2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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小柳津誠氏(以下、小柳津):ありがとうございました。じゃあ、また続けていただいていいですか?
西田千尋氏(以下、西田):ありがとうございます。「メンバーの行動変容の3要素」ということなんですが、説得術と取っていただければよくて。アリストテレスの『弁術論』で言っているのは、大事な人に対する説得力は「ロゴス」「エトス」「パソス」と言っていて。
何が言いたいかというと、「人々にスムーズに説得するには、理屈だとか理論の世界を支配しなさい」という①と、人の役に立つ徳の高い人柄や権威、評判を装いなさいと。最後に、民衆の感情を煽る理屈だとか評判、人柄、感情。この3つを武器にすると、人に説得できますよということなんです。
これをケースで見ていくと「確かにな」と思うんですが。「結果にコミット」と言っているCMがあると思うんですけど、これは3ヶ月の食事制限と運動で痩せるという①の理論と理屈。見える感じで凛々しくなっていく感じの評判しかないと。
一方でもう1つ、ジョシュア・ベルという有名なバイオリニストなんですが、彼が非常に汚いTシャツでニューヨークの地下鉄でバイオリンを弾いていた時に、みんなまさかそんな(有名な)人が弾いていると思わなくて。音色とか共感はそこにはあったんですが、②の権威がなかったということで、すべてを出しきれなかったと。
自衛隊のリーダーシップから見ると、「リーダーシップは指揮と統御と管理です」という理論の部分と、権威の「階級」だけだと、やはり人に説得できなくて。
例で言えば、そこに隊員の家族への手紙とか、自己開示を積極的にするという共感や感情が合わさってからこそ、隊員に対してもっと心が近づけたとか、説得できたんだと見ることができるなと思いました。
さっきのF16はだいたい時速2,400キロぐらいなんですが、マッハ2で飛ぶオムツも結局は彼女が言ったことで、水を飲んでもお小水できるような大きなオムツを作ったという話なんです。マッハ2のオムツの話も理論と権威はあるんですが、マイノリティな人たちが訴えることによって、人々の共感や感情を引き出せて開発にこぎつけたということです。
ここは理論と権威とか評判という部分に加えて、人の心を揺さぶる感情が合わさって、人に動機付けをして行動変容を起こすことができるんだろうなということで、(事例を)挙げさせていただきました。
西田:頼り頼られるリーダーということで、「上ではなく前に立つ」。私がすごく大事にしたいなと思うことを7つ書いてるんですが、これが最後になります。
リーダーの位置ってすごく大事だなと思っています。「上ではなく前に立つ」というのは、役職や権限は絵的に言うとみなさんの階層の上にいるという。みなさんというか、職場のそれなりの階級はどうしても縦に見るんですけど、大事なことはいざという時に責任を果たす、前に立つことが非常に重要だと思います。
なので、権限を振りかざしているだけだと誰も付いてこなくて。やっぱり、権限に備わった責任を果たしうるかどうか。自衛隊には「率先垂範」という言葉があるんですが、メンバーの前に立って率先垂範でなんでもできるか。自学研鑽もそうなんですが、それができるかというリーダーの位置は、「この人に付いていきたい」と思える、1つのポイントだと思っています。
あと、意図を伝えること。私は自己開示と言ってましたが、(スライドを指しながら)自衛隊のやってることを左側で、やることと自己開示を表にした図です。
「号令」というのはやるだけ。「右向け」って言ったら右に行くだけで、規定どおりのことで、行動を述べる意図はなくて。行動と意図、指揮官の意思が両方入っていることを自衛隊では「命令」と言います。
西田:例えば、さっき「戦闘機はマッハ2で飛びます」という話をしたんですが、戦闘機はものすごいスピードで飛んでいるので、行動の指示だけ伝えても「撃っていいですか?」「いいですよ」とか言ってる間に撃たれちゃうので。
パイロットが直面している状況は、後ろで指揮をしてる人たちにやっぱり見えないし。秒単位で戦況が変わっていくところからすると、行動の指示だけではどうにもならないので。
指揮官は全体の作戦に対する意図を明示するだけ。「あれだけやっつけてこい」「やり方は自分で考えろ、もしくは私はこういうことを考えているから、こういうふうにやりなさい」とか、どこまでやって、どこまでやっちゃだめだとか。
戦闘機は速いので、全体の作戦の意図とをよく理解してその場で判断させないと、ミッションが遂行しないということで、号令と命令の使い分けをしています。「訓令」というのは訓示みたいな感じで、「自分はこんなことを考えています」ということを、紙なり言葉なりで具体的に伝えることです。こういう3つの使い分けを自衛隊はしています。
西田:企業の活動においてもそうだと思うんですが、リーダーは常に、不測事態があった時に自分の手足となって判断や行動してくれる人間をどれだけ作っておくかが肝です。そのために、常に自分の内面の意思や行動基準を明確にしておく必要があるということで、自衛隊は非常に意図を伝えることを大切にします。
上位者は下位者に意図を示すんですが、下位者もまた上位者の意図を聞き取る、「意図を対す」ということを大切にします。(上位者が)ひとたび「決心」すると、もう決定事項になるので、決心する前に「こういう場合、上司は何を考えてるんですか?作戦の大枠の方向性は?」ということをよく確認します。
コミュニケーションは双方で取るものですし、しかも相手のコンディションによって、いつも同じことを言っても伝わらないことがあって。そこも踏まえて常に自己開示をしながら、下位者も上位者に対して、時に「それは違いますよ」「何考えてますか?」ということを確認します。
(スライドの)左側の(ジェームズ・)マティスさんという、米軍海兵隊大将、トランプ政権下では、国防長官を務めた人がいたんですが、この人は常に可能な限り下位者まで権限を委任していました。「常にintent(意図)を示して、イニシアティブ(主導権)を解き放て」ということを言っていて。
「上官の役割は、意図を明確にして、そして隅々までその意図が理解されるような工夫をしなさいと。同時に部下のイニシアティブを解き放ってやることが上官の使命です」と言っていました。
特に航空自衛隊は、秒単位で作戦が変わっていくという組織の特性を持っているので、常に指揮官が自分の考えをメンバーとよく共有することを、とても大事にしています。
西田:あと、リーダーシップの中で、部下に任せて見守ることはすごく大切です。部下に裁量の余地も与えつつ任せるんですが、最後はちゃんときっちり面倒を見るという、「任せて任せず」ということがすごく重要で。
任せれば進むんです。失敗することもありますし、無茶苦茶になって返ってくることもあるんですが、そこから部下が成長することも期待をさせる。先ほど「イニシアティブを解き放つ」ということもありましたが、マイクロマネジメントすぎると、その人がいなくなったら何も動けない人間や組織になっちゃいますし。
部下が自己裁量を持って動ける余白があるかを確認しながら、部下に任せて見守り、最後はちゃんと進捗を確認することがすごく大事だと思います。
あとは「多角的な視点で部下を評価」と書いてあるんですが、私が80人の部下を持った時に手紙を書きました。その時に部隊の中で「あまり高い評価ではない、いわゆるできない」と言われている隊員がいて。その子は独身だったんですが、ご両親にもお手紙を書いた時に、達筆な字でお父さまからお返事が返ってきて。「たぶん、うちの息子はすごく迷惑を掛けているでしょう」と。
「こういう息子ですけれども、よろしくお願いします」と(返事が)来た時に、彼が今日ここにいるまでの何十年間、支えてくれていた人がたくさんいるんだなと思って、一側面の評判や評価で人を決めちゃいけないなと、と思いました。
お預かりしている以上、まずは愛すべき存在であって、彼が少しでも能力を発揮できてないものが何なのかを徹底的に解明しようということで、いろいろ話したりして。配置換えだとかをして、すぐに目に見えて何か変わったわけではないんですが、自信を持たせるような工夫をしました。
西田:物の見え方って、いろんな角度から見ると違うと言いますが、自分目線だけで人を決めてはいけないな思いました。同時に、その人がなぜそういうふうになるのか、言葉も態度もいったん受け入れてみようかな、ということを教わりました。
「引き算」ということで、特に公務員は足し算ばっかり大好きで、引き算しないんですよね。いろんな事業を作る時も、「あれをなくしてこれをやる」というよりかは、「これを作って人が足りない、人をください」という感じ、で足すことばっかりで。
それはたぶん、引き算すると過去の今までの経緯や実績がなかったことにされるのがとても苦手なので、引き算はしないんです。前に『エッセンシャル思考』という本を読んだ時に、本質とは何かに注力をすることと、やらないことを決めることが必要だなと思っていて。
これも、村木厚子さんという元厚労省の事務次官の方が言ってたんですが、公務員の世界は制度は十分にあるんですが、公務員は2〜3年おきに転勤をしていくのと、地元採用の人の2種類がいるので、風を作っていく人か土壌を作る人のどっちかになっていくのが非常に重要ですと言ってました。
ここで言いたいのは、組織作りのために自分は何が役立てるのかと、今ある現状の効率化。それは足すべきことなのか、引くべきことなのかを見ていく。リーダーへの階級を上げれば上げるほど、それを決めていく権限を持っているので。
それを見てあげられることで、組織や隊員やメンバーが生き生きとなれるんだったら、権限として行使していくのは非常に重要です。
西田:あとはみなさんもそうだと思うんですが、「自らが楽しむ」ということです。防衛大学校の4年生が卒業するくらい前に、(卒業から)10年ぐらい経っている先輩が訪問みたいな感じで、本省に遊びに来ることがあるんです。
その時に、男性の学生はみんな「どうやったらパイロットになれますか?」って言うんですが、女性の学生は「子育てと仕事の両立はできますか?」って、そればっかり聞くんですね。でも、そこにいる女性幹部自衛官は、もちろん誰一人仕事は辞めてないですし、お子さんも育ててますし、家族も家庭間も良好だということで。とにかく大丈夫だよ。楽しいよということを伝えました。
例えば、猿が木に登ればお尻まで下から見ると見えるような状態で、意思決定の場に身を置く存在になればなるほど、意思決定していくことは大変なことではなくて、自分が気に入られる楽しさがあるということを伝えていくのを、すごく心がけていました。
あと、「立場が人を育てる」ということで、私は本当に最初の10年、もしくは15年の時には、求められる能力に対してぜんぜん自分のスキルや経験が足りてなくて。
その葛藤はすごくあったんですが、一方で自分より年下の部下も同僚もそうですが、人に頼ることと、チームの中で差を作らないことが、かえって同じミッションを強固に遂行できるということを経験しました。やっぱり、立場が人を育ててます。
西田:私は最初からいきなり幹部自衛官だったわけですが、日々みんなと接する中で育ててもらったんだなといつも感じていて。なので、みんなの意見を集約して部隊や組織の方向性を決める重責の一方で、意思決定の場に身を置く楽しさみたいなものも感じられました。
それはつらいことじゃなくて、切り開き、変化を起こせる中心である、唐琴見える景色のおもしろさを味わってほしいと思っています。「とりあえずやってみよう」と同じなんですが、「考える前に飛んでしまえ、その時に自分の気持ちや違和感を大事にしながら進めばいい」ということを言っていました。
最後に「人格と品格」ということで、リーダーシップの究極は人格と品格、これに尽きるなと思っていて。これは絶対に自学研鑽でしか得られないと思ってはいるんですけれども。
いろんな本を読んで、いろんな体験をして、自分の心のアンテナに素直にいろんなことを試しながらやっていくんです。そういう過程を経て人は成長していきますし、支えられる人たちがいるからこそ決められることがあるということは、常に修練でしかないと思っています。
西田:そのために気をつけていることは、さっき申し上げた、80人いた部隊の中でなかなか育ってない隊員の親御さんのお手紙で気付かされたとおり、人を愛する技術を持つことと、常にご機嫌であることを心がけていました。
渋い顔をしているとか、いつも怒ってたら自分に情報が入ってこないので。そうすると、結局自分ではなにも決められない人というか、裸の王様で終わっちゃうようなことを、自分が仕えた上司でも思ったことがありましたので。
「情報を提供したい」「話したい人」というのは、やっぱりいつもオープンでご機嫌である人だなって思っているので。月曜日はなかなかテンションが上がらない時があるんですが、ご機嫌であることに気をつけました。
あと、これは自分でアップデートするしかないので、自分で自分を鼓舞していく。自分の応援団長を作るのも自分でしかないので、自分でアップデートするということと、とにかくいったん受け入れることですね。自分の人格と品格の修養の側面として、大事にしていることになります。簡単ですが、以上になります。ありがとうございます。
小柳津:どうもありがとうございます。西田さんのお話はここまでになります。
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