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セッション5「クリエイティブな仕事がしたい」のクリエイティブとは何なのか?(全5記事)

ブレないメッセージが熱狂的ファンを創り出す 企業や個人がスタンスを明確化していくことの大切さ

かつてない大きな変化を迎えている現代社会において、キャリアを考えるすべての人に向けたイベント「ONE CAREER SUPER LIVE」が開催されました。今回は、セッション5「『クリエイティブな仕事がしたい』のクリエイティブとは何なのか?」をお届けします。arca CEO/クリエイティブディレクター・辻愛沙子氏、グッドパッチ代表取締役社長/CEO・土屋尚史氏、新R25編集長・渡辺将基氏をスピーカーに迎え、ワンキャリア取締役 最高戦略責任者・北野唯我氏が登壇。本パートでは、クリエイティブであるために必要な考え方やスタンスについて語りました。

一番大事なことは、感情を見つめること

渡辺将基氏(以下、渡辺):北野さんの『転職の思考法』とかね。北野さんもクリエイターですけど、あの本は小説風といいますか、「どうやったら伝わるか」のアプローチを考えたわけじゃないですか。北野さんも話してくださいよ。

このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法

北野唯我氏(以下、北野):そうですね。僕は一応、作家的なところで活動もしておりまして。

渡辺:そうですよね。クリエイターじゃないですか。

北野:どちらかというとクリエイターなんですけれども、僕は感情を見つめることを一番大事にしているんです。

昔、寺田倉庫の中野さんという社長がいらっしゃって。寺田倉庫は、昔は本当にただの倉庫会社だったんですけれども、それをV字回復して、世界中からアートが集まる倉庫にしたんです。中野さんは世界的に有名なアートを集められている方なんですけど、「アートを買う理由は投機・投資じゃない」と言っていました。

「アートを見る意味というのは、赤ちゃんを見たときの感覚と一緒なんだ」と。「僕たちが赤ちゃんを見たときって、心がふわっと優しい気持ちになるでしょ」「それがアートなんだ」ということを言っていて。

僕は(本を書くときに)けっこう、「人間が原始的に持っている感情とはなんなのか」というところから掘り下げていくことが多いんですよ。

映画や映像の編集をしている人なら全員見ているような、世界的に有名な『映画の瞬き』という名著があります。その本に書かれているのが、映像を編集するときにもっとも重要なのは感情であると。感情がもう51パーセントで、ほぼ全部だと。

映画の瞬き[新装版] 映像編集という仕事

だから逆に言えば、ストーリーとか場所とか、あるいはデザイン(映像)の画質というのは副次的なものであって、一番重要なのは感情を見つめることなんだと言っていて。僕の本の作り方も、まさにそうですね。

情報を持っている人よりも、感情を揺さぶることができる人

渡辺:感情を動かすことがクリエイティブということですか? 

北野:いや、まずは感情を見つめるんですよ。一番書きたい感情とか、一番自分が表現したい感情はなんなのかということから入らないと、小手先だけの文章になっちゃうんですね。

土屋尚史氏(以下、土屋):これはいい問いだなと思っていて。やっぱり世の中のバイアスは感情の総和だと思うんです。感情は数値化できないので、それをどう捉えますかという話なんですよ。

北野:なるほど。禅問答みたいな問いがきましたけど、みなさんは感情の捉え方、どうされていますか? 

渡辺:「捉え方」と言われると難しいんですけど、情報自体がもう大量にあって足りているので、我々メディアは、感情を動かすことが一番大事だと思っているんですよ。感情を動かせれば、勝手に必要な情報にはたどり着いてくれると思っているので。だから、社内でKPI設計をするときも、感情が動かないと達成できないような数字を追っているんですよ。

北野:おもしろい! どういうものですか? 

渡辺:例えばTwitterのシェア数とか。単純な記事のPVよりも、どれだけどういう声で拡散されたかを重要なKPIにして追っているんですよ。だから、感情を捉えるというのはすごく共感しますね。

北野:そうですね。読んだ後に「この記事、めっちゃよかった!」というのは、まさに感情が動いているということですよね。

渡辺:そうです、そうです。

北野:みんなに知ってほしいということですよね。

渡辺:だから今の世の中では、個人でも情報を持っている人じゃなくて、感情を揺さぶれる人が目立っていますよね。

北野:確かにね。どうですか? 

自分が大事にしているものを、明確に言語化していく

辻愛沙子氏(以下、辻):言い換えていくと熱量みたいなものなのかな、と思いながら伺っていました。さっきいただいた問いで、「企業はどういうふうにしたらクリエイティブに投資できるのか」というところとたぶん通じるんですよね。

これも鶏と卵的な話で、さっき例えに出したAppleもそうですし、NIKEなどもそうだと思うんです。(ブランドを)人間で例えるとすごくわかりやすいんですけど、熱量を生むためには、八方美人的にいろんなことを言って、全部に対してポジティブっぽいことを言っているというのも、もちろん印象としては大事だと思うんです。

だけど、私はスタンスを明確にすることがめちゃくちゃ大事だなと思っていて。私の場合は社会課題型だったりするので、余計そう思うのかもしれないですけど。例えばNIKEだと、アメリカで有名なコリン・キャパニックというアメフト選手を起用した広告があったんです。

北野:あれはめっちゃよかった。

:もしかしたらみなさんご存じかもしれないですが、一応ご説明します。アメリカのNFLのアメフト選手で、国歌斉唱のときに1人だけ国歌斉唱をしなかった。なぜかというと、彼は黒人の選手で、今のアメリカに対してまだまだ差別があると感じていて。

「その差別がある国に対して敬意は払えないから、自分は国歌斉唱をしない」と言って、大炎上したんですよ。それでNFLを追放になった。その追放になったコリン・キャパニック選手をNIKEがあえて広告に起用して、大型のキャンペーンを打ったんです。最初はかなり話題になって議論を生んで、非国民企業だと大炎上までしたんですよ。

でも、その中でもNIKEはスタンスを変えず、自分たちのメッセージを出し続けました。その結果、最終的にNIKEはこれまでにない株価をたたき出して、めちゃくちゃ売り上げも上がった。大炎上のときはインスタで靴が燃やされたり、批判の声も過激だったみたいなんですけど、それでも企業が大事にしている意思やメッセージをブラさずに掲げ続けた結果、それに強く賛同した人たちが熱狂的ファンになる。そのあり方が、本当に顕著に現れた出来事だったなと思っています。

国民性ももちろんあると思うんですけど、まず「自分たちは何を大事にしているのか」という意思表明をすることによって生まれる、強い熱量というか、強いファンがある気がしているんです。

そういう意味で言うと、個人でできることもそうですし、企業ができることとも同じだと思うんですけど、自分が大事にしているものを明確に言語化していくことはすごく大切なことなのかなと思いました。

Airbnbがレイオフと共に行なった、人々の感情に対する投資

土屋:ここ最近で一番象徴的だなと思ったのは、誰かの感情に投資することで考えると、Airbnbが1,900人のレイオフ(一時解雇)を実施したじゃないですか。このコロナの状況の中、Airbnbだけじゃなくていろんな会社がレイオフをしていて。

ただ、Airbnbはそのレイオフをしなければならない1,900人のために、社内向けだとは思いますけれど、CEOがすごく重要なメッセージを出していて。辞めなきゃいけない子たちのために、その子たちが再就職するための検索サイトを作ったんですね。

彼らの感情をケアしているわけですよ。でも、ほかのアメリカの会社はばっさり……。その場ですべての情報にアクセスができなくなり、経営陣からのメッセージもなにもなく、急に辞めなきゃいけない。

この差。レイオフはやっぱり企業にとってのコスト削減なので、株価も上がったりするし、その時点で利益が増えたりするので、実はプラス施策だったりするんですよ。でも長期で見たら、どっちの企業のブランドバリューが上がるかなと。

その後に応援し続けてもらえる会社はどっちかを考えると、明らかにAirbnbの経営陣のやり方のほうが投資対効果が高いと思います。

やっぱり、そういった感情に投資できる会社が世の中に増えないと。あれは社会をプラスにしているんだと思います。人の感情に投資をしたことによって、あの1,900人の感情が救われたんですよ。

北野:そうですよね。みんなWin-Win-Winになりましたよね。

土屋:みんなWin-Winになりました。

スタンスを取ることは批判や炎上と表裏一体

北野:もちろんそれは不幸中の幸いではあったのかもしれないんですけど、結果的にはね。渡辺さん、なにかありますか? なにか言いたそうな……。

渡辺:いや、とくにないです。

(一同笑)

渡辺:でもクリエイティブって、小手先じゃないと思うんですよね。何かかっこいいことをしようとしてテクニックでクリエイティブを作るというよりは、自分のスタンスとかがないとやっぱり無理だと思うんですよ。だから、それがない人はけっこう苦しくなってくるのかなと。

北野:このお三方なりの、スタンスを取る価値のようなことを聞きたいなと思うんですけど。昔、ブランド論で「今ハイブランドになっているブランドは、もともとを遡っていくとほとんどがマイノリティに対しての強烈な支援であった」と言われていますよね。

ルイ・ヴィトンもそうだし、レッドブルのブランドもそうだし。さっきのお話もたぶんそうだと思うんです。やっぱりスタンスを取るというのは、一方で批判とか炎上とか嫌われることと常に表裏一体なわけですよね。

今の話を聞くと、クリエイティブなことをやることは、嫌われたり炎上したりしないといけないのかな、という気もするんです。これはお三方、どうですか? 

企業と生活者が一緒になって行動を変えていく必要性

:企業だと、それこそ繰り返しになっちゃうので鶏・卵なんですけど、でも私は生活者側、消費者側にもすごく責任があると思っていて。

どうしてアメリカであの広告が実現できたかというと、ある意味不買行動もそうですし、応援したい企業への賛同の声を表明したり、実際に消費行動につなげる民間のアクションがあるんですよね。単純に今の世の中はコンビニに行けばおいしいものがあるし、牛丼屋さんの牛丼は超おいしいし、便利さや機能はある程度充足感のある社会なわけです。

ユニクロに行けばあったかい服があるし、機能としての差はもうほとんどないというか。情報もあふれていて、じゃあ何で物を選ぶのかというと、やっぱり「自分が払ったお金や消費体験が、巡り巡ってどういうふうに社会に影響するのか」ということだと思うんです。エコバッグあるのでビニール袋はいりませんとか、同じ水ならラベルレスボトルを買おうとか、そんな小さなことでも。きれいごとかもしれないんですけど。

でも、やっぱり巡り巡っていくわけですから、自分が買ったものが世界にとってどういう意味を持つのかとか、自分が払ったお金が社会にとってどうなっていくのかとか。ものすごく感度が高くなっている世代がいて、とくにZ世代はその傾向が強いと思うんです。

このコロナを経て、とくにそういう時代になっていくと思います。もちろん起業家はリスクを取ることを恐れるんですけど、一歩目を踏み出さないと変わらない。

逆に生活者側ができることとしては、例えば社会に対して、さっきのことも逆に「触れないほうがいいんじゃないか」という意見も、もしかしたら日本だと出ると思うんですよ。

でも、そこに対してあえてアプローチをする。いいなと思ったら、SNSで「いいね!」という賛同を押すとか、リツイートするとかコメントをするとか。「このキャンペーン、よかったから買いました」という意思表示をすることも私はすごく大事だと思うんです。企業と消費者が一緒に行動を変えていかないと、どちらかだけだと難しいだろうなと思いますね。

誰も傷つけずに伏線を回収して感情を動かす

北野:なるほど。土屋さん、なにかありますか? 

土屋:そうですね。批判されること……僕は批判されることがそんなにないんですよ。あんまりクソリプもつかない。

渡辺:いいなあ。

北野:(笑)。確かに土屋さんにはちょっと言いにくいかもな。

土屋:むしろそろそろ炎上したいぐらい。

:(笑)。

北野:(笑)。でも、僕は本を書くときに、空想の物語を作っているんですよ。それはなぜかというと、僕はできるだけ誰も傷つけずに伏線を回収して感情を動かすことに、ものすごく大きな意味があると思っているんですよ。

だから新R25も見ていて、すごくおもしろいなと思っていて。最初にちょっと振りみたいなのがあって、ちょっとだけイラッとさせながら最後に回収して。

:確かに! 

北野:「あれ、誰も傷ついていないじゃん。みんなハッピー」みたいな。

渡辺:そういう手法を明かさないでください。

(一同笑)

北野:あれ、うまいですよね。

渡辺:そういうのはやめてほしい(笑)。

:感情高ぶりポイントがありますよね。

北野:そう、そう。

渡辺:やめて、やめて! 

北野:そこらへんもすごくうまい。新R25さんはうまいなと思います。

渡辺:ありがとうございます。

北野:それは企業秘密ですか? 

渡辺:企業秘密というか……もうバレてるんですけど。

北野:その一貫性はやっぱり渡辺さんが守っているんですか?

渡辺:そうですね。ただ、なんかパターン化されてるみたいで恥ずかしいな(汗)。

北野:なんか、急に静かになりましたね。

渡辺:(笑)。なんですか、これ。

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