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平井卓也氏(全3記事)

日本企業のリーダーがやるべきことは、DXではなく権限委譲 平井大臣がデジタル庁で“若手の登用”に注力する理由

各業界のトップランナーたちが、困難や壁を「どう乗り越えてきたか?」を語るイベント「Climbers 2021 」 。Climber(= 挑戦者)は、何を目指し、何を糧にいくつもの壁に挑戦し続けることができたのか。単なるビジネスの成功事例やTipsではなく、彼らを突き動かすマインドや感情を探り、進み続ける力を本質から思考します。本記事では、デジタル改革担当大臣平井卓也氏とSansan塩見賢治氏によるセッションをお届けします。デジタル庁の今までにはない組織の在り方や、日本企業のリーダーが取り組むべきことについて語られました。

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「選挙を甘く見ていた」最初の落選

塩見賢治氏(以下、塩見):(平井大臣は)民間企業でもご活躍されていて、すごく順調だったと思うんですけれども、最終的に政治家になろうとキャリアを変えられたきっかけを教えてください。

平井卓也氏(以下、平井):それまでは、わりと思ったことをどんどんうまくやれていたので、政治の世界でも一気にうまくやれるんじゃないかと思って出たのが、甘かったですね。

塩見:なるほど。甘かったというと、どういったところで感じましたか? 

平井:やはり選挙を甘く見てました。正直に言って、私は有権者が1票を入れたくなるような人物ではなかったと思います。確かにあまり挫折も知らないし、苦労もしてないだろうし。そういう中で思いだけをしゃべってもだめで、落選は相当大きなダメージでしたね。

塩見:1回目は落選されたんですね。

平井:その時は、もう仕事を辞めてましたからね。退路を断って政界に行ったものの落選しちゃって、どうしようとなったんです。

塩見:なるほど。じゃあその後の次の選挙までの4年間は、どういったかたちで過ごされていたんですか。

平井:地元を1軒1軒、ピンポンピンポンと全部の家を訪ねて歩きました。今はもうできないですけど、全戸を歩いて回ったんです。それがベースですね。

塩見:なるほど。もう徹底的にご準備された感じですね。

平井:「私をどうしたら応援してくれますか」と、ずっと聞いて歩いたんですね。

塩見:なるほど。ご経歴だけお聞きすると、すごく順風満帆で政治活動に入られたのかなと思ったんですけど、それはすごく意外ですね。

平井:その4年間は運動靴で歩いてたんですけれども、すり減っちゃって、何足なくなったかわからないです。

いつまで経っても不安がつきまとう選挙の「不確実性」

塩見:ちなみに選挙以外で、これまで「これは苦しかったな」ということはありますか。

平井:選挙の苦しさに比べると、他のものはなんとか。

塩見:そうですか。(笑)

平井:要するに、つらい時期はそんなに長くは続かないという過去の経験があって。必ず一生懸命やっていれば、どんな問題も時間で解決できると思うんですよ。ところが、この選挙だけはいつまで経っても不安がつきまとう。突き詰めると、なんの確約もないんですよ。

私の「確実な1票」って、自分で入れる1票だけですよ。うちのかみさんだって、怒ったら私に入れないかもわからない。疑いだすと、結局何十万票という票は、最後の最後まで確信が持てないんですね。そういうものって他にないですよね。

今の時代は、100年に1回あるかないかの大変革期

塩見:なるほど。そういった不確実なものに進んでいく中で、実際に平井さん自身が、どう目標を捉えて、指針にされているのか教えてください。

平井:やはり期待してもらうためには、私自身を信頼してもらうことが1つと。そして、やろうとしてることを、わかりやすく説明しようと。政治家になることは手段であって、目的は国をよくすることと思っているので。

正直言って、このままずっとずるずるいっちゃうと、日本の未来はあまり楽しい、ワクワクするような未来じゃないじゃないですか。デジタル庁はそこを変えたいんですよ。今の延長線上で、改善、改善で作る社会ではなくて、デジタルをフルに実装したら、こんな社会になるんじゃないかと逆算して政策を進めたいと。

今までのやり方を見直すというのは、そういう意味です。こうなるためにはどういうやり方がいいのか、民間のみなさんとか若い官僚のみなさんと一緒に考えて、社会実装をしていくのがデジタル庁です。

塩見:なるほど。今は、どれくらいの未来を予測されていますか。

平井:少なくとも10年先ですね。今の時代は、まさに100年に1回の変革期だと思うんですよ。これは、なかなかないですよ。今から100年前というと、大正10年(1921年)ぐらいになるんですよね。あの頃も震災(※1923年の関東大震災)があったり、第1次世界大戦が終わったり(1918年)、普通選挙が初めて始まったり(※1925年の満25才以上男子による普通選挙を規定する法律の公布)、大改革だったんですけど。

今回のコロナを見てると、世界中がワクチンを打って、経済がこれだけ疲弊して、おそらく研究開発も10倍ぐらいのスピードで進んでいるんですよね。このmRNAワクチンをこんなに短期間で作るなんて信じられないですよ。

そんなことを考えると、イノベーションのスピードは上がった。ビジネスモデルもみなさんが一気に見直し始めたとなると、まさに100年に1回あるかないかの大変革なので、大きなチャンスがあるなと。若い人は、これからのチャンスをどう活かすかだと思います。

霞ヶ関の縦割り組織ではない、デジタル庁のフラットな組織

塩見:平井さんはその司令塔たるデジタル庁を初めて作られるわけですけれども。どれぐらいの規模感で、どういった方を登用されようとしていますか? 

平井:とりあえず500人の規模で、120人ぐらいが民間の方で。あとは各省、役所の中から若い人を中心に集める。官民融合体なんですね。

塩見:なるほど。

平井:今までの役所と違うのは、ヒエラルキーを作らないので。局長とか課長とかいうポストをなくしちゃうんです。民間と官僚が一緒にやった時に、今までのやり方は官僚の下で民間が仕事をするかたちだったんですよ。

そうじゃなくて、もう完全なフラットな組織にして。その代わりに、上のマネジメントをする連中は、みなさんが「おぉ!」となるような民間の人たちをアサインしようと思っています。

塩見:1つずつプロジェクトが立っていくようなイメージですか。

平井:そうです。縦割りじゃなくて、このプロジェクトに対してはこのチーム。霞ヶ関は隣の席でやっている仕事を知らないんですよ。引き継ぎがない。要するに、みんなが縦割りで抱え込んでいる仕事を、全部ぐちゃぐちゃにしちゃって、フラットな意見交換ができて、あとは責任者が決断をしやすいという組織にしようと。霞ヶ関の組織ではないです。

塩見:なるほど。ちなみに今ご覧いただいている視聴者の方で、我こそはと思ってる方も、実はけっこういらっしゃるんじゃないかなと。

平井:ぜひ。

塩見:私も実は、ちょっといいなぁと思いますけど。

平井:ぜひ来てくださいよ。非常勤でも副業でもOKですし、出入り自由ですから。ただ、いる間の守秘義務とかはきっちり守っていただく。今はちょうど公務員試験の最中なんですけど、デジタル庁は一番人気なんですよ。

塩見:そうなんですか。

平井:ありがたいことに。昨日も学生のみなさんとお話しさせていただいたんですけど、非常に関心を持ってもらっていて。次の世代の人たちが、「日本は元気にできるな」って思ってもらえるような基盤を作るのが、僕の仕事だと思っているので。

塩見:名刺交換をデジタル化しようという構想がもしあれば、ぜひお呼びいただければと思います(笑)。

「失敗しちゃいけない」ではなく「失敗から学ぶ」

塩見:ありがとうございます。事前に、平井さんとふだんご一緒されている職員の方々から、「平井さんってどんな方ですか?」とお聞きしているんです。簡単にご紹介させていただくと、「平井さんは大臣という本当に偉い役職でありながら、本当に心の距離が近い」というご意見や、「いつも親身になって対応してくれる、よき大臣というか、リーダーというイメージです」というお声がすごく多かったんです。

先ほど「若手を大切にします」というお話もありましたが、なにか組織をまとめるうえで意識していることだったり、先頭に立つ者としての心構えみたいなものはありますか? 

平井:俗に言う「大臣が偉い」って、まず私自身がそう思っていないです。今回のデジタル庁準備室で自ら室長を買って出たのは、結局「大臣」じゃないんだぞ、と。「大臣」というポストは責任を取るためのポストであって、物事を進める時には、(現場に近い)「室長」の立場のほうがいいだろうと思ったんです。

そうじゃないと、こう言ったら大臣はどうだこうだと、いろんな情報とか報告にバイアスがかかる。やはりそれが組織がつまずく原因だと思いますね。だから言いにくいことを、私に言いやすいようにしようと。

もう一切、どんな話でも、嫌な話をどんどんしてくれても、全部をにこにこ聞いています。もう1つは、やっぱり失敗を恐れるのが、普通の役所です。役所は失敗しても認めない。要するに失敗しちゃいけない。そこを変えようと。チャレンジして失敗したら、失敗から学ぶということでいいじゃないと。

その代わり、すばやく小さく失敗しようよと。それで失敗した責任は大臣が取ると。それが大臣のポストだと、そう使い分けてやっています。

日本企業のリーダーがやるべきは、次の世代への権限委譲

塩見:なるほど。すごいですね。先ほどの職員の方からも、「平井さんご自身が前のめりになって知識を吸収されるし、なんなら自分たちよりもよく知っているから、逆に緊張感を持って仕事ができる」という話がありました。

そういった熱血サラリーマンみたいなマインドは、それこそ民間でのご経験がすごく大事じゃないですか。

平井:そうだと思います。今の日本の企業のリーダーがやるべきことは、DX、DXって言うのではなくて、本当は次の時代を担う人材をできるだけ早く引き上げることだと思います。

私も考えているのが、次の時代を牽引してくれる人たちを、どうやって世の中に出していくか。そうじゃないと、昔流の既成概念が邪魔になると思うんですよ。やはり新しいことにチャレンジするためには、これからの経営者はある程度テクノロジーに対する本当の理解が必要だと思いますし。あとは思い切った権限委譲ができるかどうか。

塩見:若手への権限委譲ですね。

平井:ええ、そうです。それをどんどんやるべきだと思う。今までしばらくの間、もう権限はいらない、偉くなって管理職になりたくないという若手が多かったんですよね。

塩見:はい。そうですね。

平井:そうではなくて、おもしろそうなことを、リーダーとして引っ張っていきたいという人たち。今のスタートアップなんかを見てても、不思議となにかをやろうというおもしろい人材が集まるんですよね。

そういうフォーメーションがやっぱり必要だろうと思うので、デジタル庁も仕事はとことん楽しくやろうと。

塩見:なるほど。羨ましいですね。聞いていて、ワクワクしますね。

平井:ぜひ、どうぞ。いつでも出入り自由な役所ですから(笑)。

塩見:いえいえ、とんでもないです。

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