2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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伊藤羊一氏(以下、伊藤):ここに来てわかったのは、「1on1をずっとやっていたから、一人ひとりの緩いつながりが生まれて、コミュニティになっていく」とよく言いますけど、それが会社の中でできあがっていた感はありますよね。
だから会社がどうなろうが、1対1の組織の中での関係を作るところは、7年ぐらい1on1をやっていたので、すでにできていたのがありますよね。
岡島悦子氏(以下、岡島):アカツキもきっとそうですよね。一人ひとりのマチュリティ(成熟度)を育てるために、1on1をやったり、問いかけみたいなところをしていた。
塩田元規氏(以下、塩田):はい。あとはやっぱり組織ってすぐにはできないんで。「成熟しよう」と言ったって、明日すぐに人間は成熟するわけではないじゃないですか(笑)。
逆に言うと、成熟しやすい環境としての1on1とか、メタ認知しやすいサポートをすることはもちろんですが、アカツキはこの3年ぐらいで若いメンバーが事業としての起承転結してくれたり、ビジネスとして自分で何かをスタートして、失敗したり成功したりしたことを受け取り直して結果を得ていた。
そのサイクルを小さくてもいいのでどれだけ回せたか。サイクルを回す中にサポートが入っていたから成長したのもありますね。
3年前とかは正直、自律分散はぜんぜんできていなくて。むしろ、僕のほうを向いて働いている人が多かったと思うので。逆に3年間振り切ってチャレンジしてみて、やっと可視化されてきた感覚ですけどね。3年ぐらい掛かるかなという感覚は僕の中にはありましたけど。
伊藤:ビフォーアフターで何を一番意識した結果、そこを変えられたんですか? 結果的に、自律分散になったと思うんですけど。何かコミットすることにエネルギーを注いだとか、1on1という仕組みをとにかく徹底したとか。
塩田:3年前に一番大きく決めたことは、「この会社が生態系のようなメタファーで動いていく」というメッセージでした。そうすることによって、一人ひとりが自分の事業、自分の人生に対してコミットして責任を取る当事者意識を持つということ。最後に経営者が責任を取るんじゃないよという(笑)。
もちろん経営者も責任を取るんだけれど。逆にアカツキは場だから、アカツキに事業を当てに来なくてもいいよって。だから好きにしていいよという表現は言い過ぎですが、「本当にいいと思ったことをチャレンジしてみて」ということで、経営陣として2~3年間の新規事業を含めた事業の失敗を許容したという感じです。
この2~3年は、新しい事業が生まれること。そのチャレンジの成功確率はむちゃくちゃ低くなると会社としては読んでいて、失敗するとほぼわかっているけど、それでもいいからやらせることを続けてきた。
ただ、失敗した後にアカツキでいう“問い”があって。事業をやった時の結果として、田端さんがさっき言ったインフォメーションとエモーションに近いんですけれども、「なんで成功したのか、失敗したのか」というロジカルな分析の問いと、「どう自分の感情が動いたか」という感情の問いかけを、組織の中で振り返りできるように、可能な限り調整したと思います。
その結果、いろんなチャレンジに失敗して「やっと言っていることがわかりました」という感じです(笑)。
岡島:私も丸井(マルイ)で見ていると、5,200人もいる組織であり、もともと小売業ということもあって、自律分散型の文化浸透に10年ぐらい掛かっていますね。
ただ、今は気持ち悪いぐらいにみんなが自律分散型で、サスティナブル経営みたいなものを言っている。
「b8ta(ベータ:最新のガジェットなどを扱う体験型店舗)」を新宿マルイ本館に入れたり、売らない店になっていくところができていて、どんどん動いているんですけども、やっぱり時間がかかる。
丸井がずっとやってきたことは、中期経営計画会議みたいなものをみんなで作ることなんですけど、プロジェクト型の施策がものすごく走っていて。縦割りの組織形態がすごく強いのもあるんですけど、そこを崩したり若手を抜擢するために、プロジェクトをがんがん走らせている。
そういうところに手を上げてきた人たちが、どんどん抜擢されていく仕組みになって、会社がすごく良くなったという感じはあります。そう考えると私は、「リアルの場が必要だな」と考えているんですけども。
伊藤:丸井の5,200人の自律分散型へのシフトにあたって、社員として「これを実現するんだ」とか「ここに行くんだ」というビジョンとかミッションとか、「丸井としてこうなんだ」みたいなものはみんな共有していたんですか?
岡島:そうですね。最初から共有していたわけではなくて、代表の青井(浩)さんが『VISION BOOK 2050』という2050年の世界観みたいなものを作り、それを解釈することはしました。それを作る過程にもいろんな種類の人たちが巻き込まれていって。
つい最近まで丸井の社長をやっていた49歳の青木(正久)さんは、最初グループの物流企業「Moving」のトラック運転手で採用されて、その人が社長になったことから考えても、かなりインクルーシブで、雑多な異能な人たちが入っている会社に変わってきている。
伊藤:なるほど。なんでお伺いしたかというと、ヤフーがどう変わっていったかを振り返ってみると、宮坂(学)体制になって「才能と情熱を解き放つ」ことを標榜したんですよ。
「好きにやっていいよ」となり、みんな「解放された~」という感じになって。最初はすごく喜んでいたんですけど、途中からだるくなってきて。僕が入った頃はぬるい感じになっていたんです。その時は自律分散型というより、なんか「ぼえーっ」という印象になっていた。
それが変わったきっかけが、やっぱり川邊体制になってからです。川邊はかなり明確にドーンとビジョンを打ち出したんですよ。要するに「これをやるんだ!」と誤解を恐れずに宣言して、みんなが「そうなんだ」と思うようになった。
だからある意味、強力なリーダーシップで引っ張ろうとして、それに慣れてきた時にコロナになって、ようやくみんなが「こういうことか!」ってわかった感があるんです。
だから、「自律分散型にしよう」と思ってなるんじゃなくて、たぶん塩田さんがやられていたように、むちゃくちゃ強力な「これをやるんだ」ということを決める。すると、結果として自律分散型になっているし、丸井さんもそういうことなんだろうと。
岡島:そういう意味で、オンラインでできないことが何かというと、「リアルの価値みたいなもの」ですよね。特にコミュニケーションなんかでいうと。
田端信太郎氏(以下、田端):自律分散なので、まさしくリアルの価値ではあるんですけど、社員の報酬や承認欲求の増やし方を考えた時に、金銭で報いるのはフルリモートの関係でもぜんぜんできる。でも、金銭以外のモチベーションのレバーをどうやってフルリモートの環境で作るか。
わかりやすく言うと、部下が増えて課長席になったら肘掛けがついていたり、外資系の人とかは偉くなると個室が広くなっていったり、高級車がついたり、秘書がついたりってあるじゃないですか。今は出張もなくなったけど、当然ある程度以上になったらビジネスクラスに乗れるとか。
そういう部分が今ほとんどなくなったと思うんですよね。僕ですら全部キャッシュでもらえるのは、それはそれで少しはうれしいと言うか。自律分散型の典型で、うまくいくと部署数が増えていって事業部長になるとか。あるいは本社に出る時に、もう事業部門ごとオフィスを好きに選べるとか。そういう一国一城の主感というのは、正直人間の承認欲求としてある。
例えばネットベンチャーだと、サイバーエージェントの達成会はその典型ですけど、ホテルのボールルームを貸し切って「ワー」ってやったり。
人間が生き物である以上、承認欲求というリアルな場面で感じられる部分をスパッと落とすと、実はもうキャッシュしか残っていない、振り込まれた金額しか残っていないとか。
岡島:うーん。
田端:それはそれで半分ぐらいはあると思うんですけど、それしかないのはどうなのよと。1つの解として、僕がオンラインサロンで試しているのは、イケてるメンバーを僕のTwitterで褒める。公式オウンドメディアを立てて、そこの記事でも褒める。そうやって、ネット上のプレゼンスを上げてあげることなどがあるとは思います。
普通の会社で金銭以外の報酬をどうやってフルリモートの環境で与えるのかは、まだ素朴にどうしたらいいのかと……。
岡島:「表彰系とかはリアルでやりたいな」とはみなさんよく言っていますね。
澤円氏(以下、澤):マイクロソフトもやっぱりそうで。さっきドライにやっているという話をしたんですけど、その一方で全世界から社員を集めて、その中でトップオブトップのパフォーマーを呼んで、3万人ぐらいいるスタジアムで表彰式があるんです。
ぶっちゃけ自慢なんですけど、僕も1回取ったことがあるんですけど(笑)。
岡島:すごい(笑)。
澤:社員10万人ぐらいの中で10人ぐらい選ばれて、日本人は僕1人だけなんですけど、それを取ったことがあって。やっぱりすごい体験なんですよね。
やっぱりしんどいビジネスをやっている時は、それを沸かすセレモニーがあって、その前に会社のビジョンやミッションをトップの人間が語ると、その場の興奮にはすごく威力があって。スタジアムだからCEOのサティア・ナデラの姿は1~2センチほどなんですけどね。
岡島:それがライブの良さみたいなもの?
澤:そうそう。それを綿密に組み上げてやっていたのが7月なんですよ。会計年度が7月からなんで。今年初めてそれがなくなった年なんです。だからどう変わるのか。オンラインではやったんだけど、いかんせん慣れていない役員もいて、もうズタボロの状態でプレゼンをした役員も何人かいたらしいです。僕ちゃんと見ていないんですけど。
そうなると、どれぐらいコミットメントのレベルが変化するかはちょっと見物だなとは思っているんです。
岡島:あと、事業を加速するリアルの場という意味で言うと、イノベーションの偶発やハプニングみたいな。ランチや飲みの場で、たまたま組になったとか偶発性みたいなものが、新しいものを生んでいくんじゃないかと思っていて。そういうものはどうしたら作れるのか? みなさんに伺いたいんですけれども。
田端:リアルに戻れば作れるとは思うんですけど、それはもうしょうがないのかなと思っていて。1つの解としては、さっきの達成会とかでいうと、フォートナイトでライブのイベント体験は目からうろこが落ちて。本当にフェスっぽいんですよね。
澤:うんうん。
田端:なんか遠くから音が聞こえてきて、「ちょっとアーティスト変わったからそろそろ行こうぜ」って友だちとしゃべりながら行くみたい。そしたら道に迷って「やべぇ、始まるまでに間に合わない」とか。
岡島:(笑)。
田端:ゲーム内で向こうから歩いてきた人とばったり会うことも含めて、本当に単純にiTunesの曲とか聞いているのとはぜんぜん違うフェスっぽい感じがあったりする。
もしかしたらゲームのほうがそういう偶発性があるかもと思いましたね。もちろん、どうやってオンラインに詰め込むかという意味では、経験値が必要だとは思いますが。
岡島:塩田さんはどうですか? ゲームのプロだと思うんですけど。
塩田:正直言うと、うちのメンバーはゲームの中でコミュニケーションを取っていることが多いと思うんですね。
今のゲームの世界ってまさにそう。ただゲームをプレイして遊ぶより、その中でいろんな人がいろんな表現をしながら、偶発性もありながらコミュニケーションを取っていくツールというか。サービスとしてのゲームという世界になってきている。
それを利用するのはめちゃくちゃパワフルだと思いますね。たぶんうちでも「このゲームやろうぜ」とか、そういうコミュニケーションがSlackで立ち上がっていたりとか、オンラインでやれる遊びみたいなもので集まって話しているのはけっこう多いです。「実際、雑談しようよ!」と言われても雑談できないじゃないですか(笑)。
澤:技がいるね(笑)。
塩田:結局、何か一緒に遊ぶとか、一緒の場にいるとか。そういうことが必要だから、そのコンテンツをフックにしてコミュニケーションを取ることだと思うんですよね。
田端:だから、接待会食だったら無理にZoomでオンライン飲み会するよりも、一緒にゲームしたほうがいいかなと。
塩田:そうそう(笑)。
岡島:なるほど。何か共に体験することがいいんですかね。
塩田:実は先月に役員の中で「ゲームの価値ってなんなの?」というのを深掘ってたんです。
オンラインでコミュニケーションが取れなくなった時に、ゲームを介して一緒に遊べたり。さっき田端さんがフォートナイトをお子さんとやっている話があったと思うんですけど、そういうのをやっていないと何の話をしていいかわからない(笑)。
親子の世代間もそうだと思うんですけど、一緒のゲームをやっていると会話が通じるっていうのはむちゃくちゃあると思う。
岡島:確かに。なんか教えられるみたいな。
塩田:真ん中に何かを置くという考え方でコミュニケーションを作ったほうが、いいのかなと思いますけどね。
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