2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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佐藤夏生氏:さて、今日のタイトルは「未来志向のブランディング」なので、少しマーケティングとブランディングの話をしたいんですけど。アパレルブランドのpatagonia僕が小さい頃からの憧れのブランドで、ブランディングの教科書みたいな存在です。
彼らの新しい企業ヴィジョンが最近話題になりました。自分たちの仕事は地球を救うためにある」。地球を救う、完全に地球防衛軍ですよね。売るためのサスティナブルじゃない。
さらにすごいと思ったのが、先日、patagoniaからカタログが送られて来まして。その中で「patagoniaは洋服を作っている素材を、近い将来にリサイクル率100パーセントにします!」と書いてある。
そのカタログでは、このズボンはリサイクル率68パーセント、このシャツはリサイクル率70パーセントとか、リサイクル率がアイテムごとに表記してある。普通はウール40パーセント、カシミヤ20パーセント、カシミヤ入っているから高級だとか言ってたじゃないですか。patagoniaは素材の高級さじゃなくてリサイクル率を指標とし、プロダクトごとに書いたわけです。
けっこうクレイジーだなと思いましたけど、すごいなと。完全に独自指標というか独自の世界。でもそれが広がると社会の常識になるんです。ファーストペンギンという言い方しますけど、ビジョンだけじゃなくて、アクションに落とし込んで指標化してることに僕は驚いて。そんなことを考えると、20世紀のブランドと21世紀のブランドってぜんぜん違うんだなと思います。
利益率がいい、売れている、歴史が長い、というのが20世紀型のブランド価値でした。だからブランドバリューが定量的に測れた。コカ・コーラは何百兆円ですみたいな。それは何で計算されているかというと、やっぱりその企業の収益、利益が軸。
では21世紀型の企業はどうなんでしょうか。20世紀と21世紀のブランディングでは何が違うか。20世紀では、乱暴に言えば収益を上げている企業が大企業であり、ビックブランドだった。だから、100万本売れましたとか、100万人の会員がいます、株価がいくらです、利益率がどのぐらいです、今年は成長率何パーセントです、というように、全部経済での数字が基準。次に、21世紀型のブランドを上げます。
(スライドの「Amazon」「Airbnb」「Uber」「Facebook」「TESLA」「Apple」を指す)
もちろんこの中で数字がすごい企業もありますけど、TESLAはまだそんなに数字は高くないんですよね。
じゃあ何が違うのかというと、21世紀型は、人の暮らしや社会の可能性を形にしている。人類を進化させた企業がブランドになっている。必ずしもデジタル化のことじゃなくて、本質的に人類を幸せにしようとしている企業、している企業が強いブランドなのではないかと。
20世紀型・21世紀型と言っても、2000年でぱっと変わったわけじゃない。世界中に販社があってこれだけ売れていますというのが20世紀型だとしたら、21世紀型は、小さいとか大きいとか、いくら売れてるとか業界何位とかは関係ない。
どれだけ人の可能性を拡張しているか、社会を前進させているか、広義でいうと地球を守っているか。極端に言うと売れてなくてもいいんです。俺たちはこういうことをして人を幸せにしようとしている、という哲学イコール戦略、イコールマーケティング、イコールイノベーションみたいな、社会変革へのビジョンがある企業がブランドになってきたんですね。
ある意味、スタートアップって全部そうじゃないですか。今スタートアップする企業が100社あったら成功するのはそのうち何社かくらいかもしれませんけど、「今の社会にこんなことがないから、こういうことをやったらもっと便利なんじゃないの?」というように、スタートアップはピュアなんですよね。
今スタートアップすることがいいというよりは、「今こういうことがないけど、こうやったらもっとハッピーになるよね」「もっとこうやったら社会が進んでいくよね」ということを見つけることがたぶんブランドであり、企業でありスタートアップの成功かと。
売れる物を思いつくことが天才じゃなくて。お金のことを考えるのではなくて、どうやったら社会を前進させるかということの競争をしている。そういう意味ではけっこう健全化してるなと思います。
今の学生の人に話すと、社会に貢献できる企業に入りたいとか、自分が社会の一員として生きてる実感のある会社に入りたいとか言うじゃないですか。資本主義とかモノが飽和を迎え、みんなが危機感を持ってる時に、次世代のビジネスの観点が変化してきていることはけっこういいなと。
どう儲けるかじゃなくて、どんな便利なことがあったら儲かるかなと考えること。もしくは便利とかじゃなくてどうやったら、今の社会がいい方向に、少しでもドキドキする方に行くかなと考えることが、ビジネスになってきている。道徳と教育と、ビジネスとイノベーションと、事業と経営が地繋がりになってきている。どうやったら社会が前進できるかを軸にみんなが考える。
そこがすごくフラットで健康、健全な世界だなと思っています。最近、僕はスモールストロングという言い方をしていますが、大企業は力も可能性もたくさんあるけど、大企業じゃなくても、ある個人がものすごいことを考えつく時代。さっき言ったiPhoneのキャンセルボタンじゃないですけど、こうやったらもっと社会がよくなるよね、みたいな。
話は変わりますが、ニュースで見て、けっこうハッとさせられたことがありまして。「名も無き家事」という言葉があるのをご存知ですか? たまたま記事を読んだら、ある主婦のパパが「俺子育てしてるよ」と言うんですけど、妻から言わせると、パパが子育てしてると言うのは、俺は子どもと遊んでいるよ、ということだけであると。
本当は子育ての裏には、お風呂の排水溝の髪の毛を取るとか、足りなくなったティッシュやを補充しておくとか、実にいろんなことがあるわけです。そういう「名も無き家事」もあると、ある主婦が子育て気取りしているお父さんに反論したんですね。それがニュースでバーっと広がったわけです。
「名も無き家事」という単語によって、主婦やママのやってる、見えなかった苦労がモデリングされ可視化されたこと。僕はそこがクリエイティブだと思うんです。存在しているけど見えてなかったものにネーミングしたり、あるいは形を与えたり、あるいはそれをサービスにしたり。
どう社会を前進させるか、どう社会をつかまえるか、どう社会と関係を作るか、と考える時の機転の有り様こそが、クリエイティブでありマーケティングであり、イノベーションでありブランディングそのものなんです。それは決してプロだけが見つけられるものではなく、日々の小さな疑問から見つかるんです。
ふだん自分たちがどのぐらい盲目的に生きているか、気づかずに生きているか、事例をお話します。ちょっと男性じゃないとわかりづらいかもしれないな。男性はだいたいお手洗いに行ってシッコをした後に手を洗うわけですよね。
でもよく考えてください。ふだん吊り革つかまってるような手で、自分のおチンチンを触るわけじゃないですか。絶対オシッコする前に手を洗うべきなんです。自分のチンチンは汚くないから、チンチンを触っても手を洗う必要がないじゃないですか。むしろ大事なチンチンを触る前に手を洗うべきですね。でも、そんなことに気づかないで人は死んでいくんです。
(会場笑)
僕は今まで何千回、何万回オシッコをしてますけどこの前まで気づかなかった。それぐらい常識は強いんです。ちょっと常識を疑ってみれば、意外とそこに次の常識のヒントだったり、ビジネスのチャンスだったり、あるいは社会をよくするきっかけが隠れたたりするんです。
前に、学生のクリエイティブスクールの審査員をした時があって。エコの課題を出したんですが、1人の高校生がゴミ箱を「ゴメンネ箱」という名前に変えたらいいというアイデア出してきた。物を捨てる時に必ず「ごめんね」と思って捨てる。そしたら物を捨てなくなるというんです。
すばらしいアイデアで、教育委員会に即持って行ってらいいんじゃないかと思ったんですけど、このアイデアもすごく身近な視点から生まれている。特殊な技術なんかじゃなくて、日々何かを見てるか、目線や視点をちょっと変えるというか、ちょっと深くするというか。そこに豊潤な未来へのヒントがある。
今度は、マーケティング的な話になりますけど、今は仕事のやり方が変わってきています。仕事とは社会を良くすること、新しい価値観をつかまえてそれを形に落とし込むことだよ、と今日の前半話してきたわけですけど、その方法論が変わってきているんです。
マーケティングって4Pと言われてましたよね。マーケティングは、どういう商品をつくるのか、どのくらいの価格で売るのか、どういう場所で売るのか、どういうプロモーションをするのか。これを4Pというんです。
けど今日の話でいうと、どういう物があったら社会を良くすることができるだろうと考えることが大事なんです。そうすると、4Pじゃなくて4I(Imagine、Idea、Involve、Install)じゃないかと思っています。このモデルは僕が考えたんで、後ほど詳しく説明しますね。
最初は妄想から。大きな妄想。「社会がこんなふうになったらいいかも」みたいな。1社じゃできなくてもいいんです。その妄想をアイデアとして形にしてみる。「例えばこういうことをしたらみんなハッピーじゃないですか」と。そうすると、今まで他の企業は競争相手。利益をあげることは個々の競争になる。でも、どうやって社会を前進させるか考えるたら、企業連携したほうが早いし、実現性も高いわけですよ。
でも、まだほとんどの企業が、それぞれバラバラに戦っている。企業同士、ぜんぜん関係ない産業同士が組む力というのは社会変革の可能性があるんじゃないかと。これは、これからの課題であり可能性でもある。例えば、トヨタでいうとe-Paletteという新しい無人のモビリティを発表しましたね。
こんなかたちでまだ値段もついてない、プロトタイプでまだ実際に作れてないけど、こういう形でやったら未来明るくないですか、と。自動運転のコンセプトカーを作ったわけです。そこに、Amazonとかピザハットとかぜんぜん違う産業が「一緒にやります」と集まってきて。そうなると社会に実装しやすくなる。
社会を動かすことを前提に考えたら1社でやるよりも、それぞれの強みがある者同士が組むことの方が、実装まで行くスピードも成功率もはるかに上がるんです。別にオープンイノベーションとか言うつもりはないですけど、スタートアップの世界ではこういうことが起きているわけです。こんなことやりたいんですよ、という妄想とアイデアに、お金がついて動き出す。
たぶん企業は、こういうやり方がすごく苦手。2019年に退任されたメルセデスの名会長にディーター・ツェッチェさんという方がいらっしゃるんですけど。彼がスピーチの中で「フレネミー」という言葉を使っていて。意味はフレンドアンドエネミー。我々にとって、BMWはフレンドでありエネミーである。我々にとってGoogleはフレンドでありエネミーである、ということなんですね。
関係値は事業ごとに異なっていて、例えば、BMWはシェアリングに関してはフレンド。個々の車の販売台数に関してはエネミー。そうやって、企業がどんどんフレネミー、フレンドでありエネミーであるといった、そういう付き合い方がこれからは当たり前なんだ。そうしないと社会は動かない、とおっしゃっていて。めちゃくちゃうまい言い方だなと。完全に受け売りですけど、今はそういう時代なんです。
もはや競争じゃなくなっています。競争とは利益競争のことですけど、競争が共創、共に競うから創るになってきています。そのやり方としては恐らく妄想から始まり「こういうことやったらいいじゃないですか、一緒にやりましょうよ」「オッケーオッケーやるよ」、とプロ同士集まって、企業同士集まって、社会にガンと実装されるみたいなことがあると、もっと社会がよりよい方に動くんじゃないかなと。
こういうやり方が、たぶん次世代のマーケティングなりイノベーションなりブランディング。「1社でやれって、結局売れってことですか? 目的は売れってことじゃないですよね? もっと社会を前進させるんですよね? そしたら一緒に組みましょうよ!」という世界観。そういう世界がもう始まっているんです。
とくに今の若い人たちにはこういう世界観の方がフィットする、社会にもフィットするようになってきている気がします。あまりにも自分の時代とは違うので、僕と同年代、先輩もいらっしゃいますけど、「そうだよな、俺たちの時代とは働き方が違うよな」と思われるでしょうけど。こんな働き方、社会の動かし方、社会を動かそうという思いを形にするやり方が生まれていると思います。
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