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「働きがい改革」のリアル~専門家と実践者が語る働きがい向上への道~(全5記事)

職場で「公正・正当に扱われている実感値」を持てるか否か これが、すべての人の「働きがい」「潜在能力の最大化」に繋がる

働き方や働く人の価値観が大きく変動する現代において、組織には「働きやすさ」だけでなく「働きがい」をいかに高めるか? が求められています。しかし「働きがい向上」に関する課題は企業ごとに千差万別で、「自社にあった『働きがい向上』をどう実現していくか?」について試行錯誤を繰り返している企業も少なくありません。そこで、働きがいの専門家であるGreat Place to Work® Institute Japan 代表 荒川陽子氏と、組織づくりの実践者であるサントリーパブリシティサービス 清水雅理氏が登壇されたウェビナーの模様を公開します。

すべての働く人の「働きがい」が高い会社は、売上高の成長率が高い

斉藤知明氏:では、まずは荒川さんから「『働きがい改革』の現在地」についてのお話、よろしくお願いします。

荒川陽子氏(以下、荒川):はい。では、私から説明させていただきたいと思います。「働きがい」が今日のテーマなので、まずは「これはなんなんだ?」ということついて見ていきたいと思います。

私どもGreat Place to Work®(GPTW)は「お客さまの職場をすべての働く人にとって『働きがいのある場』に変えていく」をミッションに掲げている組織ですが、この「すべての働く人」というのが、1つのポイントです。

「すべての働く人の『働きがい』が高い会社は、売上高の成長率が高い」という、アメリカのデータが出ています。経済誌の『フォーチュン』に毎年出ている「働きがいのある会社TOP100」のリスト「フォーチュン100」というランキングがあるのですが、これを作ってるのがアメリカのGPTWなんですね。

その「フォーチュン100」の膨大なデータを見てみると、上位4分の1の会社と下位4分の1の会社の売上高の成長率はけっこう違います。すべての働く人の「働きがい」が高まっている企業は、業績にもインパクトがあるというデータが出ています。

GPTWが30年前から行っている「働きがい」を高める活動

荒川:実は我々は、30年前から「『働きがい』を高める活動」を行っています。そういったさまざまな分析を経て、各国でランキングを発表しています。

過去30年間は旧モデル、(スライドを指して)左側にあるモデルでやってきていました。「従業員」というのを間に置いた時に「マネジメントとの関係性にきちんと信頼があるか?」などですね。「仕事への誇り」「仲間への連帯感」を大事に、30年間やってきております。

この「すべての人」という、ダイバーシティの考え方。これが大事で、売上や利益にインパクトしてくるということが、ここ数年かなり顕著になってきました。

それをもって、実はモデルをバージョンアップしました。現在使ってる新モデルは、右側になっています。ポイントは「人の潜在能力の最大化」で、これが「すべての人が『働きがい』を感じる」ことの大事さを強調したポイントになってるんです。

新モデルに変えたタイミングが、アメリカでは2019年の(「フォーチュン100」)ランキングからでした。すると2018年までは33位にいらっしゃった会社さんが、新しいモデルになった途端に1位に躍進したということがありました。それはホテルグループのHiltonさんで、さまざまな人種のいろんな方たちが働いていらっしゃる企業です。

これは、人種・性別・属性に関わらずすべての人が「働きがい」を豊かに感じられるような企業を、我々は「働きがいのある会社」として評価していくということの表れですけれども、Hiltonさんが1位になっている。ちなみに、Hiltonさんは2021年の最新版のランキングでは3位で、引き続き上位を維持されています。

「働きがいのある会社」のモデル・定義

荒川:あらためて、(スライドを指して)今お見せしているのが、我々の現在使っている「働きがいのある会社」のモデル・定義です。中心に「信頼」があるというのは、30年来使っている旧モデルと同じもので、コアは変わっていません。

ただ、その上に「人の潜在能力の最大化」を大きく被せて、一人ひとりの能力が活かされている状態を作りたい。そしてそういった会社には、左下の「優れた価値観(バリュー)」があって、右下の「リーダーシップの有効性」。そして、左上の「イノベーション」、変化に対応できるカルチャーがあるかどうか、ということを、我々は非常に重視しています。そして結果としての、右上の「財務的成長」ですね。こういうことが実現されている状態を、非常に重視をしているということです。

ちなみに、私どもはこのモデルを使って毎年ランキングを発表しておりまして、今年の2月に発表させていただいた日本版の最新ランキングでも、大・中・小規模という、会社規模によってランキングを分けているのですが、すべての規模に共通して評価が高い項目を見てみると、一番にくるのが「人種・年齢・性別に関わらず正当に扱われている」ということです。

「公正に、正当に扱われている」という実感値を持てるか、これが人の潜在能力の最大化、すべての人の「働きがい」につながっていきます。やはり、こういう項目が評価されている企業が、我々の日本ランキングでも上位にきています。

ちなみに「入社した人を歓迎する」とか「責任ある仕事を任される」という項目も、ベストカンパニースコアで上位にきている状況です。

「働きがい」は、「働きやすさ・やりがい」の両側面から構成される

荒川:もう1つ、データを見ていただきたいのですが、「働き方改革」と「働きがい」について、整理しておきたいと思っております。

我々が考える「働きがい」というのは「働きやすさ」と「やりがい」、この2つの側面から構成されていると考えています。「働きがい」という語感から「やりがい」だけをもって「働きがい」という言葉を使われる方が最近は多いかなと思います。それが間違っているとは思わないですが、我々は「働きやすさ」と「やりがい」の両方がセットではじめて「働きがい」だと考えている、ということです。

そのため、これを2軸に取って職場を分類するといったことをやっています。両方が高い職場は「いきいき職場」と言っています。「働きやすく、やりがいもある職場」です。そして「働きやすさはないんだけど、やりがいがある」というのが「ばりばり職場」。さらに「働きやすいんだけど、やりがいがない」というのが「ぬるま湯職場」で、両方ないのが「しょんぼり職場」と名付けています。

みなさんの職場はどうでしょうか? 日本企業からはよく「『ぬるま湯職場』が多い」という声が聞かれるのですが、いかがでしょうか? 

この「働きやすさ」と「やりがい」を分析する時に、我々は「働きやすさ得点」と「やりがい得点」というのを使って分析をしています。我々の調査の設問を因子分析を行って「働きやすさ得点」と「やりがい得点」に分けて、そのスコアの動きを見ています。

(スライドを指して)これが1つ、注目していただきたいデータなのですが、「『働き方改革』の進展によって、実は(日本企業の)働きやすさは改善傾向にある」というのが、我々の調査をやっていただいている企業さま全体の傾向値です。

「『働きやすさ』は改善してるけれども、実は『やりがい』が低下してしまっている」という、このようなデータが出ているということになります。日本においては「働き方改革」というのが、もう十数年来、非常に大事だと言われていて、各企業さんに取り組んでいただいた結果として、「働きやすさ」は高まったのですけれども、「やりがい」は置いていかれている。

これが「働き方改革」の現時点であり、では「働きがい改革」は進んでいるかというと、まだまだ進んでないと言わざるを得ないのが現状、ということを示すデータです。

経営者の信頼を左右する「従業員を尊重してくれるかどうか?」

荒川:ではどうやって「やりがい」を高めたらいいのか、というところへの、1つのヒントになるのが(スライドを指して)こちらです。さきほどの「『働きやすさ得点』と『やりがい得点』の分布を確認した調査」の中で、「働きやすさ得点」を改善させている企業のうち、「やりがい」も高めた企業と「やりがい」は下がってしまった企業の群の状態を調べました。

結果として、「やりがい」を高めている企業は「経営・管理者層の信用」をしっかりと高めている、ということがわかりました。すなわち「働きがい改革」で、特に「やりがい」を高めていこうと思うと、この「経営・管理者層への信用」を大事にする・強固にしていく、これが非常に重要なのではないかということがわかるデータでした。

もう1つ、データをお示しします。「コロナ禍における企業の人的資本経営に関する調査」を行いました。今年6月に行ったものなので、我々の中では一番新しい調査です。

「コロナ禍で経営者への信頼は上がりましたか? 下がりましたか?」というのを聞きました。「やりがい」を高めていく「働きがい改革」においては、経営者への信頼が大事です。また、「コロナ禍ではどうですか?」について聞いたところ、「変わらない」という人もけっこういたのですが、「上がった」が15.8%、「下がった」が17.4%でした。

では「(上がった人に)信頼が上がった理由は何でしたか?」と聞くと「従業員を尊重してくれていると思うから」というのが一番だったのです。逆に「(下がった人に)なぜ信頼が下がりましたか?」と聞いてみると、これまた「従業員の尊重していない」が一番にきました。

「事業の成長」みたいなところよりも「従業員を尊重してくれるかどうか?」が、経営者の信頼を左右するのだということが見えてきた、ということです。

「働きがい」を高める2つのポイント

荒川:ということで、そういったデータを総括して、我々として働き方のニューノーマルにおいて「働きがい」を高めるポイントは、2つだとしてます。

1つ目は「尊重のマネジメント」。経営や管理者層が従業員に対して、精神的に安心をして働けることを約束して、安全に働ける環境を作っていく。こういった尊重のマネジメントが重要です。

そして「相互信頼を構築するコミュニケーション」。特にこのコロナ禍で、なかなか頻繁にコミュニケーションをとるのが難しくなっている企業さんもあると思います。そういう時に、どうやって相互信頼を構築するか、これは上司と部下の双方向のコミュニケーションが大事です。

そして、職場もそうです。「連帯感」というところでいくと、いかに同僚とのコミュニケーションをとりつつ、相互に信頼を構築できるか、こういうことが非常に大事になっている、と考えています。

ということで、私のパートをまとめますが、「働き方改革」の進展により「働きやすさ」は高まっている一方で、「やりがい」については改善の余地があるということです。

コロナ禍で難易度は高まっていますが、経営・管理者層への信用を高めていくことで「やりがい」を醸成していく、こういう仕掛けが非常に重要だろうということです。

そして、この「『働きがい改革』の現在地」というのが私の今日のテーマだったんですが、「働きがい改革」を推進していくためのキーワードは「尊重のマネジメント」と「相互信頼を構築するコミュニケーション」だ、ということです。

ということで、この「働きやすさ」と「やりがい」の両方を高めて、「いきいき職場」に持っていきたいと思っている、という状況でございます。

簡単ではありますが、私からのパートは以上でございます。

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