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【オムロン㈱ 竹林インキュベーションセンタ長講演】イノベーションとハレーション ~新規テーマ設定と社内説得のコツ~ Q&Aパート(全3記事)

1200年の西陣織の歴史を支えた縦糸 事業の根幹になる「ぶれない軸」の作り方

企業所属のイノベーター1,100人が集う、事業創造プラットホーム「からやぶり道場」が主催する、「オムロン株式会社 竹林インキュベーションセンタ長講演 イノベーションとハレーション ~新規テーマ設定と社内説得のコツ~」が開催されました。本パートでは竹林一氏が、自社の事業の根幹となる「軸」を創り出すための考え方をアドバイスしました。

マネジメント層は若手のアイデアをどう見極めればいいのか?

南形潔賜氏(以下、南形):板谷さん、あとは質問者の方はいらっしゃいますか?

板谷友香里氏(以下、板谷):ガス会社のBさんとCさん。Cさんは音声がダメかもしれないので、チャットでご質問をお寄せください。それではガス会社のBさん、お願いします。

質問者B:今日は本当に勉強になりました。ありがとうございました。ガス会社のBと申します。

竹林一氏(以下、竹林):ありがとうございました。ベタベタな話で(笑)。

質問者B:典型的な武士の会社で、エネルギー供給を通して人々の安全を守る会社ではあるんですけれども、まさに卒業生の方の中には、イノベーションを起こせるような人材もいまして。

今日もちょうど入社1年目の若手が僕のところに、「新しい旅に関する新規事業を立ち上げたいんだ」と熱意を持って来てくれたんですね。そういうところで最近悩んでいるのが、ストーリーや思いを判定するマネジメント層の我々が、定性的なんだけれどもセンスがあるかないかを判断することはすごく難しいなと思っていて。

悩んじゃうと「定量的なデータを持ってきて」と言っちゃうんですね。その若い子たちが熱い思いを持ってきてくれる複数のアイデアが、本当にセンスがいいかどうかを課長、部長クラスがどう見極めるのか。

もしくは、見極めないと若手も仕事があふれてしまって大変になっちゃうので。抽象的な質問なんですけれども、その辺で意見があればお聞きしたいなと思うんですけれども。お願いします。

「軸づくり」は必ず自社でやるべき事業の根幹

竹林:僕がずっとやってきた中で大事だと思うものは、やはり軸なんですよね。

アイデアA、B、Cを単発で持ってこられたって、僕も判断はようせんです。彼が言うてる軸が何かを徹底的に一緒に考えてあげるか、アドバイスしてあげるか。成功するかどうかわからへんし、別に数字だけやったらExcelいじったらなんぼでも売り上げ上がったりするんです。腹に落ちひんだけで。

腹に落ちるまで軸を考えられるかどうかですよね。それができないなら当初は外部から軸を考えられる第三者を入れるかどうか。その時に僕がおもろいなと思うのは、軸ってなんやと言うとキャッチコピーと一緒なんですよ。

だから、キャッチコピーを考えられるような人を入れる。単なるコンサルを入れると、コンサルは転結の転やから、事実の分析とかはしてくれるんです。ところが軸は創らない。この軸を創るというのは会社や事業の根幹なので我々でやらねばなりません。

だから、どっちかというとデザイナーやアート思考の人を入れることによって、「その人が言うてる軸はなんや」ということをきっちり見極めていって、「そういう軸を持った事業をしますか」というところを握らないと、もしOKと言われて3億円の事業が立ち上がったらどうします? 3億円の事業が10個バラバラに立ち上がって、成功したと言えますか?

でも、軸がはっきりしていると「お前が言うてるこのアイデアと、他のやつが言うてるこのアイデアって掛け算できるやないか」というアドバイスができるわけです。あるいは「こんな軸で考えているから、この軸上でおもろいアイデア持ってこい」と言わないと、バラバラのアイデアを持ってこられたら経営層もたまりませんし、そこに軸のマネジメントが必要になってくると思います。

質問者4:なるほどね。そこが課長、部長、役員クラスまで腹落ちというか、共通認識を持つことが大事なんですね。わかりました。ありがとうございます。

竹林:ありがとうございます。

起業家を活かすためのデザインが必要になる

南形:Bさん。今、Bさんが旗振り役となって、ガス会社でかたやぶり人材を採用されましたよね。

質問者B:そうですね。フリースタイル採用というものをしています。

南形:ガス会社ではどういう視点でかたやぶり人材を採用したか、ちょっとしーさんと会話してみなさんにお話されたらどうですか。

質問者B:なるほど。やはりさっき言ったように武士が多い会社で、もともとは体育会であったり、成績がいい子を採用していたんですけど、それではイノベーションが起きないということで、学生に自分の好きなことや思いを1時間で自由に語ってもらうプレゼンを開始したんですね。

それによって学生時代から新規事業を立ち上げているような学生も来てくれて、その子たちがまさにいろんなアイデアを出してくれているところではあるんですね。

ただ、マネジメント層がそれをちゃんと、それこそ軸作りから一緒にやってあげられる体制まではまだできていないので、今のような質問をさせてもらったということです。

竹林:それも組織のデザインなんですよね。彼らを活かすためのデザインってなんやという、起業家としてと起業家が活かすためのデザインがこれから必要になってくると思っていて。

僕が京大の客員教授としてやっているのが「100年続くベンチャーが生まれ育つ都を創る」ための研究と実践。前々回研究会に来ていただいたのが、京女(京都女子大学)の西尾久美子教授です。彼女が何をやっているかというと、京都の花街の研究をされているんですよ。

花街って舞妓ちゃんがいるんですね。中学を出てきた舞妓ちゃんが3年で一人前になっていくんですよね。その時に、周りのお茶屋さんの仕組みがどうなってんねんて言うのを研究されています。

普通の会社に入った人が、3年でここまでビジネスができるようになれるかというとなれないんですよね。450年の存続の仕組みとか、紆余曲折があった中でどうやって生き抜いてきたのか、その辺の組織運営の中に人材育成のヒントやエコシステムとしてのヒントがあるんですよね。

ビジネスを仕掛けるイノベーターと共に、組織やエコシステムと言う仕組みを創るイノベーターも重要になってくると思っています。イノベーター、どうやったらイノベーションが起こり続ける仕組みを作るのかというところを考えていかれると、彼らが活きてくる。その仕組みがないと今度はまた起承の人材は辞めていくんですよ。

質問者B:そうですね。

南形:ありがとうございます。

共感してくれるメンバーで“秘密結社”を作る

板谷:Cさんがチャットで質問を寄せてくださっています。「昨年のからやぶり道場でブロックチェーンの話をさせていだたきました。そこで『社内の課題を洗い出しては?』とフィードバックをいただき実践しています。共感する仲間は増えつつありますが、やはり既存事業からの視点でしか会話できないメンバーも存在します。前に進める上で、全員に理解してもらうのではなく、共感できるメンバーで進めてもよいのでしょうか。なにかコツはありますでしょうか」ということで。

竹林:共感できるメンバーで進めるほうが早いですよね。ブロックチェーンで気を付けておかなあかんのは、それは手段ですから、何を軸にすんねんということだけはきっちりしておいたほうがいいですね。

それが共感を生むキーワードであれば、共感できる方が集まってくるので。ある程度骨格が固まってきたところでオープンにしていく。共感できる人たちだけでやっている間が、僕が言っている“秘密結社”なんですよね。

そこには上下関係はたぶんないでしょうし、秘密結社でやっている間にビジネスモデルの軸を作っていくという話ですね。最後、ビジネスにする時は秘密結社ではできないんで、オープンするタイミングを見るというかたちのプロセスになると思います。がんばってください。

板谷:ありがとうございます。Cさん、声は聞こえないですかね。「そのとおりですね。秘密結社ですね。ありがとうございます」ということで、コメントを寄せてくれました。ありがとうございます。

経営層を説得するタイミングと言い方

南形:時間もまわっているので、メーカーのDさん、聞こえますか?

質問者D:聞こえます。

南形:今日は何人もご質問くださりありがとうございます。もともとDさんはしーさんから紹介をいただいたので、今日の話を聞かれて質問とか何かあればどうぞ。

質問者D:また改めて考え直させられることがあって、非常におもしろかったです。ありがとうございました。

竹林:ありがとうございます。

質問者D:やはり、我々の会社もすごく武士の会社で、なかなか上空から見てもアイデアから先行ってもぶちやぶることができなくて。やはりA、B、Cのアイデアになってしまって軸がないので、なかなか判断してもらえなくて進めないという状況がけっこう続いていて。軸作りというのは大切だなということを改めて感じました。

あと今、最初はいろんな志のある人間を集めて、共感を求めて1つのテーマを決めて、秘密結社のようなものを作ってやっているんですけれども、どのあたりにそれをオープンにするタイミングがあるのか。どういうふうにしたら役員の方々に納得していただけるのか、タイミングと言い方で悩んでいるところがありまして、その辺をアドバイスいただけたらなと思います。

竹林:それは企業によって風土が違うし、みんないろんなタイミングで考えていますよね。さっき言うたけど、あるところでは昼休みに外部の人を呼んでオンライン勉強会を開いて誰でも聞けるようにして、そこにも役員も入っている。その辺から徐々に徐々に行くというパターンもあるし。

ある会社では、社内システムがややこしくてZoomみたいなものが使えへんと。彼らが何をやったかというと、「もう会社関係なしにやる」というので、家のパソコンのZoomで外部の方々の話を聞くというものをやられてましたね。これは会社とは関係ない集まりで、会社のパソコンだとZoomを入れた瞬間に「なんやねん」と烈火のごとく怒られるんで。

質問者D:(笑)。

竹林:その時にちょっとわかってくれる役員たちも個人として参加されていました。

質問者D:(笑)。そうですか。別途いろいろとご相談させてもらっていますけども、ご支援、お力添えよろしくお願いいたします。

南形:ありがとうございます。

武士と忍者は両方必要

板谷:ガス会社のEさんから一言ということでお願いします。

質問者E:こんばんは。ご無沙汰しております。今日も楽しく聞かせていただきました。エフェクチュエーションの話もすごく新鮮でありがとうございました。

感想みたいになってしまうんですけれども、今、南形さんにもお世話になっていまして、ちょっとレベル感が違うんですけど、軸の話でご迷惑をおかけしてしまうような感じになって、自分がブレブレなのを今すごく自覚している感じなんですね。

確かに大きなレベルでもきちんと軸があって、それがあればエフェクチュエーションというやり方もできるんだなというふうに、今思いました。

竹林:そうです、そうです。

質問者E:最初に大きいところから置いたら何も進まないなと、ちょっと今思っていたりする中で、単発でたくさんあるものを、やはりそれはそれであってもいいかもしれないんですけれども、1つの軸としてあることで有機的な広がりみたいなものがあるんだよね、と毎回納得した感じでした。どうもありがとうございました。

竹林:今日の話でいうと2点あります。武士が悪いわけじゃなくて武士も必要なんですよ。忍者ばかりの会社はややこしいんですよ(笑)。忍者しかいないと、みんな会社におらんでというような。

忍者と城代家老のような人や城主。忍者と武士もコントロールする城主みたいな人がいるんですよね。要は、徳川家康はどちらもコントロールしていたわけですよ。御庭番と吉宗もそうやけど、御庭番と武士と両方をうまくコントロールしているから、情報と管理が回っていたんですよね。

武士が多いのは当たり前なんですけど、忍者ばかりいるとややこしいし、忍者対武士の対立構造にしてはいかんから、それを見てくれる事業部長がわかっているといいなということが1つ。

1200年の西陣織の歴史を支えた「縦糸の強さ」

竹林:もう1つは今の軸なんですけど、前回の京大の研究会は、西陣織の歴史が1200年続いている中で、320年続いている老舗の細尾さんというところの12代目当主が社長になられるので、来ていただいて。

西陣織がなぜ1200年続いているかというと、明確にわかったのが「縦糸がしっかりしているからや」と言わはったんですよ。それは軸と一緒で、だから横軸にいろいろなものが入れられると。縦がブレブレやったら横軸を入れてもちゃんとした織物にならへんと。

この前なんとレクサスに西陣織が採用されたんですよね。これはすごいことなんです。それがなぜできるかというと、縦軸が明確なので横軸のレクサスがやりたいこととぴったり合うんですね。

質問者E:なるほど。

竹林:僕はメッセージを出すときも軸が大切やなと思います。ありがとうございます。

質問者E:ありがとうございます。前回、この場所でしゃべらせてもらった時も、自分の軸が本当にフワーッとしていたなと、今すごく反省しています。ありがとうございます。

竹林:いえいえ。また生で(リアルでお話しましょう)。

質問者E:ぜひ、秘密結社も。

竹林:秘密結社も(笑)。

質問者E:ありがとうございました。

竹林・南形:ありがとうございました。

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