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~テレワーク時代にも成長を止めない~ “問い方”で変わる『自走型組織』のつくり方(全2記事)

繰り返される部下の問題行動、原因は上司の「問い方」にあった これからの時代に求められる、適切な問いを導く力

リモートワークの普及によって、社員からの積極的な発言が減少したり、仕事を頼みにくくなるなど、さまざまな課題が浮かび上がっています。社員の力を引き出すために有効な「自走型組織」を目指すためには、どのような力が求められているのでしょうか。本記事では、これからの時代に求められる「問い」の力とは一体どのようなものなのか、株式会社クエスチョンサークル代表取締役の宮本寿氏が解説しています。

これからの時代は「適切な問い」を持つ力が重要

宮本寿氏:私が大学受験をしていた頃の25年くらい前なんかは、知識を持っている人が優秀とされて、ビジネスの場面においても、いろんな知識を持っている方、経験の蓄積がある方が重宝されるような時代だったと思うんですけれども。

これからの時代は、必ずしも自分が知識を持っていなくても、適切に問えることが重要です。ここで間違った問いをしてしまうと、しかるべき情報が得られないわけですね。

例えば何かおいしいカレーを食べたいと思ったら、「カレー ランキング」「カレー 神保町」とかで検索すれば、それに合った情報が得られます。

じゃあ、もしおいしいカレーを自分が作りたいと思ったら、検索の仕方を変えて「カレー レシピ」とか。しかるべき問い方に変えれば、得られる情報が異なるのと同じように、間違った問いかけをしてしまうと、しかるべき情報が得られません。

そんなことは著名な偉人も言っていまして、経営の神様のピーター・ドラッカーがこんなことを言っていました。「経営における最も重大な過ちは、間違った答えを出すことではなくて、間違った問いに答えることだ」。

ついつい私たちは答えを探しがちなんですが、そもそも問いの持ち方が間違っていると経営は大きな失敗をするんだと、ドラッカーも言っています。そんな例は、私たちの身近なところにもたくさんあるなと思います。

同じ問題を繰り返さないためには「原因」を聞くだけではNG

宮本:これは一例ですが、例えば遅刻をした部下がいて、上司としては当然「何で遅刻したんだ?」と、原因を聞くわけです。「何で遅刻したんだ?」と問われれば、正直な部下であれば「すみません、寝坊しました」「電車が遅れました」とか、ちゃんと理由を言うわけです。

ただ、「俺が聞きたいのはそんな言い訳じゃない。どうしたら遅刻しなくなるのか、その改善策が聞きたい」。そんなふうに上司が思うのであれば、やっぱりこの問い(「何で遅刻したんだ?」)をされたら、こう答えざるを得ないですよね。改善策を聞きたいのであれば、問い方を変えなくてはならないということかと思います。

「どうしたら遅刻しなくなる?」と聞けば、「夜更かしをせずに目覚まし時計をかけます」とか「電車が遅れても大丈夫な時間に家を出ます」というふうに、改善策が出てくるんですね。もちろん実際に遅刻した部下がいたら、いきなり改善策だけではなくて、まずは原因を聞いていただくことは必要なんですけれども。

原因を聞いただけで終わってしまうと、その原因がわかっても、同じ問題が繰り返されてしまうことは多々あるなぁと思っていて。改善策を聞きたいのであれば、問い方を変えなくてはならないと。つまり、何を問うかで私たちの思考が変わるんだということが言えるかと思います。

「問い」によって思考が変わり、思考が変わると行動も変わる

宮本:さて、私の話が長すぎるとみなさん退屈してしまうと思いますので、簡単なVTRをみなさんにご覧いただきたいなと想います。けっこう有名な動画なので、ご覧になったことがあるかもしれませんが、ちょっと一回ご覧になってください。

「白いチームのパスの数を数えてください」っていう問題ですね。白いチームには4名いますので、この4名のパスの数を数えてください。

ということで、答えは13でした。ただ、「ムーンウォークをしている熊は見つけられましたか?」という質問がありまして、いかがでしょうか? みなさん、12・13・14とかは数えられたと思いますが、ムーンウォークをする熊は見つけられましたでしょうか? ということでこれ、勝手に動画を巻き戻してくれますので、もう少しご覧になってください。

これはけっこう有名な動画なので、ご存じの方も多いかも知れません。初めてご覧になった方もきっといらっしゃるかと思うんですけど、ムーンウォークしている熊は見つけられましたでしょうか?何を試したかったかというと、何を問うかで思考が変わるってことですね。

一番最初に「白いチームのパスの数はいくつですか?」という質問があったんですけれども。そうすると、当然私たちはパスの数を数えるわけですが、仮にもしこの問いが違って、「熊は何秒後に登場しますか?」「女性から男性へのパスは何回ありましたか?」という問題が初めに出ていたら、みなさんはきっと「熊は何秒後に出るのかな?」と、数えるわけですが、その時にはきっともう、白いチームのパスの数は数えられないと思います。

ですから、繰り返しになるんですけれども、何を問うかで私たちの思考は変わるということですね。さらに言えば、思考が変われば行動が変わるということになります。

課題を前向きなエネルギーに変えるための「問い」のコツ

宮本:話は戻りますが、今、デザイン思考という思考法が普及してきましたが、デザイン思考では「How might We?」というフレーズがあるようです。日本語で言うと「どうすればできそうか?」。そんな問いですね。

デザイン思考では、そんな「How might We?」的な問いを持ちましょうと言われています。例えば、メーカーのエンジニアの方が「なぜうちの部からは新製品が生まれないのか? うちの会社からは生まれないのか?」、そんな問いを持ちがちだと思うんですけれども。

確かに、新製品が生まれない原因は追究できるかも知れないんですが、できない原因がわかっても、できないことはやっぱりできなかったりするんですよね。

それよりも問いの持ち方を変えて、「どうすれば新製品が生まれそうか?」という問いに変えたほうが前向きなエネルギーが生まれやすく、行動にも変わりやすい。そんなふうに思います。

アインシュタインも似たようなことを言っています。英語があまり得意でないので、日本語訳するとこんな感じかなって思うんですが。

「もし、私がある問題を解決するのに1時間を与えられ、しかもそれが解けるか解けないかで人生が変わるような大問題だとすると、はじめの55分間は、まず自分が適切な問いに答えようとしているのかどうかを確認することに費やすだろう。そして適切な問いさえ分かれば、その問題を私は5分以内に解くことができるだろう」というふうに言っています。

「その場しのぎの解決策」しか生まれない理由

宮本:アインシュタインが言っていることを、別のスライドで私なりにご説明させていただくと、こんなことかなと思いまして。

私はよく氷山を例にご説明をしているんですが、私たちの身の回りにはいろんな問題があるわけですが、やっぱり私たちは問題を見るとすぐ解決したくなるんですよね。

当然、火消しをする必要はあるんですが、時に解決策が対症療法にしかなっていないことが多くあって。問題を解決しても、また同じような問題が繰り返し発生することってあるかと思います。

大事なのは、そもそもこの問題を作り出している真の問題が何なのかっていう、根っこにある問題を発見すること。これが大事なのかなと思っていまして、アインシュタインが言っていることもそういうことかなと思います。

とある問題を与えられて、それが本当に人生を変えるかもしれない大きな問題だったとすると、まずいきなり問題を解決するのではなくて、まずは55分かけて真の問題を発見するための適切な問いを探すと彼は言っています。この真の問題さえ55分かけて発見できれば、根本治療は5分でできると言っています。

例えば私は今、小学校2年生の息子がいて。しばらく前ですけれども、季節の変わり目もあって「お腹が痛い」って言い出したわけです。

それに対しては、薬を飲むという解決策が必要になるんですけれども。ただ、そもそも何が原因で腹痛が起こっているのか。季節の変わり目で腹を出して寝ていたのが原因なのか。ないしは、昨日悪いものを食べたのが原因でそういう問題が起こっているのか、心身的なストレスが原因で起こっているのか。

この「お腹が痛い」という事象を作り出している本当の問題は何なのか、これが根本的に発見できないと、やっぱり正露丸を飲んでも一時しのぎにしかならないということですね。

さらにアインシュタインいわく、この問題の発見に何が必要かっていうと、適切な問いを持つことが大事なんだと言っています。

「解決能力」よりも「問題発見能力」が問われる現代社会

宮本:「問題発見」というお話があったので、また書籍からの引用になるんですけれども。山口周さんが書かれたこの本()は、私にとってすごくカルチャーショックがあって。

冒頭にこんなお話があったんです。昔というか、高度経済成長期のようなあの頃をイメージしていただくと、私たちの身の回りにはたくさんの「問題」があって、それを「解決」することでビジネスが成り立っていたわけです。

かつての時代はいろいろと不便が多かったり、問題が多かったりする一方で、それを解決する能力が足りていなかったので、解決能力があることに価値があったと言っています。

ただ、これからの時代は、実は私たちの身の回りのことってだいぶいろんな問題が解消されているというか。もちろん、コロナみたいなまだ解決できていない問題もあるんですが、本当に生活も豊かになって、そんなに不便を感じなくなってきた時代になりました。

ある意味「問題」は減っているんですが、一方、解決能力は本当にいろんなプレイヤーがいろんな解決能力を持っていると。解決策がもう過剰に飽和してしまっていると言うことです。

だから、むしろ今は「問題」が希少で、「問題」を発見することにすごく価値があるんだと。本当に解決すべき問題がなんなのかという、問題を発見することにすごく価値があるんだと山口さんはおっしゃっていて、私もとても同意しました。

問いの力を職場で活用する「質問会議」

宮本:繰り返しになりますが、そんな真の「問題」を発見するのに適切な「問い」が大事なんだということを、アインシュタインしかり、ピーター・ドラッカーも言っています。

いいお時間になってきてしまっているんですが、問いを使って職場でどんなふうに活用していけるのかを、もう少しだけお話できたらなと思います。少し当社のご案内にもなってしまうんですが、私たちはお客さんと「質問会議」という会議をよく実施しています。

質問会議をご存じの方もいらっしゃるかも知れませんし、初耳の方も多いかと思うんですけれども、この会議の特徴は、読んで字の如くなんですが、質問縛りで会議しましょうということです。

例えば、職場で起こっている問題があって、通常であれば、「じゃあこうしたら良いじゃないか」とか「私だったらこうするよ」っていう、意見やアドバイスをしていくのがふだんの会議だと思うんですが、「質問会議」がおもしろいのは、こういった意見やアドバイスはいったんNGで、質問だけするというやり方で会議をやっていきます。

意見やアドバイスではなく、発言していいのは「質問」だけ

宮本:イメージがあったほうがわかりやすいと思いますので、こんなスライドでご案内できたらと思います。まず、問題を抱えた方を「クライアント」と呼んで、それ以外の方はみんな「コーチ」になっていただきます。

コーチングというと通常1対1でクライアントとコーチに分かれるのですが、この質問会議の場合は、それをチームで取り組むようなイメージです。

例えば、とあるマネージャーのXさんが、こんな問題意識を持っていました。ご自身の部下のYくんが、最近どうもやる気がないんじゃないかと。テレワークで「なんかあいつ、ひょっとしたらサボってるんじゃないか?」と。

仮にXさんが、Yくんの目標達成に対する意識が低いことに問題意識を持っていた時に、通常の会議であれば「だったらXさん。こうしたら良いじゃないですか」「私だったらこうしますよ」という、意見やアドバイスをするわけですけれども。

この会議の場合は、質問縛りというルールがありますので、意見やアドバイスではなくて「質問だけする」といういうことですね。

例えばですが、Aさんから「Yくんって以前からモチベーションが低いですか?」という質問が飛んできたりすると、Xさんの方で「あ、そうか」と、考えるんですね。たしかに、入社した時はすごく元気よかったなと。「うちのチームに来てから元気ないな」「ひょっとしたら俺、なんかしたかな?」とか、ちょっと考えるきっかけができたり。

過去を振り返りながら、目の前の問題を再定義

宮本:また、別のコーチから「もし学生時代の恩師だったら、こういう時ってどうしましたか?」という質問があったりすると、「高校の時のあの野球部の顧問だったら、まず話を聞いてくれたかな」「いきなりぶん殴られたかな」とかですね。そのように、自分とは違う視点がここでまた生まれてきたり。

また、別のメンバーから「Xさん自身は高校生の頃、どんな目標を持っていましたか?」、そんな過去を振り返るような質問がくると、「そうだなぁ、甲子園目指していたんだ」と。

その後、「その目標って与えられたものですか?」「自ら設定したんですか?」という質問をされると、「別に、親に甲子園に行けって言われたわけじゃなくて、自分が行きたいって思ったから」という。

そんな過去を振り返りながら、また「目標とノルマってどう違うんですか?」みたいな質問がくると、Xさんの中でふと思うわけですね。「そもそも目標が目標として機能してないんじゃないかな?」「Yくんにとって目標が目指すものになってないんじゃないかな?」と、問題に対する見方が少し変わるんですね。

それを「問題の再定義」と呼んでいるですが、当初はYくんのやる気のないことが問題だと思っていたんですが、よくよく考えると、そもそも自分がYくんに対して目標の意味付けができていなかったことが問題なんじゃないか? というふうに、問題の捉え直しができます。

メンバーへ問いかけが、上司と部下の関係性を変える

宮本:つまり、これは先ほどの氷山でいうところの「表面的な問題」がまずあったんですが、いきなり解決策を考えるのではなくて、まずは質問や問いを通じて、本当の問題が何なのかを発見していく。それを問題の再定義と呼んでいるんですが、いわゆるYくんに対して意味付けができているかという真の問題、氷山でいう根っこの部分ですね。

ここの部分が発見できたら、あとはこの問題に対して解決策を描いていく、行動計画に落としていくということを、およそ1時間ぐらいかけながら会議をしていきます。

そんなことをやりながら、およそ月に1回ずつチームメンバーで集まっていただいて、職場で起こっている現実の問題をテーマに、みなさんで質問を出し合う。それで問題を再定義して、行動計画に落としたら、一回職場に持ち帰って実行していただく。ここにけっこう重きを置いています。

セッションで問題発見したら、今度は職場で問題解決していただく。問題を発見して、問題解決をぐるぐる繰り返す。また、そのプロセスを通じて、自分自身の問題ではなくて、チームメンバーが抱えている問題に対して、意見やアドバイスではなく質問や問いかけをしていく。そういう支援的な関わり方をしていきながら、この支援型リーダーシップを開発しています。

もう少しスライドを用意していましたが、いいお時間になってしまったので、ちょっと割愛させていただきます。基本的には「質問会議」というかたちでなくても、メンバーに対してどんどん問いかけていただくことが、結果的に問題発見につながったり、上司の部下に対する関わり方が変わっていく。支援型リーダーシップの開発になろうかと思います。

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