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人事評価の常識・非常識とは~バイアスを超える組織開発~(全5記事)

上司へのゴマすりは「人事評価にめっちゃ効く」という事実 経験豊富な管理職ほど求められる、バイアスを取り除く訓練

多様な働き方への適応が求められている中、人事評価制度には「評価基準が曖昧で納得できない」「評価者の価値観や経験によりバラつきがある」など、多くの問題を抱えています。そこで、リクルート人事部ゼネラルマネジャー/ライフネット生命総務部長/オープンハウス組織開発本部長と、さまざまな企業の人事・採用部門の責任者を務め、現在は人事コンサルタントとして活躍される、株式会社人材研究所 代表の曽和利光氏が登壇されたウェビナー「人事評価の常識・非常識とは~バイアスを超える組織開発~」の模様を公開します。

1つ前の記事はこちら

一般的な「こういう人事評価がいい」って本当?

曽和利光氏:はい、よろしくお願いいたします。みなさん、チャットありがとうございました。後でディスカッションするための“刺激材料”みたいな感じで、私から最初のお話をさせていただければと思っております。

前にですね、この『組織論と行動科学から見た 人と組織のマネジメントバイアス』っていう本を書きましてですね。これは伊達(洋駆)さんっていう「ビジネスリサーチラボ」というところの研究者の方で、最近はいろんなところで見かける方です。

例えば評価で、一般的に「こういうふうに評価するいいよね」って思われていることが、本当にそうなのかどうか? みたいなことを、伊達さんも世界中のいろんな論文とかを読んで最先端の研究しておられます。

私は実務家の立場で「人事の素朴な思い側(の意見)」みたいなものを出して、それが「本当にそうなの?」みたいなこと(検証)をやった本です。そこら辺から抜粋して、いろんな評価にまつわる「常識と考えられていることだけれども、若干違う」といったところをいろいろ出していきたいと思ってます。

「自分なりの法則」を一般化することで、痛い目を見る

問題意識としては(スライドを指して)ここに書いてあるように、僕も先ほどの本を作ってく中で勉強になったんですよね。「もう俺、20年間そう思ってたわ!」みたいなこともけっこうあるんですよ。例えば「ダイバーシティーが高まると、創造性が高まるんじゃないか?」とかですね。もちろん高まる場合もあるんですけど、それは条件がやっぱりあるとかね。いろいろあるんですど。

これは自分自身の反省でもあるんですけど、実務をずっとやっていて「こういうことって、ある程度は知ってたわ」と思っていたんですけど、いろんなアップデートがなされてて知らなかったこともあるな、と思ってですね。

「持論」とか「素人理論」といいますけど、要はアカデミックな作法によって実証が確立された「理論」じゃなくて、実際に経験を積み重ねていった「自分なりの法則」って、みなさんお持ちですよね? ただそれって、例えばリクルートならリクルートっていう状況で成立するけど、これが一般的・普遍的に成立するかはわからないわけです。

ですけど、それを一般化してしまうようなことをして、いろんなところに適応してきたな、と。私も痛い目にいろいろ遭いました。「リクルートで通用していたこと」が、ライフネットにはぜんぜん合わないとか、オープンハウスには合わないとか。あるいは、コンサルティングとかやってると、もっといろんなところに(合わないということが)あるんですね。

だんだん「リクルート絶対主義」みたいな感じだったのが「いやいや、これはリクルートだからできたんだな」「リクルートの趣味だな」とかですね。「あんまり普遍的じゃないな」とか、そういったことを思ったわけなんですけども。そんな試行錯誤をせずともいろいろわかってることがあったりするので、それを今日はご紹介できればと思ってます。

上司への印象操作・ゴマすりは、めっちゃ効く

まず「評価」ということでいくとですね、基本的に評価者としての上司にまつわる、いろんな問題というものがあります。

例えば1つ「上司への印象操作は、けっこう効く」という話ですね。先ほどチャットの中で「“ゴマすり”が増える」みたいなのがあったんですけど、ドラマとかでもしょっちゅうあるじゃないですか。あれ、めっちゃ効くっていう結果が出てますと(笑)。

だから、本当に「目標達成した」とか「行動規範に沿った行動をしている」とかよりは印象操作が効果的でですね。そういう印象操作を受けても、ちゃんとした評価できるようにがんばらなきゃいけないって話なんですけど。その状態でいくと、けっこう効いちゃうんですよね。まずこれがベースであります。

だから「評価者訓練」では、バイアスを避けるってことをものすごくやらないといけないな、と。あとは上司とか上のほうになっていけばいくほど、経験者の方が増えると思うんですけど「優秀人材についての固定観念」も増えるんですよね。

もっと言うと「自分に似てる人を評価する」ってこともあって。採用面接とかでもそうなんですけど「経験者のほうがフラットに人を見られるか?」については「違う」というのがわかってるんですね。むしろ上のほうになればなるほど、人を見る時にフラットに見られるような「バイアスを取り除く訓練」をしなきゃいけない。

だからよく、評価者トレーニングの初任の管理者・若い人に対しては「面接官トレーニング」とかをガンガンやるんだけれども、長く関わってる人には「もう出なくていいですよ」ってこともあると思うんです。「もう10年もやってるから(出なくていい)」とか。

でもそれって、実は逆かもしれないんですよね。そういう人にこそ「こういう人はすごくプラスに評価しがちだけど、こういう人はマイナスに評価しがち」みたいな、自分の誤ったバイアス。これを気づかせるようなワークをやらないといけないかもしれない、ってことです。

意思決定の早い経営者は、面接下手・評価下手

あと、経営者は特にそうなんですけど「アポフェニア」とか「コンステレーション」っていう……アポフェニアっていうのは、例えば「丸があってちょんちょん、目があって線が引いてあったら顔に見えますよね」っていうようなことで。

要は「本当は無意味なものに顔を見い出す」みたいな知覚作用のことで、これを「過度の一般化」という、悪い言い方をしたりするんですけども。

1回か2回ぐらい何かが起こったら「こいつはこんな奴だ」みたいな感じで、意味づけしてしまうみたいなこと。経営者とかマネージャーって、意思決定がすごく早い人が多いじゃないですか。

これって、事業にはすごくいいですよね。事業では「情報が集まってから判断してたら遅い」みたいなことってあると思うんですけど、人を評価するという意味においては、マイナス効果が多いと。「思い込みが激しい」みたいな話ですよね。だからそういう意味で言うと、経営者は面接下手・評価下手だっていうのは、すごくよく言われることですよね。

ですからこれはめちゃくちゃやりにくいんですけど、本当だったら「経営者に対する評価者訓練」って、めちゃくちゃやらないといけないんですよね。

最強の人間関係は「異質補完」

あと、これもすごく言われることですけど類似性効果といって「似てる人に好感を抱く」わけです。

ところが「最強の人間関係は異質補完」とよく言われまして。違うんだけれども、補い合っている。仲良くなる・分かり合うのに時間かかるんですけど、生産性とか創造性は向上していく、みたいな関係ですね。補完ってちょっと難しくて、バラバラの性格の人と補い合うってどうなってるか? ってことなんですけど。

例えば、(スライドを指しながら)この青いリーダーがいたとしますよね。「信念や執着心が強い人」。その人が「行くぞー!」って言ったら、「はい!」って素直に受け入れる人。この人たち、性格は違うけどもすごくいいチームじゃないですか。または「何がしたい」とか「Will」は別にないんだけれども、やると決まったら段取りがうまいとかね。そういう人は、(「信念や執着心が強い人」の下に付くことが)すごく向いてるわけなんですけど。

でも例えば「知的好奇心旺盛な人」が「信念・執着心の強い人」の下に付くと、お互い嫌い合うんですよ。例えばですけど、灰色の人(「知的好奇心旺盛な人」)は青い上司(​​「信念・執着心の強い人」)を「頑固だ」「柔軟性が低い」「重要性が低い」「頭でっかち」と言う、みたいなことがあったりするんですけど。

青い人は灰色の人を「落ち着きがない」「ひとところに執着心が足りない」「腰が据わってない」とか言うわけですね。なので補完って、けっこう難しくてですね、

じゃあ「同質が良いか?」って言うと、同質は悪くないです。一緒にコミュニケーションをしていく上では悪くないんですけれども、ただ、やっぱりある程度経つとマンネリ化が進んだりする。創造性が必要な組織、そういう事業をやってるところだったりすると、どこかで頭打ちになっちゃうということですね。

「言ったもん勝ち」の世界で起こる、低能力者への高い評価

あと「ピークエンドの法則」とか「アンカリング効果」とかっていうんですけども。ピークと終了時。良かった時と最後だけ。仮に4~9月が1つの評価期間だとすると、4月のことってほとんど評価されない。「4月がんばるの損じゃね?」みたいな感じですよね。

ところが、これって驚くべきこととも言えるんですけど「マネージャーがメンバーの行動記録(えんま帳)をつけてるか?」っていうと、つけてる人って本当に少ないんですよね。これ、残念な話ですけども。そうすると、もうピークエンド効果の法則みたいなものの影響を、バッチリ受けちゃいます。そういう上司は本当にメンバーのことを正しく評価できるんでしょうか? っていうことですね。

あと、これも悲しい効果で。評価をする時、最初に自己評価させたりしますよね。それを元に、マネージャーが二次評価して、最後は評価委員会にかけて、というのがあると思うんですけれども。「バンドワゴン効果」とも言ったりしますけど、最初に自己評価で高くしてる人って下げにくいじゃないですか。

みたいなことがあったりするんで「自己評価をどこまでさせるか?」っていうのは1つ考えどころなんです。なぜかというと「ダニング=クルーガー効果」。これは、ダニングさんとクルーガーさんが発見した悲しい効果なんですけど「能力が低い人は自分を過大評価し、能力が高い人は自分を過小評価する」と。かなり悲しいですよね(笑)。

ということは一般論でいえば、自己評価を高くつけてくる人には、そんなに能力が高くない人が多いかもしれない。でも最初の自己評価で、例えば五段階の「5」ってつけてる人に(二次評価、最終評価で)「2」って付けにくいじゃないですか。だから「言ったもん勝ち」みたいな世界にしておくと、低能力者を評価することにもつながり兼ねないということですね。

あと、自分が所属してるチームのやつはかわいいっていうことで「内集団ひいき」とか「ネポティズム」とか言いますが。要は、社内でパワーの強い人の部下ばかり評価される。

評価者委員会で「S評価(いい評価)を何人までしかつけちゃいけない」っていう時とかに、そういうの(いい評価)を“取ってくる”みたいなことがあったりすると思うんですけど。こういったものが、いろいろ上司の問題にあるわけです。

ここまでバーっと見ていただきましたけれども。ゴマすりは効くわ、経験者は頑固になるわ、過度の一般化でちょっとした事象で決めつけるわ、似てる人ばっかり評価するわ。ピークの時と最後のことだけでちゃんとデータを取ってない人が評価しちゃうわ、自己評価に頼ってるとダニング=クルーガー効果で低能力者を評価することになるわ、身びいきしてしまうわ。

上司にまつわることばっかだったんですけど、これを超えていかないといけないというのが、まず今日の1つ目ですね。

実は証明されてない、モチベーションとパフォーマンスの関係

残りはもう1つなんですけど、じゃあどのような評価によってモチベーションを上げればいいのか? どんな情報を評価基準とすべきか? ということなんですけども。そもそもまず、モチベーションとパフォーマンスの関係っていうのも、実は難しくてですね。

意外に、モチベーションとパフォーマンス・最終的な業績との関係性って、明確には証明されてないんですね。「ES」というのは「Employee Satisfaction」「従業員満足度」。これらやエンゲージメントとも、実は一貫した関係は見出されてない。一貫してないっていうのは、論文によっては「いける、できた」っていうのもあれば「出なかった」というのもあるってことなんで、一貫してとにかく出てないと。

では、なんでだろう? という話でいうと「ただ褒めるんじゃなくて、丁寧に事実を伝えたほうが、内発的モチベーションが低下しなかった」っていう研究もあるんです。褒め方というか、モチベーションを上げる研究において、モチベーションの上げ方によって違う。だから一貫した関係が見出されてないんだろうなと思います。

外発的動機づけ・内発的動機づけ、どっちでモチベートしたらいい?

特に有名なのは、先ほどチャットでも書かれたと思うんですけど「内発的動機づけが大事」みたいなことってありますよね。内発的動機づけっていうのは、自分の中から出る、例えば「おもしろいからやる」とか「これは社会的意義があるからやる」みたいな、中から出てくること。「誰から褒められたからやる」とか、そんなんじゃなくて。こればっかりが有名ですよね。(心理学者のエドワード・L.)デシって人っていう人が言ってたやつですけども。

算数がおもしろくて勉強してる子どもに「100点取ったらおもちゃあげるね」という外発的動機づけを与えると、100点を取るために勉強するようになって「算数はおもしろい」っていうのが消えちゃう。これは「アンダーマイニング効果」っていいますけども、こればっかりが有名になるんですけど。

実は「エンハンシング効果」といって、ほとんどの人事評価って外発的動機づけですからね。もちろん外発的報酬が悪いわけがなくて「自分は有能だ」と認識してがんばる、っていう効果もあるわけですね。

たぶん人事の方の信念としては……僕もそうなんですけど、このアンダーマイニング効果のほうが、なんかいいじゃないですか(笑)。「外発的動機で人は動く」みたいなことを言われると「人間はそんなもんじゃないですよ」と思いたい、ってことかもしれませんけど。外発的動機づけ・内発的動機づけ、どっちでモチベートしたらいいのか? っていう問題もありますね。

定性目標にある「公平さ+達成度」という二重のハードル

だいたい世の中の8割ぐらい(の企業)が目標管理制度を入れてるわけですども。例のドラッカーの「MBO」「Management By Objectives and Self-Control」ですね。「Self-Control」が抜ける場合が多いんですけども。

もともとは「個人の自律性」を出そうと思って行った、マネジメントの考え方の話です。MBOの目標管理制度はどっちかというと「ノルマ化」していくみたいなことがあります。「ノルマ・目標の達成度で測られる」というのが、今の8割の会社が入れてる制度です。

もちろん「何をすればいいかが明確化される」というのはいいことで、評価も明確になるわけですね。ところが「納得度」となると、「ぐうの音も出ないこと」と「納得いくこと」って、僕は違うと思うんですね。

「君、目標が100だったよね。で、これだけやったよね。だから80点です」「……はい、わかりました」みたいな、こういう感じ(笑)。「確かに決めましたけど……」みたいな。

でも、みなさん感じてるのは「目標がそもそも公平じゃない」と。「同じグレードのあいつは簡単な目標なのに、僕の目標って高くないですか?」みたいな話とか。

そもそも定量的な「売上」とかだったら達成度がわかりやすいですけど、定性的なものの達成度って「100いってません?」「いってない」「いってません?」「いってない」みたいな。目標の「公平さ+達成度」という二重のハードルがあるんで、なかなか難しい。

なので最近、目標管理制度をなくすところも増えてきていて。「評価基準はこういう面で見ますよ」って言って、目標は立てない。で、がんばれることまでがんばって、結果を相対評価すれば、二重のハードルから逃れられる。

これ、ちょっとややこしい話でピンとこないかもしれませんけど「結果の相対評価」だけでやっているほうが、文句を感じるところが少なくなるんですね。だから、こっち(目標管理制度なし)でやっている場合もいろいろあります。目標管理制度っていいところはもちろんあるんですけど、最近は合わなくなってきてる会社も増えてますよね。

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