ここにあまりデジタルって登場しないんですよ、この瞬間は。デジタルはあくまでも手段なので。こういったところを、どういう姿になりたいか? というのを丁寧に整理をし、そこの手段としての、1つのポテンシャルとしてITだったりデジタルがあるのかなとは思っています。
内野:なるほど。DXの「X」のほうを先に考えるってことですよね。
井手:「D」でどんな価値を出せるか? っていうところにあり、「X」をあえて変革・トランスフォーメーションと捉えるんだったら、それは後半の2つ目の話になるかな、というところですかね。
内野:なるほど。でも今おっしゃられたことって、IT戦略というよりは経営戦略につながるようなところがありますよね。
井手:はい、そこからさかのぼらないとダメだっていう感じですね。
内野:なるほど。各務さん、トップが解像度の低い指示出してる場合じゃないですよね。どう思います?
各務:やっぱり大事なことは、物事をクリアにしていくっていうところを、どのラインにするか? を適切に。「全社一律」とかにやっちゃダメでして。トップがクリアに言うと、既存のやり方とかを破壊してしまうようなケースってあったりするんですよね。そこをみんな悩まれてると思うんですよ。
そこのラインを適切にできる。例えば私たち出版みたいなところにいると、やっぱり編集とか著者ってすごく大事なんですけど。そこの人のところにデジタル思考をどんどん入れていって、白黒はっきりさせちゃうと、クリエイティビティが失われちゃうので。そこは残すべきところなんですよね。
一方でやっぱりバックオフィスはいわゆる合理化、デジタル思考が大事になってくるので、そこのバランスをどう取るか? という。そしてトップがメッセージをクリアに発信すると動き出すな、というのを私は日々感じております。
内野:今のお話って、自社の強み。「自社ってどういう提供価値を届ければいいんだっけ?」という話をもとに、差別化領域というか。属人化の武器になるような領域と、あとは標準化すべき領域というのを切り分けて、そこをうまくデジタルで強化していくんだって話だと思うんですけど。ここ、けっこう難しい問題ですよね。個別最適と全体最適って話でもあると思うんですが。友岡さん、いかがでしょうか。
友岡:現場の人はものすごく解像度の高い問題をそのまま、抽象化することなく「これが問題だ」と言うわけで、そういった現場が無数にあるわけなんですよ。それは例えば「営業職」って括れないんですよね。東京のど真ん中で営業してる人と、北海道で車に乗って2時間営業されてる方のリアリティって違うんですよね。だから、まずは十把一絡げにしないっていうこと。
だからものすごく個別具体的な課題を、個別具体的に眺めながら、じゃあそれに「個別具体的なソリューションを与えてもらった」って錯覚させながら、後ろ側では共通の仕組みで提供する。このへんが僕たちの、仕事の価値みたいなものをどのように出すか? ということだと思うんですよね。
内野:大きな経営判断、経営戦略があって、それをデジタルで強化していく時には、現場のエンドユーザーの意見ですとか要望って不可欠だと思うんですけど。それを全部聞き入れようとするとコスト的に無理がかかってしまうので、個別最適な要望になるべく最大公約数で応えながらも、バックエンドは共通化していかなければIT部門としては厳しいという。
友岡:そうですね。だから僕たちは「メタ認知能力」っていうんですかね、そういった能力がすごく重要になってくるんですよね。ただ、お話しする時はもう個別に「あなたのお困りごとをこれで解決しましょう!」って言う。「これは標準システムですから入れてください」じゃないわけですよね。
内野:そのへん、従来のIT部門ってどうしても押しつけがちになってましたよね。
友岡:(笑)。そこのコミュニケーションのあり方と、サービスの提供の仕方っていうのが、今までよりもきめ細かくいろんなことができるようになってきたっていうことでもあるんですよね。かつ、それを自分たちで作らなくても、そもそもSaaSでポンと出せばいろんな活用ができるような。そういった提供の仕方ができて、僕たちはそういうところから解放されて、もう一段上の仕事ができるようになるっていうことでもあるので。今、IT部門にいる方は、絶対楽しいと思うんですよね。「情シス最高、イェーイ!」とかって言ってなきゃおかしいはずなんですよ(笑)。
(一同笑)
もし「情シス辞めたい」とか「つらい」っていう、昭和の雰囲気を漂わせて情シスにいる方は、やっぱりどこかおかしいんですよね。そこは「どこで間違ったのか?」というのを、やっぱり検証する必要があると思ってます。
内野:厳しい話になるかもしれないですけど、IT部門が昭和のまま止まってしまってる場合というのは、経営というかビジネスサイドとIT部門の関係性に溝があるんじゃないかって思うんですよね。事業部門から言われるがままになっている、受け身の立場にならざるを得ないっていうパターンもあると思うんですけど。ここは井手さん、どう思いますか。
井手:コーポレートと事業側が非常に遠いみたいなものは、よくいろんな会社で起きると思うんですけども。それを解消するためにNECは「Transformation Office」というのを立ち上げまして。コーポレートと事業の交点からもう1軸、第3軸としてコーポレート側、そして事業側に変革を迫るような、そういうトランスフォーメーション専用の部隊を立ち上げたんですね。
ここは何か? というと、今おっしゃっていただいたように、IT側もなにか事業側に入っていけないとか。本当はおっしゃっていただいたように、コーポレートとして共通化すべき点はいっぱいあるんですけども、非常に事業がそれを自分たちの本丸と思っていると。そういうものから奪ってこないといけないみたいな世界観の中に、やっぱりコーポレートがうまく踏み込めてないっていうのが、当社もありましたので。
我々、第3軸が入っていって。全体の世界観だとか、一方でかなり緻密にコーポレート側が、まさに「何は共通化して何は事業に残すか?」の境界線の設計ってものすごく大事なんですけど、こういったものは丁寧にやっていく。そういうような組織体系を昨今、立ち上げたという状況です。
あともう1点だけ、さっきのコミュニケーションのところで。おっしゃるように現場の方にお話を聞くと、わっといろんな課題を言っていただくんですけどね。その課題を我々はちゃんと傾聴はしながら……傾聴はするんですけども、後ろの頭の中で「この人が言っていることの真意は何か?」というのは常に考えてるんですよ(笑)。
表面的に「こうしたい」「困ってる」みたいな話の、どこまでさかのぼればこの問題は解けるのか? と。例えば、この方々に提示されているミッションそのものの課題かもしれませんし、評価制度の問題かもしれませんし、教育の問題かもしれませんし。いろんな多角的な領域の中の課題が組み合わさってこの状態になっているので、それをひもときながら。傾聴はしつつも、でも本質的な解くべきポイントは何か? というのを、常に意識して話をさせていただいてます。
内野:言葉どおりに受け取るのではなくて、そのニーズの背景にあるもの、真意をつかめという。なるほど。各務さん、やっぱりIT部門が一方的に要望を受け付ける立場ではなくて、ビジネス部門、エンドユーザーと一緒に変革を考えていくんだという、ワンチームみたいな取り組みってやっぱり重要なんですかね。
各務:現在、私はKADOKAWAグループのグループ会社の社長を2社やっているんですけど、本体の人たちとワンチーム化する……これを私たち「サービスチーム」と呼んでるんですけども。そのサービスチームというやつを、会社の組織関係なくワンチーム化することはすごく大事だと思ってます。
あとはKADOKAWA Connected内にインターナルの営業チームがありまして、カスタマーサクセスというチームがあるんですが。エンプロイーサクセスというものと、あとはKADOKAWAみたいな出版の場合はクリエイターのサクセスと、あとはコンシューマーのサクセスっていう「サクセスを徹底する」という観点で、カスタマーサクセスがいるんですけれども。それを徹底的に研究して、それを軸に仕事をするようにという人たちが、やっぱり一体化を生むための接点になり、かつエンジンになってる感じがしますね。
内野:なるほど。今「カスタマー」という言葉出たんですけども、どうしてもIT部門にいると「ユーザー」っていう言い方をしてしまうと思うんですが。IT部門にとってエンドユーザーって「お客さま」なんですね。
各務:お客さまですよね。なので「すべての仕事はメニュー化しましょう」と言っていて。ITのサービスもそうですし、総務、あとは人事系の仕事も全部メニュー化をして、Wikipediaにすべてまとめるっていうことを今、ずっとやってきてるんですけど。すべてはサービス。あとはコストを明確にする、さらにサービスレベルと機能についても明確にする、書くのを原則にするということをやってます。
内野:それ、もしIT部門が1つの独立した会社だったとしたら、ある意味で当たり前とも言えるのかもしれないですけれども。それがけっこう難しいし、今はより重要になってるということですよね。
各務:そうですね。たぶん最後のところでも出てくるんでしょうけど、変革っていうのは基本的に面倒くさいんですよ。で、そういうふうに書くのって面倒くさいですよね。ただ一手間かけると質問とかが、今まで50回きてたやつが1回とか2回になるんですよ、文字化すると。結果みんな楽になるっていう、その一手間をかけるところが大切なのかなと思ってます。
内野:お話をうかがってると、IT部門の立ち位置がより明確になってきましたよね。ただ単にデジタルを導入したりする部署ではなくて、エンドユーザーのお客さんのためにサービスを提供する、サービスプロバイダーという役割になるんだと。
で、そのさらに前の話に立ち戻ると、まず「Whyを考えろ」って話がありましたよね。「うちの会社の価値は何だっけ?」「どういうふうに強化していけばいいんだっけ?」。で、それを実践していく上でIT部門がサービスプロバイダーとして、エンドユーザーの声を吸い上げながら、共に変革に向かっていく。こういう流れが友岡さん、重要だっていうことなんですかね。進め方として。
友岡:そうですね。とはいえ会社の中見た時に、すごい多様性があるんですよ。部門もいろいろあるし、年齢的な幅もあるし、ITが好き・嫌いとか。そもそもITの話聞きたくないっていう方から、もうガジェット大好きな方まで、やっぱりものすごい多様性があるんですよね。
そういった人に、等しく下に合わせたレベルで、みんなが乗っかれるプラットフォームみたいなことを考えちゃうと、上の人たちってこれじゃ満足できないので。「いや、これより世の中にはもっといいものがある」とか言って、勝手に入れちゃうんですよね。これが世の中では「シャドー」と言われてて。
内野:「シャドーIT」、はい。
友岡:で、IT部門からすると「シャドーを勝手に入れるんじゃない」。事業部門からすると「いやいや、君たちが提供している標準システムではぜんぜん勝てない。こんな切れ味の悪い刀じゃ勝負にならない」っていう、こういった議論がよく起こるんですよね。
だからそこを逆転させなきゃいけない。「全員が幸福になる」っていうふうに下に合わせちゃうと、全員が不幸になっちゃうので。ある程度、一番尖ったところの人たちに焦点を当てながら、全員がゆっくりとそちらのほうに更新していけるような。そういった考え方で例えばツールとか、その結果もたらされる便益としてのトランスフォーメーションのところを眺めるという。わりとね、時間軸をじっくり眺めたほうがいいなと思いますよ。
内野:なるほどね。どうしてもシャドーITが増えるっていうのは「IT部門がなかなかリクエストに応えてくれないからだ、だから自分たちで役に立つものを先に入れてしまったんだ」っていうのがエンドユーザーの言い分だと思うんですけども、そうじゃないと。
やっぱりエンドユーザーが本当に「必要だな、これはいいな」というふうに、感度の高い人が引っ張ってきたものを社内に普及させると。その上位2割ぐらいのアーリーアダプターに全社のレベルを合わせていく、IT部門もそれを支援していくことが重要なんだということですかね。
友岡:そうなんですよ。極端な話、SaaSなので「うちの会社の20人だけこのツール使う」ってできちゃうんですよね。それですごくパフォーマンスが上がって、お客さんに対してすごくいいサービスができれば、いいんですよそれで。その20人が使えば。そういう感じ。
だから「A or B」って、「or」で常に重ねて比べるんじゃなくて、常に「A and B」って足していく。「どっちがいいの?」じゃなくて、「いいじゃん、どっちも」。「Cも乗っけちゃえ」とかね。そうすると複雑系でカオスになるって言ってるんですけど……僕はそれが好きなんですよ(笑)。
(一同笑)
内野:でもそうじゃないと変革って進まないですもんね。ただ井手さん、一方でアーリーアダプターに合わせていくと、リテラシーとしてついてこられない人も出てくるかなと思うんですけど。このあたりはどう考えるべきでしょうね。
井手:トランスフォーメーションの、さっき「2つ目」って言ったところの話を少し、今の話と絡めたいと思うんですけども。まず今、ツールの話が少しあったんですが。やっぱり先ほど申し上げましたとおり、トランスフォーメーションというのは「この結果として何ができるのか?」「どういう価値が生まれるのか?」「今よりもこれだけ良くなるよね」っていう、この価値だと思うんですよね。
社内の方々がお客さまだったら、その方々にとってもですし。その方々を通じて、本当の我々の最終的なお客さまにどういう価値が出せるかっていう地点で、うれしいことはみんなうれしいんですよね。ただそのうれしいことをちゃんとわかってもらうということと、やっぱり化学反応もそうなんですが、1回山を越えないといけないですよね。この山をどう触媒を使って小さくするかといったところがトランスフォーメーションの秘訣で、これはちょっといろいろノウハウがあるかなとは思ってます。
まずは1つ大きいのは、変化しようとしてるこの大きな価値が、みんななんか「そんなのムリだよ」と(笑)。「うちには向かないよ」とか「外資にはそうかもしれないけど」とか、こういうようなことをおっしゃる方々は、まず変化そのものに慣れてもらわないといけないので。
我々はやっぱりクイックウィンのプロジェクトを回しながら、身近なAs-Isでの……先ほどのデジタルでいいと思うんですね。「ハンコをなくす」でもいいと思うんですけども、こういうやれることから最初は入っていき。それで少しずつ変化し「やれるじゃん、僕らも」とか。こういうものを気づいてもらいながら、変革慣れをしていく、変革することが楽しいと思ってもらうと。
こういうようなことを契機に、でもその人たちって最終的に、本来解かなきゃいけない課題に向き合ってないわけですから、本質的な課題にやっと気づけるわけですよ。このAs-Isの課題を解いていくとね。そうするとやっと「やっぱり登らないといけない山はここだね」っていうふうに、みんなが見えてくるとかですね。
こういったようなクイックウィン活動と、一方で並行してTo-Beに本当に連れていくためのプランってどうするのか? みたいなものをよく我々はうまく使いながら、みなさんにプロジェクトに参加してもらう、変化に慣れてもらうみたいなことをやったりはしますね。
内野:なるほど。今おっしゃられた、新しいことに抵抗を覚えてしまう層。どうしても一歩引いてしまう層というのは、一般的な言葉だと「抵抗勢力」といった言葉で表現されることが多いと思うんですね。だけどDXって抵抗勢力との戦いではなくて、彼らの納得感・共感をいかに引き出しながら、共に変わっていけるかということですよね。そこで今おっしゃられたような働きかけが重要だと。
井手:抵抗勢力ってないんですよ、「ない」と言っていいです。いろんな反対をされる方は確かにいらっしゃるんですけど、よく聞いてみると、けっこうまともなことをおっしゃってるんですよ。「今の業務がこう変わるから心配です」と。じゃあそれはどう変えるかっていったところで議論すればいいですし、そこに向き合っていくとけっこういいアイデアが眠っていて。それをちゃんと拾って、企画を育てていけばいいので。それはどちらかというとアラートとして受け止めて、自分たちの企画を育てていくほうにつなげていったほうがいいかなと思いますね。
内野:デジタルのメリットを理解してもらう、共感してもらうというのは、一種のマーケティング戦略とも言えそうな気がするんですけど。各務さん、けっこうKADOKAWAさんの中でもコミュニケーションにデジタルツールを入れられて、広くエンドユーザーに普及されましたけれども。やっぱりそういった働きかけみたいなのがカギになったんでしょうか。
各務:やはり私はずっとエンジニアで、かつ外資系IT企業に勤めていたので。その時に学んだ、例えばVMwareって会社の立ち上げとか、それで学んだことはけっこう役に立ってます。
具体的に言うと「アーリーアダプター」「アーリーマジョリティ」「レイトマジョリティ」っていう人を定義して、どの人をどのタイミングで巻き込んでいくか? トップを抑えてボトムを抑えて、そのアーリーアダプターの人たちがどんどん先を走ってくれる。で、走ってくれたアーリーアダプターの人たちが次にアーリーアダプターとして活躍できる場所を準備する。そのタイミングでレイトマジョリティの人にバトンを渡すっていう、こう仕組み化するのが大事だと思ってまして。
けっこう堅めに聞こえるんですけど、この王道を粛々とやっていくとですね……コミュニケーションツール、最初は「Slackなんて(ダメ)」みたいな感じだったんですけど、今はもう全社共通ツールで。グループ会社全部に浸透してます。
内野:インフルエンサーを最初にリストアップしちゃうって、友岡さん、これすごいですね(笑)。
友岡:そうですね。だからマーケティングの手法って、社内のITの普及活動にもすごく使えるんですよね。僕、小島英揮さんが書いた本の中で「ファーストピン」っていう言い方がすごく好きで。ボーリングのピンって、最初の1番ピンを勢いよく倒せば、その勢いで10本倒れていくっていう。こういった仕掛けをいかにコミュニティマーケティングとして仕掛けていくかって話なんですよね。
その時に、すごく熱量の高い人って社内にいるわけですよね。「えー! いよいようちにもSlackがきたの!?」みたいな(笑)。「Slackはじめました!」みたいな、飛び上がって喜ぶような人がいるじゃないですか。そういう人たちと同じ熱量をシェアしながら、どのように進めていくか。
だから「この指とまれ」って言った時に、指にとまってくれる人を最初のイノベーターとして巻き込んでいって、アーリーアダプターまで広げていく。その結果、やっぱりキャズムを越えなきゃいけないので。僕らもいろんなことをやって失敗する時あるんですけれども「13.5パーセント超えたよね」「16パーセント超えたよね」とかね。「17パーセント、これでキャズム越えたよね」とかってずっと見てるんですよね。
で、キャズムを越えたら僕らは普及活動をやめるんですよ。あとは勝手に伸びるだろうっていう。それはさっきの2-6-2の、20パーセントの人たちがもう使ってるんだから、8割ぐらいの効果はもう得られてるはずだっていう確信のもとに、じゃあ次のイノベーションをどう起こすか。
それを70、80までやるとすごい時間かかっちゃうし、エネルギーかかるんですよ。その残りの20パーセントの人を説得するとなるとこれは大変なので、そこはちょっと置いて。放っとくんじゃなくて、順番に巻き込まれていくので。その波は早かったり緩かったりするんだけども、その波を信じて次の波を起こしていくっていう、そっちにシフトしたほうが。最初にやった人はもう次のイノベーションがほしくて待ってるので(笑)。
内野:DXっていうか、新しいデジタルツールを入れることもそうかもしれないですけど、「入れたら終わり」ですとか。DXのプロジェクトも「1個やったら終わり」と考えてしまう傾向ってあると思うんですよね。
でもそうではなくて、新しい変革の波、第一波ですよね。それを起こしたらキャズムを乗り越えるまでIT部門がリードして、あとは現場に任せていく。そうすると自然に浸透していく。そしてまた次の変革をIT部門が仕込んでいくという、こういう継続的な取り組みを、しかも効率よく進めていくことが重要だという話だと思うんですけど。
ただ一方で最初の話に戻ると、まず経営判断として「うちの会社はどういう価値を提供するのか?」。それを実現するためにIT部門が中心になって、エンドユーザーと対話をしながら変革を進めていきますよ。リテラシーの問題もクリアしながら、エンドユーザーの真意を聞き届けながら、新しい変革の波を起こしていきますよ。それがちゃんと浸透するようにリードしますよ、という取り組みが重要だと思うんですけれども。
こうしたIT部門とエンドユーザーの関わり合いみたいなものを、やっぱり経営層ってバックアップしないといけないと思うんですよね。このあたり、経営層の役割。DXをどう推進するべきか、見守るべきか。これ井手さん、どう思われますか。
井手:経営層のコミットメントというのは非常に大事です。非常に大事なんですが、これを言ってしまうとみなさん「うちの経営層は……」という話になり(笑)。「じゃあうちにはムリかも」みたいな、こういうふうに陥っちゃって、ちょっとそれは不幸なんですよね。
大事なポイントは、経営層とミドルマネージャー、私たちみたいな実際の変革をリードする側、この双方が揃ってるってことが大事なんですが。これがどちらスタートでも私はいいと思っていて。ミドルマネジメントの人たちが、今お話にあったような話をちゃんと綿密に計画をして「ここから始めますよ、こういうふうに入れていきますよ。でもゴールはここだから時間かかりますよ」と。で、このステップ感でやっていくっていうことを確実に成果を出していくと、経営層も「これに乗っかろうかな」って思ってもらえるんですね。これがすごく大事で。
結局「このチームに任せてもダメだ」と思ったら、なかなか経営層も動けないんですが。確実な結果を出していくことによって、経営層のコミットメントを引き出す。で、最後はやっぱりここまでいきたい、いくべきですよねっていうところのコミュニケーションをすると、わりと乗ってきてもらえて。その上で「じゃあ、あなたにこういう発信をしてほしいんです」っていったところをコミュニケーションしていくと、うまくいくんだと思うんです。繰り返しになるんですが、これを「うちの経営層は……」と言ってほしくないと。みなさんでやれることはいっぱいある、と思っていますので。
内野:経営層の理解を待つんじゃなくて、自分から働きかけると。それに経営層も自然にそのうち応えてくれるようになるという、そういうことですよね。なるほど。今日いろんなポイントが出てきたんですけれども、ここで3つ目のお題ですね。「では何から始めたらいいのか?」と。
もう1回振り返ると、まずDXというのは経営問題ですよと。どういう方向にうちの会社の強みを発揮していけばいいのか、どんな価値を提供していけばいいのか。で、それを実現するためにデジタルをどう適用していけばいいのか。
そこではエンドユーザーのニーズをきちんと汲み取って、技術の専門家として「こんなやり方もできる」「あんなやり方もできる」という方法を見せていかないといけませんよと。なおかつリテラシーが高い人を大切にしながら、社内に技術をちゃんと浸透させていかなければいけませんよと。
いろいろポイント出たんですけれども、じゃあこれに対してまず最初にすべきことといったテーマで、ちょっとアドバイスを一言ずついただければと思うんですけど。じゃあ最初、各務さん、いかがでしょうか。
各務:今の前提を全部踏まえた上で、となってくるわけですけれども。やっぱり変革、トランスフォーメーションを「面倒くさくしない」っていうのは私、すごく大事だと思ってます。「面倒くさくしない」ってことは、いろんな支援があるってことになるわけなんですが。それでも面倒くさくなるかなと思ってます。
で、面倒くさくしないためには何をしたらいいか? というと、フィジカルヘルス・メンタルヘルス。それを変革チームおよびそのエンジニア、あとは事業サイドのDXやってくれる人たち、そこの……僕たち「HP・MP」って言ってるんですけど。ヒットポイント・マジックポイント。『ドラクエ』的な感じなんですけど、それをムダに下げない。下がったらリカバる。あと日々高めていく。それをフィジカル面とメンタル面で常にマネジメントする。ここをずらさずにやるってやつをやっていけば、最終的に結果が出るっていう結論に私、今ではなったので(笑)。そこを着手するのが、実はけっこうDXの中で大事かなと私は思ってます。
内野:なるほど、ありがとうございます。井手さんはいかがですか。
井手:いっぱいお話ししたいことがあるんですが、あえてまとめてと言うと……まず「思いを語らないといけない」というのは非常に大事です。で、この次が大事なんですが、必ず課題というのはあるんですけども、これから絶対逃げない。この「逃げない」というのはすごく大事でして、もうイヤになるくらい壁に当たっていくんですよ。で、それを乗り越えていかないといけないんですけども。
それをほかの部門の人たちだとか、メンバーのせいにした瞬間に、もうあなたはリーダーとして認められなくなります。すべての責任を自分が引き取り、この課題に向き合う覚悟というものを見せると、みなさんついてきてくれるかなと思っているので。やっぱり「逃げない」というキーワードを、あえて追加したいと思います。
内野:IT部門が外注に逃げてきたっていう歴史があったりしますよね。
井手:仕様が定まってないとかね、逃げるところはいっぱいあるんですよ(笑)。
内野:そうじゃなくて、主体的に自分が責任を持ってコントロールするんだと。なるほど。じゃあ友岡さん、いかがでしょうか。
友岡:私はね、あえて「DXだから」っていう軸を、自分たちで作ろうとしないことだと思うんですよね。じゃあ社長が何言ってんですか? っていった時に、例えば3つ重要なこと言ってたら、その3つ重要なことあるんだったら、その3つ重要なことをやらなきゃいけないんですよ。
それは事業のレベルで見た時に、事業部長の方が「うちの事業部としてはこういうことをやらないと、やっぱりお客さまの信頼を勝ち得ることができない」っていう、ある意味、非常に危機感をお持ちだと思うんですよね。そういった経営者とか事業をやってる方の危機感に、ずっと寄り添うっていうのはすごく重要です。
で、そこを2週間で解決すると、めちゃめちゃ喜ばれますよね。全部じゃないんですよ、小さな粒立ちでいいんですよ。そのコンテクストの中の1つを2週間で解決すると「おっ」ていう成功体験になって、チームもモチベートされるし、経営者も認めてくれるし「よっしゃお金どんどん使おうぜ」ってなっていくんですよね。だから「自分たちで自分たちのアジェンダを作らない」っていうのは、すごく重要だと思ってます。
内野:言ってみればアジャイルのスプリントみたいなかたちで、短いスパンでちっちゃい成果なんですけれども、それをもって成果をちゃんと見せていく。それを積み上げていくっていうやり方を経営層に対してもアピールしていく、それが重要だと。
友岡:そうですね。だから僕、クラウドの話とか絶対しないんですよ。そうじゃなくて「社長ちょっと、この前の問題だって言ってたアレ、解決しますよ」って言って。最後になんかどっかに「クラウド」って書いてあるんだけども、別にそれ説明する必要ないじゃないですか(笑)。
「やり方は任せてくださいね」「おう、わかった」と。「その金で、その期間でできるんだったらもうどんどんやってくれ」ってなるわけですよね。それを言わせるっていうのはすごく重要で、そういうコミュニケーションをうまくやってくのは重要だと思います。
内野:なるほど、ありがとうございます。あっという間に30分が経過してしまったんですけれども。こういうかたちでDXのポイントというのは、すべての会社に共通する「ここは絶対守ったほうがいいよ」というポイントは絶対あると思うんですね。
ただ1社1社がビジネスの内容も状況も、各社各様になってますので。やっぱりよそから事例を引っ張ってくるんじゃなくて、自分たちのやり方は自分たちで考えていかなければいけない。であるがゆえに、経営層は経営問題として捉えるべきですし、エンドユーザーもIT部門も丸投げじゃなくて、主体的にどう変えていくかを考えていかなければいけない。そういったものが、今回一番の大きなポイントだったのかな、なんて思いました。
じゃあまだまだおうかがいしたいことはたくさんあるんですけれども、パネルディスカッションの前半を終了します。
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